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第三十四章 木漏れ日荘の温泉計画


 「アズ君、今朝仕入れてきた食材だよ、確認してくれ」
 「ありがとうございます!」

クラウスさんから大量のジン魚の稚魚とサンドワームが入った壺を受け取り中身を確認する
壺の中にはウネウネが大量に入っている

 この世界の加工前の食材はどうしてこんなにグロいんだろう・・・
 どうしても引き攣った笑みを浮かべてしまう

「あ・・・ありがとうございます・・・そういえば他の食材はどうやって調達してるんですか?」

ジン魚の稚魚は木漏れ日荘の近くの川で
 サンドワームは畑で繁殖しているのは知っているが
他の食材は見かけた事が無い

「他の食材かい?木漏れ日荘の近くに商店があるだろう?そこの取引先から仕入れてるんだよ」

 商店というとNPCのデパートみたいな所か
今まで興味がなかったが管理人としてやはり知っておくべきだろうか

「気にする事はないと思うけど・・・よかったら午後に一緒に行くかい?」

 顔に出ていただろうか?自分の顔をムニムニしながらも頷く

昼に待ち合わせの約束をして
朝にジン魚の稚魚から切り落としておいた触手でソーメンを人数分作っていると、いつの間にかアクアが厨房の手伝いをしてくれている

「アクアさんアクアさんどうしたんだい?」
 「あずちゃんと買い物に行くってお父さんが言ってたんだ!早く終わらせて行こう!」

 笑顔で言うアクアは白色ワンピに麦わら帽だ
手伝ってくれてはいるがアクアが触れた先からソーメンがライス状になっていく
悪気は無いんだよな・・・

出来たソーメンとライスを冷蔵庫にしまい
 アクアと一緒にクラウスさんとの合流地点に向かう
商店前に見知った顔が二人いるのに気がつく

 「なんで姉さんまでいるの?」
 「お姉ちゃんを買い物に誘わないなんて!許さないよ!」

 姉がメモ紙を見ながら頬を膨らませて怒ったように笑っている
 いや・・・まぁ良いんだけど・・・

「ところでそのメモはどうしたの?」
 「これはねー!木漏れ日荘の買い出しメモだよ!」

いつの間にそんなもの作っていたのだろう
姉からメモの一つをとって中身を確認する
 なになに?ホテトチップスにサンドラーメン、ホッピーコーラ?

 「これは?」
 「それはグレイ君のだね!」

メモをビリビリに切り刻んで捨てる

「あー!駄目だよひろー!なにしてんのー!?」

 姉さんがびりびりになったメモ紙を拾い集めている
将来駄目男を連れてきそうなので今のうちに釘をさしておこう

「姉さん、あれは甘やかしちゃいけない類の人間だよ」
 「でもひろもたまにあるじゃない?」

うぐっ!それは否定できない・・・
というより理由があるとはいえ今もそうなんだよな
だがアレとは違う!違うよね?
 釈然としないまま他のメモをとろうとすると姉がバックステップで距離を取る

「警戒されたようだね」
 「今のはあずちゃんが悪いよー!」

クラウスさんとアクアを味方と判断した姉は二人を盾にして俺から距離を取って歩く
駄目男を連れて来ないよう俺もこれから気を付けよう

当面は元の姿に戻るのが目標なのだが
この姿になった元凶のランダムキャンディーは多くのプレイヤーをレベル1まで下げ、出品者共々行方不明になっている

「何をするにも情報収集か・・・」

クラウスさんが世間話をしながら商品を仕入れてる間
新聞スタンドから1Rで新聞を抜き取り
 ジローに乗りながら見出しに目を通す

東京都〇〇町にて大量の血痕見つかる!
ユーマ再来!?〇〇公園にて謎の生き物目撃証言!

