魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

【クリスマス特別ストーリー】王様だーれだ!!



冬のある夜。外ではシンシンと雪が降る中、弥一宅のリビングでは活気のある笑い声や掛け声が響き渡る。

『メリークリスマース!!』

そんな掛け声と共に、リビングで一斉にポンポン!と小さな破裂音が響く。それと同時に色取り取りの紙テープが舞う。

音の正体はエル手作りの小さなクラッカー。それをその場の全員が一斉に発射したのだ。

この場にいるのは弥一・セナ・ユノ・エルの弥一一家と、凛緒・彩・健・のいつもの三人に加え、クラスメイトの山崎大地・江藤智花・木村美奈、そしてメイとヘンリだ。

さて、なぜこれだけのメンバーが揃っているかというと、先程の掛け声の通りクリスマスパーティーだからだ。

季節はすでに冬。外はシンシンと雪が降り積もり、地球の流れではクリスマスの時期だ。

この世界にもクリスマスのような"冬夜の祈り"という行事があるらしく、その年で初めて雪が降り積もり日は、ろくに獲物も捕れないので、狩りには行かず、今年の恵みへの感謝と来年への感謝を込めた会を開くというものらしい。

今年はそこにハロウィンの時と同様で地球の文化であるクリスマスを取り入れたのだ。

今回はクラスの中でも特に仲の良いメンバーを集めた。王宮の方でも同様に貴族などを集めたパーティーなどがあるらしく、他のクラスメイトはそちらへ参加だ。雄也も呼ぼうとしたのだが、貴族との顔合わせに"英雄"である雄也がいないと色々と問題があるらしい。

そんなわけで弥一宅のリビングには十二人のメンバーが集まっている。十二人でも充分な広さがあり、楽しそうに談笑する者や、ちょっとしたゲームで盛り上がる者もいる。

弥一と健はソファに座ってその光景を眺めている。

「まさか今年のクリスマスは異世界で過ごすことになるとは思わなかったぜ」
「確かにそうだな。でもまぁ今年のクリスマスは楽しいな。去年は色々と寂しいクリスマスだったし.......」
「何かあったの?」

健と弥一の会話にセナが入ってくる。寄り添うようにピタリと弥一の横に座る。そんなセナに弥一は何処か遠い眼差しで答える。

「去年のクリスマスはクラス全員でやるはずが、ほとんどがインフルエンザで来れなくなって、男だけの虚しいクリスマスになったし。途中で結社から北海道に行ってカルト教団との闘いに参加するよう言われるし...........クリスマスって一体なんだよ........」
「ほんとな.........ていうかお前あの後北海道まで行ってたのか。ハロウィンの時と同じで大変だな」
「......ああ、鹿がカッコよかったのは覚えてる」

ズゥウウーーンと弥一の表情が沈む。ハロウィンやクリスマスといい、こういった行事には必ず何か起こると決まっているのが魔術の世界なのである。

そんな沈む弥一の背に手が添えられた。包み込むような優しい微笑みでセナが弥一の顔を覗き込む。

「じゃあ今年のクリスマスは一杯楽しも?私、弥一と一緒にクリスマスパーティーできて嬉しい」
「セナ.......!!」

優しく包み込む妻の微笑みに、弥一は感涙の涙を流しセナを抱き寄せる。そう、今年は去年とは違う。今年のクリスマスは最愛の恋人、いや妻と過ごせるのだから!

お互いに周りのことなど知ったことか!と熱く見つめ合い、辺りの空気を片っ端から砂糖にしていく。とんだイチャイチャテロだ。

「俺も嬉しいよ。こんな可愛いくて美人な妻と過ごせるんだからな。俺は幸せ者だ」
「もう、恥ずかしい......」
「そうやって恥ずかしがる表情も魅力的だ。大好きだセナ」
「うん......私も」

セナのほんのりと染まった頬に手を当てた後、おとがいをクイッと上げ、ゆっくりと顔を近づける。セナもその意味を理解して目を瞑る。そのまま二人の唇が重なる、といったところで鋭い一喝が入る。

