公爵令嬢は結婚したくない!

なつめ猫

絡めとられたユウティーシア

 リースノット王国の王城の門をくぐり抜けた馬車は数分走るとゆっくりと停車した。
 私は停車した馬車の扉が外から開けられるまで待つ。
 しばらくすると従者の方が、馬車の扉を開けてくれる。

 そして、エスコートするように手を差しだしてきた。
 私は、差しだされた手を取り馬車から出ようとした所で、従者の方ではない事にきがついた。
 そこに立っていたのは――。

「クラウス様……」

 目の前には、私より3歳年上のクラウス様が立っていた。
 クラウス様は今年で19歳になる。
 もうすぐ婚約相手を見つけないといけない時期なのに、私と関わっていたら貴族の方々から誤解を生んでしまう。

「クラウス様、申し訳ありませんが、婚約破棄をした女性にむか……「お姉さま?」……え?」

 私は声がした方へ視線を向ける。
 すると、そこには今年、貴族学院に入学した妹のアリシアがお父様に連れられて立っていた。
 私はクラウス様の方へ視線を向ける。
 その表情には笑みが……。
 唇を……私は噛みしめる。

 両親の前ならまだいい。
 でも妹の前で……王族のエスコートを断る事はできない。
 私は仕方無く、馬車から下りるのをエスコートして頂く。

「ご迷惑をおかけします。クラウス様」

 私は、妹の手前と言う事もあり表面上は取り繕いながら話す。
 そこで妹が私に抱き着いてくる。

「お姉さま、今年からは王国魔法師筆頭からは降りられると伺いしました。今日はその引き継ぎで私が……「まちなさい!」……お姉さま?」

 私は、妹の言葉を途中で止めた。
 たしかに私は学院の改革の為に、学院在籍中の間は王宮魔法師筆頭として理事長兼任をしていたけど……。 
 王国魔法師筆頭は、戦争になった際に戦場に出る必要が出てくる。
 そんな役職に妹を就ける訳にはいかない。

「お父様! どうしてアリシアを連れて……」

 私は、妹を抱きしめながらお父様を睨む。
 まだ政治の世界に、10歳になったばかりの子供を連れてくるなんて早い……。
 それに……戦争になったときに相手を殺したら、それがトラウマになってしまう事も考えられる。
 だから……。

「いや、お前もそろそろいい歳だからな。妃になると王宮魔法師筆頭と理事長の兼任は無理だろう?それにティアは5歳の時から、色々と……」

 私はお父様の言葉を睨んで止める。

「私とアリシアでは、違います」

 私は今の自分の顔を見てもらいたくないことから強く抱きしめる。
 アリシアは私の胸に顔埋めている。
 だいたい、アリシアは転生者でもない。
 それは何度かシュトロハイム家に顔を出したときに確認してある。
 つまりアリシアは10歳の子供と大差ない。
 そんな子供が、誰かを殺した時に耐えられるわけがない。

「お父様は、ご自分の娘が戦場に出る事を望んでいるのですか?」

 私はお父様に問いかける。
 お父様は私の言葉に――。

「ティア、魔力が高い者が王宮筆頭魔法師に任命される。そして私達はリースノット王国を守る貴族なのだ。何度も教えただろう?」

 お父様の言葉に私は口をつぐむ。
 そんなのは言われなくても分かっている。
 でも、それでも……。

「ティア、お前の言いたい事は分かるが、本来は1年前の時点で決まっていたのだ。ただ、お前がまだ理事長だったことから今年まで伸びていたのだ」

 ……私は俯いてしまう。
 貴族として、国を守る事としては正しいのかもしれない。
 でも……それは人としてはどうなんだろうか……。

「私達は先に行っている……アリシア来なさい」

 アリシアは私から離れるとお父様と一緒についていってしまう。
 私が、その後ろ姿を見ていると――。
 クラウス様が近づいてきた。

「ユウティーシア、妹さんを助ける方法があるよ?」

 私はクラウス様の方へ視線を向ける。
 すると微笑みながら――。

「過去の王妃には魔力が高い人もいた。その時には王宮魔法師筆頭を兼任していた事もあるらしい。だから君が王妃になれば――」

 そこでクラウス様は言葉を止めた。
 止めなくても分かる。
 つまり妹のアリシアを助けるためには、私が王妃になって王宮魔法師筆頭を兼任するしか道が無い。

「約束が違います――」

 私は、クラウス様に苦言する。
 でも――。

「私は君を手に入れる為なら、どんな事でもするよ? ユウティーシアは妹が大事だよね?
 君の妹さんは、私とユウティーシアが婚約破棄状態になっている事をしらないよ?
 だから、私の事をお兄様と呼んでくれるんだ。
 君が国を脅して婚約破棄を迫った事を知ったら、妹さんはどう思うかな?」

 私は思わず殴りそうになった手を思いとどめる。
 クラウス様は、私の態度を見てから頷くと――。

「ユウティーシア、私は色よい返事を今日の会議までに期待しているよ」

 それだけ告げるとクラウス様は私の手を取り歩き出してしまう。
 私は、断る事も出来ずにクラウス様にエスコートされるがままにされてしまった。



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