リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-

国広 仙戯

●17 愚者の一歩





 ストレージに入れてあったお弁当でお腹を膨らませ、服が乾いたのを確認すると、僕達はこもっていたビルから出立することにした。ちなみに、お弁当はルナティック・バベルへ向かう前に購入しておいたものだ。長いときには半日以上も遺跡に籠もることがあるエクスプローラーにとって、昼のお弁当は必須アイテムなのである。なお、僕のストレージにはもしものための非常食も格納されていたりする。

 ビルから出るにあたって、まず念のため五羽の〈イーグルアイ〉を先行させて周囲を索敵した。幸い、ドラゴンが再ポップする気配はなく、ほっと胸を撫で下ろす。僕は〈シリーウォーク〉で、フリムはスカイレイダーで、アシュリーさんは直接氷の上を行って、南側の岸へと向かった。

 青い鱗を持つ氷竜のブレスによって凍結した湖は、今なお大半が白く凍りついたままだった。とはいえ、ある程度は融けているため非常に滑りやすく、安定度も悪そうだったので、アシュリーさんには「よかったら」と直接接触による〈シリーウォーク〉をお薦めしたのだけど、つれなく「結構です」と断られてしまった。ついでに、恨みがましい視線を僕の顔にブッ刺し、「ふんっ!」とそっぽを向くというオプション付きで。

 お腹の虫が鳴いたのは僕のせいじゃないのに……しかも、あの後さんざんからかったのはフリムの方なのに……

「まずは地上を探索しているはずの彼らと合流しましょう。――まだ生きていれば、の話ですが」

 軽鎧と蒼い戦闘コートという出で立ちのアシュリーさんは戦場に立った途端、鋼鉄の城めいた雰囲気を取り戻した。凜と顔が引き締まり、さっきまでの私情は跡形もなく蒸発してしまっている。

 あっさり不穏なことを告げた彼女に、フリムが軽く頷いた。

「ま、あっちはあっちで駆竜あたりにやられちゃってるかもしれないものねー」

 有名な話だが、ドラゴンには『下兵類』『将星類』『皇帝類』意外にも、いくつもの種類分けがある。

 先刻、僕達を襲ったドラゴンはいわゆる『飛竜』と呼ばれるタイプだ。名前の通り、翼や噴射炎などを駆使して空を飛ぶことが出来る竜種である。

 あれとは逆に、飛行能力を持たないのが『駆竜』というタイプのドラゴンだ。無論、駆竜の中でも二本足や四本足、六本足、しまいには蜈蚣のような多足のものなど、種類は多岐に別れているが。

 一体何がトリガーとなったのかはわからないが、どれだけ探索しても出てこなかったSBが急に出現するようになったのだ。ここがドラゴン・フォレストを模した空間である以上、地上を調べていたニエベス達が駆竜と遭遇している可能性は十分にあった。

「ドラゴンがポップしても、僕達みたいに上手く逃げてくれていればいいんだけど……」

 トレインの時の脚力を考えれば望みはあるし、何も僕の知っている全てが彼らの全貌というわけでもなかろう。僕の知らない技能によって生き延びている可能性だって、十分にある。

「とにかく一度、合流地点へ向かいましょう。予定の時刻を過ぎても帰ってこないようなら、その時はひとまず諦めるしかありません」

 長い赤金色の髪を首の後ろで簡単に結っただけのアシュリーさんは、そう言って先に歩き出した。普段なら初対面の時のようにシニヨンにしているのだろうと思い、よければ僕かフリムで結い直そうかと提案したのだが、これもすげなく断られている。

「勘違いをしないでください。ベオウルフ、ミリバーティフリム。今はただ、このような状況ゆえに協力しているのであって、あなた達と馴れ合うつもりは一切ありません。よく憶えておいてください」

 削った氷みたいに瑠璃色の瞳を尖らせ、乾いた声で言い放つアシュリーさんだったけれど、何気にフリムの呼び方から敬称が抜けているので、口で言うほど頑迷な人ではないのかもしれない、と僕は思う。

 ニエベス達との合流場所は、僕達がこの空間へ来た時に転がっていたあの大きな交差点である。すぐ近くに、すっかり苔むしてはいるけれど『100』という数字に似た大きな看板がついたビルがあったので、その足元を集合場所にしていた。

 十体のドラゴンに追われていたときは、高空をかなりの速度で移動してきたけれど、またぞろ空に上がればさっきの轍を踏みかねない。速度は落ちるけど、僕達三人は歩行で木々と建物の乱立する中を進み、合流地点を目指すことにした。

 進むのは、緑に覆われた建物と建物の隙間。可能な限り小径を選んで、ドラゴンがポップしないであろう空間をすり抜けていく。

 大きな道に出るしか無いときは、〈カメレオンカモフラージュ〉、〈アコースティックキャンセラ〉、〈タイムズフレグランス〉といった隠蔽術式を使った。知っての通りアシュリーさんは自力で姿を消すことが出来るので、互いに気配を殺す前に集合地点を決めてから移動する。

