魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

奴隷の親子


20メートル先の視界の確保すら困難な猛吹雪が吹いている。その吹雪の中をヘカートが進んでいく。

「すごい吹雪だな。この吹雪でこれ以上進むのは危険か......よし、今日はここで止まって吹雪が止んだら進もう」

「うん、それがいいと思う。なにかあったら大変だから」

吹雪のの中でも難なく進んでいくヘカートだが、このあたりの地形は崖などが多いため、視界が確保できないのに進むのは危険を伴う。

後部座席に座ったシートをたたんでトレーラーの扉を開けてトレーラーに入っていく。シートをたためば車内からトレーラーの方に移動できるようになっているのだ。

暖房のきいたトレーラーの方ではすでに夕食の準備が始まっている。エルが食材を切って彩が鍋に野菜と肉をぶち込んでいく。どうやら今日は鍋のようだ。

「あ、おかえりーやいくん」

二人が入ってきてのんびりとした声で声を掛けたのは凛緒だ。炬燵の魔術にやられており、ぐでぇ~と沈んでいる。セナも炬燵に入って凛緒と同じようにぐでぇ~としてしまった。

奥の方では健と雄也がチェスをしている。健の顔がしかめっ面なあたり優勢なのは雄也なのだろう。

弥一も混ざろうとしたが集中しているようなので炬燵の方に行く。空いたスペースに座ろうとすると、炬燵の毛布がもぞもぞと動き、

「ばあ!!」
『オン!!』

「うおっ!?」
「きゃ!!」

掛け声とともに飛び出してきたのはユノとサニアだった。突然の出現に弥一とセナは驚きの声を上げる。ユノは弥一とセナの驚き様に満足げな笑みをつくる。

「おどろいた!?」

「ああ、びっくりした。まったくユノとサニアは悪い子だな」

「えへへ、ごめんなさ~い」
『わふ!わっふ!!』

弥一は笑って叱りつつユノを膝に乗っけて炬燵に入る。セナもサニアを抱きかかえて弥一の隣に入る。入った瞬間に広がる炬燵の心地よさに三人と一匹もぐでぇ~となった。

「セナ~やいくんと近いよ~」

「いいでしょ~別に~」

「まぁ~いいか~」

凛緒とセナはいつものごとく小競り合いを始めるが、二人とも炬燵の魔力に呑まれて喧嘩に勢いがない。ましてや凛緒はまぁいいかと許してしまうほど。しばらく炬燵の周りではぐでぇ~とした雰囲気が流れる。

「はい、鍋できましたよー」

「だぁあああああ!!!負けたぁああああ!!」

「健、あそこでキングを動かすのは取ってくれと言ってるようなもんだよ」

「二人ともー早くこっちへいらっしゃーい!」

炬燵の上に魔導コンロを置き熱々の鍋を置く。鍋は猪肉鍋のようで8人用とあって大量だ。

炬燵は全員で囲んで座れるほど大きく、全員が座ると『いただきます』と声をそろえて合掌し食べ始める。

猪肉は適度な歯応えがありつつも柔らかい。猪独特の臭みもなく、普通の豚肉なんかよりもおいしい。サニアの方は皿山盛りの猪肉をガツガツと尻尾を振りながら食べあさっている。

「やっぱりこんな寒い日は鍋に限るな」

「出汁が濃くてうまい!はぁ~、米が恋しくなるぜ」

「米はもう在庫が尽きてるからな、また今度グリノア大迷宮の地下に行って米を栽培してこないと。この世界にも米はあるらしいけど、港の貿易が盛んなところじゃないとないらしいからな」

米は今までグリノア大迷宮の地下栽培所で栽培していたものだ。作物が早く成長するような栽培場で育ててるとはいえ、流石に量が足りない。この世界にも米はあるらしく一刻も早く大量に仕入れたいと思っている。

「これから向かう国にあったりしないかな?」

「微妙だな、コーネリア国は技術大国だからな。食文化よりも技術の方が発展してるだろうし。あ、でも調理道具なんかの方は発展してるかもな」

「!!それなら新しいフライパンが欲しい!」

「じゃあ入国してから一緒に街を見て回るか。俺もいくつか補充しなきゃいけない機材とかあるしな」

「うん!久しぶりのデート!」

熱々の鍋以上に熱々な二人は周囲の目も憚らずイチャイチャをし続ける。他のメンバーもこの旅で二人のやり取りに慣れてきたのか鍋の方に集中してスルー。しかし凛緒はぷくーっと膨れているが。

