公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

迷宮区への足がかり(8)

「仕方ありませんね……」

 ミントの町で疫病が出ている以上、早く帰らないと町の人が子供たちに被害が出てしまう。
 ここは、かなり癪にさわるけど……。
 細かいことを木にしている場合じゃない。

「グランカスさん」
「ミトンの代表者ユウティーシア・フォン・シュトロハイム、何かようか?」

 こいつ、私が再三、手紙を無視していたことを知っているのか。
 それとも、途中で手紙を止められていたと思っていたのかは知らないけど……。
 私のことを最初から知っていた事といい、間違いなくこちらの事情は理解しているようで――。

「私はカベル海将と会う予定で来ましたので――」
「ふむ……」
「基本は、カベル海将を探します。ですが、まぁ片手間で良ければ、そのダンジョンを探索してもいいですよ?」
「片手間ね……」

 私の言葉に青筋を立てながらグランカスさんは、テーブルの上に手を置くと人差し指でテーブルを何度も叩く。
 酒場の中――。
 客の居ない場所で、規則正しく人差し指で叩かれるテーブルからはコンコンと何度も音が鳴り響く。

 私は、その音を聞きながら笑顔でグランカスさんを見据える。

こちらとしても足元を見られて報酬を削られるのも嫌だけど、それ以上に、こちらの弱みを握って商談してくる人間に腹が立ったから言い返した。

「そうか……片手間か――」

 ポツリと呟く男の様子を見て、私は「ふふん」と勝ち誇った口調を呟く。
 すると――。

「別に調べるだけなら冒険者に任せても問題ないんだがな――」
「……」

 たしかに、冒険者がどれだけ強いかは知らないけど、メリッサさんやアクアリードさんを見る限り普通に探索していけそう。
 まぁ、どれだけ魔物が出ている場所が危険かは知らないけど――。

 私とグランカスさんの話を聞いていたメリッサさんとアクアリードさんに視線を向ける。
 すると二人とも難しそうな表情をしていた。
 どうやら思っていたよりも、魔物が現れる場所の調査は危険なのかな? と思えてしまう。
 そうすると……。

 カベル海将の安否が気になってくる。

「そうですか。問題ないのでしたら、こちらとしてはカベル海将だけを探してミトンの町に帰らせて頂きますね?」
「――なん……だと……」

 なん……だと……。と、言葉で言われても困ってしまう。
 ――と、いうか……。

「私、よく考えて見たのですけど……」
「何を言いたい?」
「普通に考えて、私とか被害者ですよね?」

 私の言葉に、アクアリードさんやメリッサさんを含めた全員が「え!?」という表情を私に向けてきた。

「ほら、よく考えて見てくださいよ! こんな可憐な美少女を! この町の兵士達は慰み者にしようとしたのですよ? つまり、私は被害者です!」

 そう、本来の日本で言うなら警官が婦女暴行をしようとしたことに近い。
 そして、その責任はどこにあるのか! そう! つまり国が悪い!

「――ということはですよ? この国の兵士を管轄している総督府が私に喧嘩を売ってきたということです。つまり建物を破壊されても仕方がないってことです。ということはですね! 私が、総督府を破壊しても、それは仕方がない! そう仕方がないのです!」

 私の言葉を全員が唖然とした表情をして聞いている。
 まぁ唖然とするのは仕方ないでしょう。
 何故なら、私に罪は一切ないのですから!

「さらに言えば! そんな総督府を野放しにしていた市民の方にも問題があります! もっと言えば、そんな連中と繋がっていた奴隷商人をお店に入れていたキッカさんも悪い! つまり! お店で問題が起きたのもキッカさんのせいです!」

「「「「ええー……」」」」

 私を抜いた4人が一斉に大声で声を揃えて驚きの声を上げてきたけど、私の完璧な理論の前に何も言うことはできないはず!




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