魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

揺れる心の感覚

技術大国というだけあって街並みは綺麗に整備されていた。
レンガの地面に立ち並ぶ街灯、そして家々まで。ありとあらゆる物が統一的だ。

大雪が降ることを想定された家は屋根の角度が急で、歩道の脇には近くの工房から流れ出たお湯が流れる溝があり、雪が溶けるように作られている。

「すごい、この世界に来て一番近代的な街ね」

「ああ。街灯もそうだが、歩道のレンガも全部同じ形と大きさだ。王都より高い加工技術があるんだな」

感心した目を向けながら弥一たちは大通りを歩く。
至る所からカンカン!と鉄を打つ高い音が聞こえ、大通りにはマーケットのような感じで様々な武器を販売している。

「賑わってるな」

「コーネリアにはいい武器を求めて様々な冒険者やあるいは騎士がやってきますから」

「家族連れも多いね」

「そういう俺たちも家族連れだがな」

武器を買い求めにくる冒険者は勿論、意外にも戦いとは全く無縁そうな者も多くいる。
まだ入国してすぐの場所だが、ここは王都にも負けず劣らずな賑わいを見せていた。

「取り敢えず先に宿に行こう。その後街を散策ということにして.......」

『おじさん!このナイフ下さい!』

『おっ!嬢ちゃんいい目を持ってるなぁ〜!こいつはこの中で一番の出来だ!まさか一目で見抜くとは恐れ入ったぜ!』

『うん!それは刃の凄みと輝きを見ればわかるよ!あ!あと、コレとコレとコレも下さい!』

『はいよ!いっぱい買ってくれたオマケだ、コレもつけといてやる!』

『ありがとうございます!』

「って、待てぇええええええええいッ!!」

気がつけばいつの間にか露店で買い物をしていた凛緒に向かって走る。

「あっ、やいくん見て見て!このナイフすごくいいよ!やっぱり技術大国だけあって凄いね!?」

「落ち着け落ち着け!わかったわかったから!」

ナイフか剣を目をキラキラさせながら眺めで興奮する女子高生とは、と思う弥一。色々な露店を見て回る凛緒は止まる様子を知らず、気がつけばセナたちとはぐれていた。

このままでは拉致があかないと、弥一は少し強引に凛緒の手を取って連れて行く。

「ほら、そろそろ行くぞ凛緒」

「あっ.........」

手を取る弥一に凛緒がポツリと声を漏らしてその場を離れる。

未練たらたらの割には案外すんなり付いてきたなと思いつつ、弥一はそのまま溢れる人混みの中を凛緒の手を引いて前を歩く。

凛緒はその後ろ姿を眺めながら、手に触れる感触に頬を朱に染める。
自分より大きくゴツゴツした頼もしい手。手袋越しにも暖かい熱が伝わってくる。

こんなことなら手袋を外しておけばよかった、と後悔する凛緒。でも手袋をしていなければ上がる体温がバレてしまいそうで.......

