魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

宴と誘惑

ケーティア救出から3日後。弥一たちは未だ集落にとどまっていた。

理由はケーティアが雄也との別れを惜しんだので、結果1週間滞在して、装備などを準備万端にして行くことになったのだ。
もっとも、女性陣が露天風呂に惹かれたことも理由の一つではあるのだが。

そして弥一は今、集落近くの滝のそばで釣りをしている。なんでも滝のそばには身が引き締まった魚が多いと聞いたので、是非とも食べたくなった。

「ふぁ〜っ............釣れねぇなぁ〜」

ドドドドーーーーッ!!っと滝の流れる音に混じって、そんな緩い声とあくびが漏れる。開始から1時間経つが、釣果は未だゼロである。

「うーん、釣れない。セナが期待してたから釣っておきたかったんだが........こうなれば滝ごと蒸発させるか?」

嫁の期待に応えるため滝を蒸発させるなどと物騒なことを呟く弥一。その右手にはバチバチと蒼い魔力が爆ぜている。

と、そんな時後ろから気配を感じて振り向く。そこにはセナがいた。

「おっ、セナも見にきたのか?待ってろ、今滝を蒸発させて魚を捕るから」

「そこまでしないで!」

右腕のバチバチが輝きを増し始めたのを見て、セナが全力でその腕を抱えて抑え込む。

セナがやめてと言うので、大人しくバチバチを収めた弥一。その姿にホッと一息つくと、セナは弥一の横に寄り添うように座る。

「釣果は?」

「ゼロ。だから蒸発.....」

「やめて」

蒸発に未練タラタラな弥一さん。集落に近い地形を変えたとなっては、集落の人々に申し訳がない。

「私も釣りするから、一緒に釣ろ?それで、今日の晩御飯は魚料理にする」

「わかったよ。よし、ユノの為にもしっかり釣るとするか」

「うん!頑張る」

セナも背負ってきたカバンから釣り道具を取り出して、夫婦揃って釣りを始めた。

浮きは離れているが、本人たちはピッタリと寄り添っていて、弥一がセナの肩に手を回してさらに引き寄せる。

弥一に引き寄せられると、セナは嬉しそうに目元を綻ばせ、肩に頭を預ける。

滝の流れる音と森の小鳥の囀りが静かに響き、二人はしばらく穏やかに過ごす。

やがて突如セナの浮きがチャポンチャポンと沈み出した。

「掛かった!」

「いや、まだだ。もう少し喰いつくのを待って........」

二人とも立ち上がり、弥一は後ろからセナを抱き締めるようにして二人で釣竿を握る。

チャポンチャポンと沈む勢いは増していき、ついに浮きが大きく沈んだ。

「今だっ!」

「んっ!」

弥一の合図でセナがグッと釣竿を上げる。それで完全に釣り針が刺さり、魚が必死に逃げようと暴れ出した。

「お、重い!」

「てことは大物だ!セナ、タイミングを合わせて引くぞ!」

「うん!」

弥一ほどではないにしろ、人外のステータスを持つセナが手応えを持つとなると相当大物だ。

二人は一気に引き上げるとことはせず、魚が暴れているときは糸を緩め、勢いがなくなったところですぐに糸を巻く。それを地道に繰り返し、魚が近くに寄ってきたところで、一気に引き上げる。

