公爵令嬢は結婚したくない!
否定されし存在(7)
しばらく待っていると、冒険者ギルドマスターのグランカスさんが戻ってきた。
彼は椅子に座ると「一応、馴染みの連中には話しは通しておいたが、付け焼刃だと思え」と私達に語ってきた。
「そうですか……」
さすがの私も、噂話を含めた話というのは、どんなに規制しても何れ破綻して真実が洩れてしまうのは理解している。
ようは時間稼ぎさえ出来ればいい。
そう、カベル海将が私達を一時的でもいいから信用して協力してくれれば、それで構わない。
あとで、こちらの問題が発覚しても、その時には、もう私は、この町にはいないのだから関係ない。
あとは似るなり焼くなりだ、
私は、持論を展開しながら一人納得していると、グランカスさんが神妙な顔つきで私を見つめていたことに気がつく。
「どうかされたのですか?」
私は、首を傾げながらグランカスさんに問いかける。
「いや、お前たちには関係ないと思うが……」
歯切れが悪い話し方をする彼に、私は興味を持った。
エルノの町に来て出会ってからズケズケと私に文句を言ってきた彼らしくないから。
「関係ないのでしたら、遠慮なくどうぞ」
自分に関係の無い話なら、聞くだけなら問題ないし何かの話のネタになるかもしれない。
どちらにしても聞いておいて損はないと思う。
「そうか。じつはな――、昨日から不可解な病がエルノの都市で発生しているようなのだ」
「不可解な病ですか?」
「――ああ、そうだ」
彼の言葉どこかで聞いた話で――、それは……。
「まさか……、それって意識を失った後に、目を覚まさなくなるような病では?」
「――!」
私の言葉に、グランカスさんが驚いた表情で私を見てきた。
一瞬、脳裏に浮かんだ答えだったけど・・・…。
「……どうして、それを知っている? まだ、エルノの有力者達しか知らないというのに――」
彼は、私を睨みつけるようにして見てくる。
そんな私とグランカスさんを横目で見ているメリッサさんは、交互に私達を見てうろたえている。
メリッサさん……。
そんなに動揺した様子を見せたら、私達が病について何か知っていると白状しているようなもの……。
「メリッサ! お前は、何か知っているな?」
「――! わ、私は……何も知りません!」
そんなに力説したら、自分で知っていると暴露しているような物だけど……。
私は小さく溜息をつく。
まぁ正直、こちらもある程度の情報は、すでにグランカスさん渡しているから問題ない。
特に、この町に来た理由は、ミトンの町を救うためだと言っておいたのだから。
「グランカスさん、女性に対して、そのように問い詰めるのはよくありません。問い詰めるなら、私を問い詰めてください」
「お前を問い詰めても、自分は悪くないと言って逃げるだろう!」
「ひどい! 私が、いつそんなことしたと!」
「総督府の建物崩壊を含めて、お前には前科があるからな!」
「……酷い! 何でも全部、私が悪いって言うなんて! そんなの横暴です! そもそも、総督府が崩壊したのは、もとを辿れば全部! 自浄作用が聞いていなかった町の人たちが発端なのに!」
「だから……、お前とは話すと話が逸れるから嫌なんだよ! 言っておくが俺達は、そのへんを理解した上でお前が、壊したんだよな? と、聞いているんだが?」
「ですから、それは結果であって過程から来る結論ですと、私は悪くないと思っています」
「……はぁ、もういい。頭が痛くなってきた。メリッサ、アクアリードにも言っておけ、こいつのサポートの仕事は近日中に正式に冒険者ギルドから終了通告をするから」
「わかりました」
グランカスさんの言葉に、メリッサさんは頷いている。
それにしても……。なんだが、私のことをテロリストか何かのようにグランカスさんは思っているようにみえる。
まるで、私が悪いことをしていて、それを自覚してないような物言い。
本当にひどい!
