公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(20)




 私達が乗ったエレベーターは降下していく。
 数分ほど経ったところで減速していき扉が開くとエルフさんが先に下りる。
 彼女のあとを追うようにして私もエレベーターから降りると無数の鳥たちが湖面から飛び立つ姿が目に映った。
 
「これは……」

 天井が――、地下のはずなのに天井が見えない……。
 それどころか。

「空があるの? こんな地底に? ここって地底よね?」
「肯定です。上層階層は地下600メートルの場所に位置しますが下層階層は、地下10000メートルに位置します。空に見えるのは人の肉眼では識別できないほどの高さを持つからです。それに――」
「なるほど……、レイリー散乱現象から、空が見えているのね」
「はい。限りなく神代文明時代の地表と大気を再現した空間になっています。この空間だけでユウティーシア様が暮らしていたリースノット王国と同等の面積を誇ります」
「――え?」

 彼女の言葉に私は戦慄を覚えた。
 簡単に彼女は言ってのけたけど、リースノット王国だって小国とは言われていても人口3万人を超え、さらにはその領民を飢えさせない程の農耕地を国土として抱えているのだ。その国と同等の面積と言われても俄かには信じがたい。

「もともと存在していた空間なの?」
「いえ、ここは神代文明時代後期に作られた場所となっています。採掘を行い環境を整えるまで10年の月日が掛ったとされています」
「――10年!? この、広大な空間を?」

 私は、エレベーターから離れて周囲を見渡す。
 川があり、湖があり、遠くには山々まで存在している。
 距離からしても数十キロはあるはずで……。
 それを、わずか10年で採掘するなんて……、そんな技術を持っているなんて地球の技術と比べても明らかにオーバーテクノロジーすぎる。

「はい。ただ、本来は1年で完成させる予定のはずだったようですが……」
 
 エルフさんの言葉に私は額に手を当ててしまう。
 地球と比べて明らかに技術が遥かに上で……、そんな技術を持っていた文明がどうして今は地上に存在していないのかが不思議でならない。

「そ、そうなのね……」
「色々と疑問に持たれているかと存じます。我が主より――」
「説明をしてくれるということなのね?」
「はい」

 彼女のあとを着いていく。
 見たことが無い動物や鳥や昆虫の姿が至るところに見てとれる。
 どれもが、環境開発実験センターの産物だと言うのが何となくわかるけれど……。

 ――この地底世界を作った文明力があれば、ダンジョンから出てきた機械の化け物を作ることも出来るかもしれない。
 ――と、言うか間違いなく作れる。

「こちらになります」
 
 彼女に案内されたのは白い高層ビル。
 高さは100メートルをゆうに超えていると思う。
 奥行きは外から見た限りでは200メートルほどか。
 前世の記憶から、WBG(ワールド・ビジネス・ガーデン)に作りは近いと見当をつける。
 ただし、窓は見当たらないけど……。

 エルフさんに着いていくと、建物の壁が横にスライドする。
 そして建物の中に入ると暗かった通路に明かりが灯されていく。
 ただし、どこにも蛍光灯やライトの類の物が一切、見受けられない。

「明るくなりました」
「神代文明時代の魔法だろうか?」

 二人とも、私と同じように通路が明るくなったことに疑問を抱いているようで。
 そんな私達の疑問に答えることはなくエルフさんはまっすぐに通路をあるいていく。
 しばらく通路を歩き突きあたりまで来ると、エルフさんは立ち止まった。

「ユウティーシア様、こちらで主がお待ちです。コルク様とレオナ様は、ここでしばらくお待ちください」
「――え? 声が……」
「声が聞こえる」
「はい。お二人にも聞こえるように精神感応金属(オレイカルコス)を通して話しかけています。ここからのエリアは、彼女――、ユウティーシア・フォン・シュトロハイム様以外は入室が禁止されていますので、こちらでお待ちください」
「それは了承できないな」

 コルクさんは、ようやく話がついたことに安堵した表情を見せたあと険しい顔でエルフさんの提案を断った。
 それに続きレオナさんも同意見だったようで頭を横に振るう。




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