「「せぇーのっ!」」

二人が息を合わせ振り上げると、ザバァンッ!と水が爆ぜる音と共に、大きな影が空を舞った。見た目は鮭のような魚だが、大きさはなんと5メートル近くもある巨大魚だ。

「「で、でっかー!!」」

流石の大きさに二人とも目を見開いて空高く舞う巨大魚を見つめる。これが地球なら間違いなくテレビものだろう大きさだ。

そしてその巨大魚は天高く二人の頭上を飛び越え..........森に消えた。

「「あ..........」」

人外のステータスを誇る二人が、勢いよく引き上げればそうなるのは明白。魚はだいぶ遠くの山に消えていった。

魚が消えていった方角を見つめながら、滝のほとりに残された夫婦は呟いた。

「...........まぁ、仕方ないな。こうゆうこともあるさ。うん」

「うん。そうだね。.........釣りやめにしない?」

「ああ、そうしよう。今日の晩ご飯は肉だ肉。ユノも喜ぶぞー」

引きずっても仕方ない、と前向きな夫婦は、今晩のメニューを肉に変更して、心なしか重い足取りで滝を後にした。












二人が集落に帰ってくると、集落の銀狼族がフレンドリーに挨拶を交わしてくる。

ティアやカーネたちを救ってきた弥一たちは、集落の人々から英雄視されて、忌み嫌われる人間種など気にせずすんなりと受け入れてもらえた。

「やっぱりいいところだな。暖かみがある」

「うん。私も精霊の里が懐かしくなるな〜。お父さんとお母さん元気にしてるかな?」

故郷に通ずる暖かさと感じ、セナは故郷の両親に想いを馳せる。そんなセナの頭を、弥一は優しく撫でる。

「今回の迷宮攻略が終わったら、次の迷宮に行くときに考えてみよう。お義父さんとお義母さんにユノのことも紹介しないとな」

「ふふっ、お父さん喜ぶと思うよ?可愛い孫ができたんだもん」

「そうだな。なんたってユノは天使だからな」

親バカな夫婦はそう言ってリカードに娘を紹介する時の事を想像しながら歩く。すると、後ろの方から噂をすれば元気一杯な天使の声が聞こえてきた。

「パパぁ〜!ママぁ〜!」

振り向けば集落の入り口からユノが走ってくる。そして後ろには大型自動車サイズくらいになったサニアがいて、口元には巨大な魚が。それは先程弥一たちが森に吹っ飛ばした魚だった。

走ってきたユノを抱き締めて抱き上げると、キラキラした目で見上げるユノに、弥一は聞く。

「どうしたんだこの魚?」

するとユノは興奮したように言う。

「あのね!もりにうさぎさんをさがしにいったらね?おそらからおさかなさんがふってきたの!」

どうやら弥一たちが飛ばした魚を飛ばしたのは、ユノたちがいた付近だったらしい。それを知らないユノは、本来は池の中でしかいない魚が、空から降ってきたことに驚いているらしい。

そんな目をキラキラして語るユノの姿に、弥一とセナが可笑しそうに笑った。

「あはははははは」
「ふふっ」

笑う二人に、ユニとサニアは「??」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべ首をかしげる。そんな姿に再び弥一とセナは可笑しくって笑ってしまう。

その後、何故二人が笑っているのかわからないユノは、教えて〜と弥一の顔をペチペチしながら可愛らしい攻撃をするが、二人は曖昧に笑って歩き出す。




ジキル宅に戻ってくる頃には、弥一の両手は色んな野菜や果物、魚で一杯になっていた。

なんでも弥一たちが釣り上げたあの巨大魚は、滝の魚たちを喰い荒すらしく集落の人々はどうしたものかと困り果てていたらしい。

そんな魚を銀狼族からしたら神様同然のサニアが運んでいた事もあって、人々はサニアが魚を捕獲したと勘違いしたらしく、貢ぎ物として色んな物をサニアに献上したのだ。

当のサニアは違うと否定するのにも関わらず散々崇め奉られ、最後の方には『が、がふっ.......』と疲れた表情で諦めて崇め奉られていた。

結局巨大魚は広場に飾られることとなり、今日の夜には広場で巨大魚を解体して宴を開くのだと言う。

「お前も大変だなサニア」

『わっふ........』

幼獣に戻ったサニアは疲れた様子でセナに抱っこされているユノの腕の中で返事をした。

「じゃあ、弥一私はこのまま夕飯作りに行ってくるね」

「俺も手伝うよ。ユノも手伝うか?」

「うん!ママ!ユノもがんばる!」

「ふふっ、ありがと二人とも」

『わっふ!わふ!』

「サニアも?ありがとね」

全員で夕飯を作ることが決定し、三人と一匹はジキル宅の裏に停めてあるトレーラーに向かった。

トレーラーに近づくと、なにやら中から騒がしい雰囲気が伝わってくる。声からして雄也とケーティア、健と彩だろう。

三人と一匹が「ただいまー」と扉を開けると最初に目についたには、炬燵でスマホと向き合ってなにかを喋っている雄也だ。そして胡座をかいて座る雄也にケーティアが座っている。
そして何故か二人とも焦っているようで、ケーティアの方は顔が真っ赤だ。

