無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

姉妹の思い出(12)

「――で、どうするんだ?」

 俺は背中を見せた指揮官に声をかける。

「た、隊長! 奴は我々の手に負える相手では! あの、教会が選定した勇者ユークラトスですら歯が立たなかったと聞いております!」
「くっ!? ――では、どうするというのだ? ハズル副隊長!」 

 副隊長と言われた男が、指揮官である男に助言をしている。
 ただ、一つ言いたい。

 いくら大事な話があるとは言え、敵の前で背中を見せるとは愚の骨頂だ!

 俺は、あまりにも隙だらけだったこともあり、隊長と呼ばれていた背中を蹴る。
 金属の鎧を纏っていただけもあり、金属特有の感触が足の裏を伝わってきた。

 金属が凹む手ごたえと共に男が吹き飛ぶ。

「ぎゃあああああああああああー……」

 隊長と呼ばれた男は、地面と水平に飛んでいき、金属の鎧が地面と接触し火花を散らしていく。

「あっ……」

 身体強化の魔法が掛かっていたままだった。

「た、隊長おおおおお」

 副隊長ハズルが、金属と更地となった地面が接触して火花を散らして飛んでいく隊長を見ながら悲痛な叫びを上げていた。

「……だ、大丈夫だと思うぞ? た、たぶん生きてると思うし――」

 探索の魔法を発動した限り、赤い光点が表示されているから死んではいないはず。
 たぶん……きっと――。

 相手の出方を見ていると、ハズルと呼ばれた男は、俺をまっすぐに睨み付けてくると「この卑怯ものが! 正々堂々と戦う気概すらないのか!」と叫んできた。

「卑怯者って言われてもな――」

 俺は肩を竦めながら男の叫びの声に答えるために口を開く。

「第一、卑怯なのはお前らのほうだろう?」
「なんだと!?」
「俺の格好を見てみろよ! 俺とか素手なんだぜ? それに、お前らが先に矢で攻撃してきたんだろう? これは所謂、正当防衛という奴だ!」
「――た、たしかに……」

 俺の適当な理論に、副隊長である男は顎に手を当てながら頷いてしまう。
 ふむ……。
 こんな、適当な話で納得してしまう軍とか大丈夫なのだろうか?
 俺なら、すかさず攻撃をしたりするが……。

「まぁ、よく考えろよ? そもそも、客観的に見て数の暴力で俺の土地に無断で入ってきたお前らが悪いんだよ」
「この国はエルンペイア国王陛下のモノだ! そして、私達は国王陛下の軍隊だ! つまり無断で入ったわけではない!」

 ふむ――。
 そう言われると、俺の言葉にも正当性が無くなってしまうな……。

「ま、まあ――。お前らが先に手を出したことに違いはない! つまり殴られても蹴られても何をされても文句は言えない!」

 俺は、目の前のハズルという男と口論しながら不思議に思っていたことがあった。
 どうして、こんな無駄な会話をしているのかと――。
 敵対ならさっさと倒したほうが早いんじゃないのか? と……。

 自問自答していると指揮官である男が飛んでいった近くに兵士達が、地面に突き刺さったままの男を引き上げて「副隊長! 隊長がとんでもないことに!」と報告をしてくる。
 とんでもないという事は、一体どういうことなのか? と、とても気になる。

「生きているのか?」
「はい! 辛うじて息があります!」
「――そ、そうか……」

 兵士の言葉に、ハズルという男が小さく息を吐くと「魔王ユウマとやら、ここは痛み分けとさせてもらおう!」と、腰に差していた両刃の剣を抜くと、俺に語りかけてきた。

「何が痛み分けか分からないが、俺が、そんな話を呑むとでも思っているのか? 俺は魔王だぞ?」
「なんだと!? き、貴様――」
「くくくっ――。この魔王たる我! ユウマに手を出した愚行を後悔するがいい! さあ、やっておしまい! スライムさん!」
「な、なんだと!? き、貴様が――あ、あのスライムを使役していたというのか?」
「フハハハハハハ。今更、気がついても遅いわ!」

 俺の言葉を聞いたか知らないが、俺の後方に控えていたスライムが高さ10メートル近くまで盛り上がっていくと一気に崩壊して波のように近づいてくる。

 まるで、それはスライムウェーブ!

「ば、ばかな!? こ、こんなスライムの使い方があるとは!?」
「ま、まさか! 俺まで巻き込むつもりか? こんな馬鹿な?」

 巨大なスライムビックウェーブは、俺ごと巻き込んで侵攻してきていた兵士を全て飲み込んでいって、あらゆる鎧に武器に服を消化して止まった。



 ――夕日が照らす更地となったエウルブンガスト。

 俺は、全ての服と下着をスライムに溶かされて真っ裸になっていたが腕を組みながら、目の前にいる全裸の兵士達を見ながら「ふっ――、今日は痛みわけってことで許してやろう!」と大声で叫ぶ。

「おい! お前、本当に魔王なのか?」
「ふっ――。我が魔力は制御出来ないほど強大! 我ごと吹き飛ばされたいなら攻めてくるのだな! ハハハハハハッ」
「…………」

 何故か侵攻してきた兵士達が白目で俺を見てきている気がするが気のせいだろう。

「また侵攻してきた際には、貴様らの王も同じことになると知れ! 俺を含めて、どうなるかわからないぞ!」
「お前も含まれるのかよ!」

 副隊長ハゼルが俺の言動に突っ込みを入れてきたがスルーすることにする。
 一々、反応をしていても時間の無駄からな!
 とりあえずエルンペイア軍については、きちんと俺のことがアピールできたはずだ!
 どれだけ、俺が危険な人物であるということが!

 次はユリーシャ率いる反乱軍の偵察だな。





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