「こら!二人とも何してるの!!」
「...........邪魔者め」
「何か言ったセナ!!」
「別に何も言ってない」

二人の激甘空間をブレイクしたのは凛緒だった。キスをしようとする二人を見て止めに入る。

セナはせっかくのいいところで邪魔が入ったことに、不満げに頬を膨らませ弥一の腕にぎゅっと抱きつく。

「て、何してるの!!二人とも近い!!」
「凛緒には関係ない。夫婦の営みを邪魔しないで」
「い、営み.........!!」

その言葉に凛緒がたじろぐ。それをチャンスと見たセナが素早く弥一に口づけをする。

「〜〜〜っ!!」

顔をリンゴのように赤く染めて凛緒が震える。しばらくそのままだったセナは、唇を離すと、余裕の笑みで凛緒を見る。"これが妻の力だ!"とでも言うべきドヤ顔で、それはもうドヤ顔で。

「セナのスケベ!」
「ふっ、何とでも言うがいい」
「このエロキス魔!」
「え、エロくない!!」

まるで小学生の喧嘩のように言い争う二人。そのまま言い争いはデットヒートしていき、二人の身体から魔力が漏れ出す。そして二人が向き合い、魔法が発動するといったところで。

「やめんかっ」
「ひゃう!」
「あうっ!」

本気で魔法を発動させようとした瞬間、弥一が渾身のチョップで二人の脳天を打つ。

涙目で揃って頭を押さえる二人を一瞥し、弥一はため息をつく。

「まったく子供か。魔法を発動させようとするなんて何考えてるんだ。少しは反省しろ」
「「はい.......」」
「.......この状況だと俺はどういった行動をすれば正解だったんだ?」

隣で夫婦のイチャイチャを直で見せつけられた健が気まずそうにぼやく。一番の被害者は健かもしれない。

「何をしているんですか?」
「目下絶賛反省中だ」
「........なるほど」

騒ぎを聞きつけてきたエルと美奈がやってきて、うずくまる二人を見て状況を理解した。

エルと美奈はお揃いのカメラを使って写真を撮っている最中だったらしい。二人は魔物襲撃以降、意気投合し、最近は二人で出かけることもあるほど仲がいい。

するとそんな美奈が「じゃあ」と話を切り出してくる。

「皆さんゲームなんてどうです?」
「おっ!いいな、何するんだ?」
「ふっふっふー、そうですね〜これだけの人数がいますから、『王様ゲーム』なんてどうです?」
「「おうさまげぇーむ?」」

『王様ゲーム』を知らないセナとエルが聞いてくる。それを見て美奈は意気揚々と王様ゲームの説明を始める。

「ルールは簡単です。まず参加人数分の棒か紙を用意して番号を振り分けます、このとき一つに目印をつけるんです。そしてそれを全員が一斉に一つ手に取り、目印が付いている物を引き当てた人が王様になれます。その王様は番号で人を指名して命令をすることが出来ます!そして王様の命令は絶対なのです!!」
「面白そう!弥一やろ!」

美奈の説明を聞いてセナが興奮したように弥一の顔を見る。そんな子供っぽい笑顔に弥一はそうだな、と答える。

「じゃあいっちょやるか!」
「マスター準備は出来ております」
「早っ!?」

こうして王様ゲームが始まった。





「さてそれじゃあ全員準備はいいな?」

コクリと全員が頷き、それぞれテーブルの箱にある棒を掴む。全員が持ったのを確認すると弥一が声を上げる。

「せーの!」
『王様だーれだ!!』

バッ!と一斉に棒を抜き取る。各自自分の棒とにらめっこし、

「あ、私だ」

そう言って手を挙げたのは彩だった。王様が分かった途端、「ああ〜」と悔しそうな声が上がり笑い出す。彩は「そうね.....」と少し考え、

「..........じゃあ、二番が最近あった恥ずかしい事を話す」
「げっ!」

命令が出された途端、そんな声が上がる。その声を辿ると、テーブルに突っ伏した大地の姿が。

「くそっ....!しょっぱなじゃねぇかよ〜〜」
「ハハハ!残念だったな大地大人しく諦めて言えって、なにせ王様の命令はーーー」
『絶対!』
「くっ....!」

全員で合唱すれば、大地は観念し話し出す。

「...........この前昼寝のときに智花に膝枕してもらったことだ」

言い終わると顔を赤くして再び机に突っ伏す大地。同じように顔を赤くした智花も、「いやぁあ〜〜!!」と手を顔で覆う。それを見て全員が『おおーー』と感心したような声をかける。