雄也とケーティアはスマホ画面に夢中なのかこちらに気付いておらず、弥一はそんな二人を観戦している健と彩に事情を訪ねた。

「おい健。雄也とケティはなにやってるんだ?」

「裁判」

「は?」

返された健の言葉に訳がわからないと弥一が頭を捻る。仕方ないので雄也の後ろに向かうと、その意味がわかった。

『それで相川。......いや、ロリコン英雄。他に言い残すことは?』

「いやだから違うから!!僕はロリコンじゃない!!」

『白々しいぞ!そんな銀髪ケモ耳ロリ美少女を婚約者にして!!ましては「ゆうにぃ」だと.........羨ましいんだよぉ!!』

「知るかぁ!!!」

どうやら会話の相手は王宮にいるクラスメイト(男子供)らしく、察するに雄也にケティという美少女が婚約者になったという事が伝わり、嫉妬に狂った男子供による裁判が始まったらしい。

「くそぅ!!一体誰がリークしたんだ!!」

『お前の後ろにいるぞ』

「え?」

クラスメイトの言葉を受けて雄也が振り向く。

「あ、すまん俺だ」

「弥一ぃいいいいいいいいいいいいっ!!!!お前かぁああああああああ!!」

あっさり白状した犯人に、雄也は恨み詰まった形相で弥一の首元を掴み乱暴に揺さぶる。

そんな雄也にガクガクされながらも、一切悪びれのない表情で弥一が言う。

「いやいや、友人にめでたく婚約者ができたんだ。そこはお祝いしないとと思ってな?」

「本音は?」

「面白そうだからに決まってんだろ?」

「お前ええええええええええええええええーーーー!!」

ケラケラと笑う弥一を鬼の形相で締め上げる雄也。そんな二人をよそに、スマホの向こうでは男子から女子に変わっていた。

『ねぇねぇケーティアちゃんは相川くんのどこが好きなの?』
『もうキスくらいした?』
『相川くんも罪ねぇ〜。こんな可愛い子を誑かすなんて』

「ふ、ふぇぇ........!?」

「そこっ!誑かしたとか言うな!!」

色恋沙汰に興味津々な女子は次々とケーティアに質問を投げかける。ケーティアはそんな慣れない質問の嵐に、顔を真っ赤にして若干涙目で困ったように雄也を見てくる。

そんなケーティアに雄也は優しく頭を撫でてあげて安心させると、それを見た女子が黄色い声ではしゃぎだし、男子はドス黒い怨嗟の声で発狂する。

『それで、結局ケーティアちゃんは相川くんのどこが好きなの?』

「え、えっと.......」

スマホの向こうのカオスな空間からそんな質問が来ると、ケーティアは顔を伏せてさらに顔を真っ赤にした後、意を決したように雄也を一瞥し、蚊の鳴くような小さな声で言う。

「そ、その......や、優しくて....強くて.....
寂しかったら、だ、抱きしめてくれるとこ.........うぅぅぅぅ........っ!」

ゆっくり一言一言紡いでいく言葉に、最後は耐えきれなくなったケーティアが、顔を手で隠して雄也の胸にすがりつく。

そんな恥じらうケーティアの姿を見た女子のテンションは『きゃー!』と最高潮。男子のボルテージは『ア“ァ”アアアアアア!!』と最高潮。

雄也も自分の好きなところを語られると言う拷問を受け、耳まで顔を赤くし今すぐにでもここから逃げ出したい気分だ。

「まぁ、雄也諦めろ。良かったな?自分のことをこんなに想ってくれてるなんて」

「もういっそ殺してくれ.........とゆうか元々は弥一が原因だろう!!」

「ハハハ、ナンノコトダカ」

「お前ぇえええええーーー!!」

再び弥一の頭をガクガクシェイク。

結局その後、裁判は雄也が王宮に帰って来てからと言うことで決着がつき、第一回目の裁判は御開きとなった。
もっとも雄也は「まだ続くのか......」と重苦しいため息をこぼしながら沈んでいたが。








