【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(1)

 階段を上がっていき、外部に近くなると周囲の情景が切り替わる。
 先ほどまで周囲は、灰色の石で組まれた壁や天井、床で作られていたが、それが消え去り階段や壁は苔が生えた風化した石で組まれるようになった。

「何時見ても不思議だな……」

 空間同士をどうやって繋げているか、いまだに理解が出来ない。 
 階段を一歩歩くだけで、景色が切り替わる現象――。

 そんなのをどうやって起こしているのやら……。

「おにいちゃん!」

 階段を上がりきると妹が小走りで近寄ってくる。

「どうした?」
「あのまな板じゃなくてリネラスさんがね、お兄ちゃんの事を怒ってたの!」
「俺を怒っていた?」

 俺は首を傾げる。
 何か怒られるような真似は、色々としたような気がするが正直、何を怒っているのかまったく分からん!

「ふむ――」

 俺が考え事をすると妹が俺の腕を掴んでくる。
 そして、俺の顔をジッと見てくると……。

「私、ここに来て思ったんだけどね。お兄ちゃん、いいように使われてるような気がするの!」
「そうか?」

 妹が、「うんうん」と俺の問いかけに頷いてくる。
 そして――。

「だから、私、思うの! 私と一緒に、エルフガーデンだっけ? 一緒に出ればいいんじゃないかなって!」
「それは……」

 ちょっと無責任じゃないか?
 一応、俺が関与してる部分も少なからずある。
 それに、すでにユリーシャ率いる反乱軍と、エルンペイアの王国軍とは敵対関係なわけだし、この国に居る限り問題ごとには付き纏われるだろう。

「それは無理だな」
「どうして!? 私が見てる限り、お兄ちゃんに皆、頼ってばかりだよ! こんなのを……こんなのを守る必要なんてないよ!」

 回りに誰もいないからなのか、妹が少し感情的になって俺に語りかけてくる。
 俺のことを心配してくれているのは分かる。
 分かるが――。

「アリア、良く聞いてくれ……」
「……」

 妹が黙って頷いてくる。
 どうやら、俺の言葉を聞いてくれる余裕はあるようだ。、

「俺は、自分が関わった人間を、途中で捨てるようなことはしたくない。今、アリアがいったように、途中で投げ出せば楽かもしれない。だがな……それじゃ、格好悪いだろ? もっと言えば妹の手前、俺が格好つかないだろ?」
「それって……」

 妹の言葉に俺は頷く。

「関わると決めたんだから、最後まで責任を持つのが男の務めってやつだろ? アリアだって、将来、そうなったら途中で投げ出すような男がいいのか?」
「――!? そ、そうなの……。た、たしかに……子供が出来たら…………。で、でも……おにいちゃんの子供なら、私一人でも育て……」

 驚いた表情をした妹が、何やら一人ブツブツ言っている。
 後半まったく聞き取れないが……。

「分かったの! おにいちゃんが、決めたら私も手伝うの! スラちゃんも手伝うって言っているし!」
「いや、スライムは十分仕事していると思うからな」
「大丈夫なの! スラちゃんを分裂させれば24時間戦えるから!」
「……そ、そうか……」

 妹の中では、スライムというのは24時間労働するということになっているようだ。
 なかなか、ブラックな契約だな――。

「うん!」 
「それでリネラスが怒ってるって話だが、何に怒っているんだ?」

 妹に問いかける。

「えっとね。イノンさんの傷をどうして治してないの!? ――って! 怒ってたの!」
「ふむ……」
「でも、おかしいよね? 敵と通じていたのに怪我を治さないといけないなんてわけが分からないの!」
「そうだな……」

 まぁ、俺の場合は、それだけで直していないわけではないわけだが――。
 完治させるために回復魔法を使うことは可能だった。
 ただ、イノンや他の連中の確執を考えると、治療して連れてくるのは……。
 それに怪我をしている状態で連れてくるなら、何かと邪推してくれる可能性だってありうる。
 そうすれば、話を聞いてくれる可能性だってあるからな。
 まぁ、これは言う必要もないだろうし……。

 そもそも俺だって感情的に言わせてもらえれば、どんな問題があったとしても仲間の情報を敵方に売るのは正直、許せない。

 まぁ、そのへんに関しては一応、ギルドマスターであるリネラスに。
 一番、被害を受けた奴が判断すればいいことだが……・

「とにかく、リネラスはどこにいるんだ?」
「イノンさんって人の部屋にいるの!」

 答えてきた妹の頭に手を置きながら「分かった」と俺は呟きながら、イノンの居る部屋へと向かった。




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