そんな感じで全員でおいしく鍋をいただいていると、

「......エル」

「はい、マスター。数は二人。ここから900メートルの場所です」

そういってエルと弥一は立ち上がり武器をとる。突如立ち上がり武器をとった二人を見て他のメンバーも質問する前に立ち上がり各々武器をとる。

「襲撃か?」

「いや、まだわからない。索敵結界に反応があった。ただ、一つだけ少し反応が小さい....子供か?」

索敵に引っかかったのは二つの魔力反応。二つとも反応が弱く、一つは子供くらいの反応だ。

「この吹雪の中でか?てことは襲撃者ではなさそうだな」

「わからない。とにかく行ってみるしかないな」

手早くコートを着込み腰に刀を差す。そしてレルバーホークの弾倉を確認しスライドをスライドさせる。弾丸は念の為実弾だ。

「念の為確認に行ってくる。みんなはもしものために戦闘の準備をしておいてくれ。インカムと映像は繋いでおく」

弥一が壁の金庫を開けて取り出したのはインカムだ。インカムの電源を入れて耳につけると、壁に備え付けてあったモニターに映像が映る。それはインカムからの見る弥一視点の映像だ。

このインカムは声だけでなく内蔵された小型カメラからの映像の受け渡しもできる弥一の特別製だ。これがあればお互いの見ているものが確認できる。

「パパ!ユノもいく!この吹雪の中ならユノの方が得意!」

とドアを開けようとするとユノが呼び止める。いつの間にか変身をしており、耳をぴょこぴょこ動かしている。確かにこの猛吹雪の中なら野性の嗅覚や感覚に一番秀でているユノがいたほうがいいだろう。

「わかった。ただし逸れたりしたらだめだからな」

「わかった!」

「二人とも気を付けててね」

ユノに動きやすいコートを着せて二人は外に出る。外は真っ暗なうえに猛烈な吹雪が容赦なく視界と体温っを奪っていく。

しかし二人が来ているコートは自動体温調節機能付きなので吹雪の寒さなど問題なしだ。

「ユノ、気づかれないように行くぞ」

「うん!」

ユノにも暗視の魔術を付与し、二人そろって一気に駆け出す。二人は森の木々のしなりを利用して枝から枝へと無音で移動していく。高速で動きながら複雑に生えている木々の枝の配置を瞬時に理解し判断して次の枝へと移る。

ユノは弥一と同じように、いや弥一以上の踏破速度だ。アクロバティックな動きを交えて森の木々という名の迷宮を踏破していく。やはりユノは野性の感覚においては弥一をも凌駕するらしい。

ユノの踏破速度についていくために、弥一も全速力で移動していく。

そして800メートルという距離を1分も掛からず踏破し目的の場所についた。

そこには銀髪の二人の女が倒れていた。

「おい!大丈夫か!」

万が一罠のことも考えて警戒は続けたまま近づく。

倒れていたのは9歳くらいの少女と20代後半の女性。二人の服装はボロボロの布切れで必要な部分しか隠されていない服で決して猛吹雪の山を登るような服装ではない。そしてその体は酷く痩せていて打撲なのどの跡があり、靴すら履いてなく、裸足で歩いてきたのか傷だらけで指先は軽い凍傷になっている。

