リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-

国広 仙戯

●14 竜の巣(ドラゴンズ・ネスト)





 つつがなく全員の自己紹介を終えると、僕達はまず周囲を探索するところから始めた。

 ここがどのような地形で、どれだけの広さがあるのか――先程アシュリーさんが推察した通り、もしここが仮想空間なら物理的な限界点、もしくは『クラインの壷』のような『有限でありながら果ての無い』世界であるならば、明確なループ境界線が存在するはずだ。

 また、ここがルナティック・バベル内であるのなら、SBがポップする可能性は充分にある。それらの強さは、この朽ちた街へ来る原因となった第一一一層のものと同等なのか否か。少なくとも、最前線で戦えるクラスのエクスプローラーが三人――フリムとアシュリーさんとニエベス――もいるので、いざ強力なSBが出現した場合は、彼らを中心にして戦うことになるだろう。

 ――と思ったが、しかし。

 当初は七人全員で固まって行動をしていた僕達だけど、予想外なことに、SBは全くポップしなかった。

 そのまま小一アワトが経過したとき、

「――なぁ、何も出てこねぇんだからよ、もう別行動した方が効率よくね?」

 とニエベスが言い出した為、僕らは三つのチームにわかれて調査の範囲を広げることになった。

 どう三つに分かれたかは、言わずもがなである。

 僕とフリムのAチーム。

 アシュリーさん単独のBチーム。

 そして、ニエベス達四人のCチームである。

 なお、ニエベス以下三名の情報は自己紹介時に聞いたので、一応ここに列挙しておこうと思う。

 赤コートの名前は『マナッド』。タイプはウィザード兼エンハンサー。彼ら四人が気配を隠して僕を尾行出来たのは、ひとえにこのマナッドの支援術式によるものである。聞くと、ある程度の攻撃術式と、基本的な支援術式が使えるらしい。僕と同じで、術力の強さは推して知るべしであろうが。

 鼻ピアスの名前は『アーカム』。ナイフを使うファイター兼スカウター。金髪のモヒカン頭といい髑髏の装飾が施されたダブルナイフといい、見た目だけなら四人の中で一番尖っている。だけどやはり目につくのは、鼻から生えているように見える大きなピアスだろう。戦うとき邪魔になったりしないのだろうか、と余計なことが気になってしまう。

 ノッポの名前は『ルーク』。ロゼさんと同じピュージリストであり、かつて所属したパーティーでは大盾を構えるシールダーも兼任したという。雰囲気的に、おそらくは四人の中でニエベスに次いで強い。実際、術式による補助があったとは言え、赤コートと鼻ピアスを両脇に抱えたまま、あれだけの速度で走ったのだ。相当鍛えていると見ていいだろう。

 ついでに言うと、リーダー格のニエベスは生粋のフェンサーである。いくつかの攻撃術式を有する以外は特にこれと言った特徴のない剣士で、得物のロングソードもアシュリーさんのショーテルなどに比べれば実に平均的というか模範的というか、ごく普通のタイプだ。逆に言えばどこから見てもそつがなく、目立った欠点も見当たらない、高いレベルでまとまったエクスプローラーであるとも言える。一時的だったとはいえ、『NPK』に所属しただけはやはりあるのだ。

 そんな四人組には現在、地上の探索を任せてある。どれだけやる気があるのかわかったものではないが、彼らも自分の命が懸かっているのだ。真剣にやってくれているものと信じたい。

 一方、僕とフリム、そしてアシュリーさんは空の上を調査していた。

 僕は支援術式〈シリーウォーク〉、フリムはスカイレイダーの機能によって上空に昇ることが出来る。現在、ちょんとつついただけで崩れ落ちてしまいそうなほど劣化しているビル群の上に出て、高い位置から周辺を見渡し、この空間の出口を探しているところだった。

「……普通に空ね」

「……うん、どう見ても空だね」

 地上七百メルトルの冷たい風に晒されながら、僕とフリムはへんてこな会話を交わす。

 空だった。

 どうしようもなく空だった。

 不思議な感覚である。僕達はさっきまで巨大な塔の中にいたはずなのに、いまは何百メルトルもの宙空に立ち、廃れて久しい街を見下ろしているのだから。

 ドミノみたいに倒れ、崩壊している無数のビルディング。表面はびっしり緑に覆われ、その濃さは過ぎた時間の厚みを感じさせる。中には大きな池に水没しているものもあって、どういう水の流れが形成されているのか、斜めに傾いだビルの窓から細い滝が幾本も流れ落ちていた。

 フリムは腰に両手を当て、呆れ顔で蒼穹を見上げる。

「雲もあるし、空気の薄さも再現されてるわね……本当にここ、仮想空間なのかしら?」

「確かに、もし空間を制御する技術があるなら、こんな精密なシミュレーション空間を創るより、単純に転移させた方がコストは低いはずだけど……」

 僕も同じく頭上を見上げ、現状に対する仮説を口にした。我ながら気楽に言っているけれど、どちらにせよ現代では再現できないレベルの途方もない技術だ。こんなものがしれっと登場するのが、遺跡の怖いところである。