「――! ストップ!」

 もう何十本目か憶えてない小径を通り抜けようとした時、先頭を行っていた僕は小声で鋭く叫び、後ろの二人に制止をかけた。

 直後、ズシン、と重苦しい音が腹を打つ。

「……駆竜がポップしている……」

 僕の囁きに、フリムとアシュリーさんが小さく息を呑んだ。

 ドラゴンの存在を感知できたのは上空に飛ばしていた〈イーグルアイ〉のおかげだ。

「何体ですか?」

 そう聞きながら小径の出口付近の壁に背をつけ、大きい道路を窺い見るアシュリーさん。〈イーグルアイ〉からの俯瞰視覚情報はフリムにも共有しているけど、彼女には送っていない。

 僕の代わりにフリムが答えた。

「三体よ。キョロキョロして索敵してる。何に反応して具現化したのかしら? アタシ達には気付いてないみたいだけど」

 高い位置から見下ろす映像に映っているのは、トカゲにも似た形態の駆竜だ。四本足を大きく広げ、地面に腹を擦りつけるかのようにして歩いている。僕の体よりも太い前肢には薄い骨と皮膜がついていて、どうやら飛行能力はないが、前肢を広げることによって蝙蝠のように滑空することが出来るタイプのようだった。

 三体とも、全身を覆う鱗の色は黄土色。先程の飛竜のように、ドラゴンの体色はある程度その属性を表しているという。黄土色ということは、おそらくは土竜の類だと思われた。

「あれは……〝リザードレクス〟――ソイルドラゴンの一種ですね。口から吐く土砂のブレスは単なる質量攻撃ですが、単純ゆえに強力です。あと、よく動きが遅いように思われがちですが、四本足は想像以上に俊敏です。気をつけねばなりません」

 短い期間ながらドラゴン・フォレストでエクスプロールしていたアシュリーさんには見覚えがあったらしく、彼女は竜型SBの特徴を詳しく教えてくれる。

「ど、どうします? 遠回りになりますけど、一度戻って迂回した方が……」

「いえ、待って下さい。いくらドラゴンとは言え、SBが何も無いのに具現化するはずがありません。何かあるはずです」

 索敵している、とフリムは表現したが、確かにリザードレクス達はそれぞれ別の方角にその強面を向け、何かを探しているようだった。

「――匂いを追ってる……?」

 クンクン、と鼻を鳴らす様子から、僕はそう連想した。

「もしかして、あいつらがこの近くにいるとか?」

 フリムが囁く。あいつら、というのは言うまでもなくニエベス達のことだ。

「ええ、私もその可能性を考えていました。彼らがポップさせて無事に逃げ切ったのなら、リザードレクス達が残って索敵をしているのにも納得がいきます」

「ってことは、このまま隠れていればあのトカゲ達は消えるってことね? じゃあ消えてから、また隠蔽術式で通り抜ければ――」

「だといいのですが……」

 フリムの語尾を遮るように、アシュリーさんが低い声で呟いた。

「ちょ、ちょっと何よ? 不安になるような言い方やめてくんない?」

 不穏なことを言ってから黙り込むアシュリーさんに、フリムは掠れた声で抗議する。長いツインテールを揺らす僕の幼馴染みに、アシュリーさんは瑠璃色の視線を向けた。

「この空間に来たのが、なにも私達と彼らだけとは言い切れません。他にも先客がいて、ここに閉じ込められているかもしれません。それに、もし仮にあの四人だったとしても、上手く逃げおおせているとは限りません。手傷を負って近くに隠れている可能性もあります。その場合、血の匂いが残っているでしょうから、彼らが見つかるまでリザードレクス達はコンポーネントに戻らないでしょう」

 アシュリーさんの洞察は冷静すぎて、いっそ残酷なほどだった。

「……」

 彼女の言葉で僕は最悪の想像をしてしまう。そうだ、今もニエベス達が生きているとは限らないのだ。既にどこかで死んでいて、その血肉をドラゴンが探していないとどうして言えよう。

 リザードレクス達が消えるとしたら、彼らの死体を見つけ、それを貪り食った後かもしれないのだ。

「――――ッ!?」

 得も言えぬ悪寒が背筋を貫いた。最悪すぎる連想を首を振って頭の中から追い払う。だけど連想が連想を呼び、脳裏に様々な光景がフラッシュバックした。

 例えばそれは、ヘラクレスに虐殺される『スーパーノヴァ』の面々。

 例えばそれは、〈コープスリサイクル〉で具現化したSBの群れに襲われる街の人々。

 例えばそれは、僕の さんや さ   殺   近 の人 。

「――……!?」

 突然、吐き気が込み上げてきた。僕は咄嗟に口元を手で覆い、体をくの字に折って嘔吐感を堪える。

「ちょ――ハルト!? どうしたの大丈夫!?」

 僕の異変に気付いたフリムが僕の肩を掴み、だけど流石に小声で聞いてくる。だけど今はそれに答える余裕すらない。頭の中を埋めつくす凄惨な映像が、僕の胸を引き裂かんばかりに責め立てていた。

