ああ、赤ずきんちゃん。

極大級マイソン

第1話「赤ずきんちゃんとおとぎの城」

 生まれも育ちも森育ちの赤ずきんにとって、"町"というのは未知の世界でした。
 おとぎの城、という建物があります。おとぎの国を治める偉大なる王様が住むそのお城に、赤ずきんはカボチャの馬車に乗ってやって来ました。
 時刻はとうに日が沈んだ後。夜空に浮かぶ月がキラキラと輝いているのが見えます。
 ……明日は満月だな。
 赤ずきんは、ふとそう思いながら、馬車を降ります。森から赤ずきんを連れ出したシンデレラも、馬車を降りて赤ずきんを案内します。
 おとぎの城の正門前。そこには、2人の門番が立っていました。

 門番A「おや、貴方は……」
 シンデレラ「ふふふ、お勤めご苦労様。例の舞踏会の参加者をお連れしたので、城の中へ案内したいのだけど」
 門番B「では、招待状を拝見します」
 シンデレラ「どうぞ」

 そう言って、シンデレラは一枚の封筒を門番差し出します。

 門番A「……確かに、赤ずきん様に郵送された招待状です」
 赤ずきん「……? 私、招待状なんて貰ってないけど」
 シンデレラ「赤ずきんさん、し〜っ」

 シンデレラは、赤ずきんの口元に人差し指を当てて彼女を黙らせます。
 門番達は、そのことの気づいてない様子で、おとぎの城の正門を開いてくれました。

 シンデレラ「それでは、中をご案内しますね」

 シンデレラに連れられ、赤ずきんはお城の中へ入ります。
 正門を抜けると、そこはロビーになっていました。らせん状の階段と、赤い絨毯が敷き詰められているのが見えます。
 2人は階段を上がり、二階の通路をツカツカと歩いて行きます。
 しばらく歩いていくと、おそらく客室が並ぶ通路へ案内され、先頭を歩いていたシンデレラが、そのうちの1つの扉の前で止まりました。

 シンデレラ「ここが、赤ずきんさんの今日お泊まりになるお部屋です。中の物はご自由にお使いください。何かご用がありましたら、部屋の受話器で係りの者をお呼びください」
 赤ずきん「シンデレラさんは?」
 シンデレラ「私は、このあと用事がありますのでこの辺りで失礼いたします。では、ごゆっくり……」

 そう言い残して、シンデレラは赤ずきんを客室において、その場を離れました。
 1人部屋に佇む赤ずきん。少女は、アゴに手を当ててふむと考えます。

 赤ずきん「……私、電話使ったことないのよね。そもそも、なんで私はお城に連れてこられたのかしら? 私である理由は? 目的は? ……何にしても分からないことが多すぎるわね。ていうか、何か大事なことを忘れているような…………ああっ!!」

 その瞬間、赤ずきんは思い出します。
 赤ずきんの家は、ジュウガミの策略によって破壊され、家具などはとても使い物にならないくらい壊されてしまいました。このままだと、今後赤ずきんの家は、ミニマリストより何もない部屋で生活することになります。
 というより、早く家を元通りにしないと、ママに怒られる。赤ずきんの両親が帰ってくるのは、明日なのです。

 赤ずきん「こうしてはいられないわ! 早く森に帰らないと!?」

 赤ずきんは客席の扉へ行き、ノブを回します。
 しかし、扉は押しても引いてもビクともしません。

 赤ずきん「閉じ込められた? だったら、窓から……」

 客室の窓は、開閉のできない『はめ窓』と、換気用の小さな窓しかありません。
 赤ずきんは小さな窓から潜り抜けようと試みますが、小柄な彼女でも、その小さな窓を通ることはできませんでした。

 赤ずきん「待てよ? 確か、電話で係りの人を呼べるって言ってたわね。なら、その人に頼んで。え〜っと、これはどうやって使えば良いのかしら?」

 赤ずきんは、受話器を構いながら試行錯誤を繰り返し、何とか通信を繋ぐことができました。
 そして受話器からは、少年と呼べるくらい幼い声がして来ました。

 少年『こちら、フロントです。どういった御用件でしょうか?』
 赤ずきん「外出がしたいのだけど、扉を開けてくれないかしら?」
 少年『"舞踏会"の参加者様は、安全のため城の係員の同行がなければ客室の外へは出れませんが、構いませんか?』
 赤ずきん「……城の外へ出ることは?」
 少年『申し訳ございません。舞踏会の参加者様は舞踏会が終わるまで城を出ることができません』
 赤ずきん「……取り敢えず、私の部屋まで来てくれる?」
 少年『かしこまりました』