 そう。スケールが大きすぎて未だ実感が伴わないのだけど、冷静に考えれば僕達は今、明らかにとんでもない事態の真っ只中にいるのだった。

「けど見事に、なんっっっっっっっっにもないわねー。やっぱり出口どころか、アタシ達がここに来たときの入口っぽいものすら見当たらないわ」

 中天に座して煌々と輝く太陽の光を遮るため、フリムは眉の上に掌のひさしを作って全天を見回した。三六〇度ぐるりと回転しつつ、諦めの混じった溜息を吐く。

「一体どこがモデルなんだろうね? 大きな森の中に、廃墟の街だなんて……」

 僕も彼女に倣って全方向に目を向けながら、その感想に同意した。

 街の規模は思ったより小さい。街並みといい広さといい、ちょうどフロートライズの中央区東側――いわゆる『アーバンエリア』と呼ばれる地区によく似ている。と言っても、もしアーバンエリアが崩壊して長い時が経てば、という仮定の話ではあるが。

 そんな街の外側は、地平線の彼方まで木々に埋め尽くされていた。そう、どの方向を見ても森、森、森である。あまりに広大すぎる大森林の中に、ぽつん、と朽ちた街が放置されているのだ。

 一体どのような歴史を経れば、こんなだだっ広い森の中に廃墟が出来るのか。このあたりの整合性のなさが、アシュリーさんの提唱する仮想空間説を実証しているようだった。

「人っ子一人もいなければ、小鳥一羽、鼠一匹も見当たらない……完全に死んでるわね、人の住む場所としては」

「この環境なら、別に動物ぐらいいてもおかしくないのにね」

 その不自然さが、余計に仮想っぽさを浮き彫りにしているようにも思える。

「――あ、戻ってきたわね」

 不意にフリムが北側――この〝SEAL〟で計測した方位も正しいのかどうか怪しいけれど――へと顔を向けた。

 つられてそちらを見ると、陽の光を反射して煌めく銀色のエアバイクが見えた。

 高速でこちらに向かって飛んでくる騎手は、誰あろうアシュリーさんである。

 普段はシニヨンにしているだろう髪を後ろで簡単にまとめた彼女は、その赤金色の総髪を風に流しながら僕らに近付いてくる。

 小さな点にしか見えなかった機影が、あっという間に大きくなった。

「――そちらは、何か見つかりましたか?」

 エアバイクを緩やかに減速させながら空中に停止させたアシュリーさんは、開口一番、僕らにそう尋ねた。

 僕とフリムは揃って首を横に振る。

 残念な結果は想定していたのだろう。アシュリーさんは落胆を示さなかった。

「そうですか。残念ですが、こちらもほとんど収穫なしです。精々、ここが予想通り『果てのない閉じた空間』であることがわかったぐらいです」

 仮説を実証してきた、と彼女は語る。

 微かなハム音を奏でつつ宙に浮く、流線形のエアバイク――これが僕とフリムだけでなく、飛行術式を持たないアシュリーさんでも空の探索に加わることが出来た理由である。

 個人所有の大型エアバイク。しかも、どう見ても高級品。

 どうやらアシュリーさんの愛機のようで、この手のものはデータ量が大きくて容量を圧迫するというのに、わざわざ〝SEAL〟の代わりに物理ストレージを用意して、エクスプロールの時でも携帯しているのだとか。交通手段としては便利だけど、小回りが利かないため戦闘には不向きなこれを肌身離さず持ち歩いているあたり、彼女はかなりの飛空機乗りスカイジョッキーであるらしかった。

 業者ならともかく、エクスプローラーで、しかも個人でこんな本格的なエアバイクを持っている人を、僕は初めて見た。

「どういうこと?」

 空翔る鋼鉄の天馬に跨がったアシュリーさんに、フリムが小首を傾げる。何を以て『果てのない閉じた空間』を確認したのか、という問いだ。

 アシュリーさんはやって来た方向、つまり自身の背後を一瞥した。そこには大空の蒼と、森林の緑が描く壮大な地平線が横たわっている。

「街と森の境界に、どうやら時空間の乱流があります。直接的な害はないのですが、そこを越えると、真っ直ぐ進んでいるつもりでも【いつの間にか方向転換させられてしまう】のです」

 鋭い瑠璃色の双眸に悟性の光を宿して、アシュリーさんは実験の結果を語った。

「この〝ゼーアグート〟で街の外へ出ようとしたところ、十キロトルも進まぬうちにいつの間にか街へと戻ってきてしまいました。南から出たのですが、戻ってきたのは街の北側でした。低空、中空、高空と高度を変えて試してみましたが、全て同じ結果です。西側と東側も同様でした」