 切り裂かれ、踏み潰され、抉り取られ、噛み千切られ、刺し貫かれ、引き裂かれ、叩き潰され、焼かれ、砕かれ、溶かされ――ありとあらゆる殺戮によって築き上げられた屍山血河。

 嫌だ。あんな光景は、もう二度と見たくない。

 体の芯からくる震えが止まらない。目の前がチカチカする。ついにはまともに立っていることすら出来なくなって、地面に膝を突いてしまった。

「ハルトっ、ハルトっ? 気持ち悪いの? ほら、こっちよ」

 フリムに促され、壁に路地の壁に背を付けて腰を下ろす。

「……いい、深呼吸して。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐くの。口と喉を大きく開いて。出来る?」

 正常な思考が出来なくなっている僕は、盲目的にその指示に従った。すー、はー、と大きく息を繰り返していく内、徐々に妙な発作は収まってきた。気付けば目は涙を流す直前まで潤んでいて、鼻の奥に鼻水が溜まっていた。ずび、と鼻を啜って、介抱してくれたフリムを見上げる。

「……だ、大丈夫……ありがとう、もう収まったから……」

 そう言うと、僕の従姉妹は強張っていた表情を和らげ、ほっと安堵の息を吐いた。

「よかった……急に変になるから焦っちゃったわよ……」

「ご、ごめん……なんだか、こう、想像力が暴走しちゃったっていうか……」

「何よそれ。勘弁してよね」

 よほど安心したのだろう。僕のわけのわからない言い訳にも、フリムは笑って返してくれた。

 駄目だ、この間の『ヴォルクリング・サーカス事件』のせいだろうか。我ながら、人の死、というものに敏感になりすぎているみたいだ。気をつけないと。

 路地の出口付近でリザードレクスの様子を窺っていたアシュリーさんが、僕に静かな目を向ける。

「ベオウルフ、体調に問題があるのなら言ってください。無理をするのはあなただけではなく、私達をも危険に晒します」

「は、はい……すみません……少し休めば大丈夫です……」

「そうですか」

 恬淡に頷いて、アシュリーさんは視線を道路側へ戻した。

 薄情なようにも見えるけど、アシュリーさんは必要な厳しさを向けてくれているのだ。彼女の言う通り、迷惑をかけたくないからと無理を押したところで、最終的に倒れてしまっては全てが裏目に出てしまう。自身のステイタスは正確に報告する――これはエクスプロールにおけるパーティー行動の基本だ。

 それにしても、最近は『無理をするな』的なことをよく言われている気がする。これだけ言われるということは、やはり僕の悪い癖なのだろう。ちゃんと気をつけなければ。

 と、ここでドラゴン側の状況に変化が生まれた。

「――! 飛竜が……!」

 スイッチを介して〈イーグルアイ〉の俯瞰視覚を共有しているフリムが、戦慄と共にその名を呟いた。

 自分の体調に意識を割いていた僕も、慌ててそちらへ集中する。フリムの言葉通り、リザードレクス達の頭上に五体の飛竜が集まってきていた。赤いのが二体、緑色が三体。おそらく炎竜と風竜だ。

「ま、待って、まだ集まってきてる……!」

 僕も堪らず呻いた。五体の飛竜だけではない。気付けば全方位から、飛竜どころか駆竜までもが続々とここを目指して移動しているが見えてしまった。

「ど、どういうことなのよ、これ……SBセキュリティ・ボットって、コンポーネントが隠れている場所に近付かないと具現化しないんじゃなかったの……!?」

「そ、そのはずだけど……!」

 こんなにもドラゴンが湧き出てくる理由がわからない。さっぱり見当がつかない。

 例えば、僕達の後に大勢の人がこの空間に来たと仮定しよう――それで竜達が現れることに理由がついたとしても、しかし今度は【何故ここに集まってくるのか】が説明できない。

「……まさか、私達を探している……?」

 ぼそり、とアシュリーさんが最悪の可能性を示唆した。僕らの方へ振り返り、仮説を唱える。

「これは推論なのですが……ここのSBがそれぞれの得た情報を全体で共有しているとすれば、納得がいきます。確かベオウルフの話では先程の飛竜の内、アイスドラゴン二体が私達の生存を疑ったかのようにブレスを撃ち込んできたと言ってましたね? もしその情報がSB内のネットワークで広がり、一部がまだ私達の生存を疑っているとしたら……」

 アシュリーさんの推測に、フリムが反論した。

「待って、それはおかしくない? とどめのブレスの後はコンポーネントに戻ったんだから、逆にアタシ達を仕留めたって情報が出回ってるはずよ。それにもしアンタの言う通りだったら、どうしてさっきのビルにこいつらが寄ってこなかったのよ?」

