公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(4)




 冒険者ギルドで迷宮攻略の見学許可をもらった翌日、私はカベル海爵様の用意してくれた馬車で迷宮に向かっていた。
 同行しているのは、やはりというかカベル海爵様で。

「あの……、御仕事とか大丈夫なのですか? 総督府が破壊されてしまったのに……」

 そう、以前に不慮の事故によりエルノ地方を統括する総督府は謎の爆発で大破し崩れ落ちたのだ。
 事件の真相を知るのは私やメリッサさんにアクアリードさんくらいだけど、もしかしたら情報は冒険者ギルド経由でカベル海将の耳にも届いているかもしれない。

「大丈夫だ。一応、自宅を臨時の仕事場にしているからな」
「そうなのですか? 私なら一人で何とでもなりますので――」
「はぁー。まだ、そんな事を言っているのか? 魔力が殆ど回復していないのだろう? 昨日の様子から見るに男には殆ど慣れていないようだからな。客人に何かあれば我が家の問題にもなる。あまり気にすることはない」
「……はい」

 一日経てば魔力が回復すると思っていたけれど、殆ど魔力が回復していない。
 そのことを指摘されると私としても何も言えなくなってしまう。
 正直、私の肉体は魔力で強化しないと普通の女性よりも力がない。
 今までは巨大な魔力に物を言わせて普段から体を強化していたけど、魔力が無くなるだけで本当に非力になってしまった。
 いつもは片手で馬車を持ち上げられたのが懐かしい。

「カベル海将様、そろそろ到着します」

 御者席に座って馬を操っていた人の声が聞こえてきた。
 馬車の窓外を見ると大勢の人の姿が視界に飛び込んでくる。

「ずいぶんと人が多いです」
「ダンジョンに入れないというのは異常な事だからな。グランカスも、かなり本腰を入れて人材をかき集めたと見える」

 私の呟きにカベル海将様が言葉を返してくる。
 独り言だったので、私は引き攣った笑みしか思い浮かべることができなかった。
 馬車は、ダンジョン入り口から少し離れた場所に設置されている天幕の前に停まる。

「カベル、ずいぶんと早い到着だな」

 カベル海将様にエスコートされて馬車から降りるとグランカスさんが話しかけてきた。
 その後ろには、セイレーン連邦の冒険者ギルドから来たコルク・ザルトさんの姿が見える。

「つねに迅速に行動するのが船乗りの性分だからな」
「お前はいつもそれだな」

 グランカスさんとカベル海将様は男同士の語り合いを始めてしまう。
 正直、私にはついていけないので少し距離を取ってみていた。

「ティアさん、昨日ぶり!」

 笑みを浮かべて手を振りながらコルク・ザルトさんが近寄ってくる。
 
「先日は、助けて頂きましてありがとうございます」
「気にすることはないよ。君みたいな美人さんを助けるのは冒険者としての責務でもあるからさ」

 彼の言葉に私は内心首を傾げて、何て軽い人なのだろうと突っ込みを入れてしまう。
 それでも美人とか言われると悪い気はしない。

「あの、コルクさんはセイレーン連邦の方なのですよね?」
「そうだよ? 俺に興味を持ってくれたのかな?」
「……」
「無言は止めてくれよ! 照れくさいだろお」

 思わず何て答えていいのか迷ってしまい無言になってしまったのを変な風に捉えたのかコルクさんが困った表情をしている。

「いえ。あまり興味は無いのですが、遠い国から来られたと聞いたので少しだけ気になっただけです。本当に、興味は無いので勘違いしないでくださいね」
「ツンデレ!? これってツンデレってやつだよな!?」
「ツンもデレも存在していません」

 私は小さく溜息をつきながら答える。
 どうして、この人はこんなにテンションが高いのだろうと疑問に持ちながら。

「――ひどい! 俺の純情を弄んだんだね!」
「もう……」
「さて、冗談はこのくらいにしてそろそろ時間のようだね」

 コルクさんがダンジョンの方へと向かっていく。
 その後ろ姿を見送りながら変わった人よねと心の中で思いながらまっすぐダンジョンを見ていると、コルクさんが腰から剣を抜いた。
 
 鞘から引き抜かれた剣には柄のみが存在していて刀身が無い。

「どういうことなの?」

 あんな剣でどうするのか? と疑問を思い浮かべていると彼の手から柄に対して僅かに魔力が流れた痕跡が見えた。

「――あ、あれは!?」

 コルクさんが握っていた柄には半透明な青い刀身が存在していた。





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