リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-

国広 仙戯

●25 乱戦 1







 ゲームは始まった瞬間から混迷を極めた。

 なにせランダムでチーム分けが決まってしまったのだ。いきなり目の前に、あるいはすぐ隣に、もしくは背後に、敵チームが忽然と現れたのである。

 混乱するのも無理はなかった。

 ましてや、その敵チームはつい先刻まで――真なる意味では今でもだろうが――味方だった相手なのである。その精神的衝撃は計り知れず、軟(やわ)なメンタルではまともに戦闘行為など行えるはずがない――

 と思うのだけど。

「な、なんでそんなに容赦なしなのぉぉぉおおおおおおおおおお――!?」

 凄まじい勢いで畳み掛けられる猛攻を前に、僕は思わず声に出して叫んでいた。

 まさに疾風怒濤としか言い様のない大攻勢を繰り出すのは誰あろう、僕の仲間であるはずのフリムとロゼさんコンビである。

「あったり前じゃない! 戦闘テストには絶好のお膳立てなのよ!? せっかくのチャンスなんだから無駄になんかしてらんないわよ!」

 大砲の一発の方がまだマシかと思えるほどのフリムの猛撃。白銀の長杖〝ドゥルガサティー〟による『ジャイアントハンマー』やら『ストライクランス』はもちろんのこと、漆黒の戦闘ブーツ〝スカイレイダー〟の『ドリル・クラッシュ』や『ライトニング・アークスラッシュ』なんかも洒落にならない威力で、終いには最近の改良で搭載されたユニゾンモードによる連動攻撃に至っては、どう考えてもかすっただけで即死級の破壊力がある。

 そんなものを、僕のスカイソルジャーと同じ空中歩行機能を使って立体機動しながらポンポンと放ってくるのだから、本気でたまったものではない。

「実戦を超える修行はありません。本気の戦いであれば尚更です」

 一方でロゼさんはサポートに徹することにしたのか、フリムほどは前に出てこない。

 が、それが逆にまずい。

 本来、格闘士(ピュージリスト)――本人は〝使役術式使い《ハンドラー》〟だと言い張るだろうけど――であるロゼさんの得意とする間合いは、超がつくほどの接近戦だ。武器よりも己が四肢を頼りとする、それが格闘士ピュージリストの本領なのだから。

 しかし、普通の格闘士が持たないものを彼女は持っている。

 それが、あの蒼と紅の銀鎖だ。

 レージングルとドローミ――世界を呑み込むほど巨大な狼の四肢を縛ったという、魔法の紐の名を与えられた、DIFA(ダイナミック・イメージ・フィードバック・アームズ)。ロゼさんのバトルドレスの背中から伸び出るあの四条の鎖は、彼女の意思に応じて変幻自在に動くのだ。しかも射程が驚くほど長い。

 そう、あれこそは竜種ことドラゴン型SBがひしめく『ドラゴン・フォレスト』で、それでもロゼさんがソロでエクスプロールできた最大の理由。

 中距離どころか、下手をすれば遠距離戦まで対応可能な射程を持つ鎖のDIFAを使いこなし、ロゼさんはたった一人でドラゴン型SBを活動停止(シャットダウン)させる毎日を送っていたのだ。

 超前衛型のフリムの補佐にそんな鎖を使われたら、ただでさえ少ない隙が完全に埋まってしまう。

 事実、ロゼさんの操る蒼銀と紅銀の鎖は巧みにフリムの行動をフォローし、常に僕の退路を断ち続けていた。

「くっ……!」

 まだ精神的に立ち直っていないのもあるけど、それ以上に二人の連携が完璧すぎて僕は防戦一方になるしかない。〈スキュータム〉を複数展開し、〈シリーウォーク〉で空中を飛び跳ねながら、身体強化(フィジカル・エンハンス)の支援術式を使う機会を窺うけど、なかなかその隙がない。

 ――なんでこんな……一体、何がどうなって……!?

 間断なく叩き込まれる強撃、少しでも隙を見せればこちらを捕らえようとする四本の鎖を避けながら、僕は頭の中で疑問を叫ぶ。

 ――二人とも、強すぎる……!

 昨日の練習の時は大して上手くいかなかった連携戦闘が、どうして本番になるとこんなにも絶妙にハマるのか。まったく理解できない。もしかして、ロゼさんとフリムの二人だけで浮遊小島での試練を受けたことが関係しているのだろうか? 僕やハヌよりも一緒に力を合わせた経験が多いから、やけに息が合っているとか?