夕飯はその後全員でカレーを作ることとになり、せっかくだからと三つの大鍋いっぱいにカレーを作り、広場の宴に持って行って振舞うことになった。

食べたことのない米とカレーの味に村の人々は驚きながらも満足した様子で、全ての大鍋のカレーが綺麗さっぱりなくなった。

カレーを食べ終え、広場の真ん中で燃えるキャンプファイアーを広場から少し離れた場所で眺めながら、弥一は座る。

空はすっかり真っ暗で綺麗な夜空が広がり、広場ではしゃぐ人々の喧騒とは対照的に、静かに澄んでいる。

日本ではまずお目にかかれないであろうほど綺麗な夜空と星を眺めながら、少し物思いに耽っていたら、横に雄也が腰を下ろした。

「なんだ?ケティはいいのか?みんな火の周りで踊ってるぞ?」

「もう踊ってきたよ。ケティはいまおじいさんと踊ってる」

「お義父さんじゃなくて?」

「ぶん殴られたいのかい?」

茶化す弥一に雄也は拳で抵抗する気だ。

その拳は岩をも砕くが、しかしあいにくと魔術師には効かない。
雄也もそれはわかっているので、拳を振り上げる動作だけしてすぐに拳を下ろす。そして広場の方に目を向ける。

広場の方ではケーティアとジキルが笑いながら踊っており、こちらの視線に気が付いたケーティアが少し恥じらいつつも目一杯の笑顔で手を振ってくる。

雄也も少し気恥ずかしくはありつつも、小さく手を振って答える。ケーティアもそれが嬉しかったのか、尻尾がブンブン揺れる。

ケーティアが友達と一緒にどこかに行って見えなくなると、途端に「はぁ......」と息を吐く雄也。

「なんだご不満か?」

「そうじゃないさ。ただこのままでいいのかと思って」

そういうと雄也は後ろに倒れ、星空を見上げる。

「確かにケティは可愛いし将来美人になること間違いと思う。でもケティはまだ10歳だよ?。思うんだ。ケティが今僕に抱いている感情は、ケティが恋を知らなかっただけで、別に恋愛とかの好意じゃないんじゃないかって」

「ま〜だそんなことで悩んでたのか」

「そんなことってなんだい。真剣に考えてるんだけど?」

ケーティアが今抱いている好意は、彼女が未だ恋愛というものを知らなかっただけで、一時の迷いなのではないかと。その一時の迷いで結婚という大事なことを決めてもいいのかと、雄也は今それで悩んでいる。

「だからあんな条件出したのか」

「うん」

「だったら信じてやれよ。子供が勇気を振り絞って告白して、自分で決めたんだ。それを受け止めてやるくらいできなきゃ、魔王なんて倒せもしないぞ」

「ははっ、流石所帯持ちの言葉は説得力あるね。弥一もセナさんにプロポーズするとき緊張したの?」

「当たり前だ。付き合って1日で結婚だぞ?あの時は余裕ぶってたが、内心断られるんじゃないかと人生で一番ヒヤヒヤしてた。」

自らの肩を抱いて話す弥一に、雄也は笑って話を聞く。
そして思う。

魔術師として幾多の修羅場を超えてきた弥一でも勇気のいる事を、たとえ子供の好意であろうとも、子供のケーティアが言ったのだ。だったらその言葉を信じてやる事も、自分の責任ではないかと、そう雄也の中で答えが出た気がした。
まだおぼろげな答えだが、それでも、その答えを信じてみるのもいいかもしれない。

