ヘタレ魔法学生の俺に、四人も美少女が寄ってくるなんてあり得ない!
浴衣選びとは、うらやまけしからんイベントの事だ
八月二日。
今日もセミは残り少ない余生を謳歌しようと鳴いているが、俺には暑さを倍加させる騒音でしかない。
「あっついなあ……」
テレビでは高校野球の決勝戦をやっていた。うおっ!?やったぞホームランだあ!
 「暁、何騒いでるの?早く行くよ?」
「あ、待って。今準備するよ」
慌てて準備する。と言っても帽子くらいだけど。
「良し。行こうか」
家を出た俺を迎えたのは、最高気温三十四度になるであろう外気だった。
江戸川駅。
「あら、皆さん。おはようございます」
「あ、先輩。おはようございます」
江戸川駅で落ち合った俺達は、新宿行きの電車を待っていた。
「今日も暑いですわね。今年一番では無いでしょうか……?」
「風の魔法使いましょうよ。我慢出来ませんって。こんなの」
「そうですわね。……清らかなる自然の息吹を。『煌めくそよ風』」
一陣の風が吹くが、それは熱風だった。知ってたよ。うん。でもさ、もうちょっと涼しい風をくれませんかね神様さん。
「……もっと暑くなってない?」
「き、気のせいですわ!さあ、電車も来ましたし、行きますわよ!」
おお、エアコンが待っている。夏の電車って何気にこの世の楽園だよな。
「ああ……気持ちいい……」
座席に寄りかかりながら呟いたのはケイト。あの、非常に言いづらいんですが、向かいのおじさんが目のやり場に困ってます。
「あ、ケイト。パンツ見えてるよ」
「うわあ!嘘!?」
すかさず姉さんが指摘。おじさんもこれで一安心。
「(……すげー気まずい雰囲気になった……)」
寝る華。本を読む先輩。スマホをいじる姉さん。パンツが見えないようにスカートを押さえるケイト。そして新聞を読んでるおじさん。
堪えかねた俺は、隣の先輩に話しかける。
「先輩。何読んでるんです?」
「これですか?『ロミオとジュリエット』です。シェイクスピアの」
「……全部英語だ。これ、分かるもんなんですかね?」
俺にはさっぱり分からない。そもそも分厚い本ってだけでゲンナリするなあ。
「読もうと思えば読めますよ?なんなら貸しましょうか?」
「ああいや、大丈夫です。日本語訳の方が読みやすいですし」
「そうですか……」
ションボリする先輩。可愛いけどすげえ罪悪感。
「あ、でも、『ライ麦畑のナンとか』は読んだことありますよ」
「サリンジャーの『ライ麦畑で捕まえて』 ですわね。うちにもありますわよ?英語版が」
どんだけ本持ってるんだこの人。まさか全部読んだとか言わないよな……?
「え、本好きなんですか?」
「父が読書家でして。私もその影響で」
キキイと、鉄が擦れ合う音と共に電車が停止する。おじさんは足早に降りていった。
「おい、華。起きろ。着いたぞ」
「んん……」
眠っている華を起こすのはものすごく申し訳ないが、起きないと降りられないからな。
「もう着いたの……?」
「寝てる間に着いたよ。ほら、降りるぞ」
「うん……」
寝ぼけ眼でトテトテ歩く華は、死ぬほど可愛かった。
「さて、浴衣選びに行こうか!」
「おーっ!」
元気があって大変よろしい。……俺は校長先生か?
「見てみて暁!これ、可愛いでしょ?」
花柄のピンクの浴衣。良いな。絶対似合うよ。
「うん。良いと思うよ。それにしたら?」
「まだダメ。もうちょっと良いのが無いか見てみる」
こだわりがあるのか?まあ、待ってあげるけど。
「暁、この浴衣どうかな?」
試着室のカーテンを開けて出てきたのは、黒地に花火柄の浴衣をまとった姉さん。
「おお、渋いなあ。良いね。何かこう……大人って感じがするよ」
「えへへ……ありがと!」
上機嫌で試着室に戻る姉さん。さあ、煩悩VS俺の第一ラウンド開始だ。
「雨宮さん……私も見てくださいますか?」
「ええ。どうぞ」
試着室から現れたのは、どこのやんごとなき家柄のお嬢様だと疑いたくなるような女性……あ、マジでやんごとなき家柄のお嬢様だったわこの人。
「どうですか?……変でしょうか?」
何だ?顔が赤いな。……暑さで滅入ってるのかな?
「あ、ああ。もう全然綺麗ですよ。ほんと、似合ってます」
誰か俺に語彙力を分けてくれ!プリースボキャブラリ!
「そうですか……!じゃあ、これにしましょう!」
わあ。喜んでくれたぞ。あとすげえ良い香りがするんだが。これあれか?バラとかの香水かな?
「雨宮さん。小物なども欲しいのですが、一緒に見てくださいますか?」
「ああ……一緒に行きたいんですが、この流れだと華の浴衣も見なきゃいけない気がするんですよ」
興味あるしね。
「あら、それは仕方ありませんね。……もっと一緒にいたかったのですが……」
え?もっと何だって?……耳掻きしなきゃな。っていうか最近耳が聞こえづらいんだが、何ででしょうね?