 アシュリーさんは視線を下に落とし、さらに思考を回転させながら頷く。

「……確かにそうですね。では、ドラゴンの捜索対象が私達でないとすると――」

 他にもこの階層に来ている人間がいる、という可能性を敢えて排除して考えた場合、答えは一つしかない。

「この近くに、あの四人が隠れている……?」

 僕の呟きに、アシュリーさんは首肯した。

「やはり、そう考えるのが妥当でしょう。彼らを追い詰めるためにドラゴン達に招集がかけられ、現状、このエリアは包囲されつつある、と」

「……要は、アタシ達はとばっちりってことね……」

「そ、そういう言い方はよくないよ、フリム……」

 はーやれやれ、と肩を竦めながら溜息を吐くフリムを、一応たしなめておく。彼らとて、別にわざとやっているわけでもあるまい。いやまぁ、事の発端を思えばフリムの気持ちもわかるのだけど、そもそも論を言い出すとキリがないとも思うのだ。

 こうしている間にも、種々様々なドラゴンが四方八方から集まってきている。〈イーグルアイ〉の視覚に同調していないアシュリーさんも、足元に伝わる地響きからそれを感じているはずだ。

「……仕方ありません。一度引きましょう。身を隠し、この場をやり過ごします」

「えっ……で、でも、あの人達は……」

 下された決断に、僕は反射的に聞き返していた。包囲網が完成する前にこの場から離れるのには賛成だけど、ニエベス達を置いていったら彼らは間違いなく全滅してしまう。

 きっと剣のように鋭い視線が僕に向けられた。

「言ったはずです。彼らは手傷を負っている可能性があります。最悪、死人がいるかもしれません。そもそも居場所がわからないではありませんか。戦力になるかどうかもわからないのに、この状況であの四人を探しに行くのはあまりにリスキーです」

「そ、それは……」

 ぐうの音も出ないほどの正論だった。ドラゴンたちがこうまで集まってきていないならともかく、今にも囲まれてしまいそうなこの状況で彼らの探索を強行するのは愚策の極みだ。それぐらい僕にだってわかる。

「で、でも、すぐ見つかって助けられるかも――」

 しれない、と言いかけた僕の言葉を、双眸をすがめたアシュリーさんが、道路側へ届く音量のギリギリ下限の強い声で遮った。

「その為に敢えて危険を冒せと? 彼らが見つからずに私達がドラゴンに発見させる可能性はいかほどか、ちゃんと考えて言ってますか?」

「あ、と……それは……」

「第一、彼らがあなたに何をしたのか憶えていないのですか? 暴力を振るい、その様子を録画して辱めようとしていた連中ですよ? よしんば彼らの居場所がわかったとして、ドラゴンに追われているだろうこの状況を救うメリットがどこにあるのですか? ――勘違いしているようですから、改めて言っておきます。私達は別に仲間になったわけではありません。状況ゆえに手を貸し合っているだけに過ぎません。いざとなれば見捨てる判断が必要なときもあるはずです。そのことをしっかり意識しておいて下さい。――勿論、私とあなた方二人の間にも同じことが言えますが」

「…………」

 白く凍った湖のように冷たく、しかし彼女は正しかった。僕は返す言葉もなく、アシュリーさんの射込んでくるような視線を前に、俯くことしか出来ない。

「百歩譲って、今、目の前に彼らがいたとしても答えは同じです。私達にあの四人を助ける義理はありません。ドラゴンに襲われているならいっそ、彼らを囮にして私達だけで逃げるべきです」

「そ、そんな……! 流石にそれはあんまりじゃ……!」

 あまりにも冷酷すぎる話に、僕は思わず弾かれたように顔を上げ、腰まで浮かして反論した。目の前で殺されかけている人がいるのにそれを見捨てるなんて、いくらなんでも同意できるわけがない。

「では、ここで全滅するのが正しいとでも?」

「うっ……」

 間髪入れず返ってきた問いに、僕はまたしても言葉に詰まる。

「今は少しでも生還する可能性が高い道を選ぶべきです。それぐらい言わなくともわかってください。もうこうして議論している時間すら惜しい状況なのですから。……動けるようになったのならすぐにでも行きますよ。立てますか、ベオウルフ?」

 そう尋ねる声は、まるでドライアイスのようだった。僕の体調を心配しているわけではない。機械の調子を確認しているかのような、無機質な質問だった。

 助けを求めるようにフリムに視線を向けると、彼女は首を横に振って肩を竦めた。アンタの気持ちもわかるけど、流石にこればっかりはあっちが正しいわよ――そう言うかのように。

