魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

銀色の幼女


冒険者は組合に寄せられる依頼をこなすことで報酬金を得ることができる。依頼には地域の手伝いや採取系のような簡単な依頼から、魔物やモンスターの討伐のような危険なものまである。

モンスターとは魔物とは違い危険生物のことをモンスターという。魔物は魔力を取り込んでおり強力だがモンスターは魔物に比べ弱い。ただし魔物と比べてというだけで普通に脅威だ。モンスターの種類によっては魔物よりも強力なものもいる。モンスターの種類ではゴブリンやオークなど様々な種類が存在する。

今回は旅の路銀を稼ぐべく冒険者組合に向かっている。冒険者としての仕事をしに行くためだ。

二人は恋人繋ぎで手をつなぎながら冒険者組合への道を歩く。セナは嬉しそうにニコニコしながら弥一の腕に絡みつき頬を擦りつける。昨夜は弥一がセナへの愛を証明してお互いに激しく盛り上がった。いつもの優しい弥一とは違い少しいじわるな感じの弥一にセナは胸が高鳴り「こんな弥一もいい・・・!」とさらに惚れ直したらしく、昨夜の事を思い出してはイヤンイヤンとデレてしまう。

そんなセナを見ながら、少しやりすぎたかも・・・、と思う弥一でもあったがまぁセナが嬉しそうだからいいかと思う。

そんなことを考えていると冒険者組合が見えてきた。組合の中に入ると昼間っから酒を飲んでいる冒険者が多くいた。そんな冒険者たちは組合に入ってきた弥一とセナを見ると驚愕する。

「あいつがクライトさんを倒した新人か。」
「ああ、なんでもクライトさんの【ウィルセルクの槍撃矢】を防いで降参させたとか・・・」
「はぁ!?城壁を貫通したっていうクライトさんの技を防いだのか!?」
「ば、化け物か・・・」
「それに横の女の子は昨日クルスと戦って圧勝だったらしいぜ。クルスの技が全く効かなかったらしい」
「第八階梯のクルスか!?あいつ確か今度第九階梯になる予定だったろ・・・!?」
「しかも無詠唱で魔法を使うらしい」
「む、無詠唱!?そんなの人間業なのか・・・!?」

どうやら昨日の試合について冒険者の中で出回っているらしく遠巻きにぼそぼそと話をしている。そんな視線が鬱陶しいが別に危害を加えられるわけでもないので放っておく。そんな視線のなか二人は依頼内容が張ってあるボードで様々な依頼内容の確認をする。

「う~ん・・・どの依頼がいいかな・・・?」

「犬の捜索、薬草採取、商会の護衛、グリーズベアーの討伐・・・いっぱいあるね」

「そうだな。できれば難しい依頼とかならいいんだけど・・・」

「あっ、ならこれとかどう?」

「ん?ヘルグ森林の魔物討伐で報酬金は五十万ネクトか。そうだなこれにするか」

推奨される階梯は第七階梯なので問題ない。依頼の紙を取って受付に向かう。受付嬢はその紙を受け取って内容の確認と説明をする。

「『ヘルグ森林の魔物討伐』ですね、わかりました。それではご説明いたしますね。ここから南に進んだところにあるヘルグ森林で商会の荷車が狼型魔物に襲われることが多発しているため付近の魔物の討伐をお願いします。魔物の討伐数は二十体です。討伐した際には魔物の右耳を回収し、依頼完了の報告の際提出ください。それが討伐数のカウントになりますので。」

「いつまでに報告すればいいですか?」

「そうですね、期間は二週間までなので二週間以内に報告ください。」

「わかりました。それじぁいってきます」

「はい。お気を付けていってらっしゃいませ」

受付嬢に送り出されて二人は組合を後にする。街で必要なものを買った後城門を抜けて二人は南に広がる森を目指す。

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歩いて一時間の所に森はあった。グリノア大森林ほど木が生い茂っているわけではないので森の中を比較的簡単に捜索ができる。森での探索で魔物を見つけることは難しいのだが弥一は【探査魔術】を使って魔物を捜索する。普通は森の中で野営をしながら魔物を探索していくのだが弥一の場合には魔物の位置がわかるので必要ない。

【探査魔術】を使うと魔物の反応があった。その数三十体と報告よりも多かった。

「いたぞ。ここから500メートル先に六体の魔物の反応がある。まずはそこからだ」

「わかった。急ごう」

「走るのはいいがついてこれるのか?」

ステータスが常人の遥か数倍の弥一の走りにセナは着いていくことができない。それを懸念して尋ねるがセナは問題ないと胸を張る。本当に大丈夫だろうかと思いながら弥一は少し遅めに駆け出す。

常人の全力ダッシュ以上の速度で地面を蹴り駆ける。地面を踏みしめばらばらに生える木を避けながら少しも速度を落とすことなく走る。セナは付いてこれているだろうかと思い後ろを見るがいない。

