無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

姉妹の思い出(9)

「そ、それで……いつから始められるのですか?」
「いつから?」
「はい。特訓というか訓練というか――」

 サマラの問いかけに少しだけ考え込む。
 とくに、何時から戦闘方法を教えるかは考えていなかった。
 ただ今後、彼女らがエルフガーデンを侵略してきている国軍や反乱軍と戦うなら早めに訓練をした方がいい。
 早ければ早いほど、修行の時間は取れるのだから。

「そうだな……」

 俺は顎に手を当てながら考える。
 今すぐに教える時間がないんだよな。
 今、攻めてきている軍隊はスライムが抑えてるとは思うが、どんな状況になっているのか分からないし――。

「アリア!」
「どうしたの? お兄ちゃん?」

 振り向くと、さっきまで椅子に座っていた妹が巨大化したスライムの上に寝そべって俺を見てきていた。

「――ん?」

 俺は何度もまばたきをする。
 おかしいな……。

 朝に布団で中で寝ていた妹がスライムを出した時には、手のひらサイズだったはずなのに、どうして、1メートルを超える大きさまで巨大化しているのか――。

 ふむ……。
 スライムには自己修復に自己進化しかつけていなかったはずなのに、謎は深まるばかりだ。
 もしかしたら、妹が魔王なのが影響しているのかもしれないな。

「ねえ? ねえ? お兄ちゃん! どうしたの?」
「アリア、お前が契約しているスライムは、どういう状況にあるんだ?」
「スラちゃんのこと?」
「ああ、使い魔の場合は離れていてもある程度、状況が分かるって前にヤンクルさんに聞いたことがあったが、どうだ? まぁエルブンガストからエルフガーデンまでの距離が遠いからな……。無理ならいいんだが……」

 妹が寝そべっていたスライムの透明体を人差し指でツンツンとつつくと――。

「スラちゃん! どのくらいの距離までなら情報のやり取りできるの?」

 妹の話が分かっているかどうか分からないが、スライムがプルプルと体を動かしたかと思うと妹が「そうなの? ふーん。へー」と、頷いたかと思うと俺を見てきた。

「お兄ちゃん! スラちゃんがね! この世界なら、分身さえ置いておけば、どこにいても情報のやり取りが出来るって言ってるよ!」
「――え!?」

 ――こ、この世界?

 この世界って……この世界だよな? ――って、言うか……俺、分裂能力とかそ仕組んだ覚えが無いんだが――!?

 ……ま、まぁ……、妹が契約していて、何も問題が起きないなら何でもいいか!

「どうしたの? お兄ちゃん?」

 スライムの上に寝転がっていた妹は、両足をバタつかせながら問いかけてくる。
 俺が驚いて考えていたことを、どうやら妹は気にしていたらしい。

「アリア、スライムと国軍の状況は分かるか?」
「うーん……。スラちゃん、どういう状況なの? ふむふむふむ……」
「ユウマさん、あの――そのスラちゃんというのは……普通のスライムなんですよね?」

 何故か知らないがサマラが信じられないモノを見たかのように、妹が寝そべっているスライムを指差して語りかけてきた。

「まぁ、普通かどうかと言えば……」

 俺もチラリと妹が寝そべっているスライムに視線を向ける。
 するとスライムは、ぷるるん! と音を鳴らして何やら訴えかけてきていた。
 きっと「僕は悪いスライムじゃないよ!」とか、その辺なのだろう。


 まぁ妹が契約しているスライムなのだ。
 飼い主が清らかな心を持っていれば、使い魔もきちんとしていると聞いたことがあるからな。
 つまり、他の人よりも少しだけずれた感性を持っているが、穢れをしらない妹が契約しているってことは無害なはずだ、きっと――たぶん……。

「――た、たぶん、大丈夫なはずだ!」
「そ、そうですか……」

 どうやらサマラは納得いかない様子であったが、そのへんはもう納得してもらうしかない。

「お兄ちゃん! スラちゃんがね、難しいことを言ってきて良く分からないの!」
「難しいこと?」
「うん……」
「そしたら、スライムの言っていることを、そのまま教えてくれないか?」
「わかったの! えっとね! エルブンガスト入り口から大人が歩いて20分の場所に敵陣地を発見。エルンペイア王の軍勢先遣隊1万8千、ユリーシャ姫率いる軍勢7千が、それぞれ陣地を設置済み。騎馬隊、弓隊、槍兵を確認済み。兵糧の量から見て最大10万以上の兵士を展開可能――だって!」

「「「「「「…………」」」」」」

 俺だけではなく、その場にいた全員が無言になった。
 おかしいな。
 スライムの癖に、スライムの癖に、少し優秀すぎないか?




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