無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

託された思い(2)

 触れる事も話すこともできなかった。
 糾弾という言葉や投石から守ることができなかった俺をまっすぐ見ながら、贖罪のように「自分が悪かった」と語ってくる。

 そんな彼女に俺は、掛ける言葉が見当たらなかった。
 何故なら、それは……。

「私――」

 虚ろで感情を宿していない瞳で俺を見てくる様相は、とても見て居られるものではなかった。
 普段の彼女とは、まったくかけ離れた様子に俺には戸惑いの感情しか浮かんでこない。

 ――ただ、このままではいけないと言う事も分かった。
 ただ、どうしていいのか分からない。

「リネラ――」

 気が付けば、周囲には霧が立ち込めていた。
 そして、霧が晴れた時には周囲の状況は一変しており見慣れた風景が辺り一面に存在している。
 そこは見覚えのある場所で――。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 振り返るとそこには、笑顔で俺に話しかけてくる幼女の姿をしたリネラスの姿があり、隣にはサマラも立っていた。  

「リネラス! また、リンスタットさんに怒られるよ?」

 リネラスとサマラの会話を聞きながら、ようやく理解する。
 今、俺はいる場所は、この世界に来てから初めてリネラスやサマラに出会った場所だと言う事に。
 それと同時に会話の中に違和感を感じる。

「ああ、大丈夫だ。俺の名前はユウマと言うんだが、ここはエルフガーデンで間違いないか?」
「え? あ……う、うん――そうだけど……」

 俺の言葉にリネラスは戸惑った様子を見せ、どうしたらいいのか分からない表情をしていた。

「ところで、リンスタットさんに怒られるというのは、どういう意味なんだ?」

 俺の言葉を聞いたサマラは、目を大きく見開くと、「私、そんな事言ってないもん!」と叫び、そのまま森の中へと走っていってしまった。
 目の前から居なくなったサマラに溜息をつく。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。――それより、まずは――ッ!」

 振り返れば、そこにはリネラスと居なくなったはずのサマラが立っていて「リネラス! また、リンスタットさんに怒られるよ?」と、リネラスに注意していた。そして、リネラスと言えば、頬を膨らませながら「サマラは、いつもうるさい!」と呟いている。
 その様子に、俺は頭に手を当てた。
 そして、嫌な予感が止まらない。
 だからこそ、自然と口からは「まさか、この世界は……」と、言葉が出ていた。



 冒険者ギルドの建物内の一室である寝室を借り受けた俺はベッドに寝転ぶ。
 そして、今まで起きた内容を精査していく。

「リネラスの祖父に出会う内容は、規定路線だな――。問題は、魔物の攻撃を避けてもループにはならないって点か。そしてリンスタットさんと出会う事も織り込み済みで、それを破った場合は、ループの対象となるか……」

 考えれば考えるほど、この世界は不思議な世界だと言わざるえない、
 本来であれば、多少は深層心理内での受け答えは変わってくるようなモノなのに、それを拒むように受け答えをミスった瞬間、世界は1から始まってしまう。
 まるで、元から存在するルート以外は認めないと言っているようなものだ。

 そして、それは一つの問題点も示唆している事に他ならない。
 そう、間違いなくエルフガーデンの集落で始まる妖精の儀でリネラスやリネラスの祖父が同じエルフに糾弾されることになる。
 そして、またループする事になるのだろう。
 同じ場面を、同じ場所を繰り返し見るというのは、それは幸せな記憶なら良いのかも知れない。
 でも、この世界の在り方は、最終的にはエルフに糾弾されて終わりループしている。
 それは、まさしくリネラスにとって地獄ではないのだろうか?

「誰かに疎まれること、誰かに否定されること、誰かに理解してもらえない世界。それがリネラスが求めた世界ということになるのか……」

 思わずため息が出る。
 ただ、この憶測はあくまでも仮定の上に積み重ねた俺の推測に過ぎない。
 だから、確かめる必要がある。
 リネラスの深層心理の世界。
 その先に、在るモノが果たして何かと言う事を――。

「それで、また――あんな光景を見るのか……」

 俺自身の手で守れるなら、それでよかった。
 今までなら、俺が守りたいモノは魔法で何でも守ることが出来たし、それが普通だと思っていた。
 でも、今の俺は魔法が使えず無力な人間に過ぎない。
 だからこそ、どうしていいのか分からないし、何をするべきかも定まらない。

「ユウマさん、今日は、娘の成人式がありますので、良かったら参加など如何ですか?」

 リンスタットさんの笑顔に、俺は苛立つ。
 リネラスが魔力を見る事ができない、妖精の眼を持たない時点で彼女がリネラスを拒否していなければ、また違った選択肢があったのかもしれない。
 でも、そうはならなかった。

「リンスタットさん、妖精の儀と言うのは失敗する事はあるんですか?」
「そんなことは聞いた事がないです」
「そうですか――」
「それに、娘の父親は人間ですけど……娘はエルフの容姿をしていますし、そんなエルフの摂理に反するような事にはなりません」
「エルフの摂理……」

 俺は、強く手を握りしめながら考え――。

「もし、そのエルフの摂理に反したことが起きた時は――」
「え?」

 リンスタットさんは、一瞬だけ呆けた表情を見せるとニコリと微笑んできて――。

「そんなのはエルフではありませんから――」
「――ッ!?」

 彼女の表情は、まるで俺を見ていた両親と酷似していた。


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