リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-

国広 仙戯

●18 臆病者―カワード―




 目の前で繰り広げられる別次元の戦いを、僕はただ見ていることしか出来なかった。

「――――」

 ロゼさんが再生したヘラクレス――いや、彼女の言葉から察するに、コンポーネントに登録されている本当の名前は〝ハーキュリーズ〟――が、巨大な化け物を相手に、その六本の腕を縦横無尽に振るっている。

 今、僕の視線の先で相争っているのは、見るからに人の埒外にある存在だ。

 片や、六メルトルにも達する機械仕掛けの巨人。既にその本領は発揮されていて、かつて僕が目の前が真っ暗になるほど絶望した六本腕の進化形態。勿論、強化の術式も一緒に発動しており、攻撃力と防御力は勿論のこと、特にその速度がとんでもない域に達している。

 片や、何体ものSBを組み合わせたような奇怪なキメラ――シグロス。四メルトルほどだった図体は、戦闘が始まってすぐ膨らみ、ハーキュリーズを追い越す七メトルにまで及んでいた。

 現在の戦況では、ハーキュリーズがシグロスを圧倒している。

 目にも止まらぬ――そう、意識を集中させなければ銀の煌めきにしか見えないスピードで、ハーキュリーズは六本腕に握った武器を振り回している。シグロスが変じたキメラSBを猛然と切り刻み、打ち砕き、刺し貫いていた。

 噴水のようにキメラSBの肉片が飛沫き、しかしすぐに再生していく――まるでイタチごっこのような状態だが、ハーキュリーズの剣速が、キメラSBの再生速度をわずかに上回っている。

 その光景を見ていて、不意に身体の奥底から悪寒が湧き上がって来た。

 ――冗談じゃない……なんだあれは……!?

 全身の震えが止まらない。胃の腑の底が重い。がくがくと膝が笑う。なんだかトイレに行きたくなってきた。

 ――本当に、僕はあんなのに勝ったのか……!?

 少し前の自分が信じられなかった。確かに、記憶はある。あの怪物――ハーキュリーズと真っ向からぶつかり合った記憶が。

 だけど、あまりの極限状態だったせいか、そのほとんどは朧気だ。

 ただひたすらに、がむしゃらだった――迫り来る斬撃の雨の中をしゃにむに突っ切り、何度も何度も〈大断刀〉を叩き付けていたことは覚えている。

 だけど自分がどう動いていたとか、相手の動きにどう対応していたとか、細かいことは記憶領域からほぼ揮発してしまっていた。

 最後に身体強化係数を一〇二四倍まで高めて、〈ドリルブレイク〉の連鎖発動でハーキュリーズの装甲をぶち破り、その内部へ〝SEAL〟のプロパティが滅茶苦茶になるぐらい大量の〈フレイボム〉を撃ち込んだことだけはよく覚えている。

 だけど、もう一度同じ事をやれと言われても――出来る自信がまるで無かった。

 強化係数を〝SEAL〟の限界ギリギリまで高めるのは、乗り物で例えるなら、常にフルスロットルで走ることに似ている。綱渡りどころではなく、【糸】渡りぐらいの集中力が必要で、しかもそれをずっと維持しなければならないのだ。

 普通ならすぐにABSオートブレイクシステムが発動して、プロセスが中断されてしまう。それでも、あの時の僕がそんな馬鹿げた状態を維持したまま戦えたのは、自分でも驚くほど意識が集中していたからだ。

 ハヌを守らなきゃ――それしか考えていなかった……気がする。それすらもよく憶えていないのだけど。

 凄まじい速度で大気ごとキメラSBを切り裂くハーキュリーズの剣閃。あまりの威力に、風圧で土煙が舞い、周囲の建物に亀裂が走る。掠ったところなんて、そこを起点にボロボロと崩れていくほどだ。

 そうだ、普通なら勝てっこなかったのだ。エクスプローラーのランクでは『中の中』が精々の僕なんかが、あんな怪物に。

 何が勇者だ。

 何がベオウルフだ。

 たまさか偶然が重なって勝っただけのくせに、僕は〝勇者ベオウルフ〟などという大層な名前で呼ばれて、調子に乗っていたんじゃないか?

