公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

波乱万丈の王位簒奪レース(15)




 商工会議の話が一段落した後、私は執務室に篭って手紙を書いていた。
 内容は、王位簒奪レースについての協力要請である。
 
 ――コンコン

「はい」

 扉を開けて入ってきたのは、レイルさんであった。
 
「カベル海将宛か?」

 書いていた手紙に視線を向けたレイルさんは私に語りかけてくる。
 彼の言葉に私は頷きながら、羽ペンにインクを付けてから自分の名前を書いてから丸めると蝋で封をした。

「もう時間も遅いですが、どうかしたのですか?」

 すでに日が沈んでから数時間は経過しているはず。
 この時間なら、レイルさんは、いつもなら奥さんが居る家に戻っている。
 
「王位簒奪レースに出るという案だが、本当に実行に移すつもりなのか?」
「はい」

 レイルさんの言葉に私は頷く。
 
「レースと言っても出来レースに近いんだぞ? たとえ優勝したところで統治を許すとは思えない。それなら他国からの力を借りて改革を行った方がいいんじゃないのか?」

 彼の言葉に私は「いいえ」と、言う意味を込めて頭を左右に振る。
 
「レイルさんの言いたいことは分かります。ですが、他国から力を借りて海洋国家ルグニカの統治が出来るようになったとしましょう。その際に、力を貸してくれた国が統治に関して何も言わないという保障はありません」
「だが、あまりにも分が悪いのではないのか?」
「実は、王位簒奪レースに勝つことは、それほど難しい問題ではありません。問題は、どうして王位簒奪レースに出るかということですが、それは王族に対して力を誇示するのではなく、国民に対して娯楽の側面によるパフォーマンスが大きいです。そして他国に対しては政治的・軍事的優位性を見せ付けるためです」
「それは重要なことなのか?」
「はい。軍事が強い国に対しては、大抵の国は喧嘩を売ってくることはありませんので……。強い力は抑止力となるのです」
「つまり……、ユウティーシアは自国の問題は、なるべく自国でと考えているわけか?」
「はい。私は少なくとも自国で解決できる問題については、国内だけで完結させるべきだと思っています。ミトンの町についてはアルドーラ公国に経営権を25%渡していますが、それだって商工会議・レイルさん・私の持つ経営権を足した75%には遠く及びません。ですから、アルドーラ公国から海洋国家ルグニカに干渉される可能性は非常に低いです。ただし、それは海洋国家ルグニカ内の物流が正常であったならと限られます。ですから――」
「なるほど……。つまり一都市ではなく国としてと考えているわけか」
「はい。それに、両親が海洋国家ルグニカまで私を迎えに来ましたから、いつまでも私が居られるとは限りませんから」

 そこまで話をしたところで、レイルさんが室内の椅子に腰掛けた。

「ユウティーシア。お前の事には深く詮索して来なかったが、どうしてリースノット王国から、この国に来たんだ?」
「それは……」

 私は途中で言葉に詰まる。
 
「何か重要な事なのか?」
「重要と言えば重要ですけど……」

 レイルさんに何と言っていいものか迷ってしまう。
 ただ、今後はレイルさんも色々と矢面に立つことが増えてくる。
 どうせ黙っていても、分かることだろうし……、無理に隠しておく必要はないのかもしれない。

「簡単に説明します。私は、リースノット王国のシュトロハイム公爵家長女なのです。そして私は王族の方と婚約をしていました。ですけど、婚約者が他の女性と浮気したのです。そして、その後の婚約者も王族だったのですけど……、私のことを奴隷扱いしたので問題になって、嫌気が差して家出してきました」
「……なんというかリースノット王国の王族は酷いな」
「はい……、本当に酷いです」

 所々、マイルドに説明した部分はあるけど大筋は間違っていない。

「なので! 私は、本当はリースノット王国に帰りたくないのです。でも、妹が私が家出してから心労で倒れてしまったらしく、一度は会いに行った方がいいかと思っていて……」
「そうなのか……」

 レイルさんは小さく溜息をつくと「それで、ユウティーシアは王位簒奪レースが終わったあとに、リースノット王国に帰るのか?」と問いかけてきた。
 




コメント

  • クルクルさん/kurukuru san

    あれ、レイルさん奥さんいたの?

    1
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