 つまり、この空間はループしているということだろうか。どの方向も遙か彼方まで森で埋めつくされているのは、あくまで目に映る幻であって、真実、この空間はボールの内側のように閉じている――と。

 ということは、やはりここはルナティック・バベルの中なのだ。空間的広さを歪められてはいるけれど、外部との通信が断絶されているのがその証拠である。もしここが遺跡の外ならば、妨害さえなければ必ずどこかのネットワークに接続できるはずなのだから。

「次に地上でいくつか石を拾い、街の空から外へ向けて全力で投擲してみました。これも真っ直ぐ進まず、上下左右無秩序なカーブを描いて飛びました。しかも、地上に落ちることなく途中で消失したのです。おそらく、そのあたりが空間のつなぎ目なのでしょう。投げた石には目印をつけていたのですが、やはり街の反対側で同じ物が見つかりました」

 石に目印――その発想はなかった。なるほど、と内心で唸ってしまう。ずっとソロでやってきた僕は、戦闘だけでなく、探索というまさしく『エクスプロール』の醍醐味においても未熟者である。アシュリーさんの知恵と経験に遠く及ばない。最初からこんな状況に陥らない方がいいのは当然だけど、でも、この場にアシュリーさんがいてくれて本当によかったと思う。

「ってことは何? アタシ達、完全に閉じ込められてるってこと?」

 アシュリーさんの報告を要約し、フリムは顔を顰めた。

 街の外へ出ようとすると、空間の歪みによって戻ってきてしまう。どこへどう進もうが堂々巡り。それはつまり、この街全体にドーム型の障壁が張り巡らされているのとほぼ同義だ。なんにせよ外へ出ることが不可能なのだから。

 しかし。

「そうとは限りません」

 とアシュリーさんは即座にフリムの言葉を否定した。

「外部にこの空間の出口がないことはほぼ確定しました。しかし、これは逆に言えば【出口は街の中にある】ということです」

「? どうしてそう言い切れるのよ?」

 やけに自信満々で断言するアシュリーさんに、フリムだけでなく僕も首を傾げた。説明を求める僕達の視線に、アシュリーさんはしばし口を閉ざして黙考する。どう言ったものか、と言葉を整理しているようだった。

「――古代人はゲームや試練が好きなのかもしれない、と考えたことはありませんか?」

 やがて出てきたのは、そんな質問だった。

「「? ? ?」」

 僕とフリムの頭の上に疑問符の花が咲き乱れる。が、そういった反応は予測していたらしく、アシュリーさんはそのまま続けた。

「カレル様――いえ、うちの副団長の仮説です。遺跡を建造した古代人は、どうも後世の人々にゲームや試練を課している節がある……と。代表的なものを言えば、キリ番階層のゲートキーパーなどが良い例でしょうか」

「あ、ゲートキーパーを倒すまでセキュリティルームから出られない、あの仕掛けのことですか?」

 僕が問うと、そうです、と彼女は頷く。

「無論、難易度は高めに設定されていますし、クリアできず犠牲になるエクスプローラーも多いのですが……しかし、世界中の遺跡を総じて見たとき、その仕掛けのどれもが、決して【クリア不可能】なものではないのです。然るべき情報を集め、準備さえ万端に整えていれば、必ず突破の糸口が見えてくる――そのように出来ています」

「そりゃまぁ確かに、昔から『遺跡探索エクスプロールはゲームのようなもの』って散々言われてはいるけど……」

「あくまで仮説です」

 胡乱げな瞳を向けるフリムに、アシュリーさんはきっぱり言い切った。

「ですがこの仮説を信じるのならば、一つの結論が得られます。即ち――【古代人は攻略できないゲームを仕掛けてこない】、です。もしくは【超えられない試練は与えない】と言っても構いません」

 一見かなり無茶のある暴論を、けれどアシュリーさんは確信を持って冷静に告げた。フリムと喧嘩していた時は激情に波打っていた瑠璃色の瞳は、今は凪いだ湖面のごとく澄んでいる。きっと、その仮説を唱えたカレルさんに対する信頼がそうさせるのだろう。

「この状況もそうです。わざわざ第一一一階層を開かずの階層とし――それが何故このタイミングで解放されていたのかはわかりませんが――そこに謎のゲートを設置して、通り抜けた者が必ずあの大きな穴へ落ちるよう、激流のトラップまで仕掛けていました。そう、古代人はどうしても我々をこの空間に落としたかったのです」

 今はもう存在しない古代人の思惑を、アシュリーさんはその知性で解体していく。

「しかし、罠にかかった者を殺すだけならばこのような空間は必要ありません。これほどの技術力があるのですから、それこそ時空の断層でも設置して、我々を亜空間へ放り込めばよかったのです」