「ひゅーひゅー熱いなお二人さん」
「その時の状況詳しく教えてもらっても?」
「〜〜〜〜っ!!い、言わないからね!!」
「智花素敵ですよ?」
「ヘンリまで言わないでぇえええーー!!」

全員にはやし立てられカップル二人は撃沈する。初手で2名の負傷兵が出てしまった。

「よし、次行くか」
「こ、今度こそは俺が王に...!」
「私も......!」

負傷兵2名が、負けるものかっ!!と凄まじい気配で箱に手を伸ばす。残りも棒を掴み、今度は大地が音頭をとる。

「行くぞ!!せぇええのっ!!」
『王様だーれだ!!』

..............................。

「しゃああああ!!俺だ!」

王の栄光を勝ち取ったのは、大地でも智花でもなく、健だった。

「それじゃぁ、命令だ。そうだな......」

ニヤリと悪い笑みを浮かべて健が大地と弥一を見る。何か良からぬことを考えているのは明白だが、王様ゲームは番号で指名しなければ意味がない。そう思ってハハハッ!とわらーーー

「五番と」
「なにっ!?」
「九番が」
「バカなっ!?」
「西原先生に『今まで好きでした。俺と本気で付き合ってください』とラインを送れ」
「「貴様ぁああああアアアアアアアアアアアア!!!」」

あまりにも残酷すぎる命令に大地と弥一は悲鳴を上げる。しかも片方は彼女、片方は嫁と娘がいるのである。

「セナはそれでいいのか!?」
「そうだぞ智花!」
「.........確かにそうだね」
「その通り」

弥一と大地がセナと智花の方を向くと
「うんうん」と頷く二人。

「セナ.....!」
「智花.....!」

助かった!と感涙の声色でそれぞれの最愛の人の名を呼ぶ二人。セナと智花はそんな二人に「でもね....」と優しく微笑み、

「「王様の命令は絶対だから」」

「「いやだぁああああああああーーー!!!」」





===========================

大地:先生、前から好きでした。俺と本気で付き合ってください

西原:からかっているのなら覚悟を決めておけ。

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弥一:先生、前から好きでした。俺と本気で付き合ってください

西原:明日、山崎と一緒に俺の部屋まで出頭するように

===========================

「「..........................................」」

返信を見て無言で黙り込む二人。その光景はさながら護送される囚人のようだ。

「くくくくっ、ハハハ!!!」
「だ、大丈夫?.......ぷっ、、、!!」
「私は信じてるよ弥一.......くす、、、!!」

腹を抱えて豪快に笑う健と、笑いを堪えきれない智花とセナが囚人二人を慰める。他の全員も必死に笑いを堪えようとしているが堪えきれていない。

「で、では次に行きましょう.......ふふっ、、、!」
「えええい!!こうなれば意地でも王になってやる!」
「そうだ!行くぞ!せぇええのっ!!」
『王様だーれだ!!』