 他の人から〝すごい奴〟ともてはやされることで、どこか優越感を憶えていたんじゃないか?

 挙げ句には、心のどこかで、自分のことを本当に〝勇者〟だと思い込んでいたんじゃないか?

 なんて愚かしい奴だろうか――その目を開いて、現実をよく見てみろ。

 直に戦っているわけでもないくせに、全身が震え上がっているじゃないか。年の近い女の子が戦っているっていうのに、完全に怖じ気づいているじゃないか。

 何が『もしロゼさんが再び苦境に陥ったら、何があろうと絶対に助けるつもりだ』だ。さっきの僕はなんてのぼせた考えをしていたのか。こんな体たらくでは、二人の間に飛び込んだところで全然役に立たないじゃないか。むしろ、あのミキサーのような戦いに巻き込まれて、一人で勝手に死んでしまうのがオチじゃないのか。

 畢竟、僕は全然何も、これっぽっちも変わっちゃいなかったのだ。勇者などと賞賛され、名前が一人歩きしても、僕自身は全くと言っていいほど進歩しちゃいない。

 ヘラクレスの時だってそうだ。僕はセキュリティルームの前で怯えていたのだ。あの時も、結局はハヌが決定的な危機に陥るまで動くことが出来なかった。それにもし、あの場にハヌがいなければ、僕は間違いなくセキュリティルーム内にいる全員を見捨てていたはずだ。助けに行こうだなんて、微塵も思わなかっただろう。そう、ハヌを見捨てたら死ぬより後悔する――そう思ったから飛び込んだのだ。

 その行動原理のどこが〝勇者〟なのか。

 僕は今も変わらず、臆病者で、ヘタレで、勇者には程遠い人間なのだ。

 不意に戦況が変化した。シグロスの【本体】がキメラSBから抜け出て、今度は真っ黒な全身鎧を着たような姿へと変貌したのだ。

 先程のキメラSBと違い、図体が小さい分、速度がかなり速くなっている。しかも硬い。あのハーキュリーズの剣を真っ向から受け止めて、耐えきっていた。

 だけど変身の途中、身体の殆どを真っ黒に染めたシグロスがロゼさんの眼前に現れた時――僕は動けなかった。体中の筋肉が石のように固まっているのがわかった。

 心では『危ない!』と思い助けに行こうとしたのに、身体の方が『動くな!』と抵抗したかのようだった。心と体の綱引きが起こって、ビクン、と全身が痙攣のように震えた。

 ――怖かった。その一言に尽きる。幸い、シグロスはすぐにロゼさんから離れ、再びハーキュリーズとの戦闘に戻ったからよかったものの、そうでなければどうなっていたことか。

 僕は右手で服の胸元を握り締め、拳を押し付ける。どくどくと早鐘を打つ心臓に、静まれ、静まれ、と念を送る。何をしているんだ、僕は。今のは仲間であるロゼさんの危機だったじゃないか。今のタイミングで動けなかったのなら、この次だって動けないに決まっている。次の次は、もう無いかもしれないんだぞ。

 でも――

 ハーキュリーズとシグロスが、超がつくほどの高速戦闘を繰り広げていた。動体視力には自信があるほうだけど、それでも目で追うのがやっとだった。もしあの中に自分が飛び込んだら――そう思っただけでぞっとする。恐怖が身体の芯に絡みついて、ジクジクと内部まで浸食していくかのようだ。もしまたロゼさんが危機に陥ったとき、まるで動ける気がしない。涙目になって歯を食いしばるけど、骨の髄からくる震えが全然止まってくれないのだ。

