公爵令嬢は結婚したくない!
雨音の日に(7)
「スペンサー王子――」
「……」
「私、何か余計な事をしてしまったでしょうか?」
彼は、頭を左右に振って私を見てくる。
「気にすることはない。こちらの問題だ。それよりも朝食にしよう」
「…………はい」
スペンサー王子は、気にした素振りを見せない。
彼女が――、リーンさんがスペンサー王子に好意を見せていたことに気がついていたはずなのに。
でも、私はアルドーラ公国の人間では無い。
事情に精通している訳でもないのに、余計なことをするのはスペンサー王子や他の従者に迷惑になる。
スペンサー王子が両手を叩くと3人ほどのメイドの服装をした女性が入ってきて席を勧めてくれた。
私は椅子に座り、「苦手な物はありませんか?」と、聞かれた事に対して「いえ。特には――」と答えるといくつかの料理を取り分けられた小皿が目の前に並べられる。
「ユウティーシア嬢、何かあったらそこのエリンに何かを言ってくれればいい」
「エリンでございます。御用がありましたら、何でも言いつけてくださいませ」
スカートの裾を摘まみながら頭を下げてくる目元が明るい女性。
髪の色はリーンさんと同じで赤く、肌の色も褐色肌で、どちらかと言えばモンゴロイドに似ている。
年齢は20歳後半と言ったところかしら?
「よろしくお願いしますね」
先ほどまでのリーンさんとスペンサー王子、そして私とのやり取りが嘘のように食事は静かなまま進む。
私からは何かを尋ねるような事はないし、スペンサー王子も先ほどの事については触れて欲しくないのだから、会話が無いのは仕方ないと思うけど……。
――少し味気ない。
メリッサさんやアクアリードさんは大丈夫かな?
「手が止まっているようだが……、やはり食欲がわかないか?」
気が付けば、フォークとナイフを動かしている手が止まっていた。
色々と考えてしまったからだけれども……。
「少し体調が……」
「そうか――、それなら少し気分転換に俺の公務に同席しないか?」
「公務で?」
公務で気分転換とはコレは如何に? と、心の中で突っ込みを入れつつ、王位継承権を剥奪された彼に公務がある事に私は首を捻る。
「おま――、コホン。ユウティーシア嬢も、町の市政などに関わっているのであろう? それなら、他の国の市政を見てみるもの良いのではないのか?」
いま、お前って言いかけなかった?
まぁ……、別にいいけど……。
「そうですわね」
たしかに他国の市政については些か興味があることは確か。
それに何の責任も発生しない状況で、他人の政の采配を見るのは見学もそうだけど違う見方をするなら気分転換にもなるかも知れない。
「そうか。エリン、ユウティーシア嬢に会談用のドレスの用意を――」
「畏まりました」
エリンさんは頭を深々と下げる。
食事後、私は用意された薄い小麦色を基調としたドレスを着させられた。
もちろんコルセットなども用意されていたけど、最近は殆ど食事が喉を通らなかったこともあり、締め付ける必要もなくドレスを綺麗に見せるためだけに着けさせられたにとどまっている。
首飾りと耳飾りは、銀細工であった。
百合の花をモチーフとした細かな細工が施されていて、花の実の部分にはミトンの町で取れる白真珠が使われている。
ちなみに私は、ミトンの町で真珠が取れるという話は聞いたことがない。
――と言うより、そこまで詳細な情報は商工会議には上がってこない。
「とてもお綺麗ですわ!」
着付けを手伝ってくださったエリンさんや、他のメイドの方々は褒めてくれるけど、それにしても、裏生地にサテンを使っているのは初めて着たけれど、いつもと違ってとても着心地がいい。
アガルタの世界では裏生地という概念が無いので、アルドーラ公国の国力が衣服にまで及んでいることを実感すると他国も色々と考えていることが分かってしまう。
「ありがとうございます」
たしかに裏生地にまで考えが回るのなら、私が着ている下着を作ることにも着手するのは普通なのかも知れない。
「それにしても、少しだけ派手ではありませんか?」
姿見の前で様相を確認するけれど、垢抜けたような気がする。
「そんなことありませんわ。アルドーラ公国は、国旗のシンボルが小麦ですので、そこから黄色は国を代表する者が、外交の場で着衣することになっているのです」
「外交?」
先ほど公務とか言っていたけど市政って言っていたよね?
エリンさんが、私の言葉にニコリと微笑み返してくる。
「何か?」
「今、外交の場で着用する色と仰られませんでしたか?」
「気のせいです」
うーん。
気のせいなのかな?
やっぱり私は疲れているのかも知れない。
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