「それにしたって……!」

 ロゼさんの鎖を少しでも遠ざけるために空中へ逃げ、〈シリーウォーク〉の足場を連続で蹴って宙返りを繰り返す。

「いつまで逃げてるつもりよハルト! これじゃ全然テストになんないでしょーがッ!」

「そんなこと言われたって――!」

 無茶を言わないで欲しい。それともフリムには自覚がないのだろうか。彼女だって表では〝無限光(アイン・ソフ・オウル)〟と呼ばれる武具作成士(クラフター)で、裏では〝災厄女王(デッドリーヒール・クイーン)〟なんて畏れられている付与術式使いエンチャンターなのである。

 そんな彼女が、同じく表では〝銀鎖の乙女《アンドロメダ》〟、裏では〝狂戦士ウールヴヘジン〟と呼びならわされているロゼさんと手を組んでいるのだ。

 手強くないわけがない。

「逃がしません」

 地上に立ったままのロゼさんの琥珀色の瞳が、空中にいる僕を視線で射抜いた。

 ロゼさんの銀鎖が跳ねる。連なる清涼な金属音。四匹の金属の大蛇が宙を躍り、ロケットよろしく僕めがけて飛んでくる。

「――ッ!」

 ボッ、と大気の層を貫いて飛来した鎖の先端を薄紫の力場を蹴って、我ながら舞い踊るようにして回避する。

 これだ。とても鎖とは思えない、常識では有り得ない挙動。これに捕まったらその瞬間に終わりだ。一瞬で雁字搦めにされて、後は寄ってたかってHPがゼロになるまで叩かれるだろう。

 だから、そう――【ただ避けただけじゃまだ足りないのだ】。

「――はっ!」

 ロゼさんの両腕が『X』字型に交差して振り下ろされる。

 この時、蒼銀と紅銀の鎖はまるで僕を取り囲む檻のように、地上から空中に向かって直立していた。だが次の瞬間、ロゼさんの動きに合わせて四本の鎖が竜巻のごとき回転を始める。足元から鎖同士が螺旋状に絡まり、包囲を狭め、中心にいる僕を捕縛する動きだ。

 速い。

 ――しまった、逃げ道が……!

 四方から一斉に襲われては流石に逃げようがない。

 ――仕方ない、あまりやりたくなかったけど……!

 追い詰められた僕は、ついに仲間であるロゼさんに牙を剥くしかなくなってしまった。

 意を決し、攻撃術式を起動音声(コール)する。

「――〈ボルトステーク〉!」

 複数同時制御、十五個の術式を重複発動させ、迫り来る鎖の一本へ向けて稲妻の杭を発射する。

 当たり前だが鎖は金属だ。そして、金属は電気を通す。子供でも知っている自然の摂理だ。

 紫電が迸り、飛び火した電撃が四本全ての鎖を奔った。

「ッ……!?」

 直後、鎖の出所であるロゼさんの背中から空気を焦がす音が弾けた。衝撃にアッシュグレイの長い髪が浮かび上がり、背中が大きく仰け反る。

 が、見た目は派手でも大したダメージはないはずだ。子供でもわかる自然現象に対し、策を講じないエクスプローラーがいるはずもない。

 とはいえ、一瞬とは言えロゼさんと鎖の動きが止まり、乱れた。僕にとってはそれだけで十分だ。

 鎖と鎖の間に空いた僅かな空間に体を滑り込ませ、僕を囚われの身にしようとした鎖の籠から抜け出す。

 この時、フリムの位置はロゼさんの鎖を挟んだ向こう側。

 待ちに待った好機だ。

「よしっ……!」

 僕はすかさず支援術式〈ストレングス〉、〈ラピッド〉、〈プロテクション〉を五個ずつ発動。強化係数を一気に三十二倍まで。続いて〈イーグルアイ〉×5、および〈ミラージュシェイド〉×10を発動させ、視野の追加分散と光学的な囮(デコイ)を散布させる。

 深紫に光る鷲が五匹同時に飛び立ち、僕を鏡写しにしたような幻影が十体、一斉に出現した。

「ああっ!? ちょっとハルト! こんな時にそういう目眩ましするぅ!? めんどくさいわねお姉ちゃん怒るわよ!」

「前から思ってたけど弟分としてはそういうのすっごく理不尽だと思うんだけどーっ!」

 どう考えても身勝手なことを平然と言ってのけるフリムに言い返しつつ、僕は激変した身体能力に意識をチューニングしながら、さらに逃げの一手を打つ。

 急な加速に大気が壁とになって全身に圧し掛かる。手足に纏わりつく空気はまるで粘つく液体のようだ。

 だがそれも一瞬だけのこと。そこを越えれば意識と身体能力が同調(リンク)した高速の世界が待っている。

 急激に軽くなった体を駆動させ、僕は空中を風のように駆ける。

 ――今はとにかくハヌと合流しないと……!