今日もセミは残り少ない余生を謳歌しようと鳴いているが、俺には暑さを倍加させる騒音でしかない。
「あっついなあ……」
テレビでは高校野球の決勝戦をやっていた。うおっ!?やったぞホームランだあ!
 「暁、何騒いでるの?早く行くよ?」
「あ、待って。今準備するよ」
慌てて準備する。と言っても帽子くらいだけど。
「良し。行こうか」
家を出た俺を迎えたのは、最高気温三十四度になるであろう外気だった。
江戸川駅。
「あら、皆さん。おはようございます」
「あ、先輩。おはようございます」
江戸川駅で落ち合った俺達は、新宿行きの電車を待っていた。
「今日も暑いですわね。今年一番では無いでしょうか……?」
「風の魔法使いましょうよ。我慢出来ませんって。こんなの」
「そうですわね。……清らかなる自然の息吹を。『煌めくそよ風』」
一陣の風が吹くが、それは熱風だった。知ってたよ。うん。でもさ、もうちょっと涼しい風をくれませんかね神様さん。
「……もっと暑くなってない?」
「き、気のせいですわ!さあ、電車も来ましたし、行きますわよ!」
おお、エアコンが待っている。夏の電車って何気にこの世の楽園だよな。
「ああ……気持ちいい……」
座席に寄りかかりながら呟いたのはケイト。あの、非常に言いづらいんですが、向かいのおじさんが目のやり場に困ってます。
「あ、ケイト。パンツ見えてるよ」
「うわあ!嘘!?」
すかさず姉さんが指摘。おじさんもこれで一安心。
「(……すげー気まずい雰囲気になった……)」
寝る華。本を読む先輩。スマホをいじる姉さん。パンツが見えないようにスカートを押さえるケイト。そして新聞を読んでるおじさん。
堪えかねた俺は、隣の先輩に話しかける。
「先輩。何読んでるんです?」
「これですか?『ロミオとジュリエット』です。シェイクスピアの」
「……全部英語だ。これ、分かるもんなんですかね?」
俺にはさっぱり分からない。そもそも分厚い本ってだけでゲンナリするなあ。
「読もうと思えば読めますよ?なんなら貸しましょうか?」
「ああいや、大丈夫です。日本語訳の方が読みやすいですし」
「そうですか……」
ションボリする先輩。可愛いけどすげえ罪悪感。
「あ、でも、『ライ麦畑のナンとか』は読んだことありますよ」
「サリンジャーの『ライ麦畑で捕まえて』 ですわね。うちにもありますわよ?英語版が」
どんだけ本持ってるんだこの人。まさか全部読んだとか言わないよな……?
「え、本好きなんですか?」
「父が読書家でして。私もその影響で」
キキイと、鉄が擦れ合う音と共に電車が停止する。おじさんは足早に降りていった。
「おい、華。起きろ。着いたぞ」
「んん……」
眠っている華を起こすのはものすごく申し訳ないが、起きないと降りられないからな。
「もう着いたの……?」
「寝てる間に着いたよ。ほら、降りるぞ」
「うん……」
寝ぼけ眼でトテトテ歩く華は、死ぬほど可愛かった。
「さて、浴衣選びに行こうか!」
「おーっ!」
元気があって大変よろしい。……俺は校長先生か?
「見てみて暁!これ、可愛いでしょ?」
花柄のピンクの浴衣。良いな。絶対似合うよ。
「うん。良いと思うよ。それにしたら?」
「まだダメ。もうちょっと良いのが無いか見てみる」
こだわりがあるのか?まあ、待ってあげるけど。
「暁、この浴衣どうかな?」
試着室のカーテンを開けて出てきたのは、黒地に花火柄の浴衣をまとった姉さん。
「おお、渋いなあ。良いね。何かこう……大人って感じがするよ」
「えへへ……ありがと!」
上機嫌で試着室に戻る姉さん。さあ、煩悩VS俺の第一ラウンド開始だ。
「雨宮さん……私も見てくださいますか?」
「ええ。どうぞ」
試着室から現れたのは、どこのやんごとなき家柄のお嬢様だと疑いたくなるような女性……あ、マジでやんごとなき家柄のお嬢様だったわこの人。
「どうですか?……変でしょうか?」
何だ?顔が赤いな。……暑さで滅入ってるのかな?
「あ、ああ。もう全然綺麗ですよ。ほんと、似合ってます」
誰か俺に語彙力を分けてくれ!プリースボキャブラリ!
「そうですか……!じゃあ、これにしましょう!」
わあ。喜んでくれたぞ。あとすげえ良い香りがするんだが。これあれか?バラとかの香水かな?
「雨宮さん。小物なども欲しいのですが、一緒に見てくださいますか?」
「ああ……一緒に行きたいんですが、この流れだと華の浴衣も見なきゃいけない気がするんですよ」
興味あるしね。
「あら、それは仕方ありませんね。……もっと一緒にいたかったのですが……」
え?もっと何だって?……耳掻きしなきゃな。っていうか最近耳が聞こえづらいんだが、何ででしょうね?
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