そしてその二人には耳と尻尾が生えていた。

「エル、彼女たちは」

『はい、銀狼族という種族ですね。亜人族の中でも高い身体能力と戦闘能力を有し、種族内での結束がとても強いことで有名な種族です』

エルの声を聞きつつユノは少女の方を抱き上げて弥一は女性の方を抱き上げる。抱き上げた体がとても軽く、弥一は顔をしかめつつ状態を確認していく。そしてーーーーー

『弥一、それ.....』

「.....ああ」

セナも気が付いたのか少し悲痛な声で話しかける。弥一はセナの声に頷きつつ視線を女性の首元に持っていく。

そこには武骨で太い金属でできた首輪が嵌められていた。首輪の真ん中には赤い宝石が埋め込まれていてかすかに赤く光っている。

ボロボロな身なりにやせ細った体、そして首にはめられた首輪。実際に見たことなくとも知識でわかる。

彼女たちは、


「奴隷だ」























「栄養失調の症状が出ていますが、脈拍や心拍に問題はないですねだいぶ安定してます」

「二人とも回復魔法をかけておいたから時機に目を覚ますと思うよ」

「そうか。セナ、悪いけど胃に優しい食事を用意してくれ」

「もう作り出してる。野菜のスープに柔らかく煮込んだお肉でいい?」

「グッジョブ」

あれから弥一とユノは倒れていた二人を回収しトレーラーに運び込んだ。二人を着替えさせ身体を拭いた後治療を施し、今はベットに寝かせている。

現在、健と雄也とユノの三人は外の雪山を走り周り周囲の警戒を行っている。二人の追ってが来た場合に備えてだ。

「さて、この二人だが....やっぱり奴隷で間違いないんだな?エル」

「はい、奴隷の首輪を嵌めているので。ただ、宝石が赤色なので契約前の奴隷でしょう。おそらくこの二人は奴隷として輸送中に逃げ出したのかと」

この世界には奴隷が存在する。奴隷は奴隷商会というところで購入することができ、奴隷というものはこの世界では一般に浸透している労働力でもある。

そして奴隷には奴隷の首輪という魔道具がつけられ、奴隷が命令を無視した場合契約者が命ずれば奴隷に激痛が走るようになっている。さらには首輪に嵌められた宝石は発信機のようなもので、受信機に場所がわかるようになっている。

契約者がいる場合は宝石は青になり、未契約の場合は赤になる。赤というのは契約する前の状態ということなので、おそらく親子と思えるこの女性と少女は奴隷として捕まって輸送中だったのだろう。

この世界では一般な労働力である奴隷だが、地球の倫理観で生きてきた弥一にとって奴隷というものは納得できない部分がある。凛緒や健も同じような表情だった。

「なら、この首輪は外しても問題ないな」

「ですが物理的に無理やり壊そうとすると装着者の命を奪います」

「なら魔術的に外すだけだ」

そういって弥一は解析器を取り出して首輪の術式解析を始める。術式は確かに複雑だが地球の魔術師の手に掛かればどうということはない。

あっという間に解析を済ませると少女の首輪に触れ魔力を流し、現在位置を特定する術式と激痛を与える術式の破壊を済ませると、宝石の色が失われた。

色が失われたのを確認すると、首輪を錬金術で錬成し首輪を壊し、次に女性の方の首輪も破壊する。

「よしできた。これで追手がかかることないだろう」

「弥一、ご飯できたけどどうする?」

手にお玉を持ってエプロン姿のセナがやってくる。キッチン部分からはおいしそうなにおいが漂うってきた。

「そろそろ目を覚ますと思うんだけどな。外傷は癒えたし」

『こちらアルファ。聞こえるかい?』

とその時モニターにアルファと名乗った雄也から着信が入る。雄也がアルファと言っているのは盗聴や通信漏れのための対処で、地球では機密の通信などでは名前を名乗らずアルファやベーター名乗って発言者がばれないようにしている。もっともこの世界で通信傍受などできるものなどいないと思うが、そこは雰囲気である。

「こちらマスター。どうしたアルファ?」

『山道に近い岩陰の近くに5台の馬車を見つけた。商人らしき人物が一人に盗賊風の人間が複数」

雄也から送られてくる映像を見ると、確かに吹雪の中岩場の近くで馬車が隠れているのがわかる。吹雪が強く一度避難しているのか、岩場の近くでは焚火がいくつかある。

さらに映像を拡大してみると馬車の荷台の中が少し覗くことができた。馬車の荷台には食料の入った箱や
水などのありきたりなものしかないが、なかに一つだけ鉄格子の箱が積まれているものがあった。

「アルファあたりだ」

『え?』

「そいつらがおそらくこの二人を捕まえて奴隷にしたやつらだ」

『なに!?』

この見た感じからしておそらくというか確実に奴らが二人を拉致した奴隷商人と雇われた山賊だろう。その証拠に鉄格子の壁には奴隷の首輪がぶら下がっている。

『こちらガンマ。現場についたぞ。どうするマスター?俺の方が距離的に近いから強襲できるぞ』

『こちらユ...ベーター。ベーターもけ....ガンマと同じところにいる!』

ガンマ:健とベーター:ユノが通信してくる。ユノの方は名前を言いそうになるがギリギリ言えたようだ。

モニターの映像はスマホでも確認ができ、健とユノは雄也の映像を見て馬車の方に回り込んだ。健の方からは下の方に馬車の集団が見えるのがわかる。その気になれば誰にも気づかれず馬車に接近することも可能だ。

「いや、やめといたほうがいいな。身内が捕まったんならまだしも、俺たちに関係のない馬車を襲ったとなればこっちが犯罪者にされかねん。それに奴隷の首輪は外すことができたから、あっちから攻撃してこない限り無視していい」