嫌なものを振り切るように、強引に次へ進める弥一と大地、そして次の王を選ぶべく全員が一斉に棒を抜く。

果たして結果はーーーー

「ユノなの!」

元気よく満面の笑みでユノが手を挙げる。その場でぴょんぴょん跳ねるユノは見ていてほっこりする。

「ユノちゃんいいな〜」
「メイも次当てれるよう頑張りましょう」
「うん!」
「さ、王様ご命令を」
「えっと........」

何を命令しようか考えるユノを、全員が微笑みながら待つ。そして思いついたのか「はい!」と手を挙げる。

さてどんな可愛らしい命令が来るのか、と全員が聞き耳を立て、

「パパ!おくちにちゅーしてほしいの!」
「ぐほっ!!!」
「うわーお、とんでもないのが来たな.........」
「マスター、ご愁傷様です」

花咲くような満面の笑みでとんでもないことを要求してくるユノ。「ユノ何て恐ろしい子!!」と娘に戦慄する夫婦は、体じゅうから嫌な汗を流す。

「で、でもなユノ、番号で指名しなきゃ命令は無効なんだぞ?」
「じゃあ二ばん!」
「.........................」

手元の棒を見てもう何も言えなくなった。

「(どうする!?このままじゃ流石にやばい!)」
「(ユノちゃんの為にも初めてはまずいよ!...........それにいくらユノちゃんでも弥一は渡さない)」
「(どっちがセナの本心かよくわかったよ)」

完全に八方塞がりの弥一。ユノを見ればキラキラした目でこちらを見つめてくる。

この笑顔を前に断れない。ならば説得しかない。果たしてどうなる。

「ユノ、聞いてくれ。ちゅーは本当に好きな人としかやっちゃいけないんだ。それこそ結婚するくらいに、な?」
「ユノはパパのことだいすきだよ?それにしょうらいはパパとけっこんするもん!」
「どうしようセナ!ウチの娘が可愛すぎる!」

クリティカルノックアウトであった。

天使な娘の笑顔に弥一は完全に撃沈。だがこのまま引き下がるわけにも行かない。「ごほん」と気をとり直しつつ言う。

「それでもダメなんだ。これはユノのためでもあるんだ」
「でも.......」

諭すように弥一が言うとユノが泣きそうな顔をする。泣きそうなユノの表情に流石の弥一も慌てる。せっかくの楽しいクリスマスにユノに泣いて欲しくない。

「........じゃあ、ユノが大きくなって、その時もパパの事が好きだったらしてあげるよ」
「!!ほんとパパ!?」

苦肉の策としてため息混じりに弥一が言うとユノは泣きそうな顔から一転、上目遣いに期待の眼差しで見つめてくる。

弥一がこう言ったのは大人になればこの事を忘れて、いずれは本当に好きな人を見つけるだろうと考えての判断だった。弥一もユノくらいの時の記憶などほとんどない。

「ああ、本当だ。大きくなってもパパの事が好きだったらな?」
「うん!!だいじょうぶ!ユノ、ずーっとパパのことだいすきだもん!!」
「ありがとうなユノ」

ギュッと抱きついてくるユノの頭を撫でてやるとユノは嬉しそうに目を細めて胸板に頬をすりすりしてくる。

そうして安心する弥一。しかしこれが後、弥一の身に降りかかってこようとは、今は誰も知らない...........

「さて気をとり直してやるか。せーのっ!」
『王様だーれだ!』

.................................。

「あ、私」

そうして手を挙げたのはセナだった。その事に 弥一は安心する。セナが命令する以上最悪悪い事にはならない。

「むっ.....セナ」
「おめでとうママ!」
「ささ、王様命令を」

凛緒は若干警戒したような目でセナを見る。未だ弥一に抱き付いているユノは祝福するように手を叩く。

セナは若干照れくさそうに頬を染め、その後なぜか弥一を見る。

「............」
「ん?どうした?」
「.........ううん、なんでもないよ」
「??」

当てる気だったのだろうか?と思いつつ手元の棒を見る。そこには三番の番号。先程から当たってばかりだが、流石に連続ではこないーーーー

「じゃあ命令。三番が私を抱き締めて」
「なに!?」

予想とは裏腹にセナは弥一を当ててきた。手元の棒を見て弥一は目を見張る。

「どうしたの弥一?」
「い、いや、なんでもない。まさか連続で当たるとは思わなくてな」
「そういう時もある。さ、弥一、王様の命令だよ?」
「はいはい、わかりましたよ王様」

