公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お家騒動(1)




 ――白亜邸。

 そこは、アルドーラ公国の離宮の一つであり、先々代のリースノット王国の王女が嫁いだ王妃のために作られた建物。
 白亜邸の周囲には白の鈴蘭が植えられており、その鈴蘭も白亜邸の名前の由来となっている。

「ユウティーシア様、どちらに?」

 花畑の中で、横になり空を流れる雲を眺めていると、スペンサー王子が付けてくれたメイドであるエリンさんの声が聞こえてきた。

 私は、スカートの皺を整えながら立ち上がる。

「エリンさん、どうかしましたか?」
「――そちらにいらっしゃたのですね?」
「ええ、どうかしたの?」
「それが、レイリトン子爵が来られてまして――」
「レイリトン子爵が? スペンサー様は?」
「いまはアルドーラ公国の王都に出向いていまして不在です」
 
 ……そういえば、ここ2日間見ていなかった気が――。

 王位簒奪レースの開催が2か月後とスペンサー王子は言っていたから、私としてはそのつもりでボーッと毎日を過ごしていたら、王子の事をすっかりと忘れてしまっていた。

「それで、私を呼びにきたの?」
「はい」
「そう――、困ったわね」

 対外的には、内乱を起こした筆頭貴族を抑え込むために私はスペンサー王子と婚約していると言う事になっている。
 でも――、それは、あくまでも方便なわけで……、実際は、そんな事はまったくないわけで……。

 そんな私が、勝手に何かを決めたら、スペンサ―王子に迷惑が掛かる事になる。
 以前よりも、少しは彼もまともになったのだから。
 無暗に動くのは控えた方がいい。

「エリンさん。淑女が、政に干渉するのはスペンサー様の名誉のためにも良くないと思うの」
「――ですが……」

 エリンさんの表情は切羽詰まっている。

「仕方ないわね」

 心の中で溜息をつきながら、彼女の言葉に答えるように私は白亜邸に向かう。

「エリンさん、ところでレイリトン子爵はどちらで待っていられるのですか?」
「百合の間になります。ですが――、その前にお召し物を……」
「そういえば、そうね」

 アルドーラ公国に来て、レイクアイランド教会で会談が終わってからと言うもの、私は基本的に青か白を基調とした金色の刺繍が服裾に縫われているワンピースを好んできている。
 ドレスよりは、ワンピースの方が体を締め付けなくて楽だからというのが一番の理由。

 それに離宮に居る限り、スペンサー王子以外には見せる殿方はいないという理由もあった。

 すぐに自分の部屋へと戻り、久しぶりに百合の刺繍が入ったドレスを着る。
 もちろん化粧は口紅に留めた。

 白亜邸の中でも一際、格式の高い百合の間と呼ばれる応接室へとノックのあとに入る。
 室内に入ると、部屋の中にはレイリトン子爵が座っていて私を見てくると立ち上がり臣下の礼を取ると――。

「これはユウティーシア・フォン・シュトロハイム様。今回、急な要件で伺いましたことをお詫びいたします」
「お気になさらずに、それよりも諸外国――、セイレーン連邦との交渉は如何でしょうか?」
「実は、その件でフレベルト王国からの話が来ておりまして――、窮を要したために伺いました」
「フレベルト王国? たしか、セイレーン連邦に加入している砂漠の王国でしたわよね?」
「はい。それで急ぎと思ってきたのですが……」
「そうでしたか……、それでは、早馬を用意させますので手紙は王都まで騎士を遣わせますので、ご安心ください」
「分かりました。よろしくお願いします」

 レイリトン子爵から手紙を2通預かると、彼は要件があるからと、すぐにその場を跡にした。 
 



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