『了解。なら残りの首輪だけでも回収しとくか?』

「そうだな。これから被害者が出るかもしれないし首輪だけ盗んでおこう。盗むだけなら犯人は分からないからな」

『じゃあユ....ベーターがとってくる!』

『気を付けてな』

健の映像の中でユノが木から飛び降りて馬車が隠れている岩の崖にしがみつく。そこから鉄格子の馬車の影に音もなく着地すると素早く馬車に飛び乗る。

しばらくするとユノが出てきた。手には木箱いっぱいの首輪を持っている。

『パ...マスター取ってきた』

「よし、三人とも撤収だ!万が一に備えて各自別々のルートでトレーラーに合流するように!』

『『『了解!』』』

弥一が撤収命令を下すと三人が答え通信が切れる。

「......なんかやいくん秘密組織の司令官みたい」

「三人もノリノリだったものね。アルファとかで呼び合ったりして......」

弥一と三人のやり取りに女性陣はジト目で見つめる。その視線に少しはしゃぎすぎたと恥ずかしくなった弥一は手早くインカムをしまう。

とするとベットの方からごそごそと身じろぐ音がすると、銀狼族の女性の方が目を覚ました。

「.....ここは....」

「起きたか?」

「---っ!!」

弥一が声を掛けると女性は目に見えて怯え警戒しシーツをつかんで後ずさる。それも当然だろう。起きたら見知らぬところにいて知らない男が話しかけてくるのだから。

女性は周囲を見回すと隣で寝ている少女を見つける。

「....!カーネ!!」

女性は一目散にベットから飛び起きると隣の少女を抱きしめる。シーツごと抱き上げて涙ながらに少女の頭をまるで存在を確かめるようにゆっくりと撫でる。

「....んっ、お母さん...?」

「よかった.....本当によかった....」

目を覚ました少女を見て母親の女性は涙をぬぐい少女をより強く抱きしめる。

しばらくすると女性は落ち着いてきたのか顔を上げる。若干警戒を残してはいるが、落ち着いてくれただけ話がしやすいだろう。

女性の前にしゃがんで目を合わせてできるだけ優しく微笑みかけながら話しかける。

「もう大丈夫か?一応治療は施したんだが、どこか痛いところとか気分が悪いこととかないか?」

「え?.....そういえば体がの傷がないですし、心なしか体が軽いです....もしかしてこれはあなたが?」

そういって自分の手や顔に触れては傷がないことに気が付く。ひとまず問題がないことを確認すると改めて弥一が話し出す。

「俺は日伊月弥一。君たちが雪山で倒れてたから連れてきたんだ。こっちは俺の仲間だ」

彩・凛緒・セナ・エルの順で話しかけると、同じ女性ということもあってかホッとしたような表情をとって、慌てて母親の女性が話し出す。

「すみません!助けていただいたのに失礼な態度をとってしまって。私は銀狼族のテグロト・カネーシア。こっちは娘のカーネです。この度は私たちを助けていただいてありがとうございます」

「ありがとうございます!」

カネーシアとカーネが二人して頭を下げる。しかしカネーシアは助けられたことを本当に感謝しているような表情だが、どこか悲しい表情をしている。

「どうかしたのか?」

「私たちは奴隷です。ですのですぐにでもここを離れなければあなたたちにも迷惑が....」

「それならもう大丈夫だぞ」

「「え?」」

何を言っているんだろうこの人は?という表情をするカネーシアとカーネを前に、弥一は首元を指で指す。

指先につられるように自分の首元を見てみると、そこにあるはずの奴隷の首輪がなくなっている。二人は驚きの表情で首を何度も触る。そしてやがて現実を認識したのか、二人とも目じりに涙を浮かべる。

「こ、これはもしかしてあなたたちが.....?」

「これでも俺は魔術師、あーえっと魔法師だからな。これくらいお手の物だ」

「ありがとうございます.....!本当に、ありがとうございます......!!」

「お兄ちゃん!ありがとう!!」

再び涙を浮かべて感極まる親子に女性陣が進みだして慰める。女性の相手は女性に任せるとして弥一は一歩引くと、ガチャリとドアが開く。

「ただいま~って、弥一また女子泣かせてんのか?」

「ちげーよ!てかまたってなんだ!またって!!」

肩に積もった雪を払いながら「冗談だ冗談」と笑う健。すると遅れて今度は雄也とユノが帰ってきた。尻尾についた雪をプルプルとふるい落としながら入ってきたユノを見て、カネーシアとカーネは驚きの表情を作る。