諦めたように手を振ると立ち上がり、反対側のセナの背後に立つと、しゃがんで後ろからそっと抱き締める。

「むーっ........」
「はわ〜〜っ........!!」
「........っ!」

ごく自然に抱き締めた弥一を見て、凛緒は頬を膨らませ、智花と彩は顔を赤くする。

周りが少し気まずそうな空気で全員が注目するが、当の本人たちは二人だけの世界に入って一切気にしない。

「........セナはいい匂いがするな。ずーっとこうしていたい」
「弥一もとっても温かい。包まれてる感じですごく安心できる。もっと強く抱き締めて」
「こうか?」
「うん」

腕に込める力を強めより一層密着し、肩に顔を乗せて、顔を合わせ微笑む。

と、しばらくそうしているとユノがこちらを羨ましそうに見ているのに気がつく。自分も行きたいが、セナが王様なので我慢しているのだろう。

よくできた娘の様子に弥一とセナは目を合わせて頷くと、セナが手を広げてユノを手招きした。

「ユノちゃんおいで」
「........!いいの!?」
「うん」
「ありがとうママ!」

満面の笑みを浮かべて小走りで近づくと、セナがユノを抱き締める。抱き合う二人を弥一はそっと抱きしめれば、家族三人嬉しそうに笑う。

家族揃って抱き合う光景に、全員がほっこりと温かい気持ちになる。

「おねぇちゃん、メイもギュッてして」
「あらら、ふふ、メイも甘えたくなったの?ほら、おいで」

ユノに触発されてか、メイもヘンリにおねだりしている。妹の可愛らしい甘えにヘンリは顔を綻ばせ、メイを優しく包みこむ。

しばらくそんなほっこりとした空気が流れ、そろそろ戻るか、と弥一が立ち上がる。

「(ん?あれは........)」

そしてその瞬間、奥の壁にあった鏡を見る。

家を購入した時からあった大き目の鏡で、エルがピカピカに磨いているため、指紋一つない。しかし、弥一が気になったのはそんなことではない。

気になったのは場所だ。セナの向かい側の壁、そして先程までそこに座っていた人物のこと。

「(........まさか!全員、俺の番号が見えてたのか!?)」

そう、弥一は背後にある鏡に気づかず、番号を全員に晒していたのだ。そのため、先程から全て弥一が当たっていたのである。

なんてことだ!、と自分の不注意さに頭を痛める。さっきセナが見ていたのは弥一ではなく、その後ろに映された弥一の番号だったのだ。

「(なるほど、そういうことなら)」

鏡に気付いた事を悟られないよう、表情を正しながら席に戻る。

「ゴホゴホッ」
「弥一?」
「なんでもない。少しむせただけだ」
「水飲む?」
「ああ、ありがと」

セナから受け取った水をごくっと飲み干し、コップを机に置く。

「さて、時間もそろそろだし、後一回で終わりかな?」
「そうだな」

時間はもうすぐ九時になろうとしている。王宮に変える事を考えたらもう後一回で終わりだろう。「えー」と声も上がるが、弥一はそれを宥めつつ、箱に棒を入れる。

「さ、ラスト行くぞ!せーのっ!!」
『王様だーれだ!!』

..............................。

「おっ!最後は俺だ!」

そうして名乗りを上げたのは大地だった。

「そうだなー、どんな命令にするか...........」

わざとらしくそう呟きながら顎に拳を当てて考える。その時、チラリと弥一の背後の鏡を確認する。

「(よし、弥一の番号は一番か。なら.......)」

唇の端を吊り上げてニヤリと悪い顔で大地は笑うと、弥一に向かって言い放つ。

「それじゃあ命令だ。.......一番が今までで恥ずかしかった事ベスト10を話す!!」
「なにっ!?」

大地が言い放ったと同時に驚愕の声が上がる。しかし、その声は前の弥一から聞こえてきたのではなく、横から聞こえてきた。

大地が「は?」と言いながら声の主を見る。そこには、目を見張る健の姿と、握り締められた『1』と書かれた棒が。

「なにっ!?そんなはずは!?」

慌てて弥一を見る大地。

「ん?どうしたんだ大地?」

何事も無いように聞いてくる弥一。しかしその顔には含みのある笑みが張り付いていた。

「(こいつなにかやりやがったな...!!。いったいなにを....)」

悔しそうに歯切りする健と大地。二人とも弥一が何かしたのは分かっているが、それを表立って言ってしまえば自分たちが弥一の棒を見ていたことがばれてしまい、そのため言おうにも言えないのだ。そしてそれを鼻から計算に入れている弥一はあざ笑うように鼻で笑う。それはもう悪い顔で。