私だって、少しくらいは総督府を破壊したのは悪いと思っている。
ただ、あれは水蒸気爆発と言って私でも予想出来なかったことだから……。
予想できなかったことに対して、いつまでも文句を言うのは女性に嫌われると思う。
「それで、メリッサ。心当たりがある振る舞いをしていたな? これは、冒険者ギルドマスターとして問う。お前が隠していることを報告しろ」
「グランカスさん!」
私は声を荒げる。
いま、ミトンの町と同じ病が、エルノで起きていると知られるのは非常に不味い。
こちらはグランカスさんと取引できる材料がないのに、相手はこちらが何のためにエルノまで来たかの詳細を知ってしまう。
「……なるほどな――。ミトンの町で起きている原因不明の病……それが、この都市でも起きているってわけか」
「――な、なぜ……」
私は、慌てて口を両手で覆う。
するとグランカスさんは「あまりギルドマスターを舐めないほうがいいぞ? お嬢ちゃん」と言った後、「俺達、冒険者ギルドは横のつながりがあるからな。信憑性は低いが……まぁ、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムが直接出向いてきて、カベル海将と会うなら、病は本当だろうな」と語りかけてきた。
「……ううっ……」
情報戦では、前世の知識がある分、私のほうが圧倒的に有利だと思っていたのに……中世のヨーロッパより文明が劣る異世界で私が思考戦に負けるとは思わなかった。
ミトンの町に続いて、2回目の敗北……。
「ひどいです……」
涙が、頬を伝わってスカートの上に染みを作っていく。
よく分からない。
だけど……。
悔しい。
どうして……、注意していたはずなのに……。
「お、おい……」
「ユウティーシア様!?」
涙が止まらない。
泣き出した私を見て二人とも、動揺してしまっている。
「私、がんばったのに……、なのに――」
「わ、わかった! 俺が悪かった! ほら!」
グランカスさんが、ハンカチを差し出してくる。
折り目のきちんとついたハンカチ。
私は、ハンカチを受け取ってこぼれてくる涙を拭う。
だけど、よく分からないけど涙が止まらない。
たぶん、感情が高ぶっているのもあるけど、女の体だから一度、泣き出したら止まらないのだ。
「それで……グランカスさんは、それを交渉材料として私に何を望むのですか? 愛人になれと? それとも身体を差し出せとか言うのですか?」
「ギルドマスター……」
私の言葉を聞いていたメリッサさんが、キッ! とした表情でグランカスさんを見る。
「お前も知っているだろう! 俺には妻や子供がいるってことを!」
「つまり……愛人になれってことですか?」
私はグランカスさんに、涙声で話しかける。
「そんなことしなくていいから! 俺は現状を確認したかっただけだ!」
「本当ですか? ミトンの町を救いたかったら、私の体を使って奉仕しろとか、そういう無理難題を押し付けてきたりしないのですか?」
もし、私がグランカスさんの立場なら、見目麗しい女性が同じ状況に追い込まれていたら、相手に様々な条件を飲ませたりする。
「そんなことをしたら、こいつに殺されてしまう!」
よく見たら、メリッサさんが赤い刀身の剣を抜いて、グランカスさんに突きつけていた。
やっぱり同じ女同士だからなのか、身体うんぬんの辺りで、メリッサさんの表情が変わったと思ったら一気に味方になってくれた。
さらにキッカさんも近くにきていて「グランカス……あんた、最低だね」と言ってくれている。
「わかった、わかった。冒険者ギルドマスターの名にかけて何もしないと誓おう」
何故か知らないけど、いつのまにか形勢が逆転していた。
たしかに……。
女の涙は、最強の武器かもしれない。
形勢も逆転したことですし、話は私が主導で進めたほうがいいですね。
いつまでも、重苦しい雰囲気は好きではありませんし。
「それで……。昨日から病が出ているのですよね?」
グランカスさんは、メリッサさんが突きつけていた刀身から開放されたことで溜息をつきながら「ああ」と、答えてきた。
「ユウティーシア様、それって……」
「はい、間違いなくミトンで起きている原因不明の病と同じ症状ですね」
「やはり、対処方法の確認のためにカベル海将を探していたのか……」
「はい……」
「どうりで、何度もダンジョン調査依頼をしたというのに来ない人間が、突然、訪問したわけだ」
「こちらの方としても、ミトンの代表者は暫定的に私になっていますので下手に動けないのです」