「――絶対に逃げられない牢獄に閉じ込めて、どうしようもない絶望と飢えの中で死んでいくのを楽しむ悪趣味野郎だった……って可能性もあるわよ?」

「その可能性もゼロとは言いませんが、限りなくゼロに近いと考えます。直に観察できるのならともかく、自身の死後も稼働するであろう罠にそこまで趣味嗜好を反映させるというのは、設計思想においてルナティック・バベルの他の部分と大きくズレが生じます。他の遺跡はともかく、この軌道エレベーターの設計者については『意地は悪いが悪趣味では無い』、というのが私の見解です」

 穿った見方をするフリムの意見にも、アシュリーさんは論理的に返答する。見方によっては主観が強い理屈のようにも思えるけれど、とりあえず破綻はしていない。

「よって、この空間の出口――脱出口は、必ずこの街のどこかにあると私は推測します。残念ながら、そう易々と攻略できない難関であることもまた、間違いないのでしょうが」

「出口がなければゲームにならない……だから出口は必ずある……」

 アシュリーさんの主張を僕なりに要約して、僕は小さく呟いた。

 例えば第二〇〇層のセキュリティルーム。一度入ればゲートキーパーであるヘラクレスを倒すまで部屋から出られない仕掛けが施されていた。そして、コンポーネントにかの古代の大英雄〝ハーキュリーズ〟の名が刻印されたゲートキーパーを倒すと、確かに出入り口にあった青白いバリアーは消失し、中にいた生存者はみな脱出することが出来た。

 けれど、これがもし、そうならなかったとしたら? 例えば、ゲートキーパーを倒したとしても出入り口のバリアーは解除されず、中に入った人間は皆そこで死ぬしかなかったとしたら?

 それは公平フェアではない。故にゲームにならない。勝者に対する報酬がなければ、ゲームは成立しないのだから。

 ましてや、試練にもならない。

 ひとたび足を踏み入れれば、勝とうが負けようが死ぬしかない戦場。それはただただ悪辣な罠でしかなく、決して試練にはなり得ない。

 もしそんなことが頻発すればどうなるだろうか?

 知れたことだ。そのような理不尽なものには、いずれ誰も挑戦しなくなる。いくら遺跡に莫大な可能性やエネルギーが眠っていようと、自らを犠牲にして他者に貢献できる人なんてさほど多くはない。遺跡に悪意と危険しかなく、メリットとデメリットのバランスが崩れているのなら、誰もエクスプロールなんてしないだろう。

 それでは困る、と古代人は考えたはずだ。

 誰も探索しない遺跡に存在価値はない。故に、彼らはどんな試練にも必ず突破口を作った。公平なゲームとなるよう、クリアした者には報酬を用意した。

 その結果、現在の遺跡のシステムが出来上がった。

 勿論これは、アシュリーさんの言う通り、古代人がゲームや試練を現代の僕達に課している――と仮定した場合の話だ。

 けれど彼女の提唱する仮説を信じるのなら、確かにこの空間には出口がなければおかしい。同時に、その出口の直前に並大抵でない困難が待ち構えてなければ、それもまたおかしいのだ。

「じゃあ、その仮説が本当だったとしてよ? 出口はどのあたりにあるっていうの? 何かヒントとかあるのかしら?」

 否定しても始まらないと判断したのだろう。フリムはアシュリーさんの話が本当だと仮定して、建設的に話を進めた。

「いくつかのパターンが考えられます」

 そう言ってまず、アシュリーさんは右手の人差し指をぴっと立てた。左手は無論、エアバイクのブレーキを強く握ったままである。

「移動可能な範囲をくまなく探索すれば、出口そのもの、もしくはその場所を示すヒントが見つかり、一つずつ追いかけることでいずれはゴールに到達するパターン」

 次に中指が立てられ、Vサインを作る。

「次に、ルームガーディアン、ゲートキーパーといった〝キーボット〟が存在するパターンです。知っての通り、鍵となるSBセキュリティ・ボット活動停止シャットダウンさせれば出口が出現する、オーソドックスな形式ですね。と言ってもこの広さですから、いるとすればもはや〝フロアマスター〟とでも呼ぶべき存在ですが」

「フロア、マスター……」

 ちょっと想像してみて、僕は思わず生唾を呑み込んだ。

 ルームガーディアンとゲートキーパーは、守護しているものこそアーティファクトとセキュリティシステムとで違いはあれど、その役割はほぼ同じだ。そして、その強さは【守護している部屋の広さに比例している】と言っても過言ではない。当然、ルームガーディアンはルームガーディアンで、ゲートキーパーはゲートキーパーでピンからキリまであるのだけど、やはりその脅威度は次元が一つ違う。ルームガーディアンはパーティー単位で、ゲートキーパーはクラスタ単位で戦いに臨むのが基本と言われている由縁である

 アシュリーさん名付けるところの〝フロアマスター〟。この空間、この広さだ。もし本当にそんなものが存在するのならば、きっとそいつは、【ヘラクレス以上の何か】であるはずだった。