「まぁ、次会った時にケティの気持ちが変わっていなかったら、その時はちゃんと真剣に向き合うよ」

「あぁ、今はまだ婚約者の段階なんだからそれくらいで十分さ。その時が来たらちゃんと考えてやれ」

「そうするよ」

おぼろげながらも少しスッキリした表情の雄也に、世話がやけるなと思う弥一。

すると広場の方からケティが駆け寄ってきた。

「ゆうにぃ。もう一回踊ろ?」

「うん、いいよ。ありがとう弥一」

「お〜う。行ってこ〜い」

ケティに手を引かれて広場に向かう雄也に、適当に手を振って送り出せば、広場から拍手と雄也を呼ぶ声がこちらまで聞こえて来た。

「相談?」

「あぁ、そんなとこ」

突如後ろから聞こえて来た声。しかし声ですぐにセナだとわかった弥一はすぐに返し、上を見上げる。見上げれば両手にお皿を持ったセナが微笑んでいる。

「はい、弥一の分。このお魚美味しいよ」

「お、ありがと。へぇ〜カルパッチョみたいな感じか?」

隣に座ったセナから巨大魚のカルパッチョもどきを受け取る。口に運べば、脂の乗ったまるで肉のような旨味が広がる。

「うまい。意外とさっぱりした脂身だな」

「うん。揚げ物にしても美味しいかも。今度作ってみるね」

「楽しみにしてる」

意外な魚の美味しさに舌鼓を打ちつつ、たわいもない会話をしながら過ごす。その時間がなによりも癒されるのを感じながら、食べ終えたお皿を置いて再びゴロンと横になる。

するとセナが何か言いたげな目でこちらを見て来る。

「腕枕?」

「正解」

どうやら問題には正解したらしい。腕を横に出すと二の腕に頭をのせ、猫のように甘えた態度で体を密着させる。

「ねぇ弥一。私にプロポーズするとき緊張した?」

「ぐっ、聞いてたのか.....」

「うん。バッチリ」

悪戯っ子のような顔で見上げてくるセナに、参ったなと顔を歪ませる。恥ずかしくて聞かれたくなかった事だが、聞かれてしまったのならどうしようもない。

「あんなに余裕ぶってたのに。そんなにヒヤヒヤした?」

「そりゃそうだろ。好きな女の子にプロポーズするんだぞ?ましてや恋人になって次の日だから、早過ぎると思われるかもしれないって思って........」

「私は絶対断らないよ」

言っていて語尾が小さくなってきた弥一。しかしその言葉を遮るようにセナが声を出すと、弥一の頬を両手で挟んで強引にこちらを向けさせる。
覗き込む蒼の瞳には確固たる意志が宿っていた。

意志のこもった瞳で弥一を見据えながら、セナの口は言葉を紡ぎ出した。

「弥一は真っ暗だった私の人生から連れ出してくれた。奪われた故郷も、幸せだった家族の時間も、弥一は全部救ってくれた。任せろって言ってくれた。だから私はこの人の隣に立ちたいと思った。立って一緒に歩いてくれる。そんな弥一を私は好きになったの。一生この人のそばにいたい、そう思ったの」

「セナ.......」

赤裸々に語られる思い。気恥ずかしくも感じ、それはセナも同じなのか頬が少し赤い。それでもセナは言葉をつなげる。

「だから、弥一がプロポーズしてくれた時は嬉しかった。弥一も私と同じ気持ちなんだって。そう思うと頭がおかしくなっちゃいそうなくらい幸せで、嬉しくて........ねぇ、弥一。弥一は私でよかったの?」

そう言うセナの顔にはほんの少しだが不安の色が見て取れた。

だからその不安を拭い去ってやるのも夫の務めだろう。
弥一はセナの顔を引き寄せて軽くキスをする。

「よかったの、じゃねぇ。セナじゃなきゃダメなんだ。俺はセナと居たいと思った。そのことで俺が後悔なんかすることは万が一にもありえない。絶対にだ。むしろ俺にこんな完璧な嫁がいていいのかと思うくらい。.........だからセナ、俺はセナのことが好きなんだ」

伝えられた想いに自分のありったけの想いを乗せてそう返し、目の前の蒼い瞳を見つめる。

そんな言葉が恥ずかしかったのか、セナの頬がさらに赤くなって行く。だがその瞳には感じた不安の色は消えていた。

嬉しさと恥ずかしさの合間にいるセナは、顔を見られたくないのか弥一の胸に顔を埋める。だが伝えたい言葉はあるようで声だけ聞こえてきた。

「弥一、好き」

「俺もだ」

たった一言のやり取り。でもどんな言葉や態度よりもわかりやすく感情のこもった言葉。弥一は無言でセナを引き寄せてようとする。だがそこで、セナが胸に手をついて引き離す。

「どうした?」

「その......このままだと我慢できなくなっちゃう.......それにここ広場から見えちゃう」

確かにここは広場から少し離れて見えにくいだけで意識すれば広場から見えてしまう。流石に見られるのは恥ずかしくらしく、セナがもじもじと目をさ迷わせる。

「だったら移動しよう。それに俺ももう限界だ」

「うん......」

立ち上がって二人は気配を消してその場から離れる。
暗い林の中に行くにつれて広場からの声も人気もなくなる。林の中に入って行き近くの泉まで来ると、月明かりがかすかに水面を照らす場所まで来た。