「やっぱ無理か・・・ん?えっ・・・?」

後ろについてこれていないので一度戻るかと考えて速度を落とした瞬間、何かに追い抜かれた。追い抜かれた先を見るとそこにはーーセナがいた。

地面を蹴り何かに後押しされているかのように駆けるセナを見て慌てて走り出し追いつく。追いつくとセナは風を纏っていた。セナは自分に風を纏いその風の力で加速し弥一を追い抜いたのだ。そうこの技はビルファが使っていた魔法と同じ。

「いつの間に【疾風加速ゲイルアクセラレイション】を・・・!?」

「昨日クライトさんの魔法を見て覚えた」

「ま、まじか・・・」

疾風加速ゲイルアクセラレイション】を使いこなすには相当の練習が必要となりたった一日二日で覚えられる魔術ではない。それを昨日の試合時間だけで見て覚えたというセナに弥一は驚愕する。属性系の魔術に関してはセナは天才だな、とその魔術の制御センスに戦慄すると同時にこれなら大丈夫と駆け出す。

あっというまに到着するとそこには狼型魔物が六体座っていた。すぐそばに内臓を食い破られた鹿の死体が転がっている事から食事後だったらしい。魔物に気づかれないように移動し木の上に登る。
木の上に登ると下の魔物が全て視界に収まる。セナは魔物に向けて手を伸ばす。

「【凍氷雨】」

鋭い氷が雨のように頭上から魔物を襲う。四肢を、内臓を、頭を貫かれ魔物は自分が攻撃されたことに気付かずなすすべなく骸となる。

しかし一体だけ足を貫かれただけの殺し損ねた魔物が
木の上のセナに大きく口を開け喰らい付くべく飛びかかる。そんな魔物に弥一はレルバーホークを向け、発砲。
プラズマを纏う弾丸が魔物の口から体内に侵入し口から全てを貫いて地面に弾丸が埋まる。

「うっ、失敗した・・・」

「一体くらい別に大丈夫だ。てかセナが全部殲滅すると俺の仕事が無くなるから別に一人で全部やろうとしなくていい」

「うん。わかった」

「それじゃ、耳を回収して次行くか。ここから三メートルに三体いる」

「じゃあ急ごう」

体をズタズタに貫かれた魔物から右耳を回収して。次の獲物を狩りに行く。





「これで三十体だな。ふー、木々を避けながら森を駆け抜けるのはいい訓練になるな」

「【疾風加速】のいい訓練にもなる」

「そうだな。あの魔術は超精密制御が要求されるからこうやって駆け抜けながら木々を避けて行くのはいい訓練になる。今度から定期的に森で訓練でもするかな」

「そうしよう」

普通は死と隣り合わせで危険な魔物の討伐をいい訓練になったと言いながら終え帰路に着く弥一とセナ。
あの後も魔物の掃討は順調に進んでいき、第七階梯の冒険者パーティーが三日かけて行う魔物の討伐を僅か一時間以内に終えてしまった。しかも三十体の魔物をだ。
本人達には自分がやらかした事のすごさを理解しておらずさも普通のような態度だ。きっとこの光景を見たら大抵の冒険者は顔を引攣らせ自信を粉々にブレイクされる事は必須だろう。

街に帰るべく森を歩いていると鼻に付くような腐臭が漂う。

「うん?なんだこの匂いーーーッツ!血の匂いだ!」

匂いを嗅いで覚えのある匂いを嗅いだ弥一は臭いの元を探る。セナも遅れて血の匂いに気付く。

匂いのする方向に駆け出す。草むらを掻き分け、木々を避け、蹴り、匂いの元へ急ぐ。そして森を抜け道に出ると無残にも壊された荷車があった。

二人は急いで駆け寄るとそこにはあちこちを喰われ、大きな三本傷などのせいで既に息をしていない人達がいた。荷車の中も荒らされており、そして周りに転がる熊型の魔物の死体から熊型魔物の襲撃に遭ったと思われる。熊型魔物の頭部はとても綺麗な傷の断面で刈り取られた様に無くなっている。一体誰がこれをと思いつつ息のない人々を見る。

人々の顔には苦痛と恐怖が混ざり合った死を目の前にした人間の表情が浮かんでいる。血の乾き具合や死後硬直が始まっていない事から死後一時間以内だと推測できる。救えたかもしれない命に弥一は顔を顰めるとそんな人たちに向かって右人差し指と中指を揃え唱える。

「《汝死を恐るる事なかれ・その命は生命の円環へと戻り・汝に救済を与える・紡がれる生命の縁は新たな命を育む・迷える魂・汝の死に安らかなる眠りを》」

生き絶えた人々の体の心臓部分に白い焔の玉が生まれその焔が一度激しく燃えた後萎み、消える。
唱えたのは死霊魔術【浄化】。死んだ人間の現世に迷える魂が憎悪や嫉妬、憤怒などの負の感情で屍人リッチなどの邪霊になる前に迷える魂を死後の世界に導くのがこの魔術。