 支援術式による身体強化がなった今、加速したスピードを恃んでフリムとロゼさんコンビを一手に相手取ることは可能だ。

 だけど、事前の打ち合わせで約束していたのだ。『絶対に一人で行動しない、戦わない、どんな時も仲間と一緒に』――と。

 その内の二人とはこうしてチームが分かれてしまったけれど、ハヌだけは僕と同じ『白』チームだ。約束はまだ生きている。

 それに、ハヌは正天霊符の『酉の式』を使う以外では機動力がほぼゼロに等しい。僕のフォローがなければ、彼女だって『黒』チームの集中攻撃を受けてすぐに失格になってしまうに違いない。

 僕は方々へ散らせた〈イーグルアイ〉の視覚情報へアクセスし、ハヌの姿を探す。

 高空を飛翔する〈イーグルアイ〉の俯瞰視野から送られてくるのは、他の戦場の様子。

 その中のいくつかに僕は意識を分割し、各々にフォーカスを当てていく。



 ■



 まず最初に目についたのは、凄まじい剣戟を繰り返す二人組。

 ヴィリーさんとアシュリーさんだ。

 いかなる経緯によるものか、いつの間にやら『蒼き紅炎の騎士団ノーブル・プロミネンス・ナイツ』の団長とその幹部が、戦場のど真ん中で一騎打ちを演じていた。

 その光景はまさに〝凄烈〟の一言に尽きる。

 どんなものかと言えば――それは超高速の戦闘。

 三振りの蒼い刃――ヴィリーさんの愛剣『輝く炎の剣リヴァディーン』と、アシュリーさんの双曲刀『双剣の騎士サー・ベイリン』とが目にも止まらぬ速度でぶつかり合い、とんでもない量の火花を狂い咲かしているのだ。

 響き渡る金属音はもはや128ビートすら超える勢いで、音と音の間に隙が全くない。掘削機をぶつけ合っているようだ、といった比喩表現さえも生ぬるい。

 二つの竜巻が激突しているかのごとき烈(はげ)しさだ。

 ヴィリーさんとアシュリーさんの二人は、支援術式〈ラピッド〉で敏捷性を強化しているとしか思えない速度で互いの剣を打ち合わせ、余人にはまるで理解できないハイレベルの戦闘を繰り広げていた。

「――流石ね、アシュリー。やっぱり、剣の扱い方だけならもうあなたの方が上なんじゃないかしら?」

 傍から見ていると一髪千鈞を引く戦いにしか見えないのに、ヴィリーさんは微笑みながら平然と軽口を叩く。その間も、彼女の腕は必殺としか思えない剣閃を繰り出しているというのに。

 深紅の瞳からいたずらっぽい光を向けられたアシュリーさんは、表情を引き締めたまま瑠璃色の双眸を剃刀のように細める。

「ご冗談を。私などヴィクトリア団長の足元にも及びません」

「それこそ冗談が過ぎるわ。こう見えて私も本気で打ち込んでいるのよ? それを全部、こんなにも綺麗にいなしてくれるのだもの。あなたの剣の才は本物よ」

 周囲にとって何が恐ろしいかというと、二人は剣と言葉を交わしながら縦横無尽に走り回っているのである。

 かつてロゼさんとシグロスとの戦いを見た時にも思ったが、高次元の実力者同士の戦いというのは高速で回転するミキサーのようなものだ。

 下手に近付けば巻き込まれてバラバラに引き裂かれる。

 故に、二人の近くにいる『白』と『黒』それぞれのチームメイトは、一騎打ちだから手を出さないのではない。

 【手が出せない】でいるのだ。

「蒸し返すのも悪いのだけど、この前打診があったあなたの〝剣号〟――〝流麗剣〟、受けておけばよかったんじゃないかしら?」

 蒼刃が煌めく。それ自体が光を放っているかのようなヴィリーさんのポニーテールが躍る。僕とスポーツチャンバラで対峙した時にも見せた絶技が惜しげもなく披露される。当たれば首が落ちる一撃がアシュリーさんの喉元へ迫る。