弥一がやったのは光の屈折を魔術で操り、鏡に映る棒の番号を健のとすり替えるというシンプルなものだ。そしてそれが怪しまれないように、咳に紛れて暗示の呪文を掛けたのだ。

「さぁ、健、キリキリと吐いてもらおうか。もちろん逃れることは許さない。なにせーーー」

邪悪な魔王のような雰囲気でニヤリと笑うと健を見る。最初の健の命令を根に持っていた弥一に情けという言葉ない。

魔王に目を向けられた健は生まれたての小鹿のように震え、魔王は高らかに言い放った。

「--王様の命令は絶対だからな....!!!」

それからしばらく、弥一家から健の悲鳴が響き渡った.....






「終わったな......」
「だね....」

全員が帰宅した後、弥一、セナ、エルは片づけをしている。ユノははしゃぎ疲れてソファでぐっすり眠っている。

「はぁ、なんかどっと疲れた」
「でも楽しかった。こういうのも悪くないねエル」
「はい。私も楽しかったですよ」
「まぁユノも楽しそうだったしいいか」

テーブルの皿なんかを片付け、クリスマツリーの位置を調節する。リビングの中央を飾り付けされたツリーはで暖炉の光に反射して幻想的だ。

「さて、それじゃあ寝るか」

眠るユノを抱き上げて二階に上がる。二階のユノの部屋のベットに寝かせ、おでこにお休みのキスをすると、くすぐったそうな嬉しそうな表情で身じろぎ、またスースーと規則正しい息遣いが聞こえてくる。

「エリークリスマス、ユノ」

耳元でそう言い残してそっと扉を閉める。廊下ではセナとエルがニコニコしながらユノを見ていた。

「さ、俺たちも寝よう」
「ええ、それではお二人ともお休みなさいませ」
「「おやすみ」」

そういって二人は得ると別れ寝室に入る。部屋は冬の寒さで冷えていたが、人が入ってくるのを感知すると、部屋の壁や床に暖房が回りあっという間に心地よい気温になる。

「今日は楽しかったね弥一。また別の遊びしてあそぼ?」
「そうだな。他にもいろんなゲームあるし。あ、セナとポッキーゲームしたいな」
「ぽっきぃーげぇーむ?ってなに?」
「俺たちの世界にあるポッキーっていう棒状のお菓子の両端を二人が咥えて、お互いにどこまで進めるかを競うんだ。もちろん俺は最後まで食うけどな」
「~~っ!!....弥一のエッチ」

どういったゲームなのか理解して、セナは頬を染めてぼそりと呟く。そんなセナを笑いながら弥一が近づき、「でも、」と言いながら壁際までセナを追い込む。顔の横に手をつき、逃げ道をふさいで顔を近づける。

「直接いただいたほうが早いけどな」
「あ、.....んっ」

赤らめるセナの唇を奪い、しばしそのままの状態で口づけを交わす。

「......ぷはぁっ、やいちぃ....」

息ができなかったせいかもあってか顔が赤いセナは、熱く甘えた声で弥一を呼びしなだれかかる。

「.....ねぇ、ベットいこ....」
「ああ、よっと」

セナをお姫様抱っこでベットに運び押し倒す。せっかく着た服を脱がし、弥一も服を脱ぐとセナの唇を奪う。

「んんっ....あっ、んん!....んちゅ、あんっ.....んっ!んんっ~....」

熱く情熱的に口づけを交わし、舌を濃厚に絡め、二人の間で淫靡な水音が響く。

月明かりが照らす部屋で、そのまま二人の影はそっと重なる。


==========================


「....ん?やべっ、寝ちまった」

深夜。弥一は目を覚まし服を着ると横で眠るセナの頭をなでて部屋を出る。

そ~っと足音を殺し、弥一たちの寝室から近いエルの部屋の前にたどり着く。そして自身に隠形を掛けてドアをそっと開けて中に入る。

エルの部屋はとても整っている。というか必要なもの以外ないといった感じの部屋で、整っているというよりも物が少ないから整える必要がないといったところ。

そんな中で奥のベットではエルが安らいだ寝顔で眠っている。整った顔立ちのエルフである彼女の寝顔は妖精のような幻想さがある。

弥一はそ~っとそ~っとエルのベットまでやってくる。決して夜這いではない!