 諦めるしか、ないのかな……

 意気消沈しながら、腰を上げた時だった。



『GGGGGRRRRRRAAAAAAARRRRRRRRAAAAAA――!!』



 突如、空が爆発したかのごとき凄まじい咆吼が轟いた。

「「「!?」」」

 僕らは揃って身を跳ねさせ、空を仰いだ。大気をビリビリと震動させ、肌を痺れさせる轟音は確かに頭上で生まれたのだ。

 ドラゴンの一斉咆吼ウォークライ

 飛竜も駆竜も、色も大きさも関係なく、全ての竜が空に向かって雄叫びを上げていた。

「な、なに、なんなの!?」

 もはや声を抑える余裕すら無いのか、フリムが絶叫した。竜の咆吼は長く伸びて、今なお街中に轟いている。

「ッ!? あれは――!」

 思わず、と言った感じでアシュリーさんが叫びかけ、しかし中途で呑み込んだ。僕は〈イーグルアイ〉の目を彼女が見ていたであろう方角へ向け――【それ】を見つけた。

「あ……!」

 ニエベスら四人組である。

 めちゃくちゃ近い位置にいた。

 彼らは、僕達のいるところから百メルトルと離れていない建物から飛び出してきたのだ。

 不意に全てのドラゴンが咆吼を止め、首を動かした。

 当然、必死の形相で朽ちた街中を走る四人へと幾十、幾百の異形の視線が集中する。

 今の一斉咆吼はニエベス達を見つけたがゆえのものだったのか。ドラゴン達の鼻っ面に獰猛な皺が寄せられ、プログラムが具現化したに過ぎない奴らの戦意が、急速に高まっていくのがわかる。

 よく見ると、ニエベス達の中で走っているのは二人だけだった。トレインの時のように、ノッポが赤コートと鼻ピアスを両脇に抱えている。だけど先刻と違うのは、抱えられている二人が揃ってぐったりと項垂れている点だ。意識がないらしく、両者とも腕がだらんと垂れ下がり、ノッポの動きに合わせて不規則に揺れている。

 ――まさか……!

 瞬時に理解できてしまった。

 鼻ピアスの背中に黄色っぽい染みが見て取れる。おそらく傷を負っている。しかも深い。一方の赤コートは――きっと枯渇イグゾーストだ。彼らがこれまであの建物内で隠れられていたのは、彼の隠蔽術式があったからに違いない。だけど赤コートは〈カメレオンミラージュ〉と〈アコースティックキャンセラ〉しか持っていなかった。〈タイムズフレグランス〉で匂いを消すことが出来なかったから、鼻の利くリザードレクスにあの建物まで追い詰められ、籠城するしかなかったのだ。

 エンハンサーのスタイルを選んだということは、赤コートも術力は弱い方だったはずだ。常人よりは支援術式の使用可能回数は多かっただろう。しかし、何事にも限界はある。ギリギリまで隠れていた結果、彼のフォトン・ブラッドは枯渇し、意識を失ってしまったのだ。

 故に、もはや隠れる手立てを失ったニエベスとノッポは建物を飛び出した。逃げ切る算段があったのか、それとも、狭いところで死にたくないと自棄になったのか――

『GGGGGRRRRRRAAAAAAAAAAAAA――!!』

 再び、天が割れたかのごとき爆音が耳を劈く。今度の一斉咆吼は動きを伴うものだった。飛竜はその広大な翼で大気を打ち、駆竜は強靱な脚で地を蹴る。

 ドラゴンの群れが、逃げるニエベス達に怒濤のごとく襲いかかる。

 そう悟った瞬間、僕は――

「待ちなさいベオウルフ」

 気付けば僕の眼前で、アシュリーさんが両手を広げて通せんぼをしていた。

 真剣な眼差しが、僕の顔を見つめている。

「どこへ行くつもりですか」

 そう言われてから、ようやく気付く。自分の体が、路地から飛び出そうとしていたことに。僕が不穏な動きを見せたから、アシュリーさんはこうして立ちはだかったのだ、と。

 どこへ行くのかと問われ、僕は反射的にこう答えた。

「たすけにいきます」

 そう言ってから自分で自分に驚いた。頭の中がふわふわしていて、足裏の接地感はほとんど無い。自分でも何を考えているのかわからないまま、だけど内側から湧き上がってくる衝動に突き動かされて、僕は次の言葉を口走っていた。

「どいてください」

「な……!?」

 アシュリーさんの顔が驚愕に染まった。僕の背後でフリムが息を呑む気配がする。

「何を――何を言っているんですか!? 正気ですかあなたはッ!?」

「わかりません。ごめんなさい、そこをとおしてください」

 こうして話している時間すらも惜しい。僕はアシュリーさんを迂回して通り抜けようとする。

「ふ――ふざけるのも大概にしなさい!」

 がっと勢いよくアシュリーさんの手が僕の肩を掴んだ。思いのほか瑠璃色の瞳が近付いてきて、噛み付かんばかりの勢いで吼える。

「状況がわかっているのですか!? 助けられるわけがないでしょう! あのドラゴンの数を見なさい! 出て行けばどうなるかなんて火を見るより明らかですよ!? こんな簡単なことが何故わからないのですか!?」

