魔術がない世界で魔術を使って世界最強

海月13

世界で一番幸せな瞬間

お互いに威圧をぶつけあい向き合う二人はお互いに相手の行動の探り合いをしながら一歩も動かない。

弥一は改めてリカードを見る。リカードは両手に指先から肘まで覆う籠手を装備している。それ以外には最低限の胸当て用鎧と脛当て用装備を付けているくらいだ、装備からして格闘の超近距離戦闘を仕掛けてくると思われる。籠手は右手には紅い宝石、左手には碧の宝石が装飾されており宝石から魔力の反応がみられる。

(宝石の魔力からしておそらくあの籠手王城にあった国宝武具みたいなアーティファクトだろう。てことはうかつに飛び込むのは危険か。)

アーティファクトとは固有の能力を持った武具のことで王国にあった国宝武具はこのアーティファクトである。弥一の魔導器とは違い、弥一の魔導器は科学技術を魔術で強化したもので。アーティファクトは武具に魔術を付与したものだ。アーティファクトにはそれ専用の魔術が仕込まれているため使う固有能力は強力である。

そんなことを考え弥一は【蒼羽】の柄に手を掛け右足を前に出し、抜刀の構えをとる。リカードも拳を握り構えをとっている。

構える雰囲気からリカードの強者としての雰囲気が窺える。あの時のリカードの戦いぶりをから相当な強者であるとは思っていたがいざ対峙してみると認識を一段上に改める。

「動かないのか?」

「そっちこそどうなんです?」

そういってお互いに小さな駆け引きをする。

「ならばこちらから行かせてもらおう」

瞬間、リカードの足元が爆発し、気づけば目の前にいる。弥一の目はその動きをギリギリでとらえており【蒼羽】を抜刀する。そして【蒼羽】がリカードに吸い込まれ・・・消えた。

(なに!ぐっ!)

リカードが消えたと思ったら腹に衝撃が奔り二、三メートル飛ばされる。【蒼羽】がリカードに吸い込まれそうになった瞬間、リカードは前のめりに屈み弥一の視界から消え、その隙に握った右拳を腹に入れたのである。

たいしたダメージはないが攻撃に気づけなかったことに驚愕する。リカードは静かにふーっと息を吐き突き出した右手をおろし姿勢を元に戻す。

「さすがですねリカードさん。全く反応できなかった・・・」

「それはこちらの台詞だよ、あの攻撃で全くダメージがないとは」

そういって再び構えるが、今度は【蒼羽】を抜刀した状態で構え先制攻撃をする。同じく地面を爆発させながら距離を詰め【蒼羽】で横一文字に斬る。その攻撃にリカードは籠手で防ぎ、その斬撃を逸らす。

すぐに引き戻し今度は鋭い突きを放つ。普通は防ぎにくい突き攻撃を剣の腹に拳を当ててまたもや逸らす。その後も続けて攻撃を仕掛けるがすべて防がれるか逸らされる。弥一は【蒼羽】による攻撃は有効ではないと判断し、地面を強く踏み込み粉塵を巻き上げ、リカードから瞬時に離れる。

距離をとって【蒼羽】を収める。そしてレルバーホークを発砲。発射された弾丸は【硬度弾】、込めた魔力によって硬度を調節できる弾丸は硬度をゴムのように柔らかくして、制圧用ゴム弾になっている。そして弾丸が粉塵の中に突っ込む。粉塵が晴れるとそこには何事もなかったようにリカードが佇んでいた。

「やっぱり効きませんか」

「確かに弥一君の剣技は目を見張るものがあったが、これでも昔はそれなりの拳闘師でね。」

「なるほど。確かにそれじゃ四、五年剣術やっただけの付け焼刃じゃ効きませんね」

弥一が剣術を学んだのは甲明が居なくなってからの五年間なので、昔から何十年と戦ってきた武人であるリカードにはやはり技量の面で劣ってしまう。

それでも諦めない、恋人の父親に負けるわけにはいかないのだ。それに弥一は剣士ではない、魔術師だ。

「ここからは本当の俺、魔術師日伊月弥一として勝負と行きましょう」

そういって右手を高らかに掲げ指を鳴らす。

すると弥一の後ろに光り輝く魔術陣が出現する。十、二十と増えていき最終的に百にもおよぶ魔術陣が弥一の背景を埋め尽くす。

「《一斉発射》!」

「くっ!!」

そう唱えた瞬間魔術陣から一斉に光のレーザーともいうべき攻撃がリカードに襲いかかる。リカードはそんな常識はずれの攻撃に目を見張りつつもすぐさま回避行動をとる。地面を爆発させながら着弾する弾丸は全く衰えることもなくコロシアムの地面を爆ぜさせる。やがて永遠に続くかと思われた攻撃がやみ、煙が立ち込める。

煙とともに静寂がコロシアム全体を包み込むが弥一は警戒を緩めない。そして予想道理に煙の向こうからリカードが飛び出す。流石に無事ではなかったのか体に付けた武具にひびが入っている、籠手は全くの無傷のようだがそれでも消耗はしているようだ。