 だけど、僕はハーキュリーズとシグロスの戦いを見て、こう思い直す。

 ――いや、大丈夫だ。戦いは未だにロゼさんが優勢なのだ。シグロスが何を思って二度目の変身を遂げたかは知らないが、戦局は覆らない。きっと僕の出番なんかないはずだ。

 そうであることを、今、僕は心の底から願っている。

 やがて、ハーキュリーズとの高速の打ち合いに競り負けたシグロスが、ものすごい勢いで地面に叩き付けられた。けれど激突する直前、漆黒の身体から最後っ屁みたいなクロムグリーンの矢が何十本も撃ち出され、強撃直後で反応できなかったハーキュリーズに全弾直撃した。

 双方共に膨大な煙に巻かれる。

 そして、

『ウオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 土煙の中から雄叫びと共に現れたハーキュリーズの姿を見た瞬間、僕はロゼさんの勝利を確信した。

 全くの無傷。パワーで勝り、シグロスの攻撃があの装甲を貫けないのなら、ロゼさんとハーキュリーズの勝利はもう決まったようなものだ。

 しかも、希望はそれだけではなかった。



「〈インバルナラブル・キラー〉」



 ロゼさんの音声コマンドから生まれたのは、目が眩むほど煌びやかな黄金の大弓と、九本の銀の矢。

 一目見ただけでわかった。あれが、ハーキュリーズの〝切り札〟なのだ、と。おそらく、僕との戦いの時には取り出す余裕が無かったのだろう。もしくは、ゲートキーパーのAIがあれを出す条件を満たす前に撃破してしまったのだ。

 左の三本腕で黄金の剛弓を構え、右の三本腕で九本の銀の矢を番えるハーキュリーズ。その巨体に、とてつもない力が収束していくのを感じる。端で見ている僕にもわかる。あれが間違いなく、シグロスを一撃で屠るだけの威力を持っているということが。

 勝利の確信が、さらに深まった。

 ぎゅるり、と捻れて一本になった銀矢。あれが放たれたが最後、戦いが終わる。ロゼさんのお父さんの仇、『ヴォルクリング・サーカス』の首領――シグロス・シュバインベルグの命運は尽き、全ては解決する。ロゼさんも本懐を遂げ、街には平和が戻ってくる。

 だから僕は、弓矢を構えるハーキュリーズの勇姿を昂揚の眼差しで見つめた。

 あのゲートキーパーをロゼさんに譲渡して、本当に良かった。僕の選択は間違っていなかったのだ。

 僕がしたことと言えば、コンポーネントを渡したことだけなのだけど、それでも誇らしい気持ちが胸を一杯にしていた。

 だけど――

 ロゼさんの最後の攻撃、ハーキュリーズの切り札〈インバルナラブル・キラー〉は不発に終わった。

 シグロスが漆黒の鎧姿から、またしてもロゼさんのお父さんへと変貌したからだ。

 優しいロゼさんに、あの姿を撃てるわけがない――シグロスもそう知悉した上で、ここぞとばかりに変身したに違いないのだ。

 あのロゼさんに、お父さんを撃つなんて出来っこない――そうわかった上で、それでも瞠目せずにはいられなかった。

 どうして。嘘に決まっているのに。撃てば全てが終わるのに何故――と。

 おそらくそれは、この恐ろしい戦いに介入したくないと思う、僕のあさましさから生まれた感情だった。

 愕然とする僕の前で、それでも血を吐くような叫びと共に、ロゼさんが〈インバルナラブル・キラー〉を再起動させた。

 光り輝く銀の矢が撃ち出され、それが突如九本の閃光に分かれ――いっそ面白いぐらい綺麗に、シグロスを避けて着弾した。

 外れた、のではないのだろう。外した、と言った方が正確なのだと思う。

 ロゼさん自身にも、意外な結果だったはずだ。鉄仮面のようだった顔が、驚愕と絶望に染まっている。

 そんなロゼさんの目の前に、再び漆黒の鎧姿になったシグロスが立ちはだかった。

「――ッ!?」

 今度こそまずい。僕は咄嗟に〈プロテクション〉×10を発動。スイッチでリンクしているロゼさんへ、支援術式の援護を送る。

 それから白虎を鞘から抜き放ち、仲間の危機を救うために駆け出そうと――

 動かない。

「……!?」

 足が、僕の意志に反してまるで動こうとしない。さっきからずっとそうだったように、動画に撮って誰かに見せたいぐらいの勢いで、膝が笑っている。生まれたての子鹿のような頼りなさで、どうにか立っていられてはいる、という状態だ。

「――っん、のっ……!」

 僕は情けない自分の両足を、白虎の柄と左拳で殴った。寒さで麻痺しているような太股に、鈍痛が生じる。

 ――何をしているんだ! 怯えている場合じゃないだろ!

