魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

ユノ

「・・・パパ。・・・ママ」

その言葉に驚愕の声が響く。いきなりのパパ、ママ宣言で二人は固まるが、はっと気をとり直して弥一が屈んで銀の幼女と同じ目線になりゆっくりと聞いてみる。

「君の名前はなに?」

「・・・ユノ」

幼女は思い出したようにユノ、と名前をいう。名前をがわかったことで今度は別の質問をする。

「それじゃあ次だ。どうして俺とこのお姉ちゃんの事をパパとママって呼ぶ?」

「パパとママだから」

弥一たちをパパとママと認識している事から両親に関する記憶は深いものではないかと考えその方向に話しを持っていき、その両親に関する記憶から記憶を回復できないかと試みる。その為にもこれは言っておかなければならない。

「いいかい?よく聞いてくれ。俺とこのお姉ちゃんは君のパパでもママでもない。俺は弥一、日伊月弥一。このお姉ちゃんはセナ。わかるかい?」

「・・・?」

ユノは頭をコテンと傾げわからないという。そんな幼女にこれ以上聞いてみても良いものかと迷うがそれでも今後の事を考えると聞いておかなければならない。
弥一はゆっくりと諭すように言い聞かせる。

「君のパパとママは・・・死んだんだ」

弥一は躊躇った後にその残酷な現実を突きつける。必要なこととはいえやはり言っても後悔は残る。しかしーー

「・・・??。パパとママはここにいるよ?」

わからないといった具合に今度は反対の方に首を傾げる。そんなユノの反応に弥一とセナはお互いに息を呑み、その顔に悲痛な表情を浮かべる。

一番深いはずの両親の記憶さえも思い出せない程なのかと息を呑んだのだ。幼女の心の傷は相当深刻なようでそれほどまでの両親の残酷な場面を見てしまったのかと思うとセナは涙を流し、ユノを正面から抱きしめる。

「ママ?」

「・・・そうだよ。ママだよ。もう大丈夫だからね・・・」

セナは背中をポンポンと叩き優しくユノの頭を撫でる。丁寧に優しく、忘れている幼すぎる女の子が背負うにはあまりにも残酷な現実を洗い流すように。

ユノの方はなにをされているかわからないといった具合だが、セナの暖かさを感じて嬉しそうに笑顔で頬をスリスリとこ擦り付ける。

弥一は抱き合う二人を見て、ここまでだな、と質問を諦め、痩せ細っているユノの為に消化の良い料理を作るべくそっと部屋を出て一階の厨房に降りる。



弥一が作った特製おかゆをユノを膝の上に置いてセナが食べさせながら今後の事について話し合う。

「取り敢えず午前中に必要品を買って、昼から冒険者組合に向かおう」

「うん。この子の服とか必要だもんね」

「おでかけするの!?」

買い物にいくと聞いてユノの顔がパーッと明るくなる。セナはそんなユノに優しく微笑みかける。

「そうだよ〜。可愛いお洋服とか買いにね」

「やったー!」

お出かけするのがそんなに嬉しいのかギューッとセナに抱きつく。セナも優しく微笑みながら頭を撫でる。
可愛い子供の笑顔とセナの嬉しそうな母性溢れる笑みを見て弥一も自然と頬を緩める。やっぱり子供は元気な方がいいな、と思いながら二人に声をかける。

「よし、それじゃ行くか!」

「いくー!」





街に出ると昼前のせいか仕事の休憩中の人達や弥一と同じく家族ずれの親子を多く見かける。
ユノが弥一とセナの手をとってユノを挟んで三人で歩きながら広場を散策する。

「ユノは何処か行きたいところはあるか?」

「うーん・・・あ!あれ美味しそう!」

「あっ、あのお店って・・・」

ユノが指を差した露店はこの前のデートの時に立ち寄ったガル豚包みのお店だった。
あの時の味を思い出してセナも頷く。

「弥一行こう!」
「パパ行こう!」

そういって目をキラキラさせ親子二人の声が見事にシンクロし、弥一は微笑みながら、「行くか」と頷く。
露店に近ずくと露店のおっちゃんが弥一達の事を覚えていたのか手を挙げて元気な挨拶をする。