「え~っとエルはこれだな」

弥一は手に持った袋から一つの箱を取り出し、エルの枕元に置く。それは赤いリボンで装飾されている。

そう、クリスマスプレゼントだ。

「よし、撤退」

そくさと部屋から出ていく。エルは探査系の能力に秀でているので、隠形を掛けているといっても安心できない。即退散に限る。

続いてやってきたのはユノの部屋。ベットではいつの間にかサニアもいて、ユノがサニアを抱きかかえて寝ている。一枚の芸術のような光景を目に焼き付けつつ、袋からプレゼントを取り出す。

「あとこれはサニアの分だな」

ユノのプレゼンとの横にサニアの分のプレゼントを置き、明日の朝どんな反応をするか楽しみにしながら弥一は寝室に帰ってくる。

寝室に戻ると、最後の一つであるセナのプレゼントを枕元に置く。

「よし、これでオーケーだな」

明日の朝を楽しみにしつつ、弥一は眠りについた。






「たいへんなの!パパ!!たいへんなの!!」

そんな声とともにドアがバンッ!と開かれる。それで目を覚ましたセナと弥一は眠たげな眼をこすりながら愛娘を見る。

ユノは興奮したような顔で弥一の元まで来ると、手に持ったオオカミの人形を見せつける。

「あさおきたらはこのなかにあったの!パパ!これってまえいってたさんたさん!?」
「そうだぞ。ユノがいい子だからサンタさんがプレゼントをくれたんだ」
「やったー!!」

オオカミの人形を大事そうに抱えてはしゃぐユノ。足元では新しい首環をつけたサニアがブンブンと尻尾をふって走り回る。

「あの、マスター....」

次に部屋に入ってきたのはエルだ。その手には緑色のネックレスがが。

「おっ。エルのところにもサンタが来たのか?」
「えっ、.....あっ、ふふふ、はい。そのようです」

とぼける弥一に言葉の途中で意味を理解したエルが微笑んで嬉しそうに頷く。

「えるおねぇちゃんにもぷれぜんと!?」
「ええ、ユノ様はなにをもらったんです?」
「これ!」

ユノは自分のプレゼントを見せて、エルも自分のプレゼントを見せる。そんな二人をほほえましく見つめていると、ユノがこちらを向く。

「ねぇパパとママは!」
「えーっと....あっ、あったよ。ママとパパの分」
「え?」

そういって枕元から二つの箱を取り出す。片方は昨夜弥一が用意したものだが、もう片方は見覚えがない。

「(おいおい、本物か.....?)」

そんなことを思いつつ、弥一側の方の大き目のプレゼントを開ける。そこには手編みのマフラーが入っていた。

「マフラーだ」
「わっ!こっちはペンダントだ。中が開いてるから写真でも入れようかな?」

二人も自分のプレゼントを見て驚く。セナは銀と小さな蒼い宝石が嵌ったペンダントをつけて嬉しそうに顔をほころばせる。しかし弥一のほうはそうではない。なぜ用意していないプレゼントがあるのか、まさか本物のサンタ!?馬鹿な!この家の結界が破られた痕跡はないし、ましてやそれを俺が気付かないはずは!!と大変動揺していらっしゃる。

と、マフラーを見ていると、マフラーからいい香りがする。心安らぐようなその香りは、弥一が一番よく知る香り。

「(もしかして....)」
「ん?なに弥一?」
「.......いいや、何でもない」

そういって笑う。セナも何となく察したのか、にっこりと微笑む。

クリスマスのサンタからのプレゼントは、心温まる家族の笑顔だった。




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