ああ、赤ずきんちゃん。
第5話「赤ずきんちゃんと信頼」
昔々……と言ってもそんなに昔ではありません。ある所の小さな村に『ヘンゼルとグレーテル』という双子の兄妹がおりました。
双子はごく普通の家庭で育てられましたが、近年の飢饉に悩まされ、食べ物が無く、家族は非常に困っていました。
そして遂に、苦渋の決断で双子の両親は子供達を森に捨ててしまいます。双子は捨てられてなるものかと、森から家に帰っては両親を説得しましたが、食べ物が無いことにはどうしようもありません。結局、双子は家を離れ、森の中で自給自足の生活をする事になりました。
しかし双子は、森での生活の仕方などまるで知識がありませんでした。双子がどうしたものかと困っていたその時、森の中で女の子と、その女の子をつけまわす変質者の姿を見つけました。
女の子は非常に困っている様子でしたが、あいにく双子はそれどころでは無く、その2人を見過ごしました。
しかし次の日も、その次の日も女の子と変質者は森を駆け抜けています。
あまり関わり合いたくありませんでしたが、他に人はいませんし、このままでは双子は飢え死にしてしまいます。何か森で生活していくアドバイスなどを貰おうと、双子は2人に話し掛けてみました。
最初に変質者の方に話し掛けたのは、逃げる女の子の脚を止めるのは悪いと思ったからです。
その変質者は、狩人という人物でした。
狩人『ああ? 森での生活の仕方を知りたい? そんなの適当に家建てて食べ物かけ集めればいいだろう。そこの川の近くに食べれる木ノ実が実ってるから、それを食べれば飢えが凌げる』
狩人はそれだけ行って、女の子を再び追い駆けていきました。
双子は言われた通りに川へと向かうと、やがて大粒の実が生る木を見つけたので、その実を食べてお腹を膨らませます。
次の日、双子はまた狩人を見つけました。今日は女の子を追い駆けていません。
狩人『ん、またお前らか。こんな森で何をやってるんだ? ……親に捨てられた? なるほど、なら住む家も無いんだろう。俺の家を貸してやるから好きに住め」
双子は変質者の家に泊まるのはどうかと遠慮しましたが、狩人は自分の家にほとんど泊まらないそうです。どうせ使わないから貸す分には困らない、と。
双子も住む場所には困っていたので、狩人の家に住まわせてもらう事になりました。狩人は双子を家に連れて行くと、そのままどこかへ去っていきました。
それから、双子は狩人に色んなことを教わりました。
食べ物のこと、森のこと、動物のこと、危険なこと、剣のこと、そして自分の生い立ちのこと。
森で生きて行くには必要なことだったので、双子は狩人の話を一生懸命聞きました。そして、双子は森で生き抜くすべを手に入れたのです。
ある日、双子は狩人に聞きました。「どうして自分達を親切にしてくれるのか、どうして自分達にたくさんのことを教えてくれたのか?」と。
狩人は答えました。「特に理由は無い。ただ、俺にも昔は弟子がいたから、教える事には慣れていただけだ」と。
それを聞いて、双子は狩人を信頼することにしました。少し変わった人だけど、きっとこの人は悪い人では無い。そう、思ったのです。
   ***
ヘンゼル「こうして俺達双子は、狩人のおっさんを『師匠』『先生』と慕い、俺達はその弟子としてこの森で生きていく事に決めたんだ」
白雪姫「そ、そうだったんですか……」
ヘンゼルの昔話を一通り聞いて、白雪姫はそっと呟きました。
そしてその隣では、赤ずきんがプンプンと怒っています。
赤ずきん「ていうか貴方達、私が襲われてるっていうのに見過ごしていたのね!」
グレーテル「まあ、私達も当時はそれどころじゃなかったからね」
ヘンゼル「サーセン」
赤ずきん「……今更いいけど。ただ1つ気になる事があるんだけど聴いていいかしら?」
ヘンゼル「なんだ?」
赤ずきんは屋根の上を指差します。
狩人「ヒャッヒャー! 良いね赤ずきんちゃん! その怒った顔もすごく素敵だ!! 今すぐこの俺がその可愛い肢体ごと抱きしめてあげるから、ちょっと待ってくれよぉ〜。ヒャッハァー!!」
赤ずきん「アレをどう認識したら"信頼"出来るのか私には分からない!! どう見ても頗る怪しいのに!?」
