夕闇の研究所

山本正純

第13話 夕闇の真相

成りすましの事実を追及され、宮川は沈黙してしまう。すると田辺彩花は、腕時計を見てから、重たくなった肩を落とした。
「まだ午後1時ですよ。6時間後、いつものように空は紅に染まる。その頃になったら、全ての罪を認めるつもりだったのに」
「罪を認めるのか?」
赤城警部に尋ねられ、田辺彩花は当然のように答えた。
「そうですよ。三浦さんを殺したのは私です。どこまで警察が掴んでいるのかは分からないけれど、私と宮川さん、中川さんの3人はある目的を達成するための仲間です」
「だったらどうして、仲間を裏切るようなことをした? 中川宏一を犯人に仕立て上げるという行為でお前らは中川を裏切った」
赤城警部が田辺を問い詰めると、宮川は代わりに答えた。
「平井村長が殺された時にアリバイがない私達を助けるために、中川は自殺したんです。中川が犯人という証拠が次々に見つかり、私達には鉄壁のアリバイがある。これで容疑者だった私達は、自由に動き回ることができる。最終的に村外れの研究所に行き、悪霊を地獄に落としたと告白すれば、計画は終わるはずだったんですよ」
「中川さんが遺書に余計なことを書かなければ、こんなことにはならなかった。3人で考えた、1人ずつ殺すべき悪霊を葬り去る計画は完璧だったのに」
田辺彩花が中川のことを恨み始める。
「最後に幾つか教えていただけませんか? 第1の事件の真相です。僕の推理では、あの事件だけはあなた達の犯行ではない。そう思っています。あなた達は何をやろうとしていたのでしょう?」
喜田参事官の問いかけに、宮川は自白する。
「私は中川に成りすまして篠宮を殺しました。研究所を守るために、私達は悪霊を葬り去ったんです。ご存じのように、三浦と篠宮は研究所を立て壊そうとしていました。平井村長は、中立的な立場から研究所をお化け屋敷にしようとしていたが、それも許せなかった」
宮川の供述に続き、田辺が真実を明かす。
「全ては、10年前の心中事件の日、現場に駆け付けた茜が中川に伝えた想いを叶えるため。あの時、茜は研究所を壊さないでほしいと言ったそうです。思い出が残る洋館は燃えてしまったけれど、研究所は壊さないでほしい。炎が届かなかった研究所だけが、茜の心のよりどころでした。ところが、村に再開発問題が浮上。中川さんは茜の想いに答えるために反対派になって活動を始めました。そんな話を1か月前の茜の葬儀で聞いたのが全ての始まり。あれから私達は、犯行の準備をしました」
2人の刑事は黙って田辺達の犯行動機を聞く。
「それから数週間後、この研究所でガス爆破が起こり、誰かが殺されました。この事件の翌日、中川は酔った平井村長から、とんでもない真実を聞いてしまった。この村に伝わる陰陽師伝説に見立てて、人を殺したってね」
宮川の話を引き継いだ田辺は、淡々とした口調で真実を伝える。
「第1の事件の犯人は平井村長で、お化け屋敷の話題性を作るための犯行。茜の想いを汚した平井村長が許せなくなり、急遽犯行計画に平井村長殺害を付け加えました。これが一連の事件の真相です」
研究所を守ろうとした2人の犯人は、自身の口で真実を語る。自白が終わると、犯人達は刑事に連行された。


事件が解決した日も、青い空は赤く染まっていた。喜田参事官は夕焼けを見上げながらバスを待つ。その隣にはウリエルと名乗る少女がいた。彼女は、喜田の腑に落ちないような顔付きを見て、首を傾げる。
「事件は解決したのではありませんか?」
そう尋ねられ、喜田は首を捻った。
「そうとは思えません。なぜ平井村長は、自分が起こしたガス爆破事件の真相を探るように依頼してきたのか?」
「挑戦状のつもりだったのかもしれませんよ。群馬県警も、平井村長がガス爆破事件の犯人だとは思っていなかったようですし」
「挑戦状ですか? 真相は闇の中です」
直後にバスが到着し、2人はそれに乗り込んだ。後に続いて4人組の黒ずくめの男達も乗り込み、バスが東京に向かい走り始める。

同じ頃、都内のホテルの一室で、髪の長い巨乳の女は、スマートフォンを耳に当てながら、窓から夕陽を見ていた。
「あの村で連続殺人事件があったそうですよ。覚えていませんか? あの裏切り者が心中事件を起こした村です。あの研究をボイコットしたことで殺害対象になったけど、それより早く自ら命を絶った優しい人。馬場茜を友達の家に泊めさせて、生き延びさせたことは高く評価します」
『ガブリエル。そんなことで電話してきたのか?』
電話の相手である豪快な男にコードネームで呼ばれ、彼女は頬を緩ませた。
「ただの世間話でしょう。相変わらずせっかちですね。業務連絡です。10月9日になったら帰ってきてください。思う存分暴れさせてあげます」
『10月9日? 日本時間か?』
「もちろん。脳筋なあなたでも分かるような指示書に従ってください」
『帰国したら、お前に会いたいよ。お前の大きな胸を思い切り触りたい』
脳筋発言のお返しのつもりで、電話の男は女をからかう。それに対し、彼女は少し顔を赤くしながら、受話器越しに淡々とした口調で話した。
「変態。あなたのような筋肉質な大男とは会いたくないです。大嫌いです」
『そこまで言わなくても。兎に角、楽しみだ。お前らとの仕事はスリリングで楽しいからなぁ』
「それではお待ちしています。鬼頭きとうさん」
テロ組織『退屈な天使たち』の幹部、ガブリエルは電話を切る。日本中を震撼とさせるテロ計画は、誰にも知られず進行していく。


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