弥一は向かってくるリカードに向けて右手の平に紅い魔術陣を展開し炎弾を飛ばす。リカードはその攻撃に避けるかと思われたが、右腕の籠手を盾にしながら突っ込んでくる。すると炎弾が籠手に触れた瞬間、炎が籠手の宝石に吸い込まれる。

「なっ!」

吸い込まれた炎は籠手に纏わりつき、リカードは弥一に肉薄し踏み込む。踏み込んだ力を地面にそのまま伝え、落とした腰をひねり正拳突きを放つ。放った拳と同時に拳に纏わりついた炎が指向性を持って襲いくる。

弥一はとっさに即席で障壁を展開、透明に輝く障壁が展開するが、繰り出された拳の威力と炎が障壁を破壊し余波が弥一を襲う。

「ぐはぁ!!」

余波によって飛ばされた弥一は腕を使って跳ね起きて膝を着き、右手を突き出して指を鳴らす。

指を鳴らすとリカードの周りの空間が連鎖的に爆発する。

「ぐっ!!」

爆発によってリカードも飛ばされる。

お互いの一歩も譲らない戦いに観客は皆呆然としている。観客が黙って見守る中、弥一が起き上がる。

「くっそ、いくら即席とはいえ【金剛障壁】を貫通してくるとかいったいどれだけの威力だよ」

威力を防げず弥一は左腕を押さえながら立ち上がる。

【金剛障壁】とは弥一が使う防御魔術の一種で、防御魔術の中でも高い物理防御能力を有し、魔力の消費も少ないので弥一が昔よく好んで使っていた魔術だ。【金剛障壁】は戦車の大砲すら防ぐのだが、その【金剛障壁】を突破する威力に弥一は驚愕する。

そんな弥一に続いてリカードが完全に予想外の一撃で衝撃を殺せず、頭から血を流して膝を支えにして起き上がる。

「くっ、今のは完全に予想外だったよ」

「そっちこそ、なんです?その籠手」

「この籠手は【アルメディアの紅眼・碧眼】という宝石が嵌め込まれた籠手でね。右腕の紅眼は炎の魔法を吸収し、左腕の碧眼は風の魔法を吸収する。吸収した魔法を炎なら攻撃威力強化に、風なら移動速度を上昇させる籠手型のアーティファクトだ。吸収した魔法そのものを放つこともできる。ただし強力すぎる魔法は吸収できないがね」

