公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

雨音の日に(18)




 浴室から出たあと、会食に向けての準備を始める。
 まずは、エリンさんの生活魔法で髪の毛を乾かす。
 その後、会食で着るドレスを見繕い着付けを行ったあと、髪に香油を塗り整える。
 最後に化粧を行い用意が整った頃には、「エリン、まだか?」と、言うスペンサー王子の焦れた声が扉の外から聞こえてきた。

 本格的な貴族の会食に出るのは、じつは私としては初だったりする。
 そのため、どれだけ時間が掛かるか正直見えなかった。
 あとは、エリンさん一人に着付けや髪結いを任せてしまったことも問題だったのかも知れない。
 
「スペンサー様、申し訳ありません」

 エリンさんが、室内の扉を少しだけ開けて頭を下げている。
 別に彼女が悪いわけではない。
 私が一人で湯浴みをしたいと言ったのだから、全ての責任は私にある。
 私は、エリンさんが用意してくれた黒いヒールを履き立ち上がり部屋の扉の方へ向かう。
 そして半開きになっていた扉を開ける。
 いきなり扉が開いたことでスペンサー王子は呆気に取られた顔で私の方を見てきた。

「スペンサー王子、エリンさんは悪くはありません。私が一人で入浴をしたいと無理を言ったのです。攻めるなら私にしてください」
「…………う――、わ、わかった」

 彼の視線が、大きく開いた胸元に注視しているのが分かってしまう。
 もう少し、配慮してもらいたいものだけれど……。
 殿方なら仕方ないのかなと、私は内心溜息をつく。

「スペンサー様、ユウティーシア様のお姿は如何でしょうか?」
「良いんじゃないか……、とても似合っている。それよりも、その服は――」
「はい。先々代の王妃様のドレスです。何着かお持ちしたのですが、やはり黒髪の方には黄色のドレスは良く似合われます」
「そうだな……」

 彼は頬を赤く染めながらエリンさんの言葉に答えているけれど、その視線はやはり私の胸に向けられている。
 男の人は胸が好きだものね――、と、納得しながらテーブルの上に置かれていたストールを羽織る。
 ストールの色は白。
 所々に黄色い小麦の刺繍が施されていた。
 ドレスも白を基調としているけど、縁には金糸で麦穂の刺繍が施されていて下品すぎないように細かな配慮がなされている。

「それでは、行ってまいりますね」
「畏まりました」

 エリンさんが頭を下げながら見送ってくれたあと、私はスペンサー王子と共に会食が行われるダンスホールへと向かった。



 ――会食が終わったのは、2時間後。
 思ったよりも時間が短かったのは、私がお酒を飲んだから――。

「大丈夫か?」

 スペンサー王子に抱き上げられて教会の中に用意された一室に運ばれた私は、ベッドに降ろされたあと、頬の火照りを感じながら必死に睡魔と戦っていた。
 転生前にもお酒は飲んだことはあった。
 アルコールには強い方ではなかったけど、倒れるような事はなかった。

 ……でも、転生して女性になってから本当に体がアルコールを受け付けない体質になってしまった。
 それを再確認してしまう。

「――ええ、大丈夫。私のせいでごめんなさい」
「いや――、君のおかげで貴族も話を聞いてくれることになった」
「それは、よかったわ……」

 自然と瞼が落ちてくる。
 意識が落ちる直前、唇に何か触れるような感触を感じて――。




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