「三つ目。これは最悪のパターンなのですが……」

 三本目の薬指を立てたアシュリーさんは、これだけはあって欲しくないと切に願うような声で言った。

「この場にいる全員が殺し合い、生存者が一人になった時のみ出口が開くパターンです」

「「なっ……!?」」

 僕とフリムは共に絶句した。お互いに顔を見合わせて、ほぼ同時に喉を鳴らす。

 確かに、それだけはあって欲しくない可能性だった。あまりにも、それはあまりにも残酷すぎる。僕は自分の顔から血の気が引き、蒼ざめていくのが自覚できた。

「残念ですが、有り得ないことではありません。かつて他の遺跡でもそういった仕掛けは確認されています。たった一人しか生還できないという、バトルロイヤル形式が」

 息を呑む僕達に、ただ、とアシュリーさんは掌を返した。

「希望はあります。というのも、このルナティック・バベルではまだ一度もそういった類の仕掛けが見つかっていないこと。他の遺跡においても絶対数としては少ないこと。そして先程も申し上げた通り、この遺跡の設計者の理念は、どちらかというと邪道より正道を向いているということです」

 一つの絶望に対し、三つの希望が提示された。可能性がゼロになったわけではないけれど、それでも多少は気持ちが軽くなる。

「これまでのルナティック・バベルの歴史を振り返れば、おそらくは二つ目に挙げたパターン――つまり、〝キーボット〟が存在する可能性が一番高いと思われます。ルームガーディアンといい、ゲートキーパーといい、ここの設計者はそういったパターンが好きなようですから。とはいえ、キリ番階層の例を見れば、慈悲も容赦もない相手であるのもまた明白ですが」

「どっちにせよ、気楽に構えていらんないってのは一緒なわけね……」

 やれやれ、とフリムが肩を竦める。アシュリーさんもそれに同意して、小さく嘆息した。

「そうですね。ゲートキーパーですらクラスタ単位であたることが望ましいというのに、今ここにいるのは、寄せ集めのエクスプローラーがたったの七名ですから……」

 改めて言葉にされると、その事実は少なからざる衝撃を僕の精神に与えた。アシュリーさんのおかげでこれだけ危険が見通せるというのに、手元にある戦力のなんと心もとないことか。烏合の衆とまでは言わないが、ゲートキーパー級と戦うのならばもっと数が欲しいところである。

 暗い声を漏らすアシュリーさんに、にゃは、とフリムが笑った。

「だからってそんなに悲観することもないんじゃない? なにせこっちには、うちのハルト――キリ番のゲートキーパーを一人で倒した〝勇者ベオウルフ〟がついてるんだから」

 でしょ? と何故か僕に向かって悪戯っぽくウィンクするフリム。――って、な、なんでこっちに振るのかなっ!?

「勇者……ですか」

 打って変わって、アシュリーさんはじとりとした目で僕を睨めつける。

「うっ……」

 その口振りと目線から、先日の『あなたに勇者を名乗る資格はない』という台詞を思い出してしまう。

「あ、い、いや、その、ぼ、僕は……!」

 確かに僕は、一人でヘラクレスを活動停止シャットダウンさせたかもしれない。だけど何度でも言うが、奴を撃破できたのは無我夢中の産物であり、もう一度やれと言われたら全力で拒否するほどの無茶なのだ。実際『ヴォルクリング・サーカス事件』ではロゼさんが再生させたヘラクレスこと真名ハーキュリーズと、竜人と化したシグロスとの戦いを目の当たりにして、僕は心の底から怯えてしまった。

 そんな僕が――これは戦闘中、シグロスにも告げたことではあるが――勇者だの英雄だのと呼ばれるのは、本当におこがましいことだと思っている。勿論そう呼ばれて嬉しくないと言えば嘘になるけれど、少なくとも今の僕は、まだまだその域に達していない。よって、名乗るとか返上するとか以前に、僕自身、勝手に一人歩きしてしまっている〝勇者ベオウルフ〟という異名をどうにかできないものかと日々悩んでいるのだ。

 ――というような趣旨を僕は主張したいのだけど、どうにも上手い言い方が思いつかない。

「そ、その、僕は別にそういうつもりはなくて、あの、ぐ、偶然といいますか、たまたまといいますか――」

「良い機会ですから改めて申し上げます、ベオウルフ」

 しどろもどろに喋っていた僕の言葉を鋼鉄のごとく硬い声で遮断して、アシュリーさんは告げた。

「やはり私は、あなたを勇者とは認められません。このような状況でこんなことを言うのは空気が読めていないとは思いますが、私は原則、言いたいことははっきり言う主義です。これについてはどうかお許しください」