 ――走れ! 走るんだ!

 僕は自分で自分の身体に活を入れ、改めて両足に力を込めた。歯を食いしばり、今度こそ走り出そうとして、

 転んだ。

「ぐぁっ……!」

 路面に顔を擦りつけながら、ずざざざ、と無様に身体を滑らせる。言うことを聞かないのは足だけじゃなかった。まるでバランスがとれない。身体の至る所が、戦場へ向かうことを拒否しているようだった。

「くっ……!」

 ――何でだ。あの時は、ハヌの時は何も考えずに飛び込んでいけたじゃないか……!

 僕は目に涙を浮かべ、両拳で地面を叩く。自分がここまで情けない奴だとは思わなかった。

 どこまで臆病なんだ、僕は。身体が竦んで動かないだなんて、心が弱いにもほどがあるじゃないか。

 ――けれど、飛び込んだところで、お前はあいつに勝てるのか?

 不意に頭のどこかにいる、冷静で打算的な自分がそう囁いた。

 ――今度もヘラクレスの時みたいな【まぐれ】が続くと思うのか? 世の中そんなに甘くないぞ?

 あるいは、体中を縛る恐怖の鎖が、そんな幻聴を生み出しているのかもしれなかった。

 ――今度こそ死ぬぞ? 奴の実力は見ただろう。しかも力だけじゃない、頭も回る。そもそも、お前は対人戦闘なんてしたことないだろ? 知能ある相手だぞ。単純な力押しだけじゃ勝てないかもしれないんだぞ?

 甘い誘惑。ここで眼を瞑り耳を塞いでロゼさんを見捨てれば、あるいは僕だけは生き残れるかもしれないと――保身を優先しろと、理性と本能が手を取り合って感情を説得しにかかる。

 そう、これは、いつかのカレルさんの言葉だ。

 彼女はもう助からない。諦めろ。いつか力を付けて、仇をとればいい――そんな、冷静沈着で理路整然とした正論だ。

 気を抜けば、ついうっかりその理屈に頷いてしまいそうになる。

 だけど、恐怖に身も心も蚕食されている僕は、それでもそんな声に抗おうとして、



 ――笑い声?



 耳に届く、酷く下品な哄笑に、頭が真っ白になった。

 誰が笑っているのか、なんて考える必要は無かった。顔を上げて見るまでもなかった。

 シグロスだ。ロゼさんの前に立った奴が、彼女を馬鹿にしながら笑っているのだ。

 ――何を笑っている。

 その瞬間、心の奥底から猛然と湧いてきた感情に、意識が完全に埋めつくされた。

 ――父親の姿を撃つ事が出来なかったロゼさんを……その優しさを、お前が笑うのか。他の誰でもない、そのおかげで命拾いした【お前】が。

 自分でも驚くほど膨大に噴出した怒りが、全身を覆い尽くしていた恐怖との間に、髪の毛一本分の隙間を作った。

 すかさず僕はその隙間から恐怖心の檻を抜け出す。

 途端、あれだけ僕を苛んでいた震えが、止まった。

 左手で、地面の砂を強く握り込む。

 ――笑うな。【それ】は、お前が笑っていいことじゃないはずだ。いや、違う。ロゼさんのあの行為を笑っていい人間なんて、世界のどこにも存在しないんだ。父を想う娘の行為が、笑われていいはずがないんだ。