「すみません。ガル豚包みを三つお願いします」

「いらっしゃいお二人さん!ん?今日は可愛らしいお嬢ちゃんを連れてるじゃないか。どうしたんだい?」

「あー、この子についてはその、聞かないでやって下さい」

そう言うとおっちゃんは大方の事情を察したのか少し申し訳ないといった表情になる。

この世界で魔物やモンスターに襲われ、両親を失った子供達は少なくない。身寄りのない子供は国が管理する孤児院に保護されたり、養子として引き取ったりすることもある。

おっちゃんは直ぐに元気な笑みを浮かべるとユノに向かって元気に話す。

「お嬢ちゃん可愛いいから一個サービスしてやる!」

「ありがとうおじちゃん!」

ユノは天真爛漫な明るい笑顔でおっちゃんにお礼を言うとおっちゃんも笑顔になりユノの頭を撫でる。

「すみません。ありがとうございます」

「いいってことよ!可愛い子供の笑顔が見られたんだから十分さ!」

「それじゃあ、この後に人と会うんでもう一つのお土産用に注文しますね」

「はいよ!それじゃあ、ガル豚包み四つね!毎度!」

おっちゃんの威勢の良い掛け声と共に注文を終え、出来上がるまでの料理の様子を眺める。
四つとサービスで一つ出来上がると三人は隣のベンチに腰掛け早速ガル豚をいただく。

「「いただきます」」

「・・・?い、た、だ、き、ま、す?」

弥一達の真似をしてユノもいただきますをしてガル豚を小さな口で食べ始める。ピリッと辛いのは大丈夫かと心配したが、おっちゃんが気を効かせて甘口ソースにしてくれていたので安心だ。

ユノはガル豚を噛んでその小さな口をモグモグさせながら食べて飲み込むと綺麗な紅い目をさらにキラキラさせる。

「おいしい!」

ユノはそのまま口の周りを汚しながら、はむはむと夢中で食べ進めていく。美味しそうにガル豚包みを食べ進めていくユノを見て弥一とセナは安心する。最初は元気がないようだったが今では歳相応の無邪気な笑顔を浮かべている。そんなユノを見る弥一とセナの目には本当の我が子の用に慈愛に満ちている。

セナは口の周りをソースで汚したユノの口をハンカチで拭うとユノが笑顔でお礼をいって再びガル豚包みに夢中になる。

夢中になりながら食べているユノを見ながら二人はこっそりと話し合う。

「弥一はユノちゃんをこのあとどうするつもり?」

「それなんだがこのままユノは俺たちで預かろうと思う。今のユノのアストラル体は俺の魔術で一時的な応急処置を施してるだけだ。取り憑いてるものが何なのかわかって正しい処置ができるまでは応急処置の魔術が切れるたびに新たに掛け直すしかない。だからこのまま預かろうと思ってる」

「わかった」

こうして二人で話し合っているとユノがガル豚包みを食べ終わり、トコトコと歩み寄って弥一の方を向くようにして膝の上に座ってくる。

「パパ、どうしたの?」

心配がが表情に表れていたのかユノが大丈夫?と顔を寄せてくる。弥一は「なんでもない」といって笑い、ユノの頭を撫でてやる。そんなパパのなでなでが気持ちよくてユノは目を細め弥一の胸元にすりすりと顔を寄せる。

「さ!次行くか!」

「うん!」

弥一はユノを肩車し歩き出す。セナもそんな二人を微笑ましく見ながら歩き出す。

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ユノの服や旅に必要な買い物などを済ませ三人は冒険者組合を訪れていた。弥一はビルファと話をするため応接室にセナとユノは応接室の隣の部屋で待機している。
仕事がひと段落したビルファが席に着いたことで話し合いが始まる。

「それで弥一くん。昨日保護した女の子、えっとユノくんについてだったね」

「はい。それなんですがユノは今記憶喪失なようで、名前しか思い出せないみたいなんです」

「・・・!よっぽど辛い体験だったんだろうね」

記憶喪失のことをいうとビルファは顔を顰めユノを心配する。しかし弥一はビルファにまだ伝えなければいけない事がある。

「それと実はユノの身体にはなにかが取り憑いてるみたいなんです」

「その取り憑いてるものとは?」

「何が取り憑いてるかはわかりませんが過去に死んだ生命が守護霊として取り憑いてるみたいです。ただ、その守護霊の存在の霊格が高過ぎてユノの魂に負担が掛かってる状態なんです」

「なるほど。それで今はどうしているんだい?」

「今は魔術でアストラル体に負担にならないようにしてます。魔術が切れればまた掛け直すようにしてなんとか繋いでいます」

「となると今後はユノくんを連れて旅をすることになるのかい?」

「ええ、そうなります」

ユノを連れての旅はユノに大きな危険を伴うが、魔術が切れた場合掛け直さなければそれこそユノの命に直結する。どれくらいでこの問題が解決するかわからないが一緒に旅をする必要がある。