「それより、どうして執拗に私に依頼を掛けてきたのですか?」
「決まっているだろう? カベル海将が囚われているかも知れない、そして溢れ出てくるダンジョン攻略だ。本来なら数年から数十年かけて攻略していかなくてはならないダンジョンを、短期間でする必要があった。一人で町の衛兵を無傷で追い返したほどの手練に依頼するのは至極当然の結果だと思うが?」
「……最初から、そのように書いておいてくれれば良かったのに……」
「カーネルかスメラギ総督府に見つかったら、厄介なことになるからな。断片的な情報しか載せることができなかったんだ」
「そうでしたか」
私は、ハンカチで涙を拭きながら、ようやく納得できた。
彼は椅子に座ると「一応、馴染みの連中には話しは通しておいたが、付け焼刃だと思え」と私達に語ってきた。
「そうですか……」
さすがの私も、噂話を含めた話というのは、どんなに規制しても何れ破綻して真実が洩れてしまうのは理解している。
ようは時間稼ぎさえ出来ればいい。
そう、カベル海将が私達を一時的でもいいから信用して協力してくれれば、それで構わない。
あとで、こちらの問題が発覚しても、その時には、もう私は、この町にはいないのだから関係ない。
あとは似るなり焼くなりだ、
私は、持論を展開しながら一人納得していると、グランカスさんが神妙な顔つきで私を見つめていたことに気がつく。
「どうかされたのですか?」
私は、首を傾げながらグランカスさんに問いかける。
「いや、お前たちには関係ないと思うが……」
歯切れが悪い話し方をする彼に、私は興味を持った。
エルノの町に来て出会ってからズケズケと私に文句を言ってきた彼らしくないから。
「関係ないのでしたら、遠慮なくどうぞ」
自分に関係の無い話なら、聞くだけなら問題ないし何かの話のネタになるかもしれない。
どちらにしても聞いておいて損はないと思う。
「そうか。じつはな――、昨日から不可解な病がエルノの都市で発生しているようなのだ」
「不可解な病ですか?」
「――ああ、そうだ」
彼の言葉どこかで聞いた話で――、それは……。
「まさか……、それって意識を失った後に、目を覚まさなくなるような病では?」
「――!」
私の言葉に、グランカスさんが驚いた表情で私を見てきた。
一瞬、脳裏に浮かんだ答えだったけど・・・…。
「……どうして、それを知っている? まだ、エルノの有力者達しか知らないというのに――」
彼は、私を睨みつけるようにして見てくる。
そんな私とグランカスさんを横目で見ているメリッサさんは、交互に私達を見てうろたえている。
メリッサさん……。
そんなに動揺した様子を見せたら、私達が病について何か知っていると白状しているようなもの……。
「メリッサ! お前は、何か知っているな?」
「――! わ、私は……何も知りません!」
そんなに力説したら、自分で知っていると暴露しているような物だけど……。
私は小さく溜息をつく。
まぁ正直、こちらもある程度の情報は、すでにグランカスさん渡しているから問題ない。
特に、この町に来た理由は、ミトンの町を救うためだと言っておいたのだから。
「グランカスさん、女性に対して、そのように問い詰めるのはよくありません。問い詰めるなら、私を問い詰めてください」
「お前を問い詰めても、自分は悪くないと言って逃げるだろう!」
「ひどい! 私が、いつそんなことしたと!」
「総督府の建物崩壊を含めて、お前には前科があるからな!」
「……酷い! 何でも全部、私が悪いって言うなんて! そんなの横暴です! そもそも、総督府が崩壊したのは、もとを辿れば全部! 自浄作用が聞いていなかった町の人たちが発端なのに!」
「だから……、お前とは話すと話が逸れるから嫌なんだよ! 言っておくが俺達は、そのへんを理解した上でお前が、壊したんだよな? と、聞いているんだが?」
「ですから、それは結果であって過程から来る結論ですと、私は悪くないと思っています」
「……はぁ、もういい。頭が痛くなってきた。メリッサ、アクアリードにも言っておけ、こいつのサポートの仕事は近日中に正式に冒険者ギルドから終了通告をするから」
「わかりました」
グランカスさんの言葉に、メリッサさんは頷いている。
それにしても……。なんだが、私のことをテロリストか何かのようにグランカスさんは思っているようにみえる。
まるで、私が悪いことをしていて、それを自覚してないような物言い。
本当にひどい!
