【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(5)

 リネラスは、そう俺の耳元で呟くと、ゆっくりと頭を撫で始めた。
 それがとても心地よくて眠りに誘ってくる。
 さっきまで、どうしてあんなに焦っていたのか、焦燥感に駆られていたのか、それが嘘のように晴れていく。

「寝ちゃた?」
「……」

 俺は、リネラスに膝枕されたまま体を仰向けにする。
 そうすると丁度、リネラスの顔を見ることができた。

「まったいらなのもいいものだな……」
「あんたねえ――」

 リネラスが半ば呆れた表情をして俺の頭を軽く叩いてくる。

「いや、すまない……」
「もう、ユウマがそんなに聞き分けがいいと困るんだけど――」
「俺が問題児みたいな言い訳をされても困るんだが……」
「さっきまで、あんなに絶望した表情をしていて仲間でも裏切ったら許さないって言ってたのに?」
「――うっ……」
「ほんとっ! 私の好きになった人は、駄目よね……」
「悪かったな」

 俺は、リネラスの言葉に即答する。
 彼女が俺を嫌うことは無いというのは、何となくわかってしまうから。

「許してあげる。それでイノンのことはどうするの?」
「……そうだな。本心を聞かないとな」
「そう、良かった――」

 リネラスは、ホッとした表情をすると俺の額に口付けしてきたあと、微笑みかけてきた。

「これは、ユウマにご褒美だから」
「何のご褒美だよ」

 彼女の言葉に、答えながら俺は立ち上がり、イノンの方へと視線を向ける。

「これは……」

 助けたときは、明りも満足になかったこともあり暗かったから良く見えなかったが、明りがある部屋の中で見るイノンの容態は酷いものであった。

「爪が剥がされただけじゃないな……」
「うん……、きっと何か重要なことをイノンは言わなかったから、それで――」

 俺は、体の至るところに見える鞭のような傷と腫れている顔を見て、自分は何を見ていたんだと自問自答しつつ、彼女に手を向ける。
 そして回復の魔法を発動。

 体中の傷を、爪を修復していき数分で完治させた。

「ユウマの魔法って、本当にすごいよね」

 リネラスが俺の魔法を見ながら賞賛を送ってきていたが、その言葉を素直に受けとることは出来ない。
 俺は、彼女が死に掛けてていたとき、助けることは出来なかったのだから。

「ユウマ、ちょっと確認するからいい?」
「――ん? ああ、怪我が他にないか確認するってことか?」
「うん」

 リネラスの言葉に、俺は部屋の隅に移動する。

「たぶん、問題ないと思うぞ? 俺の回復魔法は一度見た生物の肉体再生を行うように出来ているからな。前にイノンの裸を見たから治ってないことは無いは……ず……」

 俺は途中で口を閉じた。
 どうしてだが分からないが話をしている途中で、「イノンの裸を見たことがあるですってええええ」と、リネラスが俺の方を見てきたから。

「……いや、ほら――。旅をしていると偶然見ることもあるだろう? 不可抗力ってやつだ! ほら、俺だって風呂場で偶然、鉢合わせしたから見ただけで!」
「あんたは何してるのよ! 怪我がないか私が確認するから呼ぶまではユウマは、部屋の外に出ていて!」
「分かったよ……」

 リネラスの言葉に、俺はしぶしぶ部屋から出る。
 すると部屋の外には、妹のアリアをはじめセレンやセイレス、ユリカが壁に寄り掛かって待っていた。
 部屋から俺が出てくるのに気がつくとユリカが「イノンさんは、どうなりましたか?」と、問いかけてきた。





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