「その件なら固くお断りさせていただいたはずです。私のような者には勿体なき栄誉、分不相応なのですから」

 生きた蛇のような動きで喰らいつく〝リヴァディーン〟の刃を、けれどアシュリーさんは魔法のように手元へ引き寄せた〝サー・ベイリン〟の刀身で受け止めた。素早く奔る鋭い刃を湾曲した剣の背で受け流し、あらぬ方向へと逸らす。

 悲鳴のような金切り音が鳴り響き、連続して咲く火花が導火線のごとく爆ぜながら宙を迸った。

「……私の手が汚れきっています。今更陽の光を浴びてどうしろと言うのですか」

 くるりと縦軸回転してヴィリーさんの剣の威力を投げ捨てたアシュリーさんの反撃。意趣返しのように双剣でヴィリーさんの首を挟むように剣光が閃く。

「あら、何かと思えばまだ気にしているの? 本当に真面目な子ね、あなたは」

 これを避けるどころか自ら当たりに行くかのように前へ出るヴィリーさん。紙一重の差で〝サー・ベイリン〟が鋏のように閉じ【斬る】よりも早くアシュリーさんの懐へ潜り込んだ。

 一瞬の硬直。一気に間合いが詰まりすぎて互いに剣を振るえない距離。

 次に鳴り響いたのは剣とはまた違う、重くて硬い音だった。

 拳と拳。

 なんと、ヴィリーさんとアシュリーさんが手甲に包まれた拳骨同士をぶつけ合っていたのだ。それも、互いに剣を握ったまま。

「真面目ぶっているつもりなどありません。やって当然のことをするように、断って当然のことを断っているだけのことです」

 しつこい上司に呆れるような顔と声で、けれどぶつけ合わせた右腕を震わせながらアシュリーさんは嘯く。

 同じく、鍔迫り合いするがごとく【拳】迫り合いをするヴィリーさんは、やはり体格差から来る余力で微笑み、

「そういうところが頭が固いって言うのよ、アシュリー。せっかくだから言わせてもらうけれど、過去は過去、今は今よ。私としては、もらえるものはもらっておけばいいと思うのだけれど。それに、あなたを発掘した私やカレルレンも鼻が高くなるというものだわ」

 これに対し、アシュリーさんは、はぁ、と冷たい息を吐いた。

「まったく……団長までユリウスやジェクトと同じようなことを仰らないでください。誰も彼も、他人事だと思って好き勝手に……」

 バチッ、と二人の間に火花が散ったかと思えば、いつの間にやら拳をぶつけ合っていたはずが、今度は剣の鍔迫り合いへと態勢が変わっていた。

 ヴィリーさんは両手で握った〝リヴァディーン〟を上段から振り下ろし、それをアシュリーさんは〝サー・ベイリン〟を交差させて十字受けしている。

「適当に茶化しているように聞こえたのなら謝るわ。でも聞いて、アシュリー、私達は――」

「――いいえヴィクトリア様、【聞けません】」

 なおも重ねられようとしたヴィリーさんの言葉を、アシュリーさんは強い語調で遮った。

 瑠璃色の瞳に不退転の輝きを宿し、ヴィリーさんの深紅の目をしかと見据える。

「どこまで行っても私は私――あなたに救われ、レオンカバルロの名をいただこうとも、私の根幹は変わりません。私は【灰色の十七番】なのです。これまでも。そして、これからも」

「…………」

 言葉の意味はよくわからなかったが、どうやら二人の間では共通認識の話らしい。アシュリーさんの強い断言に、ヴィリーさんは口を閉ざし、眉間に皺を寄せた。

 不意にヴィリーさんが剣を引き、後ろへ飛び退った。アシュリーさんも追おうとはせず、二人の間合いが開く。

「――――」

 先程までの剣戟音が嘘のように消え、彼女たちのいる空間だけ静寂が満ちる。荒波のようだった空気が収まり、凪のようになってもなお、周囲の人達はヴィリーさんとアシュリーさんに近寄ろうとはしない。