 「この新聞リアルの話しかのってねぇ」

 新聞を読んでいると視界の端に水色の髪がピョンピョンしている

「あずちゃん!あずちゃん!私も乗ってみたい!」

アクアの手を取り前に座らせる

「ひろ!ひろ!私も!」

 姉には風をぶつけて上空に吹き飛ばす

「おおー!私!今飛んでる!」

 喜ばすつもりは無かったが喜んで貰えて何よりだ

 そんな俺たちを見守りながらクラウスさんは淡々と食材を仕入れていくのだが
正直暇で仕方がない

「アズ君?良かったら管理人として木漏れ日荘の集客の為に何か探してきてくれないかな?」

やはり顔に出ているのだろうか
顔をムニムニしながら商店の中を見て回る

「集客って言ってもなぁ・・・」

 呟きながら通りかかった店の前にある物に視線が固定される

<温泉ブロック800R>

 温泉ブロックとな!?
 値段がそれなりにするが
 ドラゴン料理でそれなりにRを儲けているので買える!

 グラフでは蒸し風呂しかないので湯に浸かる習慣は無い
 グラフ初の湯に浸かる風呂
 少なくとも赤字にはならないだろう
仮に赤字になったとしても個人的に楽しめる
店員に話しかけ温泉ブロックを購入する

<温泉ブロック>
 <温泉が湧き出る不思議な岩>

 温泉しか出ないということは他は自作しないといけないという事だろうか?
ワクワクしながらアイテムストレージを眺める

「今日中にはつくりたいな!」

それぞれ買い物、仕入れが終わった三人と合流して木漏れ日荘に帰宅した俺は、温泉ブロックとにらめっこ

最初はちょびっとづつしかでなかったブロックを持ち歩いていると
川の近くを歩いた時蛇口を捻ったように温泉水が出始めた
時間経過かとも思ったが、精霊術で視るとどうも水精霊を吸収しているように視える
試しに川の付近の水精霊をブロックに集めると大量に湧き出て来た

「これぐらいでたらすぐに水が溜まりそうだ!」

 満足して温泉ブロックをアイテムストレージにいれ
鬼の短剣を取り出すと取っ手を土でつくり端っこに短剣を埋めて疑似シャベルを作り出す

日が沈む中泥だらけになりながら地精霊のサポートで地面を掘っていると木漏れ日荘の2Fから話しかけられる

「アズは働き者ですなぁ」
 「グレイもたまにはどうだ?汗かくのも悪くないぞ?」
 「俺はこーやって部屋でのんびーりしながら人が汗水流してるのを見るのが好きなんでお構いなく」

グレイの部屋に大量の土を投げ込もうと思ったが掃除をするのはアクアなので堪える
 かわりにアルにロープを持たせて木漏れ日荘の壁伝いにグレイの部屋前に待機させる

「ところで今日の晩御飯は出来てんの?」
 「今日はあとドラゴン肉を揚げるだけだよ」
 「なんたる手抜き・・・まぁドラゴン肉はうまいから許す」
 「なんで上から目線なんだよ・・・」

 溜息をつきながらグレイが後ろを向いた瞬間にアルにロープをかけさせひっぱる
不意をつかれたグレイはそのまま地面にゴキリという音をたてて落下する

「いってえぇぇぇぇ!」

 落ちて来たグレイに笑顔で耳打ちする

「ちなみに今作ってるのは温泉だよ?そしてグレイの部屋からはよく見える位置につくる・・・」

グレイはゴクリと喉を鳴らすとアイテムストレージからつるはしを取り出す
 その様子に苦笑いをする

「あれ?汗水垂らす人を見るのが好きなんじゃなかったの?」
 「水臭いじゃないかアズさん!不肖このグレイ!手伝いますぜ?」
 「じゃあ中心に温泉ブロックを置くから木漏れ日荘より少し小さめの幅、高さは座りやすい位置までお願い」
 「合点承知の助!」

アクアにその言葉教えたのはお前だったか
ちなみにグレイ部屋からは立派な温泉の壁が見える予定だ
黒い笑みを浮かべながらグレイに穴を掘らせつつ次の作業に移る

「やはりというかなんというか・・・」

 土の上に温泉ブロックを置くとお湯が土に触れた瞬間泥になる
 となるとコンクリか何かで土を覆う必要があるわけだが・・・

試しに近くの木から自然調和で木を伸ばしてお湯が下に落ちないようにしっかりと包む
 お湯は下に漏れず、変色もしていない、一度に伸ばせる量は少ないが
木独特の香りが引き立って逆にいけそうだ!
 問題点は・・・