弥一は浄化された人々に手を合わせる。せめて死後の世界では安らかに生きれますようにと願いを込めて。

手を合わせて願っていると荷台を確認しにいったセナが慌てた様子で駆け寄ってくる。

「弥一!来て!まだ生きてる子供が!!」

「本当か!!」

まだ生きている命がある事に喜ぶがすぐにセナの様子からその命も危険な状態である事を察し急いで荷台に駆け寄る。

荷台には倒れた荷物の下敷きになっている女の子がいた。周りの荷物を蹴散らし少女を抱えて外に出る。女の子は見た目は四、五歳くらいで腰辺りまである綺麗な銀色の髪が特徴の幼女だ。白い布の衣服を一枚着ているだけで、身体中埃にまみれ身体は痩せており腕には下敷きの際に負ったと思われる切り傷がある。

腕の傷を塞ぐべく傷口を持ってきた水とタオルで綺麗に洗浄し【治癒魔術】を行使する。傷口が逆再生のように塞がってゆき傷が無くなる。弥一は腕以外に傷が無いのを確認すると今度は身体内部に異常がないか幼女の額に手を当て検査用魔術を使う。弥一の母は世界最高峰の防御・支援系魔術師の為、負傷時の際の処置の仕方や医療についても知識がある。

検査用魔術で調べても特に異常は見られなかったので弥一は一安心する。セナはそんな弥一を不安そうに見つめていたが弥一が大丈夫だと言うとホッと胸を撫で下ろす。

「取り敢えずこの子を連れて街へ戻ろう。この事についも組合に報告すればいいはずだ」

「うん。そうだね・・・」

この子だけが生き残った事にセナは悲しそうな表情を浮かべる。これから一人で生きていかないといけない現実で、これからこの子を襲う苦悩を思うと同情してしまう。そんな現実はまだ幼過ぎるこの子にはあまりにも残酷な事だ。俯くセナの頭を弥一は優しく撫でる。

「確かにこれからこの子を襲う現実は辛いだろう。でもこうして生き残ることが出来た事にいつか折り合いをつけることができる筈だ。だから心配するな」

「・・・そうだね」

薄情ではあるがこの現実はこの子が乗り越えなければならない現実だ。
悲しみで動けないセナに変わって弥一は幼女を軽く拭いてやり清潔なタオルを巻いて抱き抱える。二人はそのまま急いでエルネ街に戻った。

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エルネ街に戻ると直ぐさま組合に駆け込むそして依頼達成と荷車のこと、そして幼女の事を伝えると受付嬢が急いでビルファを呼んでくる。それから話会いの結果、依頼についての話や荷台については明日話し合う事にして解散した。幼女に関しても明日話し合う事にして今日は取り敢えず弥一達が身元を預かる事になった。

宿に到着しセナに幼女の身体を温かいタオルで拭いてもらって衣服は宿の人に事情を話すと貸してくれた。
埃も無くなり清潔になった幼女をベットに横たえ二人は話し合う。

「目を覚まさないね。やっぱりショックだったのかな?」

「ああ、気絶してるだけだから心配ないと思う。ただ一つ不可解な事があるんだ」

「不可解な事?」

弥一は検査用魔術で身体を検査した際、気になった事をいう。

「アストラル体、つまり魂が異常に消耗しているんだ。普通はこれ程アストラル体が消耗する事はまずない。それにこの子も中には何かいる。その何かがこの子のアストラル体の消耗をさらに進めてるんだ。今はその消耗を魔術的に抑制しているから大丈夫なんだが・・・一体この子に何があったんだ?」

「何かがいる・・・?」

その話にセナは不安になるがでも明日には目が醒めるだろうと聞いて少し安心する。二人は床に座り寄せ合って毛布を掛けて就寝する事にした。セナは不安で弥一にギュッとしがみつき弥一はセナの頭を安心させるように撫でる。程なくしてセナの規則正しい呼吸が聞こえてくる。弥一もセナの頭を撫でながら意識を睡眠の海に沈めた。

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翌朝。窓から差し込む朝日で目を覚ました弥一は座って寝たせいで凝り固まった身体をに眉を顰めつつ膝を枕にして寝ているセナを起こす。目をしょぼしょぼしつつ起き上がる。二人はベットに視線を向けると銀髪幼女は静かに眠っている。

「まだ起きないね」

「うーん。そろそろ起きる頃だと思うーー」

と言おうとした瞬間、幼女の目がプルプルと震えーー目を開ける。ルビーの様な紅い目で少し意識が朦朧としているのかボーッとした感じでこちらを見ている。
二人は驚き、幼女の目を覗き込む。

「大丈夫か?どこか身体に異常はないか?」

「自分が誰かわかる?」

二人が心配していると幼女は意識がハッキリとしてきたのか弥一とセナの顔を見て口を開きーー


「・・・パパ。・・・ママ」


可愛いらしい鈴の様な音色で超弩級の爆弾を落とす。しばらくフリーズした二人は同時に口を開く。

「「え、えぇえええええええーー!?」」



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