私だって、少しくらいは総督府を破壊したのは悪いと思っている。
ただ、あれは水蒸気爆発と言って私でも予想出来なかったことだから……。
予想できなかったことに対して、いつまでも文句を言うのは女性に嫌われると思う。
「それで、メリッサ。心当たりがある振る舞いをしていたな? これは、冒険者ギルドマスターとして問う。お前が隠していることを報告しろ」
「グランカスさん!」
私は声を荒げる。
いま、ミトンの町と同じ病が、エルノで起きていると知られるのは非常に不味い。
こちらはグランカスさんと取引できる材料がないのに、相手はこちらが何のためにエルノまで来たかの詳細を知ってしまう。
「……なるほどな――。ミトンの町で起きている原因不明の病……それが、この都市でも起きているってわけか」
「――な、なぜ……」
私は、慌てて口を両手で覆う。
するとグランカスさんは「あまりギルドマスターを舐めないほうがいいぞ? お嬢ちゃん」と言った後、「俺達、冒険者ギルドは横のつながりがあるからな。信憑性は低いが……まぁ、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムが直接出向いてきて、カベル海将と会うなら、病は本当だろうな」と語りかけてきた。
「……ううっ……」
情報戦では、前世の知識がある分、私のほうが圧倒的に有利だと思っていたのに……中世のヨーロッパより文明が劣る異世界で私が思考戦に負けるとは思わなかった。
ミトンの町に続いて、2回目の敗北……。
「ひどいです……」
涙が、頬を伝わってスカートの上に染みを作っていく。
よく分からない。
だけど……。
悔しい。
どうして……、注意していたはずなのに……。
「お、おい……」
「ユウティーシア様!?」
涙が止まらない。
泣き出した私を見て二人とも、動揺してしまっている。
「私、がんばったのに……、なのに――」
「わ、わかった! 俺が悪かった! ほら!」
グランカスさんが、ハンカチを差し出してくる。
折り目のきちんとついたハンカチ。
私は、ハンカチを受け取ってこぼれてくる涙を拭う。
だけど、よく分からないけど涙が止まらない。
たぶん、感情が高ぶっているのもあるけど、女の体だから一度、泣き出したら止まらないのだ。
「それで……グランカスさんは、それを交渉材料として私に何を望むのですか? 愛人になれと? それとも身体を差し出せとか言うのですか?」
「ギルドマスター……」
私の言葉を聞いていたメリッサさんが、キッ! とした表情でグランカスさんを見る。
「お前も知っているだろう! 俺には妻や子供がいるってことを!」
「つまり……愛人になれってことですか?」
私はグランカスさんに、涙声で話しかける。
「そんなことしなくていいから! 俺は現状を確認したかっただけだ!」
「本当ですか? ミトンの町を救いたかったら、私の体を使って奉仕しろとか、そういう無理難題を押し付けてきたりしないのですか?」
もし、私がグランカスさんの立場なら、見目麗しい女性が同じ状況に追い込まれていたら、相手に様々な条件を飲ませたりする。
「そんなことをしたら、こいつに殺されてしまう!」
よく見たら、メリッサさんが赤い刀身の剣を抜いて、グランカスさんに突きつけていた。
やっぱり同じ女同士だからなのか、身体うんぬんの辺りで、メリッサさんの表情が変わったと思ったら一気に味方になってくれた。
さらにキッカさんも近くにきていて「グランカス……あんた、最低だね」と言ってくれている。
「わかった、わかった。冒険者ギルドマスターの名にかけて何もしないと誓おう」
何故か知らないけど、いつのまにか形勢が逆転していた。
たしかに……。
女の涙は、最強の武器かもしれない。
形勢も逆転したことですし、話は私が主導で進めたほうがいいですね。
いつまでも、重苦しい雰囲気は好きではありませんし。
「それで……。昨日から病が出ているのですよね?」
グランカスさんは、メリッサさんが突きつけていた刀身から開放されたことで溜息をつきながら「ああ」と、答えてきた。
「ユウティーシア様、それって……」
「はい、間違いなくミトンで起きている原因不明の病と同じ症状ですね」
「やはり、対処方法の確認のためにカベル海将を探していたのか……」
「はい……」
「どうりで、何度もダンジョン調査依頼をしたというのに来ない人間が、突然、訪問したわけだ」
「こちらの方としても、ミトンの代表者は暫定的に私になっていますので下手に動けないのです」
「それより、どうして執拗に私に依頼を掛けてきたのですか?」
「決まっているだろう? カベル海将が囚われているかも知れない、そして溢れ出てくるダンジョン攻略だ。本来なら数年から数十年かけて攻略していかなくてはならないダンジョンを、短期間でする必要があった。一人で町の衛兵を無傷で追い返したほどの手練に依頼するのは至極当然の結果だと思うが?」
「……最初から、そのように書いておいてくれれば良かったのに……」
「カーネルかスメラギ総督府に見つかったら、厄介なことになるからな。断片的な情報しか載せることができなかったんだ」
「そうでしたか」
私は、ハンカチで涙を拭きながら、ようやく納得できた。
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