「はなしてください」

 僕はアシュリーさんを一瞥もしない。目は真っ直ぐ、外へ向けている。

 何体かの竜が、全力で駆けるニエベスとノッポにブレスを吐き出すのが〈イーグルアイ〉で見えた。轟音と地鳴りがこちらまで届く。運が良いのか勘がが良いのか、二人はブレスを見事に回避してのけ、さらに逃亡を続行する。

 僕の肩を掴んでいるアシュリーさんの手が、ぶるぶるぶるっ! と危ういほど激しく震えた。肩の骨を握り潰そうとするかのように、掌にすごい力が込められる。指が肉に食い込んでくるけど、あまり痛いとは思わなかった。

「――馬鹿を言うのはおよしなさい! 冷静になるべきです!」

 それは違う。

 多分、僕は冷静だ。

 心臓の鼓動なんてまるで聞こえない。

 心がひどく落ち着いているのが、自分でもよくわかる。

「言ったはずです! 今は情に流されている場合ではありません! 一人でも多く生き残るためには、非情な決断が必要なときもあるのです!」

 情に流されている?

 僕が?

 ここで彼らが死ぬのは可哀想だから、どうしても助けに行きたいと?

 否、違う。

「行けば確実に死にます! あなたが死ねば、私と、なによりミリバーティフリムの生還率が大幅に下がりますよ!? あなたのそれは善行に見せかけた愚行です! 赤の他人を救い、仲間を見捨てる非道です! 考え直しなさい!」

 上手いことを言うなぁ、というのが感想だった。確かにそうかもしれない。そういう見方もあるかもしれない。

 彼らを助けに行くのは自殺行為でしかない。そんなことは僕にだってわかっている。いや、わかっているつもりだ。

「――~ッ……!」

 これだけ言葉を重ねても振り向こうとすらしない僕に業を煮やしたのか、アシュリーさんは再び僕の視界を塞ぐように前に立ちはだかり、こちらの両肩を掴んだ。瑠璃色の双眸がいっそう吊り上がって、僕を射貫く。

「目を覚ましなさい〝勇者ベオウルフ〟! あなたは勇者と呼ばれる英雄なんですよ! 感情に支配されてはいけません! 勇者の勇気と、凡俗の蛮勇は似て非なるものです! 言ったでしょう! あなたには英雄に相応しい振る舞いが、行動が求められると! 今がその時です!」

 勇者?

 英雄?

 なんだそれは。

 そんな言葉が、立場が、名声が――僕を縛るというのか?

 無言で見つめ返す僕に、アシュリーさんがさっと視線を下に落とした。唇を噛み、僕の戦闘ジャケットの肩部分をぎゅっと握り込んで、震える声で告げる。

「……ですからっ……! 気持ちはわかりますが……見捨てましょう……! むしろ今が好機なのです……彼らを囮にして、私達は生き延びるべきなのです……!」

 血を吐くように説かれたそれは、まさしく正論だった。

 やっぱり、どうしようもなく正しい判断だと思う。

 きっとアシュリーさんだって、選びたくて選んでいるわけじゃないのだろう。苦渋の末の決断なのだろう。それは、見ていればわかる。

 だけど、同時に理解も出来なかった。

 何故、目の前で人が死にそうになっているのに、助けに行っては駄目なのか。

 怪物に襲われた人間が、どれほど惨たらしい死を迎えるのかを、僕は知っている。

 あんな恐ろしい光景なんて、二度と見たくない。いや、例えこの目で直視しなくとも、ここで背中を見せて逃走すれば、僕の想像力が僕の心を殺すに違いない。

 一週間前に見た、地獄のような屍山血河。

 胸を押し潰すあの惨状が、今また、生まれようとしている。

 だから。

「――だったら、やめます」

 両肩を掴んでいるアシュリーさんの両手首に、そっと手を添えた。

「――……?」

 僕の囁き声に、怪訝そうな顔を上げるアシュリーさん。その憐憫や哀惜、戸惑いと悔恨に揺れる瞳に、

「勇者とか、英雄とか、そんなのやめます。そんなのどうだっていい」

 僕は吐き捨てた。

 そうだ。元より自分で名乗ったことすらない称号だ。

 勇者だとか英雄だとか、大層な名声が鎖のように絡みついて邪魔になるのなら、そんなものなんていらない。

 心の底からどうでもいい。

 胸の奥に、血液が沸騰するような熱が生まれる。アシュリーさんの手首をぐっと掴む。

「目の前で誰かが殺されかけているのに、何もしないで逃げるのが勇者だっていうなら――そんなのはクソ喰らえだ」

 吐き出した声は、どうしようもなく震えていた。今更のようにおこりのような震えが体の芯からやってきた。アシュリーさんの思いがけず細い手首を握る掌に、つい強い力が入ってしまう。

