リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-

国広 仙戯

●2 オーバー・ザ・トラブル 後



 そうなのだ。

 過日の『ヴォルクリング・サーカス事件』からこっち、僕達『BVJ』はすっかり財政難に陥っていた。

 と言っても、想定外の出来事が起こったわけではない。

 僕もハヌもロゼさんも、全員がこうなることがわかっていて行動した結果である。

 実際、日常生活を送るのに支障がない程度には貯蓄は残っている。

 けれど、エクスプローラーは何だかんだとお金のかかる生業だ。遺跡に潜ってエクスプロールする為には武器や防具、それらの維持費が必要となってくる。僕の持つ白虎や黒玄は自己修復機能があるけれど、これらは例外だ。どんな武器も使えば使うほど摩耗したり、痛んだりする。これをメンテナンスするには、それ相応の費用がかかるのだ。

 例えば僕が愛用している深紫の戦闘ジャケットなんかは、エンチャンターに加護術式を永久付与してもらっているけど、これだって防御効果を発揮するためにはそれなりのコストが必要になる。詳しく言えば、定期的に専門業者の手によって加護術式のエネルギー源であるコンポーネントを補給してもらわなければならないのだ。そうしなければ、エネルギーが切れた瞬間に戦闘ジャケットはただの布と化し、加護もへったくれもなくなる。

 現在、僕達はそのあたりの予算がほとんど無く、微妙に四苦八苦している状態だった。

 何故そうなったかというと。

 まぁ、一言で言ってしまえば――【寄付】が原因である。

 ほんの一週間前。『ヴォルクリング・サーカス事件』によって、ここ浮遊都市フロートライズは甚大な被害を被った。二万人を超える死傷者が出て、街のあちこちでSBによる破壊の限りが尽くされたのだ。

 ニュースによると、浮遊島だというのに、大地震が起きてもこうはならないだろうってレベルの損害だったという。

 だけどその内のいくつかには、僕やロゼさんの戦いによる被害も含まれているのだ。

 勿論、戦いの余波で街を破壊したのは僕達だけじゃない。ヴィリーさん率いる『蒼き紅炎の騎士団』をはじめ、フロートライズとそこに住まう人々を守るために戦ったエクスプローラーや自警団によって、多くの建物が巻き込まれ、損壊した。

 気にしなくていい。これは仕方の無いことだ――例えばカレルさんだったら、きっとそう言ったに違いない。

 だけど、僕もハヌも、そしてロゼさんも。どうしてもそうは考えられなかったのだ。

 特にロゼさんは、事の発端が『ヴォルクリング・サーカス』にあるだけあって、何が何でも見逃せなかったのだと思う。少しでも多く贖罪しなければならない、という気持ちでいっぱいだったはずだ。

 だから、僕達は三人で話し合った結果、手持ちのコンポーネントのほとんどを寄付にあてることにした。

 僕とハヌは、今回の戦いで得た全てのコンポーネントを。特にハヌは、例の極大術式でものすごく大量のコンポーネントを入手していたから、質・量揃って一番の寄付者だったはずである。

 ロゼさんは、元々ハーキュリーズの代金として僕に渡そうと用意していた全てのコンポーネントを差し出した。ちなみに、ロゼさんはこれについて、

「今回はあくまでラグさんの代行で寄付します。私の持つコンポーネントは全て、ラグさんに所有権がありますから。つまり、これは借金のようなものです。いつか必ずお返しいたします。そのように記憶しておいてください」

 と言い張って、僕が何を言っても主張を曲げようとしなかった。

 どうやら、ハーキュリーズを受け取ったからには絶対にその対価を支払わなければならない――そう考えているみたいだった。

 そのハーキュリーズだが、流石にゲートキーパー級のコンポーネントは寄付には出せなかった。いや、勿体ないとかそういう話ではなく、単純に寄付には向いていなかったのである。

 ゲートキーパー級ともなると、そのコンポーネントの価値はそこらのSBとは比べものにならない。ましてやキリ番階層のハーキュリーズである。言わずもがなその市場価格は、文字通りの意味で計り知れない。

 これが市場に出れば、真っ先に行われるのはオークションである。世界中の好事家達が集まり、札束で殴り合って希少なコンポーネントを取り合うことになるだろう。

 だけど、はたしてその価格が決定するのはいつになるだろうか?

 並の――なんていうと語弊があるかもしれないが――ゲートキーパーであれば、ある程度の相場が決まっている。けれどキリ番階層のものは特別過ぎて、いつも価格が確定するまで長丁場になりやすい。早くて一週間。遅いと一ヶ月以上かかることも。

 これでは肝心の寄付に間に合わない。それ故、今回は見送ったのである。

 そんなわけで、フロートライズの自治体に出来うる限りのコンポーネントを無償提供した僕達は、クラスタとしては限りなく文無しに近い状態になってしまった。

 重ねて言うが、決して考えなしだったわけじゃない。事前にちゃんと話し合って、計算はしていたのだ。生活費とか、家賃とか、パーティーを組むためのルーター代とか、武器のメンテナンス代とか。

 しばらくルナティック・バベルの最前線あたりでエクスプロールすれば、すぐに取り戻せるだろう――と。



 ただその目論見が、ちょっと甘かっただけで。



 計算はしていた。

 そう、計算はしていたのだ。

 だけど、あまりにギリギリを攻めすぎた。

 ざっと見積もったところ、最前線近くのSBであっても、あと一週間は一日三〇〇体ぐらい倒さないといけないことがわかった。

 三人で割っても、一人約一〇〇体。

 出来ないことではない。

 出来ないことはないが、それでも結構な労力である。

 とはいえ、これぐらいこなさないと余裕は出来ないし、何より僕達が住んでいる部屋の家賃だとか、ルーターの購入費用だとか、その他諸々、お金がいくらあっても足りないのだ。

 特にハヌのマンションの家賃が重かった。中央区の高級マンションだけあって、これが結構な負担なのだ。

 その為、いっそハヌの部屋をクラスタの拠点にしてしまおうか、なんて話も出ている。

 通常、エクスプローラーのクラスタは拠点を持ち、メンバーは共同生活を営むことが多い。危険な戦場で力を合わせて戦うのだから、それ以外でも一緒にいた方が何かと都合が良いからである。勿論、今の僕達のように例外はあるけれど。

 実際、ハヌのマンションは部屋数も多く、三人どころかその倍の人数が入っても問題ない。一緒に住めば僕とロゼさんの家賃が浮くし、メンバー間の親睦も深まる。まさに一石二鳥である。

 とりあえず、引っ越しは後日するとしても。

 まずは全員の家賃代と、パーティーを組むためのルーターを購入する資金を貯めること。

 そして、リーダーなのにメンバーの中で一番弱い僕の能力を、少しでもいいから向上させること。

 目下、この二つが僕達『BVJ』の優先事項だった。



「リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く