公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

暗躍する海賊の末裔(21)

 ……まぁ、目の前に座っている男。
 ハインゼルの言動から、薄々そうではないかと想像はしていたけど……もっと間接的に話を切り出してくるものかと思っていただけに少しだけ気が緩んでしまった。
 そこまで考えたところで私は「――あれ?」と、首を捻る。

 ハインゼルのほうへ視線を向けると、彼は私を伺うような目で見てきているのが、はっきりと分かった。
 もしかして――。
 ううん、もしかしてじゃなくて――。
 まちがいなく……。

 先ほどの私の言動から見て、彼は私の評価を下げた。
 だから、わざわざ絡め手をとるような真似は止めたのだろう。 

 ただ、問題は私には為政者としての器が無いということ。
 だれもが勘違いしてくれるけど、私には他人を、誰かを率いるようなカリスマ性というか、そう言ったものはない。

 そもそも、何かあったら膨大な魔力にモノを言わせて力で解決してきたから、身に付かなかったと言ったほうが正解だったかもしれないけど。
 私はハインゼルから預かった書簡の蜜蝋を剥がす。
 そして丸められている羊皮紙に目を通していく。

 手紙には、リースノット王国で使われていた言語ではなく、他国との交流が盛んな海洋国家ルグニカならではの大陸共用語で文字が描かれていた。
 そこには、大陸共用語アガルタ言語で、ミトンの町についての今後のことが記されていた。

「なるほど、……つまり、そちらからは敵対する意思はないと? そういうことですか?」
「ええ。そうなります。イテル海爵としては、リースノット王国との貿易を正式に結びたいと考えております。さらに、ここ数日調べておりましたが、大量の小麦をアルドーラ公国からも輸入していると小耳に挟みまして――」

 ハインゼルの言葉を聞きながら私は、書簡の内容を確認していく。
 そこには、ミトンの町の自治権を認める代わりに、リースノット王国とアルドーラ公国との貿易について取り持ってほしいと書かれている。
 つまり――。

 税収よりも貿易での利益を優先的に取ったということになる。

 それが、この書面からは第一印象と言ったところ。
 たしかに、海洋国家ルグニカは焼き畑農法をしてきた歴史があり農作地は荒れ果て収穫率は極端に落ち込んでいるのは、アプリコット先生に教えてもらってはいた。
 だからこそ、税を取り立てるために奴隷制度を取り入れたと言えば、仕方ないように聞こえるが、それは結局、焼き畑方法が土地から人に代わっただけ。
 資源を消耗しているに事に変わりはない。

 私は、イテル海爵からの書簡を丸める。

「――それで……、この要請を受け入れない場合は、どうなさるおつもりですか? 軍隊でも派兵されますか?」
「そんな、まさか――! そんなことは致しません」

 問いかけたハインゼルは、おどける素振りを見せながら派兵については、否定的な態度を見せてくる。
 さらには――。

「第一、貴女と戦って勝てるとは思えません。それに……リースノット王国は、大国ですから――」
「……どういう意味なのでしょう?」

 彼が何を言いたいのか今一、良く分からない。
 私を経由することで、リースノット王国と貿易行路を確立したいのは分かるけど……。
 それに、そもそもリースノット王国が作りだしている魔道具に関しては、技術漏洩の危険性から、軍事に転用できるような物は、貿易品には含めていない。

 それに、勘違いしているようだけど……私は、今ではリースノット王国とは――って!?
 思わず、私は手の平で口元を隠してしまう。

 今まで、おかしいと思いつつ、気にしてこなかったけど……。
 どうして、リースノット王国の名前がここまで出てくるのか――。

 だって、ミトンの町でスメラギから派兵された軍隊とであった当初から、彼らは私を明確な意志を持って探していた。
 それは、明らかに不自然で……。

 ハインゼルの顔を見る。
 すると彼は、私を観察するような目で見てきていた。

「一つ、お伺いしたいのですけど――」
「はい、なんでしょうか?」
「今回の、この、話は……リースノット王国のグルガード陛下はご存知なのですか?」
「いいえ、私達にきた話は……貴女には手を出すなと言うことだけでしたので……ですが、分かるでしょう? 他国の人間。しかも大国の王妃と成られる方が、非公式に他国の町の要人となっている意味が――」
「…………」

 男は、小さく溜息をつきながら私に、そう語りかけてきた。
 つまり、彼は――。

 他国の王族が、他国の国に来て町を占領し経済的に政治的に周囲に影響を及ぼしている現状は、侵略行為になると――。

「このことは、イテル海爵以外は、存じているのですか?」
「いいえ、まだ中央へは報告を上げていませんと聞いております」
「そうですか……」

 それは、良かった……だけど――。
 私が、海洋国家ルグニカに居るとリースノット王国が知っているということは、外交的圧力を海洋国家ルグニカに向けて行ってくる可能性だってある。
 そうすれば、それは内政干渉にもなりかねないし、実際、こうしてイテル海爵の手の者が来ているということは。

「ですから早めに面会を求められたと――。しかも早い時間帯で?」
「はい。あとは、エメラス様についてもお返していただければ……」




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