 怖くないと言ったら嘘だった。

 アシュリーさんの提言に乗って逃げ出したくないと言ったら、僕は舌を噛み千切らなければならない。

 だけど。

 それらを圧して余りある激情が、龍のごとく僕の体内で暴れている。

「ここで逃げたら、僕は僕を許せなくなる。あの人達を見捨てて逃げたら、ハヌやみんなに合わせる顔だってなくなる。そんなの絶対に嫌だ」

「ベオ、ウルフ……?」

 唖然と僕を見つめるアシュリーさんに感情の昂ぶりが抑えられなくなった僕は、思わず大きく息を吸って、大声で叫んでしまった。

「――助けたい時に! 助けたい人を! 助けるッ!」

 そう吐き出した瞬間、五臓六腑で荒れ狂っていた奔流が一気にすっきりした感触があった。

 胸のつっかえが取れたみたいに、すっ、と心が落ち着いた。

「…………」

 僕は深く息を吸って、呼吸を整える。

 何故か自然と、口元に笑みが浮かんできた。

 そして、驚いて目を見張っているアシュリーさんの双眸を真っ直ぐ見つめなおし、僕は多分、笑顔でこう告げた。



「それが、僕の【流儀】ですから」



 両肩に乗っていた手を外し、僕はアシュリーさんの横を通り抜けた。

「ごめんなさい。先に逃げて下さい」

 それだけ言い置いて、薄暗い小径の出口、日陰の中から光に満ちた戦場へ飛び出す。

「ま、待ちなさ――」

 僕は勇者でも英雄でもない。

 ただの愚か者だ。

 だからこれは、勇者の一歩じゃない。

 愚者の一歩だ。

 故に計算なんてない。そんなものは度外視している。

 よって――踏み出した一歩目から全力だった。

「――――――――ッ!」

 全身の〝SEAL〟を励起。皮膚上をディープパープルの輝きが駆け巡り、幾何学模様を描く。

 支援術式〈ストレングス〉〈ラピッド〉〈プロテクション〉〈フォースブースト〉――フルエンハンスを十回ずつ。強化係数を一気に1024倍へ。

〝アブソリュート・スクエア〟

 僕の体のあらゆる場所からアイコンが星屑のように瞬いては消えていく。

 全身の輝紋から深紫の煌めきが迸る。捻れた弧光アークが四肢を駆け巡る。

 激変する感覚と意識をチューニングしながら、両手の中に具現化するのは使い慣れた一対の柳葉刀。祖父の形見のそれを強く握り締め、骨に力を乗せ、円と回転と螺旋を意識する。

「――い、ベオウル」

 背中に追い縋るアシュリーさんの声をぶっちぎり、路地裏から飛び出した瞬間、視界のほとんどを種々様々なドラゴンの姿が埋めつくした。

 全天に飛竜、地上のそこかしこに駆竜。どいつもこいつもニエベス達めがけて牙を剥いている。

 奴らはまだこちらの出現に気付いていない。それほどの高速の中、僕は行き当たりばったりで作戦を立てる。

 今はとにかく、ドラゴン達の注意を僕に集めなければならない。ニエベス達から目を逸らさせ、彼らの安全を確保するのだ。

 ならば、一番手っ取り早い方法は――!

 支援術式〈シリーウォーク〉、支援術式〈リキッドパペット〉×15を続けざまに発動。地上にデコイをばらまきながら、逆流する稲妻のごとく空中へ駆け上がる。

 標的は一匹の飛竜。サファイアのごとく輝く鱗を持つ巨体は、奇しくも先程僕らを凍結させようとしたアイスドラゴンと同種だ。もしかしたら本当にあの時と同じ個体かもしれないが、そんなことはどうでもいい。

「――〈ヴァイパーアサルト〉ッ!」

 剣術式の起動音声を叫ぶ。両手の甲でアイコンが弾け飛び、柳葉刀の刀身に深紫の光が纏わりつく。僕のフォトン・ブラッド色の光刃が伸長し、猛蛇のごとく荒れ狂う。

 氷竜はこちらに背中を向けている。僕の接近に気付く由もない。

「はぁあああああああああああッ!」

 一閃。

 追い抜きざま、交錯した瞬間に双蛇刀を振るって氷竜の羽の付け根を切断した。勢いよく切り離された二枚の皮膜翼が、糸の切れた凧のごとく上方へ吹っ飛んでいく。

『――GGGGGGGYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAA!?』

 電光石火の斬撃は、奴にとってはまさしく青天の霹靂だったに違いない。滞空するための翼を失った巨体が悲鳴をあげ、錐揉みしながら地上へ落下していく。真っ直ぐ墜落しないのは、ドラゴンが飛行するために使用している器官が翼だけではないからだ。残った浮揚器官がどうにか落ちまいとするが、それでも竜の巨躯を支えきれず、あのような軌道を描いて落下してしまうのである。