「はは、なんだそりゃ」

そういって自虐的な笑みを溢す。吸収できる魔法には限度があるがそれでも十分に強力なアーティファクトといえる。

そんな弥一にリカードは言う。

「どうした弥一君。確かに私は負傷したがそれでも完全に戦闘不能なわけではない。まだ終わっていないよ」

再度拳闘の構えをして、左腕を押さえながら佇む弥一に言う。そんな弥一は口元に笑みを浮かべる。

「いいや。ここで終わりだ」

そして詠唱をする。

「《その輝きは全てを縛る。あまねく星々の鎖はすべてをこの世に留める。そのすべてをこの世に縛り、戒める。》」

詠うのは大魔術。詠いだすと青黒い夜の色の魔術陣が頭上に展開。魔術陣が徐々に体を通り右足で留まる。そして最後の詠唱。

「《さぁ、すべてをここに留めよ。縛れ。星々の輝きと共に》」

そう詠い、右足の踵で地面を踏む。踏むと同時に右足を中心とした巨大な青黒い魔術陣が展開。瞬時にリカードも包み込み魔術陣から白色の鎖がリカードを捕えるべく殺到する。

とっさにリカードは魔術陣から逃れようと駆けだすが。

「な!重い!!」

リカードの体に重圧がかかり動きを阻害する。そして白の鎖がリカードを拘束した。【身体強化】で強引に鎖を破壊しようとするが、鎖はどれだけ力を込めてもびくともしない。

「無駄ですよ。その星の鎖は全てを縛り、留める。それが不確定な霊的存在でも、それが神であろうとも。すべてを縛るのがこの鎖、【星団の鎖】」

霊的に実体のない不確定なものや、神などの高次元の存在を現世に縛り留めておくのがこの大魔術【星団の鎖】である。

「まさかそんな隠し玉があるとはね・・・」

「それでどうします?」

そういって【蒼羽】を突きつける。そしてこんな現状に勝ち目などなく。

「降参だ。負けたよ弥一君」

そういってリカードは降参する。リカードの宣言を受けて弥一は鎖を解く。

「いい勝負だったよ弥一君」

「こちらこそ勉強になりました。ありがとうございます」

そういって握手を交わす。すると圧倒されていた観客が少しずつ拍手を起こし、コロシアム全体が拍手と歓声に包まれた。

そんな観客の歓声に驚きつつ照れくさくなって、セナはどうだろう?と思いそちらを向くと、観客席から飛び出しこちらに向かって走ってく来る。

「弥一~~!!」

そして近くまで来ると弥一の胸に飛び込んでくる。

「大丈夫弥一!?そんなに怪我して!もう無茶しすぎ!!」

「ごめんセナ。これくらいしないと勝てなかったから。」

そういってセナの頭を優しく撫でる。セナは顔を赤くし弥一の胸により一層顔をうずめる。そしてしばらくそうしていると、リカードが声を掛ける。

「安心したよ。これだけの力なら娘を任せられる。弥一君、うちの娘をどうかよろしく頼むよ」

リカードが真剣な表情で手を差し出してくる。その手を弥一は強く握る。

「わかりました。必ずセナを守ってみせます」

「ああ、よろしく頼む」

こうして観客の歓声が響く中、娘を掛けた決闘は終わった。

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夜空に輝く星々がうっすらと辺りを照らし辺りの森から静かに虫の声が聞こえてくる。弥一とセナは今、里にある森の頂上で星を見上げていた。

弥一はセナに膝枕をしてもらいながらその輝く星を見る。

「おつかれさま、弥一」

「ああ、今日は本当に疲れたよ」

「あんな無茶するからだよ。」

「恋人の父親に負けるのは男として恥ずかしいからな」

「もう・・・」

嬉しそうに頬を赤く染め弥一の髪を優しく撫で、二人の間に心地よい静寂が流れる。そんな静寂の中おもむろに弥一が穏やかに聞いてくる。

「なぁ、セナは今、幸せか?」

そんな弥一の言葉にセナは弥一の顔を覗き込みほほ笑む。

「私は今一番幸せだよ。お父さんとお母さんに会えて、故郷に戻れて、失った十年間を取り戻せて。本当に幸せ。それに・・・」

弥一の瞳を見つめ続きの言葉を紡ぐ。

「こうして弥一と一緒にいられる今が一番幸せ」

そういって弥一の唇に唇を重ねて幸せを行動で表す。唇を離しお互いに見つめあう。

「弥一はどう?幸せ?」

「当たり前だろ?魔術師としての力を取り戻して、父さんについての事もわかって。それにこんなに可愛い恋人もできて、本当に幸せだ」

「・・・んっ」

セナの首に手を回し顔を引き寄せ、今度はこちらから唇を重ねる。セナも積極的に唇を求めてくる。唇を離して起き上がりセナの横に座る。セナは少し名残惜しそうな目で見てくるが弥一が髪を撫でると気持ちよさそうに目を細め手の平に頬をすり寄せてくる。

「セナは昼のリカードさんの言葉覚えてるか?」

「え?お昼の?・・・あっ」

唐突に弥一が聞いてくる。セナはうーんと首を傾げて答えに辿り着いたのか少し顔を赤くする。

「も、もしかして、結婚のこと・・・?」

「あ、あぁ。それのことなんだが」

そういってポケットから小さな箱を取出しセナに見せる。中には銀色の光を放つ銀のリングに透明な宝石が付いた指輪が二つ存在していた。

「うわぁ、綺麗・・・弥一この指輪は?」

指輪の美しさに感動して声を漏らし、弥一に指輪の意味を聞いてくる。弥一は少し深呼吸をしてゆっくりと口にする。

「俺たちの世界ではプロポーズのとき、結婚指輪を左手の薬指に嵌めてプロポーズするんだ」

「え・・・?」

弥一はゆっくりとセナの左手を取り、その薬指に指輪を通し、真っ直ぐに真剣な眼差しでセナの目を見る。

「セナ、俺はこの先もずっとお前と居たい。昨日恋人になったばかりだけど・・・俺とこの先もずっと生きてくれないか?」

「・・・・・・っ!!」

セナは大きく動揺し身悶える。世界で一番の人からの最高の贈り物に頭が追いつかなくなる。

それでも必死に頭を回し、この幸せを自分が出せる最高の笑顔で示す。

「はい!私もあなたと一緒にいつまでも居たい。」

涙は出てこなかった。こんなに幸せなで素敵な場面を涙のせいでよく見えないなんてもったいない。今この場にふさわしいのは幸福の笑顔だけ。

箱にあるもう一つの指輪を今度はセナが弥一の薬指に嵌める。その際、頬に軽いキスをすると弥一は少し照れた様子で笑う。そんな弥一につられセナもくすくすと笑う。お互いに指輪を見せ合ったりしながら今このときの幸せを噛みしめる。

「弥一、さっきの今が一番幸せって言葉は嘘。私は今この瞬間が人生の中で一番幸せ」

「なに言ってるんだ。今からもっと幸せを掴むんだろ?一番を決めるのはこれからだ」

「ふふ、そうだね。でも私の中ではこれが一番の幸せ。この幸せを超えることはないと思うよ?」

「じゃあ、その一番を超えれるくらいの幸せを作らないとな」

「うん!」

そう言って再び笑う二人。その光景は今もなお、夜空に遍く星々の輝きや月の輝きよりもずっと大きく輝いている。

二人の笑い声は静かな夜の闇にに溶けては消えてゆき、夜空に浮かぶ月の輝きはそんな二人をいつまでを静かにうっすらと照らしていた。




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