二人はあたりを見渡すと、人がいないことを確認し、無言で見つめ合い抱擁を交わす。

「弥一、好き。大好き」

「俺もだ。一生愛してる」

鼻と鼻がくっつく距離でお互いに甘い声音で愛を囁くと、目を閉じ顔を近づける。

「ん........」

唇と唇を合わせるだけのキス。漏れ出す吐息は熱く絡み合う。

「んぁ......ちゅ.......っぅ、あ.......んむっ」

合わせるだけのキスで満足できるはずもなく、二人は口を開きゆっくりと舌を絡めていく。絡める度に二人の動きは激しさを増して行き、セナは弥一の首に腕を回し、弥一はセナの腰と背中に腕を回しお互いにより一層強く密着する。

「はぁ.....んっ、んんっ.......やいひ........やいちぃ.........もっほ........もっとちょうだい........んぁ.......んちゅ.....」

「セナ..........愛してる.........」

「うん......んぁっ......私も、愛してる.........」

愛を囁けば囁くほど二人の体温は上がっていき、弥一がセナの顔を見ると、熱に浮かされたような潤んだ瞳でこちらを見つめ返す。

その表情がたまらなく弥一の興奮を煽り、手が自然と背中を撫で回し、空いた手が胸に優しく触れる。服の隙間から手を入れれば、汗でしっとりとした肌が手に吸い付く。

「ひゃんっ!んんっ......んぁっ.......そんな...んっ!......外、なのに......んんっ!んやぁんっ!」

焦らすようにゆっくりと揉んでいけば、ビクンッと背中が跳ね、蒼い髪が月明かりに揺れる。そんな可愛らしい反応を見せる愛する人の姿に、弥一の中の理性は限界寸前。

「はぁ......はぁ......ダメ、弥一.......もっと、弥一が欲しい........」

腕の中でそう潤んだ瞳で見上げてくるセナ。心の中で理性が切れる音がした。

セナを近くの木にもたれ掛けさせると、手を恋人繋ぎで顔の横に拘束し、耳元で囁く。

「本当はトレーラーのベットまで我慢する予定だったけど、もう我慢できない。セナが悪いんだぞ?こんなに可愛くねだって反応するもんだから」

「んっ......だって、弥一が焦らしてくるんだもん。キスだってあんなに激しくされたら、切ないよ.......」

上目遣いでそう甘えてくるセナはとても可愛く、弥一は無言で唇を奪う。両手は拘束されたままなので、セナはなすがままの状態で受け入れる。

「んぁっ......ちゅっ、んん!あっ........んっ......んあっん!」

何度も何度も繋がる二人の影。離れたとしても二人の間には銀色の橋で繋がれており、影が一つになる度に辺りに淫らな水音と吐息が聞こえる。

「セナ........」

「うん........。弥一、愛して......」

見つめ合う二人はお互いに頷くと、そっと身体を寄せるーーーー

月明かりが照らす静かな池のほとりから、微かな息遣いが森に溶けては消えていく。
宴はこうして過ぎていった。












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コメント

  • ノベルバユーザー128919

    続きまってます!

    2
  • 海月13

    読者の皆様お久しぶりぶりです。海月です。

    まずは謝罪を。前回の投稿から約2ヶ月近くかかりました。理由は色々とあるのですが、主に私が別作品の連載を始めたのと、会社の友人にサバゲーに誘われ、どっぷりはまってしまったことです!!


    ハイ、本当にすいません。反省はしています。ただでさえ更新が遅い上に無謀にも新連載を始め、あまつさえ遊び呆けていたことは本当に深く反省しております。でも!一つだけ言わせてください!

    サバゲが楽しすぎるのが悪いんですよっ!!!(責任転嫁)


    そんな訳で、ぐだぐだしつつもなんとか更新できたわけです。待ってくださった皆様には本当にすみません。これからは真面目にサバゲもしつつ書いて行きますので応援よろしくお願いします!
    今回はエロ成分多めです。


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