【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(21)
遠慮がちに――、そう呟いてきたリネラスの言葉に俺は息を呑む。
そんな俺の様子をリネラスは、まっすぐに見つめてきている。
正直、俺としては旅をしてきた仲間を裏切るような人物は、信用できないし許せるとも思っていない。
たとえ――、それがどんな理由があったとしてもだ。
「許すも何も……」
答えに詰まる。
何故なら、どう答えを返すべきかという言葉を――、答えを……、俺は持ち合わせてはいない。
――いや……、そうじゃない。
俺は、ずっと――、その答えを――、疑問を抱きながらも――、先送りしてきた。
それをリネラスは問うてきただけで、これからイノンを救うためには……、助けるためには――、その答えが必要になる。
違う……。
それも、また違う。
きっと助けたあとに、俺がどういう采配をするのかを彼女は――、リネラスは聞いてきた。
そういう事なのだろう。
「リネラスは……」
「――え?」
「お前は、どうするつもりなんだ?」
「イノンのことを?」
「ああ、そうだ……」
問いかけに問いかけで返すこと――。
それは、人同士の話し合いで決していい事ではない。
それでも……、答えを持たない俺としては――。
「ユウマは、私の答えを聞いてどうするつもりなの?」
彼女――、リネラスから帰ってきた言葉は俺が求めていた内容とはかけ離れた詰問。
「……」
――だが、それでも……、その掛け離れた言葉は、最初にリネラスが聞いてきたイノンを許すかどうかという問いかけに反しておらず、俺が答えをもたない――、先送りしてきたことに対して十分とも言えるほどの示唆でもあった。
「ねえ? ユウマは、イノンを許せるの? 許せないなら、どうして此処まで来たの? ユリーシャの事が関係しているの? 以前に、ユウマは言ったよね? イノンを助けたいって――、でも! 助けたいという気持ちと、それを許せるかどうかは別物だって理解している? たしかにユウマは、私の精神世界に入ってきて私を助けてくれた。だけど……、それって自分自身の心の内側を相手に見せることなんだよ? それで、ユウマは私を許してくれたよね? だから、私はユウマと一緒に居られるの。――でも、ユウマはイノンを許せるの? 許せないなら助けられた人がどう思うのかユウマは分かって
る?」
「それは……」
そこまで考えたことなんて一度もなかった。
「ユウマ、よく聞いて。これから、イノンを助けるとして――、間違いなくイノンとの関係は変わる。でも……、ユウマは、そのことを許容できる?」
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