 僕は一瞬たりとも止まらなかった。

 紫の迅雷と化す。

 最初のアイスドラゴンが近くのビルへ激突する前にさらに二体の羽を斬り飛ばし巨体がビルを崩壊させていく最中に三体を叩き落とし他のドラゴンが異常に気付くまでの間に四体をぶっ飛ばした。

『GGGGGGRRRRRRRAAAAAAAAAAA――!!』

 出し抜けに十体の仲間を地に墜とされたことにようやく気付き、竜の群れが一斉に雄叫びを上げる。驚きの悲鳴か、それとも全体への注意喚起か。

 ほんの一瞬だけ空中で立ち止まり、ニエベスらにつけている〈イーグルアイ〉へと意識を振り分ける。

 ほとんどのドラゴンが忽然と現れた脅威――空中の僕と地上にばらまいたデコイへ視線と警戒を向ける中、それでもなおニエベス達を狙う飛竜と駆竜達がいた。

 いつの間にやらニエベスらは足を止めていた。見ればノッポが抱えた鼻ピアスと赤コートごと地面に倒れ、転がっている。ニエベスはそんな三人を守るように立ちはだかり、抜いた剣の切っ先を迫り来るドラゴンの群れに向けていた。

 ビルの壁を背後に置いたニエベス達が、半球形の陣を敷くドラゴン達に包囲され、じわじわとその半径を狭められていく。

 ――まずい! あのままじゃやられる……!

 察した瞬間に膝を曲げ、〈シリーウォーク〉で作った足場を壁にして蹴っ飛ばす。矢よりも弾丸よりも稲妻よりも速く、一直線に突撃する。

「――ッ!」

 双剣に纏わせていた〈ヴァイパーアサルト〉をいったんキャンセル。〝SEAL〟のスロットに別の剣術式を装填し、起動させる。

「〈ドリル――!」

 新たに二本の剣を覆うのは、深紫に輝く螺旋の衝角。

 僕はそれらを前へ突き出し、全力で叫ぶ。

「――ブレイク〉ゥゥゥゥッッ!!」

 左と右に五回ずつ、両手合わせて一〇回の音声セキュリティを同時に解除し、術式を発動。

 背中から二本、ジェット噴射にも似たフォトン・ブラッドの光が猛烈な勢いで噴き出す。

 僕は全てを貫く流星になる。

 狙いは群れの中で一番大きな駆竜。図鑑で見たことのある恐竜――ティラノサウルスに似たそいつの背中に〈ドリルブレイク〉の切っ先を突っ込んだ。

 ぶち抜く。

『GYA――!?』

 僕の全身が、雷艇のごとく駆竜の分厚い胴体を貫いた。

 貫通する。

 青白いフォトン・ブラッドで全身を濡らしながら駆竜の腹から飛び出した僕は、勢いそのまま直下の地面に柳葉刀を突き刺した。大地を穿つ轟音が鳴り響く中、地に足を着け、双剣を振り上げながら剣術式を重ね掛けする。

「――〈ヴァイパーアサルト〉ォォォッ!」

 まだ〈ドリルブレイク〉を纏ったままの双剣に重複発動した剣術式は、刀身のドリルをそのまま伸長させ巨大化させた。猛烈に回転するドリルはさらに【うねり】を持ち、まるで竜巻のごとく身をくねらせ始める。

 今まで使っていた『サンダースラッシュ』や『サンダークラッシュ』のように、剣術式に攻撃術式を上乗せしていたのとはわけが違う。

 これは、剣術式と剣術式の融合――即ち、新しい術式の創造だ。

 ニエベス達を包囲するドラゴンの群れは数十体。

 とにかくこいつらを一気に殲滅する――この時の僕はそのことしか考えてなかった。

 だから。

「〈ボルトステーク〉ッ!」

 右の剣に雷撃の術式を十五個。

「〈エアリッパー〉ッ!」

 左の剣に風刃の術式を十五個。

 そして、

「〈ズィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ――!」

 さらに剣術式を上乗せ。

 ロゼさんの教えに則り、視界に映る全てのドラゴンを観察し、未来を予測し、そこに自ら描く剣の軌跡を重ねる。

 両手の甲で剣術式のアイコンが灯り、僕は全てを切り裂く雄叫びをあげた。

「――スラァァアアアアアアアアアアアアアアアアシュ〉ッッッ!!!」

 紫電をまとうドリルが、固体空気の刃を無数に孕む竜巻が唸りを上げ、それこそ龍のごとく荒れ狂った。

 右腕と左腕がそれぞれ自動的に『Z』の軌跡を描く。

「            ――――――――ッッ!!!」

 もはや自分でも何を叫んだのか憶えていない。

 両腕から迸る破壊の嵐が、周囲にいたドラゴン全てをミキサーのごとく磨り潰し、爆散させた。

 一瞬だった。





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コメント

  • あ

    アホすぎんか

    2
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