無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

エピローグ

「それは本当なのか?」

 俺はセイレスが見せてきた黒板を見て眉元を顰める。
 それが本当ならこの町は――。
 帆馬車は、花の都とラン・フェイフォンが語ってきたローランと外を隔てる鉄の扉に近づいていく。

「ユウマさん! 前方に扉が!」

 ユリカが俺の名前を呼んでくる。
 俺は帆馬車の中から出ると、後方から「この町からは逃げられんぞ!」と、声が聞こえてくる。
 振り向くと人間の形をした闇の塊である悪夢ナイトメア・ロードが近づいてくるが……。

 俺は、ナイトメア・ロードの言葉を無視し帆馬車から飛び降りると【身体強化】の魔法を発動し、高さ10メートル近い鉄の扉を蹴破った。

「バ……バカな!? 人間では開けられない重量なはず……」
「ユリカ! そのまま馬車を走らせろ! 俺はコイツに引導を渡す!」
「分かりました!」

 ユリカは俺の言葉に頷きながら手綱を操り、帆馬車を走らせ町から抜けていく。
 それと同時に町の建物が次々と風化し消滅していく。

「おのれ! 何故、貴様には我が力が効かぬのだ!」

 ナイトメア・ロードの言葉を聞きながら俺は肩を竦める。
 そして、「……さあな?」と言いつつ。ユリカが町から抜ける間の時間を稼ぐために帆馬車とナイトメア・ロードの間に立ちふさがる。

「そこをどけ! 人間が!」

 跳躍して近づいてくるナイトメア・ロードの顔であろうかと言う部分に上段蹴りを繰り出す。
 樹木を蹴り砕いたような感触が足を伝ってくる。

 俺はそのまま右足に軸足の力を伝えて振り抜く。
 常人を遥かに超えた脚力より繰り出された力により、ナイトメア・ロードの体が宙に浮くと縦回転しながら消滅しかけている建物の壁に接触・粉砕し建物の中に姿を消す。

「人間の分際で!人間の分際で!人間の分際で!人間の分際で!人間の分際で!人間の分際で!人間の分際で!」

 建物を爆破して現れた5メートル近くまで肥大化した緑色の巨人であるナイトメア・ロードは無数の蔓を俺めがけて繰り出してくる。
 俺はそれらを避けながら巨人の近くまで駆け寄ると下段蹴りでナイトメア・ロードの左足を粉砕した。
 バランスを崩しながら膝をつくと俺を怒りの眼差しで見ながら。

「バカな……人間が……人間ごとき矮小で脆弱な存在が……どうして、これほどの力を……」
「そんなに人間が嫌いか?」

 俺の問いかけにナイトメア・ロードは、目を見開く。

「当たり前だ!」
「そうか……どうして、そんなに人間が嫌いなんだ?」
「知らん! 知らぬ! 貴様ら人間は生きていてはいけない存在なのだ!」

 恨む事に対して憎しみの発端すら、目の前の者はその記憶すらない。 
 深く溜息をつきながらセイレスが黒板に書いていた事に嘘がなかったと思い不憫に思う。

「そうか……なら、その怒りを全部、俺にぶつけてこい!」

 俺の言葉を聞いたナイトメア・ロードは……メモリーズ・ファミリーの精霊は狂気の中で俺に向かってくる。
 そして交差すると同時に俺は、ナイトメア・ロードの胸元に飛びこむと黒く染まっているメモリーズ・ファミリーを片手で引き千切る。

 それだけでナイトメア・ロードは巨体を維持できなくなり次々と体が崩壊していく。
 それに伴い町が、灰と化して光の粒子となって消える。

「な……なんだ……これは……貴様は何をした!?」

 ナイトメア・ロード――否、メモリーズ・ファミリーを見て。

「お前は、過ぎ去った思い出を誰かに見せる為の存在だったんだ」

 俺はセイレスが黒板に書いた内容をそのまま伝える事にする。
 下手に話を加えても意味を為さない。
 そんな気がするからだ。

「私が……過ぎ去った思い出を誰かに見せるだけの存在……だと?」
「違う、お前は過ぎ去った大切な思い出を人に見せて安らぎや安心を与えるために作られた存在だったんだ」
「なんのために?」

 俺は、メモリーズ・ファミリーの言葉に少しだけ頬笑みながら。

「お前が言ったろ? 人間は弱くて醜いって……だからだよ。人は過去を思い出を美化すると同時に懐かしく思うものなんだ。だからお前を人は作った。エルフ族であるセイレスだからこそ、魔法通信師だったからこそ気がついたんだろう」
「わ……私が、私が作られた存在だと……!? そんな事が認められる訳があるかー!」

