公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

記憶と思いと(3)




「――え?」
「いや。こう見ても一応は元、冒険者だからな。多少は冒険者の魔力の有無を感覚的に感じることが出来るんだが……」
「グランカス。ユウティーシア嬢は、魔力欠乏症に掛かっているのだ」
「魔力欠乏症? あれだけ強大な魔力を持っている人間が?」
「本当のことだ。お前のところにも魔法石の発注を先日大量にしただろう?」
「なるほど……。何に使うのかと思っていたが、そのために使ったのか……」

 グランカスさんが、得心した様子で私とカベル海将に「とりあえず座ったらどうだ?」と語り掛けてくる。
 部屋の中には革張りの大きめソファーが2つあり、そのソファーを隔てるようにして木を削って作っただけのテーブルが置かれている。
 室内は、一言で言えば殺風景と言えば良いだろうか?
 壁は塗装もされておらず茶色い煉瓦が積まれたままの状態で、受付の場所は白一色で壁が塗装されていたので、少しばかり違和感がある。

 カベル海将様にエスコートされるように私は先にソファーに座る。
 座ったところで小さく声が漏れた。
 
「それで誰に絡まれた?」
「ハーゼルだ。きちんと教育をしておけ。お前んところに登録している冒険者だろう?」

 私が答える前にカベル海将様が答えてくれた。

「ああ、あいつか……。分かった、俺の方から言っておこう。それにしても運が良かったな! カベルを助けた時のユウティーシアだったら半殺しにされていたな! ハハハッハ」
「笑い事じゃないぞ? それよりも、お前のところの冒険者が俺の所に手紙を持ってきたが何かあったのか?」
「それがな……、ダンジョンに入れなくなっているんだ」
「ダンジョンに?」

 二人の話を聞いていた私は首を傾げながら口を開く。
 グランカスさんの視線がカベル海将様から私に向けられる。

「ああ。これは、一部の冒険者しか知らないことだが、ダンジョン入り口に石碑が突き立てられているんだ。その魔力の影響か知らないが、ダンジョンに入る入り口には見えない壁が存在している。そこで――、ユウティーシア嬢へ依頼をしようと思っていたのだ」
「えっと、私への依頼って強行突破ということでしょうか?」
「そうなる。ダンジョンは町や国に恵を与えるが、きちんと管理をしておかないと暴走を引き起こしかねないからな。だが……」
「――あっ、ごめんなさい」

 グランカスさんは私の力、つまり魔力、それは魔法を宛てにしていたからカベル海将様の元へ手紙を急いで持って行かせたのだろう。
 でも、その私が魔法を使えないとなると計画が大幅に狂ってしまう。

「気にすることはない」
「カベル海将様……」

 彼が私の頭に手を置いて諭すように言葉をかけてきてくれる。
 
「他にも方法は考えてあるのだろう?」
「まあな……」

 少し怒った口調でカベル海将様が、グランカスさんを問い詰めると彼は肩を竦めるようにしてヤレヤレと言った様子で口を開く。

「Sランク冒険者を一人呼んである」
「Sランク冒険者?」

 グランカスさんの言葉に、私は疑問を浮かべてしまう。
 そういえば、冒険者ギルドというのがあるのは知っているけど、運営やシステムを私は知らない。
 
「そうか。リースノット王国では、冒険者ギルドは無かったな」
「はい。冒険者ギルドは探索がメインの稼業と聞いておりますので、リースノット王国には殆ど存在していません」
「まぁ、冒険者は探索だけがメインでは無いんだがな」
「そうなのですか?」
「ああ。冒険者の仕事は主に分けて3つ存在する。一つはダンジョン探索だな。次に多いのが魔物や害虫討伐。最後に、もっとも多いのが雑事と呼ばれる仕事だ。これには手紙を届けることや、薬草収集に人手が足りないときの人材派遣も含まれている」
「そうなのですね」

 私は頷きながらも日本でいう所の派遣会社に相当するものだと認識する。
 何%くらい中抜きしているのかは気になるところだけど、今は話の趣旨ではないから軽く流しておく。

「それで、Sランク冒険者というのは冒険者ギルドにどれだけ貢献したかどうかで決まるのですか?」
「半分正解で半分不正解だな」
「――と、申されますと?」
「冒険者ランクは基本的にAからFランクまでが存在している。その中で実力が無くてもギルドへの貢献度で上がれるのはDランクまでだ。それ以上になると実力が必要になる。冒険者の本業はあくまでも昔から魔物退治と決まっているからな」
「ではSランク冒険者というのは?」
「何か飛びぬけた力を持っている者だけがなれる」
「なるほど……」

 飛び抜けた才能ね……。

「それで、そのSランク冒険者というのは使えるのか?」
「ああ、若いが実力は確かのようだ」

 グランカスさんは、カベル海将様に丸めた羊皮紙を渡す。
 それに目を通したあと、カベル海将様から渡された羊皮紙を私も読んでいく。

「えっと……、名前はコルク・ザルト。セイレーン連邦の冒険者ギルドに所属している剣士で、ダンジョンで手に入れた遺失武器を使用。空間を切り裂く力を有している!?」
「ああ、今回のようにダンジョンに入れないというなら打ってつけの人物だろう?」

 打ってつけの人物どころか、最良と言っていい人物。
 
「あの……、本当に大丈夫なのですか? セイレーン連邦は、海洋国家ルグニカからは――」
「ああ、それなら問題ない。1か月前に総督府スメラギの入国許可申請は得ている。書類にも不備はない」
「一ヵ月前……」
「何か気になることでも?」
「いえ――」

 少し、神経質になりすぎているのかも知れない。
 いつもなら考えなくていいことまで考えてしまっている。

「それで明後日には、ダンジョンに向かおうと思うのだがどうだ?」
「こいつを連れていくのか?」
「カベルらしくないな。そいつだって一応は魔法師だろ? 魔力欠乏症を患っていたらしいが、上級魔法師程度までには魔力が回復しているのは見れば分かるぞ?」
「馬鹿か! 貴様から仕入れた全ての魔法石を使って上級魔法師程度の魔力しか回復しない異常性に気がつけ!」
「そうなのか?」
「自分では分かりません」

 頭を振りながら答える。
 
「そうか……。それなら、作戦には参加しなくていい。見学に来るのはどうだ? 冒険者の仕事に多少は興味があるように見えたからな」
「それでしたら……」

 リースノット王国では冒険者ギルドは無かったし、ミトンの町には冒険者ギルドはあったけれど接点は殆どメリッサさんとアクアリードさんだけだったから、少し興味はあったので私は頷いた。




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