 身体が動く。僕は立ち上がり、白虎を構える。

 もう感情を説得する声は聞こえてこない。何もかもを圧する勢いで義憤が燃え上がっていた。

 そう、怒りだ。怒りしかなかった。

 あいつは、シグロスは、正真正銘の下衆だ。あのダインと同じ人種だ。生きるに値しない存在なのだ。

 ようやく動くようになった身体で、僕は駆け出す。走る感覚を全身で思い出しながら、支援術式を発動。〈ストレングス〉〈プロテクション〉〈ラピッド〉を五つずつ。強化係数を三二倍に。

 激変する身体の感覚に、意識を合わせる。すぐさま速度が乗る。駆ける背中のすぐ後ろを、恐怖心が追いかけてきている気がする。だから僕はそれを振り払うように、さらに身体強化の術式を発動した。強化係数を一二八倍に。

 もはや風よりも速く走る僕の後ろを、それでも恐怖心が追い縋ってくる。捕まったらおしまいだ。今度こそ僕は何も出来ない弱虫に成り果てる。そんなのはごめんだった。

「〈ドリル――」

 更なる加速のため、剣術式を〝SEAL〟に装填。白虎を両手で握り、前へ突き出す。

 狙うはロゼさんの直前に立っている漆黒のシグロス。あの鎧に覆われた身体のどこでもいい。この刃を突き立て、ロゼさんから引き剥がすことが出来ればそれで十分だ。

 息を大きく吸い込み、全力で叫ぶ。

「――ブレイク〉ゥ――――――――――――ッッッ!!」

 ディープパープルに輝く回転衝角が白虎の刀身を覆い、背中からフォトン・ブラッドが噴出した。

 弾丸になる。

 蹴っ飛ばされたような勢いで大気を貫いた僕は、一瞬にして彼我の距離をゼロにした。

「――ッ!?」

 僕の突撃に気付いたシグロスが素早く防御体勢をとる。奇襲としては成功だが、こうなっては致命傷は与えられそうにない。それでも腕の装甲に〈ドリルブレイク〉の先端を突き入れ、衝突した。

「!!」

 ドリルが硬い装甲を削る、グラインダーのごとき激しい音が生まれた。血飛沫のように火花が飛散する。

 ロゼさんとシグロスとの間に生まれた僅かな隙間――そこに身体をこじ入れたところで、〈ドリルブレイク〉の効果時間が切れた。

 僕は白虎を奴の腕に突き立てたまま、地面に足を下ろし、動きを止める。

 身体が止まった途端、恐怖が僕に追い付いた。

 ――やってしまった……!

 もう取り返しはつかない。引き返すことなんて出来ない。

 こいつと、戦わなければならない。

 悪寒が全身を駆け巡る。

「……なんなのかなお前は? せっかくいいところだったのに。ひねり潰すぞ?」

 頭の上からシグロスの声が降ってくる。けれど、僕は応えられない。再発した怯えの震えに、歯の根も合わないのだ。

 だけど、ここで動けなくなったら全部水の泡だ。僕は歯を食いしばり、それでも止まらない震えに構わず、声を絞り出す。

「……うな……!」

 僕がここまで駆けつけることが出来た感情。それを激発させたのは、今も耳にこびりつくシグロスの笑い声だった。

「ああ?」

 聞き返してくるシグロスに、僕はもう一度言う。今度ははっきりと、力を込めて。

「――笑うな……!」

 そうすると、震えは収まらないまでも、溶岩のように煮えたぎる怒りが、再び身体の隅々にまで行き渡った。

 そうだ。許せるものか。

 多くの人を殺し、絶望を是とし、優しさを嘲笑うこの男を。

 何より、僕とハヌの初めての仲間を。

 ロゼさんを。

 そんな汚い声と心で笑うだなんて、絶対に許せるものか――!

 勢いよく顔を上げ、〝SEAL〟を全力で励起させる。

 僕は至近からシグロスの顔へ向けて、腹の底から怒鳴りつけた。



「僕の仲間を――笑うなぁっ!」



 臆病な自分を捻じ伏せて。






「リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • あ

    もう少し間引けなかったのか

    1
  • ノベルバユーザー174539

    ここまで結構面白かったけど、ここ数話のロゼの愚鈍さと急に増大したラトの臆病さには、思わずシグロスを応援してしまう

    11
コメントを書く