赤ずきんがこう言うのも無理ありませんでした。双子の兄妹は赤ずきんと目を合わせないようにぷいっとそっぽを向きます。
ヘンゼル「いや、まあ……あの時は俺達もいっぱいいっぱいだったというか……。"吊り橋効果"? 色々追い詰めらていたからつい魔が差したというか……」
グレーテル「……実際、助けてもらったのは事実だし」
双子はそんな事を呟いています。しかし赤ずきんは口を開きます。
赤ずきん「オオカミさんは見た目は怖いけど良い人だから信頼できる。魔女のおばさんも怪しい雰囲気だけど子供好きの良い人だわ」
オオカミ「いや〜照れるね」
魔女「ヒョッホッホ」
赤ずきん「でも! あの人は、狩人のおじさんは"違う"でしょう!?」
赤ずきんはキッパリと言い放ちます。それは、長年狩人に追い駆け回された被害者としての強い意思ある発言でした。
ヘンゼル「こ、子供好きには変わりないから……」
赤ずきん「『子供好き』のベクトルが違うから!!」
全くもってその通りです。双子はぐうの音も出ませんでした。
一方その頃、狩人はお菓子の家の屋根からピョンと地面に降り立ち、皆の方を向きます。
そこで見知った顔があったので、狩人は声をかけてきました。
狩人「おや? ヘンゼルとグレーテル、こんな所で何やってるんだ?」
ヘンゼル「それはこっちの台詞ですよ師匠。5日くらい家に戻らないと思ったらこんな場所に居て」
グレーテル「今の今までどこへ行ってたんですか?」
狩人「俺? 俺はいつも通り、赤ずきんちゃんを3キロくらい離れた場所からストーキングしてたけど?」
ヘンゼル&グレーテル『ああ…………』
双子は、どう反応したら良いのか分からないといった表情を浮かべました。ヘンゼルは項垂れ、グレーテルは頭を抱えています。
赤ずきん「狩人のおじさん! 悪いけど今日は貴方に構っている暇はないのよ! これから皆んなで料理をする事になってるんだから邪魔しないで! あと、ドラゴンを倒してくれてありがとう!」
狩人「礼を言えるとは大したもんだ! 因みにあのドラゴンは幻術で作られたニセモノだ。ただの現し身。だから赤ずきんちゃんを襲うことは無かったぞ」
ヘンゼル「あっ、そうだったんすか」
魔女「ヒョッホ、ちょっと驚かそうとしただけなんだけどねぇ〜」
魔女は「すまんすまん」と言いながらヒョッホッホと笑います。
狩人「まあそんな事はどうでもいい。俺は赤ずきんちゃんが手に入ればそれでいいんだからなぁ〜!」
赤ずきん「むむむぅ……」
白雪姫「ど、どうしましょう。逃げた方がいいのでは……」
オオカミ「君ら、狩人さんと仲良いなら説得とか出来ないの?」
ヘンゼル「無理無理。あの人超自由奔放だから、俺らが止めたって言うこと聞かないよ」
グレーテル「かと言って、先生と戦っても勝てる気しないんだが。この人、熊を一刀両断するんだぞ」
赤ずきん「熊を倒すくらいならオオカミさんだってやれるわよ!」
オオカミ「流石に一刀両断は無理だけどね」
赤ずきん「因みに私も熊なら倒したことあるわよ」
白雪姫&ヘンゼル&グレーテル『!?』
そうやって皆が話している間にも、狩人は赤ずきんにジリジリと近づいていきます。
これは逃げるしかない、と赤ずきんが駆け出そうと思ったその時でした。赤ずきんは狩人のポケットから何かが出ている事に気がつきます。
よくよくそれが何なのか確認してみると、それは青色の木ノ実で、川の近くに実る食べられる代物だと言うことが分かりました。
赤ずきん「ふむ、狩人のおじさん。貴方ちょうどいい事に食べ物を持っているわね」
狩人「ん? ああそうだな。腹が減ったら食べようと思って、ポケットに入れていた」
赤ずきん「なるほど。…………狩人のおじさんは、料理って出来る?」
狩人「独り身が長いからな、一通りならこなせる」
赤ずきん「よし決定! 狩人のおじさんも、私達と一緒に料理しない?」
オオカミ&白雪姫&ヘンゼル&グレーテル『……え?』
狩人「ん、ああ構わないけど」
赤ずきん「やった! じゃあついでに魔女のおばさんも参加しようよ」
魔女「薬品作りなら心得てるよ。私も参加させてもらおうかい」
赤ずきん「良いよ!」
オオカミ&白雪姫&ヘンゼル&グレーテル『ええっ!?』
赤ずきんの突然のお誘いに、他の4人は声を揃えて驚きました。