「――へぇぇぇ奇遇ねぇ? 実はアタシもそうなんだけど……!」

 ピキピキピキとフリムの笑顔が凍っていく音を聞いて、僕はさらに慌てた。

「ま、待ってフリム待ってっ! い、いいからっ! せっかくだから、最後まで聞くからっ!」

 二人の間に体を滑り込ませ、僕は彼女らの喧嘩が再発するのを未然に防ごうとする。何もこんな時に、しかもこんな高い場所でまた言い争うなんて――

 当然、フリムからはジト目を向けられた。

「……まったく、アンタって子は……」

 そう呟くと、ふんっ、とフリムはそっぽを向いてしまう。ひとまずは僕の顔を立てて引いてくれたらしい。

 僕はアシュリーさんへ向き直り、

「ど、どうぞ……どうせだったら、ここで全部吐き出してください……」

 我ながら少々引きつった愛想笑いで、そう促した。

 そんな僕を、エアバイクに跨がったアシュリーさんはしばし珍奇の視線で眺め、

「……お心遣いありがとうございます。それでは、遠慮なく」

 訝しげな表情を改め、真摯な瑠璃色の瞳がひたと僕を見据える。

 何もない廃墟の街の、さらに何もない空の上。冷たい風が吹くその場所で、さあどんなキツイお言葉を浴びせられるのかと身構える僕に、アシュリーさんはゆっくりと口を開いた。

「まず――」

 と前置きを言いかけた瞬間だった。

 何の前触れもなく、僕らの周囲にいきなり複数の青白いコンポーネントが出現した。

「――なっ……!?」

 最初に反応したのは、あらぬ方向に顔を逸らしていたフリムだった。突然の出来事に目を見開き、喉から驚きの声を漏らす。

「えっ――?」

「ッ!?」

 僕とアシュリーさんはワンテンポ遅れた。その頃にはもう、僕達を取り囲むように大きなコンポーネントが――いや、ちょっと待って、本当に大きい! ゲートキーパーほどではないが、それでもルームガーディアンのそれよりはよほど大きい。直径二メルトルぐらいある、中に大人が一人入っていそうな青白い球体。それが忽然と一〇個も現れていた。

「――ベオウルフ、フリム! ゼーアグートに掴まりなさい!」

 半開きになっていたアシュリーさんの唇から、鋭い指示が飛び出した。唐突すぎる状況の変化に僕もフリムも思考停止していたのかもしれない。言われるがままに体が動いた。大型エアバイクの後部から張り出ているバーに手を伸ばし、しっかと掴む。

「飛ばします! しっかり掴まって!」

 アシュリーさんは言うだけ言って返事など待たなかった。左手のブレーキを離し、右手のアクセルをいきなり全開まで回した。左脚の装甲靴がクラッチを蹴っ飛ばし、右脚がギアをトップに叩き込む。

 ガン! とエアバイクがバットで叩かれたかのように急発進した。

「――ッ!?」

 弾丸のごとく加速するエアバイクに、バーを掴んだ右腕が肩から引っこ抜けるかと思った。でもここで手を離したら完全に置いて行かれる。凄まじい風圧を全身に浴びながら、僕は歯を食いしばって死に物狂いでバーにしがみついた。

 体がほとんど水平になった状態で、眼下の景色が空恐ろしい速度で移り変わっていく中、足元――つまり後方を確認する。

 すると、

『GGGGGGRRRRRRRRRRAAAAAAAAAA――!!』

 突如として現れた巨大なコンポーネント群が、次々と具現化していっていた。

 その姿は――

「な……!?」

「嘘っ……!?」

 高速で宙を翔るエアバイクに引っ張られていてなお、フリムの驚愕は僕の耳に届いた。

「――有り得ません……!」

 ミラーで確認したのか、前を向いたままエアバイクをフルスロットルで走らせているアシュリーさんも、喉奥から掠れた声を絞り出す。

 ルームガーディアンの四倍以上あるコンポーネントから顕現したのは、どいつもこいつも身の丈五メルトルを軽く越える異形だった。頭の天辺から【尻尾の先】までを含めると、全長一〇メルトルにも達するかもしれない。

「ド――」

 王者の風格漂う獰猛な顔に、ぞろりと並んだ鋭い牙。剣のごとく鋭利な爪を備えた四本の脚と、トカゲにも似た巨体に分厚く敷き詰められた鱗。そして、蝙蝠よろしく皮膜型の翼。

 その威容こそまさしく――

「――ドラゴンっ……!?」

 竜。

 通常、遺跡ドラゴン・フォレスト以外では、まずもって出現しないと言われている超怪物。伝説上の生物を模した、最強の一角と名高い幻想種SB。

 だけどルナティック・バベルの記録の中で、これまでドラゴン型SBが出現したなんて話は聞いたことがない。

 そう、ドラゴンはこの軌道エレベーターにおいて、下手をすれば『奇跡の遭遇ミラクル・エンカウント』よりも希有な存在なのだ。

 なのにそれが、

「な、なんでこんなところに――!?」

 しかも、一体だけならともかく、一度に一〇体も!?

『GGGGGGRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――――――!!!』

 赤、青、緑、黄、茶の色取り取りの鱗を持つ竜達が一斉に長大な翼を拡げ、甲高い雄叫びを放った。

 大気がビリビリと震え上がる。

 次の瞬間、ギロリ、と何かに導かれるように十対の眼が揃って僕達へと向いた。その途端、得も言えぬプレッシャーが全身に叩き付けられる。

「――!?」

 こっちを見たってだけなのに、なんて重圧感。脊髄を直接なぞられたかのような悪寒が走った。

『GGGGRRRRRRR……!』

 竜達の双眸から敵意が光となって溢れ出す。奴らも遺跡に生まれたSBセキュリティ・ボットだ。侵入者を殺すことだけが、あの竜の唯一絶対の存在理由なのだ。

『GGGGRRRRAAAA!!』

 二十枚の巨大な羽が申し合わせたかのように同時に大気を叩いた。奴らの背後に豪風が吹き荒れるのが見て取れる。少し離れた場所に浮いていた雲が余波で粉々に吹き飛ばされた。

 一色二体ずつ、五色十体のドラゴンが放たれた矢のごとく飛び出した。

 速い。

 アシュリーさんの駆るエアバイク〝ゼーアグート〟も素晴らしい速度で飛んでいるというのに。奴らが出現してすぐ飛び出し、かなりの距離を稼いだというのに。

 竜達のシルエットがどんどん大きくなってくる。

「ちょ、ちょっと! もっとスピード出ないのっ!? これじゃ追いつかれるんじゃない!?」

 僕の逆側、エアバイクの右側のバーに掴まっているフリムがアシュリーさんの背中に叫んだ。

「これが全開です! これ以上は出ません!」

 囂々とがなり立てる風の音の中、アシュリーさんが叫び返した。彼女はシートに身を伏せ、少しでも空気抵抗を減らそうとする。

 僕もそうだが、フリムもアシュリーさんも端から戦うことを考慮に入れていない。当然だ。見たところ、十体全てが『下兵類トルーパー』――最下級のドラゴンのはず。

 しかし、その下兵類ドラゴンですら一匹一匹がゲートキーパーに次ぐ実力を持っているのだ。いわば今の僕達は、十体のゲートキーパーに追い立てられているのも同然だった。

 ――だから、今はとにかく逃げ切ることしか考えられない!

『GGGGGRRRRRRAAAAAAARRRRRRRRAAAAAA――!!』

 咆吼の合唱。凄まじい速度で追いかけてくる竜達は、行動ルーチンにそうすることが刻み込まれているのか、仲良く編隊を組んで飛んでいる。こちらから見ると、ちょうど一本の輪となって見える形だ。

『GGRRAA!』

 出し抜けに、がばっ、と一〇個の顎門が開き、獰猛な牙の群れが陽光を反射して輝いた。

「――ッ!?」

 目を見開き、息を呑む。ドラゴンが口を大きく開く時、何をするのかなんてわかりきっている。

 ドラゴンブレス。

 ケルベロスや他のSBと同じように、奴らは各々が持つ属性の息を吐き、攻撃してくるのだ。

 そして、奴らのブレスは飛行速度よりも断然速い。

 ――まずいっ!

「ブ、ブレスがきます! か、回避をっ!?」

「――ッ!」

 僕の悲鳴じみた報告にもはやアシュリーさんは返事もしない。エアバイクのハンドルを切って回避行動に入る。

「――ハルト! アタシがエンジンの出力上げるから、アンタは防御お願いっ!」

「! わ、わかった!」

 フリムが指示を飛ばし、瞬時に何をするつもりかを悟った僕は即座に頷いた。

 フリムはエンチャンターだ。エンチャンターが得意とする付与術式は物体へ作用する術式。彼女の持つ何かしらの付与術式をエアバイクに使えば、あるいは――!

 僕は僕で足裏に意識を集中し、術式を発動。まず支援術式〈プロテクション〉を一〇回。続いて、防御術式〈スキュータム〉を最大スロットの十五個同時発動。ドラコンブレスの射線からエアバイクを隠す角度で薄紫のシールドをばらまく。

「もっと……!」

 まだだ。これじゃ術式シールドの数が足りない。竜の息吹にどれほどの威力があるかわかったものではないのだ。僕はとにかく〈スキュータム〉を連続で発動させ、およそ百枚以上のシールドを隙間無くエアバイクの後方に展開させた。

『GGAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!』

 刹那、ドラゴン達の口から一斉にブレスが発射された。

 火炎、冷気と氷塊、風刃、雷撃、岩石と土砂。五種の指向性を持つ奔流が大気を貫き、空を奔った。

 輪形陣から放たれた十条のドラゴンブレスが、僕達のエアバイクへと殺到する。

 大型トラックすら軽く呑み込んでしまうほどの大きさに達するドラゴンブレスは、回避運動に入っているにも関わらずこちらを正確に照準していた。まるで吸い込まれるかのごとく僕らに迫る。