「........ーーー緒。凛緒?」

「な、なにっ!?」

「なに、じゃねぇよ。聞いてたか?セナたち人が多いから先に宿屋に向かうってよ」

「う、うん!わかった!じゃあ、早く行かないとね!!」

「お、おう......?」

焦ってしまう凛緒に、弥一は少し首を傾げるとなんでもないように再び歩き始める。

凛緒はほっとしつつ弥一に手を引かれて歩き出す。

本当は早く着きたくない、そう思いながら。

「.........やいくん」

「ん?どうした?」

「......うんん。やっぱりなんでもない」

「?まぁいいや。だいぶ離れたみたいだから早く合流しないと......」

そうして二人は人通りの多い表通りを回避し、少し路地に入る。すると、なにやら声が聞こえてきた。

「やいくん。あそこ」

凛緒が指差す方向を見ると、1人の男の子が座り込んで泣いていた。

「迷子みたい。やいくん」

「わかってる。セナ達には遅れるって連絡しとく」

「ありがとう!」

このような場面で放っておけるはずもなく、2人は男の子に歩み寄る。

「こんにちは。僕どうしたの?」

「ひっく..........おねぇちゃん、だれ?........」

「ただの旅人だよ。今日やってきたばかりなんだ〜。僕、お名前は?」

「...........レウ.........」

「レウくんか。レウくんはここでなにしてたの?」

「.........ママとパパとおかいものしてたら、いなくなってて........ぐすっ.......うええええええーーーんっ!!」

両親とはぐれたことを思い出し再び泣き始める。凛緒はレウをそっと抱き寄せると、鼻水と涙で服が汚れることも厭わず優しく抱きしめる。

「大丈夫だよ。お姉ちゃんとお兄ちゃんが探してあげるから。それにこのお兄ちゃん人探しのプロなんだよ?」

「ひっぐ...........ほんとう.......?」

「うん!なんたってやいくんは正義の魔法つ使いだからね!」

「俺はそんな大層なもんじゃないけどな」

「そんなことないよ!困った人達の為に魔術を使うんだから、立派な正義の魔法使いだよ!」

明るい笑顔で自分のことではないのに誇らしげに語る凛緒。レウもそんな凛緒の笑顔に落ち着きを取り戻してきた。

「さ、レウくん。一緒にお母さんとお父さんを探そっか?」

「うん!」

明るい性格の凛緒に心を許したのか、レウは素直に頷いて凛緒に手を引かれて立ち上がる。

「まずどこを探すかな。取り敢えず逸れたところに行ってみるか」

「レウくん。パパとママとはどこではぐれたの?」

「えっとね、大きな看板のあるお店の前」

「大きな看板.......」

取り敢えず大通りに出たが、ざっと見渡しただけでも大きな看板の店は多々ある。参考にはなりそうにない。

「他には?」

「カンカン!って大きな音がなってたの!あ、あと、みどりいろの服をきたおんなの人がお店のまえでたってた!」

カンカンという事は鍛冶屋だろうか。女の人というのは売り子かもしれない。

「よし、じゃあその店を探してみよう」

パッと見てみるが付近にそのような店はない。

2人はレウを挟むようにして手を繋ぎ大通りを歩く。
レウは凛緒に心許したようで、楽しそうに凛緒にこの街について話す。凛緒も笑顔でレウの話に耳を傾けている。

「お、あそこじゃないか?」

弥一の視線の先には大きな看板の鍛冶屋があった。店の前では緑色の作業服を着た女性が箱を積み上げて荷物整理をしている。
レウに確認すると「うん!あそこ!」と言うので間違いない。

「それで、パパとママの格好ってどんな格好だ?」

「パパはくろの服をきてて、ママはあかいコートとボクがあげた花の髪かざりをつけてた」

「髪飾りか.......ちょっとまってな」

そう言って弥一は脇道の人目のつかないところに行くと、右の壁を蹴って跳んだあと左の壁を蹴って三角飛びの要領で屋根に上がる。

「すごーい!」と下からレウの声が聞こえてくる。弥一は周囲でそれなりに高い建物の上に上がると、上から人混みを眺める。

人混みの一人一人を解析眼で認識しながら、該当条件に合う人を探していく。
多くの人が大通りを歩いているが、解析眼はすべての人の顔を完璧に検出して探し出す。

やがてレウと凛緒のいる通りの反対側の通りに該当条件に一致する人物を解析眼が捉えた。

赤いコートに、レウと同じ色の髪に月の髪飾りをつけた女性。横には黒い服を着た女性より身長の高い大柄の男性がいる。

二人はなにかを探すように周囲を見渡し、時々なにか叫んでいる。口元をアップすると「レウどこー!」と口を動かしている。

「お、当たりだな」

距離はそこまで離れていないのですぐにでも追いつく。
弥一は屋根から飛び降りてレウと凛緒のところに着地する。

「見つけたぞ」

「え!?ほんとう!?」

「ああ。この通りの反対側の通りにいたぞ。レウって呼びながら探してた」

「よかったね、レウくん!」

「うん!すごい!お兄ちゃんカッコいい!」

「ははっ、どうも。さっ、早く行ってパパとママを安心させてやんな」

レウを連れて弥一は小走りに通りの路地を走る。上から確認した最短ルートを通って反対の通りに出ると、レウは一発で両親を見つけ「パパー!ママー!」と駆けて行った。

二人もレウの声に気がついたようで、安心した表情を浮かべて、走ってくるレウに駆け寄る。

「レウ!」

「よかった!心配したのよ!」

「うん!ごめんなさい!」

母親の腕の中で甘えるレウに二人も仕方がないと苦笑いを浮かべて安心したように胸を撫で下ろす。
少し経ったあと、歩いてきた弥一と凛緒に二人はお礼を述べた。

「この度はありがとうございます!」

「大変ご迷惑をお掛けしました」

「いえいえ、私もやいくんも別に迷惑だなんて思ってませんから。ね?」

「ええ。見つかってよかったです」

弥一と凛緒の言葉にレウの両親は「なんとお礼をしたらいいか」と食事でもと誘ってくる。だがこれから連れと合流して宿を探さねばいけない、という旨を伝えると、レウの母親は「でしたら」と言葉をつなげる。

「うちに泊まって行かれませんか?私たち家族で宿屋を営んでいるんです」

「え?そうなんですか?」

「はい。ですから、是非お礼としてサービスさせてください」

これは願ってもいないチャンス。事前の調査なしに街にやってきたので宿の情報など弥一たちは一切知らない。正直なところ宿屋があるかどうか不安だったのでこれは本当にありがたい申し出だ。

「男が三人で女が五人なんですけど、大丈夫ですか?」

「あなた、部屋はまだ空いていたわよね?」

「確か最上階の大部屋がちょうど二つ空いているはずだ」

「じゃあ決まりね!是非泊まって行ってください」

「それじゃよろしくお願いします」

「お姉ちゃんたちとまっていくの!?」

「うん。お世話になるね?」

「うん!まかせて!」

ドンッと胸を張るレウに全員笑う。まさかこんな巡り合わせがあるとはな、と弥一は思いながら、レウの案内で宿屋へ向かう。

話の中でレウの母親レーシと父親ウルシは元冒険者でレウを産んでから冒険者向けの宿屋を営むようになったらしい。一階には安くて量の多い飯を出すことから、街でも人気の宿屋なのでとか。

