【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

従属神襲撃(7)

「……リネ……ラ…ス……」

 呆然と、声が――。
 自身の声とは思えないほど、感情が抜け落ちた音が自分の声がダンジョン内――部屋の中に響きわたり、自分の鼓膜を揺さぶったのが分かった。

「冗談は、よ……せ……よ……な?」

 リネラスの胸元に手を当て、俺の中に存在している人間の構造を思い出しながら体の構築を――再構築を行う為に魔法を――回復魔法を発動させる。

 発動した魔法は、リネラスの体を纏っていき――すぐに消失する。

「なんで……だ――」

 どうして?
 どうして……俺が、仲間を失わなければいけない?
 何故? 
 何故だ? 
 ……誰が――。
 一体、だれが……。
 俺から、大事な――大切な人間を奪った?

「それは……」

 リネラスの体を抱き上げ、俺はダンジョンの入り口へと歩いて向かう。
 ダンジョンから出ると俺は眉元をひそめた。

「ユウマさん……」
「一体、何が起きた?」

 俺は、建物入口の壁に寄り掛かるようにして倒れているイノンに声をかけながら細胞増殖を利用した【肉体修復】の回復魔法をかける。

「ごめんなさい……私……」
「謝っているだけじゃ分からない。一体、何が起きたんだ?」
「サマラさんの姿を取っていた化け物が暴れて……いいえ、それは……全部、私――こんな事になるなんて……知らなくて……私……わたし……こんな事になるなんて……」
「わかった――他の皆は?」
「あそこに……」

 イノンがゆっくりと指さした先には、ユリカやセイレスにセレンが倒れていた。
 呼吸をするのすら忘れてしまう。
 すぐに走って近づくと、怪我は酷いが生きていた。

「しっかりしろ! すぐに回復魔法をかける」

 リネラスをソファーの上に寝かせる。
 外傷だけだったのが幸いしたのが3人とも、1分もせずに顔色がよくなり呼吸が安定しているのが確認することができた。

「リネラスさん……? そんな、私――」

 振り返ると顔色を真っ青にしたイノンが呆然と佇んでいた。

「約束と――約束と違――」
「イノン?」

 イノンの両肩を掴んで俺は話しかける。  

「一体、何を言って……」
「私…………」

 俯いてしまったイノンは、何も語ろうとしない。
 イノンの様子を見ながら俺はこの状況を、移動式冒険者ギルド宿屋を襲撃してきた者を――その存在を【探索】の魔法で、確認していた。

「言えないならいい。ただ、あとでキチンと説明をしてくれ」
「…………」

 首肯してこようとしないイノンを一瞥してから、【身体強化】の魔法を発動させ建物から出る。
 すでに補足している光点の2つ。
 一つは緑色の光点。
 もう一つは灰色の光点。
 つまり、襲撃してきたのは、灰色の光点と言うところなのだろう。

「――ユウマさん」

 イノンの言葉に俺は答えを返さずに走り始める。
 移動速度は、かなり早い。
 だが、俺にとっては……。

 音速を突破した移動速度を維持したまま、俺は走り続ける。

「……見つけた――」

 視線の先にいたのはラミア。
 そう呼ばれる魔物というのが、俺の中にある知識が教えてくれた。

「え!? ユウマ……さん?」

 ラミアを追いかけていたと思われるエリンフィートが俺を見て、寂しげな表情で見てくる。

「待ってください!」
「あ? エリンフィート。あいつが俺の仲間に手を出して着た奴だろう?」
「そうですが……」
「そうか――」

 それだけ分かればいい。
 その答えだけ聞ければ満足だ。

「エリンフィート、お前は手を出すなよ? あいつは俺が殺す!」
「え!? ですが……」

 エリンフィートが何かを呟こうとしたが、そんな事はどうでもいい。

「【流星】」

 ラミアが逃げている方角の先に、数センチの鉱石を上空数万メートルから数万個落下させて進路上を塞ぐ。
 逃亡していた道を封鎖された魔物は――ラミアは俺の姿を見て驚愕の表情を浮かべてくる。
 その姿は、上半身が青い肌をした女性、下半身が蛇の5メートルを超えるラミアであった。

「我の名は未来を見通すアルグージャ。ウラヌス様の従属――ギャアアアア」

 俺は、突然語りかけてきたラミアの腕を【風刃】の魔法を斬り飛ばす。
 斬り飛ばされたラミアの腕を、【風爆】の魔法で粉々に破壊する。

 破壊された腕から舞い上がった血と肉塊は、周囲に飛び散り俺の体に降りかかり朱色に染め上げた。

「お、おまえは――ただの人間だったはず……記憶を読みとって――どうして……我に傷をつけることが、たかが人間の分際で。……どうして――」
「黙れ!」

 魔力を強制解放する。
 それにより周囲の大気の魔力を――力を支配下に置く。

「ぐっ!?」
「え!?」

 俺が右腕を斬り飛ばしたアルグージャと、追いかけてきたエリンフィートが同時に呻くとその動きを止めた。






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