「自然調和で集めるとジャングルの用になってしまうな・・・」

 温泉(仮)から木のある位置まで不自然な伸び方をした木の出来上がりである
 これを何十本とやるとなると骨が折れるし雑木林になってしまう・・・

「木材が足りないのかい?」

 隣では穴掘りをやめたグレイがつるはし片手に遊んでいる

「・・・飽きるの早くない?」
 「まぁまぁ!それより木材が足りないならこれを使って良いよ!」

そういってアイテムストレージから大量の加工された木材が出てくる

「どうしたのこれ!?」
 「前ドラゴンの盾にしたお詫びってことで小鳥の会からもらったんだよ!はっはっはっ」

グレイが遠い目をしながら乾いた笑みを浮かべているが気にしないでおこう
 それよりも今は木材だ

<グラフの霊木>
 <グラフ大森林の奥地に群生する霊木、一本一本に大量のマナがつまっている>

 試しに木を伸ばしてコップ状にしてお湯を入れる
嗅いでいると安心する匂い、元々の温泉に緑の色が付き名前が変わる

 システムログ:<温泉水>は<薬温泉水>に変化しました

<薬温泉水>
 <浸かっている間、HPとMPの回復量が10倍になる>

なんと温泉の効能が変わってしまった
これは考え方次第で色々な温泉が出来るのではないか?

ある程度掘られている所に木材をしきつめて一気に形をつくると少しづつ温泉の形になっていく

「おー!圧巻だねーこれは俺も頑張って掘って・・・桃源郷が目の前に迫って来たぜ!」

グレイのやる気が上がりみるみる穴が広がっていく
壁や天井はグレイが食事に行ってる間に作るとしよう

「一度夜ご飯作って来るけどグレイはまだ掘っててくれる?」
 「ひゃっほーーう!桃源郷!桃源郷!」

 駄目だあいつ、はやくなんとかしないと
 しかし今の状態なら肉を揚げてる間に掘り終わりそうだ

木漏れ日荘に戻った俺は厨房で肉を揚げていく
 カウンター席にはよだれを垂らしながら尻尾をふっているルピーがいる

「ルピーさんルピーさん?もし外の手伝いをしてくれたらルピーさんのおかずを増や・・・」

 最後まで言い切る前にルピーが残像を残して消えた
 ルピーも悪い男に騙されそうで不安なんだよねぇ・・・

 ルピーの分の調理も終えて机に並べていく
俺も満腹度があと20%しかない
二人を呼びに行ってそのままご飯にしよう

「二人共ー!ご飯できた・・・よ?」

そこには木漏れ日荘並みの大きさの広い穴、土台が完成されていた

「いやールピーちゃんは流石だねー・・・お兄さん心折れそうだよ・・・」
[それほどでもない]
「二人共ご飯できたよー俺は最後の仕上げするから先に食べてて」

ルピーがまたも残像を残し消え去り
その後ろをのそのそとグレイがついていく
グレイが見えなくなったのを確認した俺は
木材をひたすら運んでは伸ばして加工していく

 グレイが戻ってきたころには見事な温泉が出来上がっていた、もちろん天井と壁もつくっている

「出来たー!」
 「・・・アズさん?アズさん?これじゃ何も見えないよ?」
 「男風呂と女風呂・・・それに俺専用もできるなんて夢みたいだ」
 「アズさーん?おーい?」
 「ああグレイ、ありがとう!男風呂一番乗りの券はグレイの物だよ!」
 「え?あ?はい」
 「温泉にいざ出陣!」

 尚もポカーンとしているグレイを置いて俺専用の温泉に入り疲れをいやす

「ああーこれだよこれ」

おっさんのような声を出しながら全身をほぐしていると隣から歓声が聞こえる

「おおー!思ったよりすごいなぁ!・・・貸し切りだし泳いでも良いよな!」

 何かが吹っ切れたグレイがはしゃいでいる
 アルを呼び出しクラン漁業組合からもらった酒とオチョコを持たせてグレイに差し向ける
今日のお礼の意味もあるのだが

「風呂に入る時はね・・・誰にも邪魔されず・・・自由で・・・なんというか救われてなきゃあダメなんだ・・・独りで静かで豊かで・・・」 

そう呟きながらグレイを酒で酔いつぶさせる
明日からは・・・温泉の宣伝もしないと・・・

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