 皆、気付いているのだ。

 戦いが止まったわけではない。むしろ、これからさらに激発する為の『溜め』の時間なのだ――と。

 ふー、とヴィリーさんが細い息を吐いた。その顔からは表情が抜け落ち、比類ない美貌がどこか仮面じみたものに見える。

「……正直に言うわ、アシュリー。私は今、ものすごく腹が立っているわ」

 剣を構えたまま告げるその声音は、確かにヴィリーさんが怒ったとき特有の、氷塊をぶつけ合わせたような冷たい響きが混じっていた。

 だけど次の瞬間、その声音はさらに冷たく凍え、その場の空気を厳冬へと変えた。

「――あなた、まだそんなふざけたことを考えているのね」

『――~ッ……!?』

 あまりの息を呑み、反射的に動きを止めたのは、けれどアシュリーだけではなかった。

 その場にいる『蒼き紅炎の騎士団』のメンバー全員が、『黒』も『白』も関係なく振り返り、怒れるヴィリーさんを凝視していた。

「残念ね。本当に残念だわ、アシュリー。灰色の十七番? まったく呆れたものだわ。よりにもよってあなたの口から、またその名前を聞くことになるなんてね。業腹だけど、どうやら私の〝愛〟が足りなかったということかしら」

 もはやヴィリーさんは怒りの表情を隠さずに見せていた。その深紅の瞳がアシュリーさんに向ける憤怒の眼差しは、どう見ても忠実な部下に向けるものではない。

 いまや、そこに〝剣嬢ヴィリー〟はいなかった。

 剣号を持つ者としての気位をかなぐり捨て、ヴィクトリア・ファン・フレデリクス個人としての激情の発露が、そこにはあった。

 どうやら、アシュリーさんは彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。

「――ヴィクトリア様、私は、」

「黙りなさい。もう問答無用よ」

 何か抗弁しかけたアシュリーさんの舌先を、今度はヴィリーさんが強引に遮った。

「多少は立派になったと思っていたけれど、勘違いだったみたいね。これから改めてあなたの性根を叩き直してあげるわ。覚悟しなさい、アシュリー」

 遠雷にも似た声で宣告すると、ヴィリーさんは〝SEAL〟を励起させた。アイスブルーの煌めきが白皙の肌を駆け抜け、幾何学模様を描く。

「〈ブレイジングフォース〉」

 さらには術式を発動。蒼い制服を纏った全身が、さらに蒼い焔(ほむら)に包まれた。

 ヴィリーさんの持つ、彼女だけが使用できるオリジナル術式――〈ブレイジングフォース〉。異名の一つである〝燃え誇る青薔薇ブレイジングローズ〟の由来ともなったそれは、ある意味ヴィリーさんが本気になった証である。

 もう加減は抜きだ――ヴィリーさんは言葉ではなく態度で、アシュリーさんにそう言っていた。

「――〈アグレッシブ・サンクチュアリ〉」

 応じるようにアシュリーさんも〝SEAL〟を励起させ、特殊な剣術式を発動させた。オレンジ色の輝きが体表だけではなく、蒼い双曲刀の表面をも走った。

 アシュリーさんが発動させたのは、剣の素材であるエーテリニウムの特性を最大限に引き出す術式。ドラゴンのブレスすら切り裂き、ねじ曲げ、反転させる絶技の基礎となるオリジナル術式だ。

 つまり――【斬る】つもりなのだ。アシュリーさんは、ヴィリーさんの蒼炎を。

 もはや二人の間に言葉は不要だった。

 言葉で通じぬ〝何か〟を伝え合う為に、彼女たちは本気を出すのだから。

 戦いの再開は、やはり音もなく唐突だった。

 先に地を蹴ったのはどちらが先だっただろうか。

 先程に倍する音量の剣戟音を響かせ、トップエクスプローラー同士の一騎打ちはさらなる激化の一途を辿る。

 もはやゲームどころではない勢いだった。






いつもお読みいただきありがとうございます。


ご報告です。

おかげ様で、『このライトノベルがすごい2019』にて、拙作「リワールド・フロンティア」が、
去年の【25位】に引き続き、今年も単行本部門にて【32位】にランクインいたしました。

なんと二年連続のランクインです!

これも応援してくださった皆様のおかげです。

誠にありがとうございます。

この結果に驕らず、これからも皆様に面白くて楽しい小説を読んでいただけるよう、精進してまいります。

どうか引き続き、リワフロをよろしくお願いします。


「よかったね!」「おめでとう!」と思われた方は、「いいね」を押していただけると大変うれしいです。


国広仙戯

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コメント

  • ノベルバユーザー228028

    更新楽しみに待ってます。

    2
  • ノベルバユーザー276779

    ラトが精神的に成長しなさ過ぎて イライラするときもあるけど、それがあるから、戦闘時とのギャップが生まれて、面白い!

    2
  • 颯★改

    おめでとうございます!

    2
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