公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

お話(物理)をしようよ(1)

 卑劣きわまりない兵士達の妨害工作を、正義と愛と友情の力で打破した私達一向は、エルノの町中を歩いていた。

「思ったよりも人がいますね――」

 私は、街中を見ながら呟く。

「きっと、さっきの戦闘音に気がついた人が建物に出てきたかも知れません」

 メリッサさんが私の一人ごとに答えてきた。
 彼女の言葉を聞きながら周囲を見渡す。
 たしかに外行きの服というよりも家の中で着るような服装な気がしないでもない。

「それにしても、ミントの町とはずいぶんと赴きが違うのですね」

 ミントの町は茶色い煉瓦作りの建物が多く高い建物は見当たらなかった。
 でも逆にカベル海爵が統治している総督府が存在する衛星都市エルノは、白い壁の建物が多く屋根には茶色い瓦のような物が使われているし、何より水路が至るところに引かれている。
 外から見たときには分からなかったけど、町の作りがベネチア風ぽい。

「もともと、衛星都市エルノは帝政国との戦いで使われた場所でしたから、補給などを含めて水路を多く作っていたんです」

 私の疑問に、アクアリードさんが答えながら私とメリッサさんの前を歩いていく。
 すると「兵士がどこにも見あたらねー。どうなっているんだ?」と、言う声が気こてきたけど、私達はスルーして先に進む。

「それよりも、どちらに向かいますか?」
「まずは宿屋――きちんと警備が居る場所がいいですね」
「警備が行き届いている場所……」

 アクアリードさんが、首を傾げながら回りを見てから私を見てきた。

「ありません!」
「……ないんだー……」
「はい、だって普通なら兵士と問題を起こしたら町に入らずに逃げますよ? もう私達、その時点で普通ではありませんから――」
「たしかにアクアの言うとおりだね」

 メリッサが、アクアリードの言葉を頷きながら肯定する。
 私は、二人の様子に溜息をつく。

「たしかに……町を支配している総督府に逆らったとなったら問題になりますよね……」

 私の言葉に二人とも頷いてくる。
 ただ、その表情にあせりは見られない。

「そのわりには二人とも落ち着いているような気がしますけど?」
「それは……」
「なー……」

 何故か知らないけど二人とも、すごく何か言いにくそうな顔をしている。

「でも困りましたね……」

 さすがにゆっくり休む場所がないのは面倒くさいし、たまにはベッドで寝たい。
 でも、総督府と敵対していることで、それが出来ないとなるなら……。

「よし! 総督府を倒しましょう!」

 私の言葉に「――えっ!?」と、二人同時に叫んできた。
 何をそんなに驚いているのか――。
 ゆっくりと休むことが総督府が問題で出来ないなら、総督府を攻めて落とすほうがずっと楽だし確実。
 なら――。

「さて……メリッサさんとアクアリードさんは、適当な宿屋で休んでいてください。ちょっと総督府の責任者とお話してきますので――」
「えっ!? ユウティーシア様、たったお一人で行かれるのですか?」

 アクアリードさんの言葉に私は首肯する。
 メリッサさんに硬貨が入った箱を渡す。
 彼女は三百人分から回収した硬貨が入った箱を受け取ると、「おもっ!?」と言いながら数歩たたらを踏んでから私を見てきた。

「本当にいくのですか?」
「はい、鉄は早めの内に叩け! と言いますし――」
「そ、そうですか……」

 両手で硬貨が入った木の箱を持ちながらメリッサさんが小さく溜息をついて「ユウティーシア様、総督府の建物は、ここの道をまっすぐに向かった行き止まりの黒い大理石で作られた建物です」と語りかけてきた。

「分かりました。ちょっと行って来ます」

 私は二人と別れると総督府のほうへ走っていく。
 ドレス姿と言うこともあり走り難いけど、走れないというほどではない。
 5分ほどで大通りの突き当たりにたどり着く。
 周囲は、2階立てのベネチア風の建物が軒を連ねている。
 その中で異質な思想設計で作られた建物というか……これは――。

「ガラスの建物?」

 私は、呟きながら建物に向かって歩いていく。
 すると警備をしていた兵士達が近づいてきて私の前に立ち塞がる。

「貴様、何者だ! 名前を名乗れ!」
「私の名前は、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムです。少し総督府の責任者と話しをしたいと思って伺いました」
「ユウティーシア? どこかで聞いたことが――」
「馬鹿! こいつは、ミトンの町をスメラギ総督府から奪いとった重罪人だ!」
「――!?」
「ああ、そういう感じなんですね――」

 何となく分かってきた。
 きっと、私は海洋国家ルグニカ全体に指名手配されている可能性がありそうってことが――。

「グハッ!」
「カハッ!」

 私は、身体強化の魔法を発動すると同時に二人の体を殴りつけた。
 一人は石で組まれた囲いに貼り付けになり、もう一人は100メートル近く吹き飛び総督府の建物の壁に衝突。
 総督府の黒いガラスに見えた壁が粉々に砕け散り兵士の姿が見えなくなった。

「仕方ないですね……。私は平和にお話にきただけなのに、仕方ないですね」

 私は指を鳴らしながら、近寄ってきた兵士を次々と撃破して建物内に踏み入る。

 

 

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