「わかったよ。書類には弥一くんが引き取り人として記入しておく。あとユノくんのご両親の遺体だが、遺体の損傷が激しくてまだ判別が出来ていないんだ。判別次第報告するよ」

「ありがとうございます。それと一つお願いしていいですか?」

「ん?なんだい?」

「俺とセナがこの近くの迷宮を攻略する間ユノを預かっていてほしいんです」

ここから西のフェルセン山岳地帯にある【フェルセン大迷宮】は高い山の山頂にあり、そこまで行くには急勾配な坂や崖を登らなければいけない。また魔物も多く生息するため山頂にたどり着く前に死亡することも多い。そんな場合にユノを連れて行くのは流石に危険なためビルファに預かってもらおうということだ。

「【フェルセン大迷宮】だね。わかった、ユノくんはこちらで預かろう。 ただユノくんの魔術に関しては大丈夫なのかい?」

「出発する前に入念に掛けるので一週間は保ちます」

「それなら大丈夫だね。それじゃ、ユノくんは組合が責任を持って預かろう」

「ありがとうございます」

二人はその後細々とした話し合いや書類整理を終えて解散となった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

宿に戻ると気がつけば既に夕食の時間帯だった。夕食を食べ終えセナとユノは先にお風呂へ、弥一は部屋で今日買った道具の整理をする。

いつもなら弥一とセナは一緒に入るが今回は入らない。ユノの前で獣になるわけにはいかないからだ・・・

セナとユノが上がると入れ違いで弥一も風呂に入り一日の疲れを癒す。

「パパ〜!」

「おっ、と」

風呂から上がり部屋に戻ると薄手の寝間着をきたユノが弥一の胸に飛び込んでくる。ユノがぶつかっても痛くないように勢いを受け流し抱っこする。

するとさっきの元気は何処へやら、抱っこされたユノは弥一の腕の中で眠そうに可愛らしい小さなあくびをもらす。

部屋に飾られている時計をみると既に十時。まだ寝るような時間でもないが子供にとってはもう寝る時間だ。

「よしユノもう寝るぞ」

「うん。ねりゅ・・・」

眠気で呂律が怪しくなったユノを見て弥一とセナは微笑みつつベットに移動する。

ユノを真ん中に左に弥一、右にセナと家族三人川の字になってベットに潜る。

「おやすみなさいパパ、ママ・・・」

「おやすみユノ」
「おやすみユノちゃん」

ベットに横になると今日一日お出かけではしゃいだせいで疲れがきたのか眠そうにおやすみなさいという。
二人も優しく耳元でおやすみを囁くとユは静かに目を閉じて小さな寝息を発する。

愛らしい寝顔を見ながらセナが小さく話しかけてくる。

「ふふ、可愛いい寝顔だね。・・・ねぇ弥一、私たちの子供ってこんな感じかな?」

「ぶっ、!!」

いきなりの質問に思わずむせてしまう。実は弥一も内心、娘が出来たらこんな感じかな?と考えていたため少し恥ずかしい。

「あ、あぁそんな感じじゃないか?」

「うん。そうかも」

そういって笑うセナは可愛らしい寝顔のユノの頭を優しくゆっくりと撫でる。ただその顔には少し悲痛の表情が浮かんでいる。

「ユノちゃんの本当のパパとママは私達じゃない・・・これからはどんな風に接したらいいかな・・・?」

本当の両親は自分たちではない、でもユノは知らず自分たちをパパとママとして接して来る。そんなユノに愛らしさを感じ、両親のように接してしまう。

だがこの関係は偽物の関係。

セナ自身これからどのようにして接していったらいいかわからないでいる。

しかし弥一はなんでもないような感じで答える。

「別にいまのままで接すればいいじゃないか。いつか本当のことを思い出してもそのショックから立ち直れるように楽しい思い出を作ってやれればそれで充分だと思うぞ」

「そう、かな・・・?」

「いつかきちんと向き合える時に支えてやれるようにいままで通りに接すればいい。そうだろ?」

「・・・うん。そうだね」

弥一の言葉にセナなりに折り合いがついたのか少し穏やかな表情になり、そのまま横にいるユノを優しく抱き締めて目を瞑る。

弥一はそれ以上は何も言わず、優しくセナごとユノを抱き締めて目を瞑った。

親子三人が抱き合ってお互いを感じながら静かに眠りについた。



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