 しばらくして、赤ずきんがいる客室の扉がコンコンと叩かれる。

 赤ずきん「どうぞ」
 少年『失礼します』

 扉の方からカチャリと解錠される音がして、ゆっくりと扉が開かれました。
 現れたのは、見た目から察するに15歳くらいの男。彼は乱れ一つない真っ黒なスーツを着込んでいました。
 その、少年と呼べる男は、優しそうな笑みを浮かべて赤ずきんに軽くお辞儀をします。

 少年「こんばんは赤ずきん様。僕が今回、赤ずきん様の身の回りのお世話をさせていただきます。どうぞお見知り置きを」
 赤ずきん「初めまして、ご丁寧にどうもありがとう。早速で悪いんだけど、城の外へ連絡を取る方法を教えてくれないかしら?」
 少年「赤ずきん様は、現在城の外へ出ることができません。外の方々と連絡を取る手段として、電話などがございますが?」
 赤ずきん「……うち、電話とか家に置いてないのよね。田舎だから」
 少年「でしたら、手紙をお送りするという手段がございます。赤ずきん様がお書きした手紙をおとぎの森まで郵送します。今日中にお書きになれば、明日の朝までには届くかと」
 赤ずきん「なるほど、手紙ね。じゃあ、早速書いてみるわ」

 正直、赤ずきんはあまり家には帰りたくありませんでした。どう転んでも、赤ずきんがママに怒られることは確実だったからです。せめて犯人のジュウガミを捕まえて差し出そうと考えましたが、それが失敗に終わった以上、ママに会うことは危険だと思ったのです。
 折角だから、ほとぼりが冷めるまでこの城に匿ってもらおう。
 そんなことを思いながら、赤ずきんは手紙を書きます。
 書いたのは二通。両親の文と、家で待っているはずの白雪姫の文。
 両親には「家が壊れちゃってごめんなさい」の旨を伝え、白雪姫には「そのうち帰るから心配しないで」という内容の文章を書きました。

 赤ずきん「書けたわ!」
 少年「では、お手紙をお預かりいたします。後ほど郵送先に渡します故」

 赤ずきんは少年に手紙を渡しました。

 少年「その他に、何かご要望はございますか?」
 赤ずきん「係員だっけ? 私の頼みを聞いてくれるのよね」
 少年「その通りです、赤ずきん様。参加者である貴方様をサポートするのが、今回の僕に下された仕事です」
 赤ずきん「リンゴジュースが飲みたい!」
 少年「かしこまりました」

 少年は、客室に置いてあった冷蔵庫から、ペットボトルを取り出しました。
 中には、透明な液体が入っていて、少年はそれをグラスに注ぎました。

 少年「お待たせいたしました。どうぞ」
 赤ずきん「……? これ、ただの水じゃないの?」
 少年「いえいえ、これは列記とした『リンゴジュース』です」

 赤ずきんは、首を傾げながらも少年から渡されたグラスを手に取り、恐る恐るその透明な液体を口につけてみます。

 赤ずきん「……あ、本当だ。確かにリンゴの味がするわ」

 透明なリンゴジュースもあるのか、と。赤ずきんは、自分の常識とは違う、外の世界に軽い感動を覚えました。
 赤ずきんはグラスの中身を飲み干し、満足そうに椅子に座ります。

 赤ずきん「そうだ。折角お城に来たんだし、お城の中を見学したいわ」
 少年「いえですが、夜も更けていますし、そろそろおやすみになられた方が……」
 赤ずきん「さっき寝たから、まだ眠くないの」
 少年「……かしこまりました。では、お城の中をご案内いたします」

 そして赤ずきんと少年は扉を開いて、客室を後にします。
 おとぎの城に連れてこられた赤ずきん。この後、どんなことが待ち受けているのでしょうか?
 次回、第2話「赤ずきんちゃんのために」。ご期待ください。

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