街についてや弥一たちの旅話をしていううちに目的の宿屋が見えてきた。大きめの宿屋の前では何やら男たちの人混みができている。

「やいくん。あれ絶対セナたちだよね?」

「よし一丁野次馬を吹き飛ばしてくるか!」

「平和的解決は!?」

どこに行っても目立つ容姿のメンバーなので仕方ないのだが、いい加減どうにかしなければと思いながら、「取り敢えず一発!」と拳を握って近づこうとすると。

『ぎゃああああああああーーーッ!?』

暴風が吹き荒れ、ポンポンポーンッ!!と男たちが宙を舞う。

「........鬱陶しい」

案の定風の正体はセナで、セナの後ろでは静かにエルが縄でで男たちを吊るし上げている。よほど誘いがしつこかったのだろう。

「おつかれ二人とも」

「ごめんね私のせいで」

「別にいいよ。こっちの少し買い物して来たから」

凛緒が弥一と二人っきりなら一言二言言いそうなところだが、誘いの鬱陶しさが上回って特に気にしていないらしい。

「パパ、おなかすいた」

「あー、まだ昼には少し早いけど朝飯早かったしな。チェックイン済ませたら少し食べに行こうか?」

すると弥一とユノのやり取りを聞いていたレーシが街の地図を差し出してくる。

「でしたら、この地図をどうぞ。街の名所やオススメの屋台を書いてるので。うちではお昼はまだ準備ができてないですけど、夕食は楽しみにしていて下さい」

「ありがとうございます」

地図を受け取ってチェックインを済ませる。弥一たちは3階建ての最上階の大部屋二つを借りる。

部屋は男子三人でも十分な広さがある。女子の方も同様に広いようだ。

全員荷物を置くと一階の食堂に集まる。

「さて、俺とユノは少し食べて回るけどどうする?」

「私も少し見て回るわ。荷物持ちよろしくね健?」

「えっ!?俺も食べ歩きしたいんだけど!?」

「僕は少し部屋で休んでから行くよ。ケティに街についたら連絡して欲しいって言われてるんだ」

「じゃあそこ三人は別行動だな。セナたちはどうする?」

「私は食材の買い出し行きたいから別行動で」

「あ、なら私もセナと一緒に行くよ」

「私は特に用事はないのでマスターたちと一緒に食べ歩きでもいいですか?」

「おう。じゃあ各自別行動でな。夕食までには帰ってこいよー」

こうして雄也以外の全員が街へ繰り出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

街を歩きながら凛緒は出店を見て回る。横にはセナもいて、二人で仲良く買い物をする。

「見て見て凛緒。これ綺麗じゃない?」

「うわぁ!すごい!」

セナの手にはガラスの玉がはまったブローチ。ガラス玉の中には綺麗な青い砂が入っている。

「綺麗だね」

「うん。それにこの砂の色弥一の魔力みたい」

そう言ってブローチを見つめるセナの横顔は恋する乙女のそれ。同性の凛緒から見ても思わずドキッとするほど可憐だ。

「(本当に、セナはやいくんのことが大好きなんだから)」

セナが弥一の事を話す時、言葉の端々から弥一への「好き」という想いがありありと伝わってくる。セナは本当に心の底から弥一を愛しているのだと。
そして弥一もセナを愛しているのだと、セナの左薬指にはめられた一つの指輪が示す。

「(っ.........)」

弥一が作ってはめたというその指輪を見るたび、胸の奥が締め付けられるような感覚に襲われる。

ーーその感覚を抱きたくない。
そういくら思ってもこの感覚はなくならない。

「ーー......緒、凛緒?」

セナが顔を覗き込んできて、ようやく凛緒はハッと我を取り戻す。

「あ、ごめんねちょっとぼーっとしてて」

「少し休む?」

「うんん。平気平気。さ!次のお店に行こう!」

「.......うん。わかった」

少し様子がおかしい凛緒に違和感を覚えたセナだが、普段通りの元気に先に進む凛緒の後をついていく。

「次はどこに行く?私甘いもの食べたいなぁ」

「だったらあのお店とかどう?なんだか甘い匂いがする」

「いいね!行こ!」

買い物袋を抱いて一直線に何やら甘い菓子を提供しているお店に突撃する凛緒。それを「待って!」と追いかけるセナ。

普段通りの仲の良い姉妹のような二人のやり取り。



ーーーけれど、凛緒の心は少し揺れていた。




コメント

  • ノベルバユーザー367230

    面白いです!
    でも書きたいものがあるのか少し展開が早いような気がします。
    あまり無い主人公最強系の物語だと思いました。
    応援しています!

    0
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