次回、最終話「赤ずきんちゃんの手料理」。ご期待ください。
双子はごく普通の家庭で育てられましたが、近年の飢饉に悩まされ、食べ物が無く、家族は非常に困っていました。
そして遂に、苦渋の決断で双子の両親は子供達を森に捨ててしまいます。双子は捨てられてなるものかと、森から家に帰っては両親を説得しましたが、食べ物が無いことにはどうしようもありません。結局、双子は家を離れ、森の中で自給自足の生活をする事になりました。
しかし双子は、森での生活の仕方などまるで知識がありませんでした。双子がどうしたものかと困っていたその時、森の中で女の子と、その女の子をつけまわす変質者の姿を見つけました。
女の子は非常に困っている様子でしたが、あいにく双子はそれどころでは無く、その2人を見過ごしました。
しかし次の日も、その次の日も女の子と変質者は森を駆け抜けています。
あまり関わり合いたくありませんでしたが、他に人はいませんし、このままでは双子は飢え死にしてしまいます。何か森で生活していくアドバイスなどを貰おうと、双子は2人に話し掛けてみました。
最初に変質者の方に話し掛けたのは、逃げる女の子の脚を止めるのは悪いと思ったからです。
その変質者は、狩人という人物でした。
狩人『ああ? 森での生活の仕方を知りたい? そんなの適当に家建てて食べ物かけ集めればいいだろう。そこの川の近くに食べれる木ノ実が実ってるから、それを食べれば飢えが凌げる』
狩人はそれだけ行って、女の子を再び追い駆けていきました。
双子は言われた通りに川へと向かうと、やがて大粒の実が生る木を見つけたので、その実を食べてお腹を膨らませます。
次の日、双子はまた狩人を見つけました。今日は女の子を追い駆けていません。
狩人『ん、またお前らか。こんな森で何をやってるんだ? ……親に捨てられた? なるほど、なら住む家も無いんだろう。俺の家を貸してやるから好きに住め」
双子は変質者の家に泊まるのはどうかと遠慮しましたが、狩人は自分の家にほとんど泊まらないそうです。どうせ使わないから貸す分には困らない、と。
双子も住む場所には困っていたので、狩人の家に住まわせてもらう事になりました。狩人は双子を家に連れて行くと、そのままどこかへ去っていきました。
それから、双子は狩人に色んなことを教わりました。
食べ物のこと、森のこと、動物のこと、危険なこと、剣のこと、そして自分の生い立ちのこと。
森で生きて行くには必要なことだったので、双子は狩人の話を一生懸命聞きました。そして、双子は森で生き抜くすべを手に入れたのです。
ある日、双子は狩人に聞きました。「どうして自分達を親切にしてくれるのか、どうして自分達にたくさんのことを教えてくれたのか?」と。
狩人は答えました。「特に理由は無い。ただ、俺にも昔は弟子がいたから、教える事には慣れていただけだ」と。
それを聞いて、双子は狩人を信頼することにしました。少し変わった人だけど、きっとこの人は悪い人では無い。そう、思ったのです。
   ***
ヘンゼル「こうして俺達双子は、狩人のおっさんを『師匠』『先生』と慕い、俺達はその弟子としてこの森で生きていく事に決めたんだ」
白雪姫「そ、そうだったんですか……」
ヘンゼルの昔話を一通り聞いて、白雪姫はそっと呟きました。
そしてその隣では、赤ずきんがプンプンと怒っています。
赤ずきん「ていうか貴方達、私が襲われてるっていうのに見過ごしていたのね!」
グレーテル「まあ、私達も当時はそれどころじゃなかったからね」
ヘンゼル「サーセン」
赤ずきん「……今更いいけど。ただ1つ気になる事があるんだけど聴いていいかしら?」
ヘンゼル「なんだ?」
赤ずきんは屋根の上を指差します。
狩人「ヒャッヒャー! 良いね赤ずきんちゃん! その怒った顔もすごく素敵だ!! 今すぐこの俺がその可愛い肢体ごと抱きしめてあげるから、ちょっと待ってくれよぉ〜。ヒャッハァー!!」
赤ずきん「アレをどう認識したら"信頼"出来るのか私には分からない!! どう見ても頗る怪しいのに!?」
赤ずきんがこう言うのも無理ありませんでした。双子の兄妹は赤ずきんと目を合わせないようにぷいっとそっぽを向きます。
