公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

洗脳されると弱くなるキャラっていますよね?

 真っ昼間から轟音が鳴り響いた。
 その音は周囲の貴族達の屋敷にまで鳴り響く程の音であった。

「この魔力は、お姉ちゃん!?」

 アリシアの言葉に、政務で留守をしている上の二人の兄以外の人間が驚いてアリシアを見る。
 アリシアは最上級魔法師としての力を持っていて10歳の割には魔法に精通している。
 そしてその魔法の種類は多岐に渡り、主に解呪魔法と魔法師の居場所を特定することを得意としている。
 もちろん攻撃魔法や防御魔法も上級魔法師と大差がないほどの魔法を操る事が出来る万能タイプだ。
 そんなアリシアが、ユウティーシアの魔力を感じ取ったというのなら、貴族学院に出かけて行ってから数日間行方不明になっているユウティーシアが帰って来たという事で間違いはないのだろう。
 問題は、シュトロハイム公爵邸の正門の方角から煙が見えていると言うことくらいだ。

 ユウティーシアを探していた、母親であるエレンシアと父親であるバルザックは娘が帰ってきたという報告に一瞬、胸を撫で下ろして公爵邸のホールの扉を開けてからユウティーシアを迎え入れようとしたが……両親だけではなく妹のアリシアまでもユウティーシアの姿を見て絶句してしまう。

「お、お姉ちゃん……な……なんて格好をしているの……」

 アリシアが私の姿を見て目を見開いていた。
 お父様とお母様は驚いた表情をして私を見ている。
 3人の反応に私は、これぞ! 悪役のほほ笑みとばかりに高笑いをしてみせる。
 そんな様子にますます3人とも怪訝な表情を見せてくるけど、それもこれまで!

「今日は、私の思い人の方の為に! アリシア! そしてシュトロハイム公爵家の根絶に来ましたわ!」

 私は、正面が正々堂々と相手の敷地に向かい正攻法で相手を叩きのめす!
 その戦法を取る事にしたのだ。
 これこそ王道! これこそが真理! そしてこれこそが私がエイル様に捧げられる戦い! 相手を脅して勝つなど愚の骨頂! 正々堂々と相手を倒してこそ意味があると言う者! これこそが武士道であり騎士道精神!
 私の宣言を聞いた3人は、茫然とした顔で私を見てくる。
 彼らの顔を見て私は確信した。

 彼らには私のような高尚な方に仕える言葉を理解する知恵も無いのだと言う事を!

「どうやら……虫けら共には私の言葉は理解できないようですわね」

 私は微笑みながら魔法陣を空中に描いて詠唱を開始する。
 エイル様と私の魔法師としての知識は繋がっていて、私の旦那様であり主様の魔法の知識は私よりもずっと洗練されている。
 今まで魔力量に物を言わせて魔法を打ってきた私がアホみたい。
 エイル様の知識を使えば普通の魔法師と同じ魔法を使う事ができる。
 もうこれは最強と言わんばかり。


「お父さん、お母さん! お姉ちゃんは洗脳されているよ! 私が解呪してみるから時間を稼いで!」

 愚かなアリシアが何やら私を騙して馬車馬のように働かせていた両親にアドバイスをしているみたいだけど、そんなのは無駄というもの。
 私には強大な魔力量と、普通の上級魔法師が使える魔法を通常の威力で仕えるようになった技術がある!
 それらは全てエイル様から頂いた物。
 彼らが私に勝てる可能性はまったくない。

 長い詠唱を終え、私は炎の竜巻である【火炎旋風】の魔法を発動させる。
 その威力は上級魔法師と同等の力を秘めておりきちんと制御されているのが分かる。
 ふふっ、これこそエイル様と私の愛の魔法!

「燃え尽きなさい!」

 私は、炎の竜巻を操りながら周囲の木々を燃やし尽くしてバルザックやエレンシアにアリシアがいる方へ魔法を移動していく。
 すると氷の竜巻がエレンシアから作りだされると私の火炎旋風とぶつかりあい相殺消滅させられた。
 私は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
 私とエイル様の魔法が、エレンシアごときに相殺された事に理解が追いつかない。

「やっぱり! お姉ちゃんは精神支配を受けているから魔力使用上限が一般常識にとどまっているよ!」

 アリシアの言葉にエレンシアとバルザックが動き出す。 
 私は、アリシアの言葉の意味を理解出来ない。
 急いで魔法を発動させようと魔法陣を描いた所で、バルザックが肉薄してきて魔法を発動させるどころでは無くなってしまう。
 私は、肉体強化の魔法を発動させるために魔法陣を空中に描こうとすると両手を掴まれてバルザックに押し倒された。

「離しなさい! このゴミどもが!」

 私は必死に拘束から逃れようともがくけど、大人の男性とは力の差が在りすぎてまったく歯が立たない。
 これでは、エイル様に申し訳が立たない。

「さて、ティア。お前を浚ったのは誰だ?」

 バルザックが私に話しかけてくる。

「私を浚った? 違うわ! あの方は私を助けてくれたの!」

 私は愚民でも分かるように答えるが――。

「ティア。貴女はその犯罪者に騙されているのよ? 禁忌とされている魔法を使ってまで相手を自分のモノにしようなんて人として失格なのよ?」

 エレンシアが、あの方を侮辱するような言葉を口から吐き出してくる。
 気にいらない。
 あの方は、私の愛するあの方を侮辱するなんて万死に値する。
 でも身動きが取れない以上何も出来ない。

「うるさい! あの方の何がお前らに分かると言うの!?」
「分からないが一つだけ分かる事がある。好きな女性を手に入れるために禁忌とされている精神魔法を使い、その家族を洗脳した人間自らに手でやらせるなど屑の所業なのは確かだ」

 バルザックは、余裕を持った顔で私を見降ろしながら私の恋焦がれるあの方の悪口を平然と並べてくる。

「エイル様は、エイル様はそんな方ではないわ! あの方は世界を! 国を救うために無能な王を廃して王座について他国を滅ぼして新たなる偉大な王になろうとしているの! 貴方達にはその崇高な理念が理解できないの?」

 私は、我慢できなくなり彼らに私の主の崇高な理念を説く。
 すると――。

「なるほど……エイルはそのように考えておったの……」

 声がした方へ視線を向けると、そこにはグルガードが立っていた。
 まさか? この短時間で移動を? 王族のみが使える転移魔法?
 私は歯ぎしりする。
 エイル様の完璧な計略が私の為に潰えるなんて――。

「お姉ちゃん、少し寝ていてね!」

 アリシアが両手を私の額に当ててくると私は急速に意識が遠のいき、そのまま私はその場に倒れ伏した。




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