「あなた、銀狼族!?まさかこんなところで同族に会うことができるとは思わなかったわ」

「?」

どうやら銀色の尻尾と狼の耳をみてユノを銀狼族と勘違いしたらしい。ユノは何のことかわからないといった表情で頭をかしげる。

「ユノ憑依化を解いてやれ」

「うん!」

蒼の魔術陣がユノの足元に現れるとユノの体が発光し、子供のユノに戻る。ユノの横には子狼のインサニアが現れる。少女が光りだしたと思ったら5歳くらいの幼女と子狼が現れ、カネーシアとカーネは目を見開いて驚く。

「この子は俺とセナの娘ユノ」

「こんにちわ!ユノはユノっていうの!」

「私はカーネ、よろしくねユノちゃん!」

明るいユノの正確にカーネもすぐに慣れたのか、すぐに意気投合する二人。カネーシアも微笑みながら娘どうしのやり取りを微笑ましく見つめる。

「それでこっちがユノに憑依している狼のサニアだ」

『わふっ!』

「「え.....!!」」

弥一の足元でサニアが吠える。とその瞬間カネーシアとカーネが驚きの表情になる。

「えっと、どうかしたのか?」
『わふ?』

二人がなにに驚いているのかわからない弥一とサニアは同時に首をかしげる。すると躊躇いがちにカネーシアが聞いてくる。

「そのお方はもしかして.....神獣、インサニア様ではありませんか?」

「どうしてそれを!?」

カネーシアの言葉に今度はこちらが驚く番だ。今までの会話で一度もサニアを2000年前に存在した伝説の魔物インサニアとは言っていない。ましては今や伝説の面影もないただの可愛らしい子狼の姿である。なぜ気づけたのだろうか。

「何となくですかね。インサニア様は銀狼族からすれば、ありがたい存在で神様のようなものですからね。自然と溢れ出す雰囲気で本能的に理解できます。でもまさかインサニアさまとこのような場所でお会いできるとは....」

「インサニア様!ありがとうございます!」

『わ、わふっ?』

弥一たちからは分からないが、銀狼族ならではの理解できるものがあるのだろうか?カネーシアとカーネはサニアの前で膝をつきありがたや~と祈りをささげて感極まっている。そんな二人を困ったようにサニアは見つめる。

「サニアがかみさま?」

『わふっ!がふっ』

「え?インサニア様ではなくサニアと呼ぶようにですか?今はもうインサニアではなくサニアだから。わかりましたではサニア様とお呼びします」

『わ、わふ.....』

わかってないと言いたげな表情でサニアが吠える。カネーシアとカーネにかしこまられて居心地悪そうなサニアを健たちは笑わないように必死にこらえている。

「そのへんにして二人は食事をとったほうがいい。今日はよく食べてよく寝て、明日二人の集落に向かおう」

「よろしいのですか?我々を集落まで連れて行ってくださって。皆さんはコーネリアに向かうのではないのですか?」

「コーネリアにはあとでも十分だしな。それにこんな状態で二人を返すのは危険だ。また狙われるかもしれないし」

「本当に、何から何までありがとうございます皆さん.....!!」

「ありがとうございます!」

温かいスープと肉ををセナが持ってきて二人に差し出す。数日ぶりの食事だったらしく、二人はスープをとてもおいしそうに食べていく。するとそんな二人に触発されてか健のお腹が鳴る。

「う~、さっき外を走ったから腹減った...。セナさん、なにかないか?」

「ユノもおなかすいたー!」

「そういわれれば僕も少し小腹がすいてきたかも」

「そう思って用意してあります!」

バーンというような効果音が聞こえてきそうな感じでセナが猪肉のサンドイッチを出してくる。猪肉の香ばしい香りに充てられ弥一もお腹がすいてきた。

「弥一も食べる?」

「そうするかな」

「はい、あーん」

甲斐甲斐しくセナがサンドイッチを一つ差し出してくる。サンドイッチを一口食べると、レタスのシャキシャキ感に猪肉の歯ごたえのある肉、マスタードが混ざり合っていくらでもいけそうだ。

「弥一、私も食べたい」

「ほら、あーん」

「あーん....うん!おいしい。もっとちょうだい」

食べかけのサンドイッチを差し出して間接キス。裾をクイクイと引っ張りもっともっととあーんを要求してくるセナはエサを要求する小鳥のようだと思った。

「あらら、お二人ともお熱いですね。久しぶりに夫に甘えたくなってきました」

「こっちとしては少し自重してほしいですけどね」

「むぅうううう~~~!!セナぁああ~~~~!!」

凍えるほどの猛吹雪のなか、トレーラーの中ではイチャイチャの熱い空間が形成されていた。








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