ヘンゼル「いや、まあ……あの時は俺達もいっぱいいっぱいだったというか……。"吊り橋効果"? 色々追い詰めらていたからつい魔が差したというか……」
グレーテル「……実際、助けてもらったのは事実だし」
双子はそんな事を呟いています。しかし赤ずきんは口を開きます。
赤ずきん「オオカミさんは見た目は怖いけど良い人だから信頼できる。魔女のおばさんも怪しい雰囲気だけど子供好きの良い人だわ」
オオカミ「いや〜照れるね」
魔女「ヒョッホッホ」
赤ずきん「でも! あの人は、狩人のおじさんは"違う"でしょう!?」
赤ずきんはキッパリと言い放ちます。それは、長年狩人に追い駆け回された被害者としての強い意思ある発言でした。
ヘンゼル「こ、子供好きには変わりないから……」
赤ずきん「『子供好き』のベクトルが違うから!!」
全くもってその通りです。双子はぐうの音も出ませんでした。
一方その頃、狩人はお菓子の家の屋根からピョンと地面に降り立ち、皆の方を向きます。
そこで見知った顔があったので、狩人は声をかけてきました。
狩人「おや? ヘンゼルとグレーテル、こんな所で何やってるんだ?」
ヘンゼル「それはこっちの台詞ですよ師匠。5日くらい家に戻らないと思ったらこんな場所に居て」
グレーテル「今の今までどこへ行ってたんですか?」
狩人「俺? 俺はいつも通り、赤ずきんちゃんを3キロくらい離れた場所からストーキングしてたけど?」
ヘンゼル&グレーテル『ああ…………』
双子は、どう反応したら良いのか分からないといった表情を浮かべました。ヘンゼルは項垂れ、グレーテルは頭を抱えています。
赤ずきん「狩人のおじさん! 悪いけど今日は貴方に構っている暇はないのよ! これから皆んなで料理をする事になってるんだから邪魔しないで! あと、ドラゴンを倒してくれてありがとう!」
狩人「礼を言えるとは大したもんだ! 因みにあのドラゴンは幻術で作られたニセモノだ。ただの現し身。だから赤ずきんちゃんを襲うことは無かったぞ」
ヘンゼル「あっ、そうだったんすか」
魔女「ヒョッホ、ちょっと驚かそうとしただけなんだけどねぇ〜」
魔女は「すまんすまん」と言いながらヒョッホッホと笑います。
狩人「まあそんな事はどうでもいい。俺は赤ずきんちゃんが手に入ればそれでいいんだからなぁ〜!」
赤ずきん「むむむぅ……」
白雪姫「ど、どうしましょう。逃げた方がいいのでは……」
オオカミ「君ら、狩人さんと仲良いなら説得とか出来ないの?」
ヘンゼル「無理無理。あの人超自由奔放だから、俺らが止めたって言うこと聞かないよ」
グレーテル「かと言って、先生と戦っても勝てる気しないんだが。この人、熊を一刀両断するんだぞ」
赤ずきん「熊を倒すくらいならオオカミさんだってやれるわよ!」
オオカミ「流石に一刀両断は無理だけどね」
赤ずきん「因みに私も熊なら倒したことあるわよ」
白雪姫&ヘンゼル&グレーテル『!?』
そうやって皆が話している間にも、狩人は赤ずきんにジリジリと近づいていきます。
これは逃げるしかない、と赤ずきんが駆け出そうと思ったその時でした。赤ずきんは狩人のポケットから何かが出ている事に気がつきます。
よくよくそれが何なのか確認してみると、それは青色の木ノ実で、川の近くに実る食べられる代物だと言うことが分かりました。
赤ずきん「ふむ、狩人のおじさん。貴方ちょうどいい事に食べ物を持っているわね」
狩人「ん? ああそうだな。腹が減ったら食べようと思って、ポケットに入れていた」
赤ずきん「なるほど。…………狩人のおじさんは、料理って出来る?」
狩人「独り身が長いからな、一通りならこなせる」
赤ずきん「よし決定! 狩人のおじさんも、私達と一緒に料理しない?」
オオカミ&白雪姫&ヘンゼル&グレーテル『……え?』
狩人「ん、ああ構わないけど」
赤ずきん「やった! じゃあついでに魔女のおばさんも参加しようよ」
魔女「薬品作りなら心得てるよ。私も参加させてもらおうかい」
赤ずきん「良いよ!」
オオカミ&白雪姫&ヘンゼル&グレーテル『ええっ!?』
赤ずきんの突然のお誘いに、他の4人は声を揃えて驚きました。
次回、最終話「赤ずきんちゃんの手料理」。ご期待ください。
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