【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(8)

 俺の言葉に、先行していたエルフ達の雰囲気が変わる。

「そ……そうですか? それではもっと移動速度を速くしても?」

「そうだな……お前たちが限界だと思うギリギリまで飛ばしてもいいぞ? それに村までもうすぐだろう?」

 【探索】の魔法を発動させると緑の光点が存在している場所を確認できた。
 俺が緑の光点と確認したのはサマラくらいだ。
 つまりサマラがいるということは……そこはエルフの村の可能性が高い。
 それと灰色の光点も無数に存在している。

「わ、わかりました。それでは村まで競争という事でどうでしょうか?」
「別に構わない。だが! このまま勝負しても俺が勝つことは確定だからな! ハンデをやろう!」
「そ、それはいくらなんでも! 私達をバカにしすぎでは?」

 先行していたエルフ達4人は、目を細めると怒気を孕んだ声で俺の提案に答えてきた。

「いや……俺とお前たちの実力差を見るとハンデが無いと競争にならないと思ってな……」

  俺は立ち止まりエルフ達を見て「そうだな。10分間、時間をやるから先に進むといいぞ?」

 【探索】の魔法の範囲は、3キロはあるから成人男性だと走ると10分から15分くらいだ。
 10分もハンデをやれば多少はマシな競争になるだろう。

「ユ、ユウマ様。そ、それはあまりにもエルフを舐めすぎているのではないか? 我々は森の住人。人間に決してたどり着けない速度で移動が可能です」

 4人のエルフとも顔を真っ赤にして抗議の声を上げてくるが、そう言われても困る。

「分かった。お前たちが俺に勝てたら何でも一つ言う事を聞いてやるよ。変わりにお前たちが負けたら何でも一つ言う事を聞くっていうのはどうだ?」

 俺の提案に彼女達は喉を鳴らした。

「なんでもと言うのは何でもと言う事でいいのですね?」
「それはつまり、性的な事でも?」
「何でも……ゴクリ」
「うふふ」

 4人とも目が獲物を狙う目になっている。

「いいでしょう。ですが我々にも森の民のしても矜持があります。ハンデは5分でいいです。10分では、ハンデどころではありません。5分でもハンデはありすぎですが、そこはユウマ様から仰られたのでいいですよね?」

 頬を硬直させながら俺に告げてくるエルフに俺は頷く。
 すると、先ほどから俺と交渉してきたエルフが3人のエルフに、「私はここでユウマ様が本当に5分間待機するかをきちんと確認する。エマ、メルン、サラ、お前達は村に向けて走ってくれ」

 エルフの言葉に3人は頷くと森の中を走っていく。
 そして俺はというと、3人のエルフの後ろ姿を見送った。
 【探索】の魔法を発動させて3人の行動を見ていると、成人男性より若干速いくらいの速度で森の中を移動しているのが分かる。
 すると、残ったエルフが俺の方へ自信満々な笑顔で「ユウマ殿、この勝負は我々の勝ちです。いくら魔力が高くても森は我らエルフの領域。我々に勝てる者はいません。そろそろ5分経ちます、我々も向かうとしましょう。せいぜい私の後に遅れずについてきてください。私の名前はアンネと言いますが……!?」

 エルフが驚いた顔で俺を見てきている。

「ユ、ユウマ殿……い、一体何を?」

 ふふふ、俺は競争をするとは言ったが魔法を使わないとは一言も言っていない。
 【身体強化】魔法を発動し肉体の細胞強度を一気に引き上げる。
 海の迷宮リヴァルアで鍛えられた事で超人的な肉体を持つに至った俺の肉体は魔法で強化された事で、超人を超越した瞬発力、持久力を持つに至る。

「さあ、逝こうか?」

 俺はアンネと言ったエルフの体を抱き上げると地面を蹴って移動する。
 俺に抱き上げられたアンネは一瞬呆けた顔をしたが、俺が蹴った地面が爆発した場面を見て顔を青くした。
 さらに、地面を踏み込みトップスピードに乗った瞬間、音速の壁を突破し、衝撃波が形成され周囲の木々を薙ぎ払う。

「ええっ? 大樹が宙を舞って――!? そ、そんな……こ、こんなの嘘でしょう?」

 魂が抜けたように茫然と呟いているアンネを無視して俺は移動を開始した。

 最初は、アンネが震えた口調で「だ、だがユウマ殿――こ、ここ、この程度の速度ではエルフ族には追いつけはし、しないぞ!?」と叫んでいたが、途中からは、「ま、待ってくだひゃい! ら、らめえええ」という口調に変化し、最後には、「アワワ」と言葉にならない言葉を呟いていた。

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