 ドラッヘの口から吐き出されたそれぞれのブレスが、まるで一〇匹のルンのごとく僕達に襲いかかった。

 複数重複展開させた〈スキュータム〉の塊に激突する。

「「「――ッ!!」」」

 天を引き裂いたかのような轟音が僕らの耳を劈いた。首を竦め、歯を食いしばる。

 術式シールドを通してドラゴンブレスの威力が僕に伝わってきた。奴ら、器用なことに着弾地点をちゃんとズラしている。火炎と冷気が打ち消し合わないように、また風の力が土砂をかき乱さないように、絶妙に調整しているのだ。

 炎と雷の熱が、固体空気と氷塊と岩と土砂の質量が、エアバイクに食らいつかんと吼え猛る。〈スキュータム〉のシールド群を怒濤のごとく攻め、強化しているはずのそれらを次々に割れ砕いていく。

 ――つ、強い……! ブレス一つ一つが、ヘラクレスの剣戟みたいだ……!

 端からパキンパキンと散っては消えていく〈スキュータム〉クラスターを、僕はさらに術式シールドを追加して補強していく。驚くべきことに奴らのブレスはまだ止まらない。このままじゃ僕のフォトン・ブラッドが枯渇するのが先か、ドラゴンの吐息が尽きるのが先かの持久戦になってしまう。

「――~っ!」

 だけど、仮に第一波を凌ぎきったところで、間違いなくすぐに第二波がくる。当たり前だ、奴らにとってこの攻撃は【ただの息】なのだから。

 ――は、速く、この空域から脱出しないと……!

 僕が内心ほぞを噛んだ、その時だった。

「〈フォトンプロバイダー〉!」

 フリムの喉から術式の名前が迸った。

 彼女の全身に走った〝SEAL〟の幾何学模様が紫色に輝き、初めて聞く名前の術式が発動する。同時に、フリムの左の掌がエアバイクの後部を叩いた。

「――悪いけど、壊れたら後で謝るから!」

「えっ!?」

 フリムの口から飛び出した不穏な言葉に、思わずといった感じでアシュリーさんが肩越しに振り返った。その瞬間、フリムの輝紋から溢れていた紫の輝光がエアバイク〝ゼーアグート〟の機体へと伝播した。

「受け取りなさい! アタシのこの有り余るエネルギーぃぃぃぃっ!!」

 その途端だった。

 ただでさえ唸りを上げていたエアバイクのエンジンが、紫色の光――フリムのフォトン・ブラッドを受け取った瞬間、獣の咆吼がごとき爆音を轟かせた。

 ――まさか、自分のフォトン・ブラッドをエアバイクの燃料代わりに!?

 前にも言ったけど、フリムの血はエネルギー源とするには濃密すぎる代物だ。そんなもの、直接エアバイクのエンジンに注入しようものなら――

 ただでさえ高速だったエアバイクがさらに爆発的に加速した。推力を生み出すエンジンが灼け付き、煙を吐く。鉄の焦げる匂いをその場に捨て去っていくほどの速度で駆け抜ける。

「わ ぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ っ !?」

 堪らずあげた悲鳴ですら一瞬で後方に置いていかれた。

 エアバイクのスピードは瞬く間にドラゴンブレスのそれすら超越した。〈スキュータム〉に群がっていた重圧が遠のいたかと思うと、その時にはもう竜達の姿は砂粒みたいな点になっていた。

 けれど。

 当然、その代償は大きかった。

 エアバイクのエンジンから、鉄の爪で金属板を引っかくような音が聞こえてきた次の瞬間――ガラスが砕けるのにも似た砕音が響き渡った。

 ガガガガガッ、とエアバイクの機体が激しく震動する。

「コ――コントロールが……!」

 アシュリーさんの焦燥にまみれた声。エンジンがオーバーヒートどころかオーバードライブによって損壊したのだ。

 ぐるん、と出し抜けに視界が右回りに回転した。制御を失ったエアバイクが錐揉み回転をしながら舳先を地上へと向ける。

 墜落する。

「う――わぁあああああああああああッ!?」

「きゃあああああああああああああッ!」

「くぅっ――!」

 超高速で飛行していたエアバイクがドリルのように旋転する中、僕とフリムはとにかく振り落とされるまいとバーにしがみつき、アシュリーさんは最後の最後まで機体を持ち直させようと足掻いていた。

 しかし――努力むなしく、暴走したエアバイク〝ゼーアグート〟は流星のごとく地上へ急降下する。

 視界が凄まじい速度で回転する中、僕はせめてもと思いスイッチで繋がっているフリムに〈プロテクション〉×10を発動。さらに、

「アシュリーさん! ――手を!」

 シートのアシュリーさんに手を伸ばし、叫んだ。風圧に赤金色の髪をもみくちゃにされたアシュリーさんが振り返り、僕に向かって手を伸ばし、指先が触れて、

 空が、ビルが、アスファルトが、めまぐるしく入れ替わり、



 ――水?



 墜落していく先にあった湖の水面に、僕らを乗せたエアバイクが槍のように突き刺さった。



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