 5メートルを超える緑の巨人になったメモリーズ・ファミリーは体中を崩壊させながら俺に向かって突っ込んでくるが、俺はその巨人の体の横腹を蹴り吹き飛ばす。

「ぐはっ! 貴様……」
「なんだ? 憐れんで俺が攻撃を受けるとでも思ったのか?」
「くっ……」

 俺は声を聞きながら、手に持った黒化したメモリーズ・ファミリーを見た後に周囲を見渡す。
 すでに空は割れ、町の大半は消滅している。

「さて……お前の心臓部であるメモリーズ・ファミリーを破壊すればお前も消える訳だ、最後に言い残したい事があるなら」

 俺がメモリーズ・ファミリーを握りつぶそうとしたところで……。

「ユウマさん!」
「ユウマ!」

 リネラスとイノンの声が後ろから聞こえてきた。
 振り向くと二人とも、こちらへと近づいてくる。

「目が覚めたのか……」

 俺の言葉に2人が頷いてくるが、俺としてはさっさと離れてほしい。
 まだ、ここはメモリーズ・ファミリーの影響範囲内なのだから。

「リネラス! イノン! すぐにここから離れろ! もう片がつく!」

 俺がメモリーズ・ファミリーを握りつぶそうとしたところで「待って下さい! お兄ちゃん!」とセレンが、黒い色をしたメモリーズ・ファミリーを持っていた右手を両手で掴んできた。

「お前ら、何を言っているのか分かっているのか? こいつは俺達に手を出したんだぞ? それにいくら原因が人間に原因があると言っても手を出してきた時点で敵確定だ!」
「それでも! ユウマさん待ってください!」

 俺は舌打ちしながらイノンの方を見てからメモリーズ・ファミリーの方へ視線を向ける。
 すると、5メートル近くまであった巨人はすでに、大半が消失しており人の形に戻っており、その姿は俺の金貨100枚を銅銭に交換したラン・フェイフォンであった。

「忘れていた記憶を……思い出を思い出させてくれてありがとうございます」

 イノンが頭を下げながら人の形となったメモリーズ・ファミリーに頭を下げると、メモリーズ・ファミリーは呆けた顔をしていた。
 そして「お父さんに合わせてくれてありがとう……」とリネラスがはいつもとはまったく違う、素直な気持ちを発露し「パパとママに合わせてくれてありがとう」と、セレンが伝えると俺の右手に握っていたメモリーズ・ファミリーは黒色から鮮やかな青色へと変化した。

「……そ、そうか……私は、私は……」

 それだけ言うと、目の前のメモリーズ・ファミリーはその姿を光の粒子と化し消滅した。




 ――メモリーズ・ファミリーの花畑で目を覚ました翌日。

 俺は一人納得できずに帆馬車の馬の手綱を握っていた。
 結局、なんだかんだうやむやのまま倒しきれずに勝手に消えてしまって、はっきり言わせてもらえば消化不良。

「ユウマさん、少しいいですか?」
「ん? ユリカか……別にいいが……それよりもリネラス達の容体はどうだ?」
「はい、大丈夫です。メモリーズ・ファミリーの球根は食べられるとセイレスさんが教えてくれましたから」
「それもエルフの知識か?」
「いいえ、エルフが持つ植物の気持ちを感受する力みたいなものだと思います」

 なるほどな……。
 俺は帆馬車の中をチラッと見る。
 そこには赤と青の色をしたメモリーズ・ファミリーではなく青色の花弁をした青空のようなメモリーズ・ファミリーが何十個と詰んである。
 味はジャガイモと大差はない。

「それよりも、ユウマさんは不機嫌ですね?」
「まぁな……」

 俺は少しばかり不機嫌に答える。
 だいたい、最後の戦いなら最後まで全力で戦ってほしいものだ。
 それなのに、勝手に解釈して勝手に納得して浄化して消えるなんて俺の立場がまるでないじゃないか。

「それで原因は分かったのか?」

 仕方なく俺は話題を転換することにするが……。

「そうですね。私が両親からもらった植物図鑑によりますと……メモリーズ・ファミリーは元々、農作物が取れない水が少ない場所で、取れるようにジャガイモを改良した物みたいです、そして人の記憶を読み取って過去の記憶を追体験させる力を持ったのは偶然だったみたいですね」

 ユリカが俺に植物図鑑を見せてくる。
 そこには、メモリーズ・ファミリーを作ったのは初代冒険者ギルド創立メンバー ラン・フェイフォンと記載されている。

「初代冒険者ギルドメンバーか……」
「どうかされたんですか?」

 ユリカの言葉に俺は「なんでもない」とだけ答える。

「そういえばユウマさん、セイレスさんがメモリーズ・ファミリーは人の記憶を読み取って過去の楽しかった頃の思い出を見せるのが副産物として付与されたらしいですけど、あくまでもジャガイモを改良しただけの物なので人の感情を見てる間に、人の感情に耐えられなくなって暴走したのでは?と仮説を黒板に書いて私達に見せてきました」
「なるほど……つまり、人間の感情を何度も見せられた事で耐えられなくなって人が嫌いになって、それすら忘れて暴走して人に害を与える存在になったと?」
「みたいです」

 ふむ……かなりこじつけな理論な気がするが、深く考えても仕方ないだろうな。
 それに……。

 町が消滅し花畑に代わる瞬間、「感謝してくれて、ありがとう」なんて言われたからな。

「そういえば、ユウマさん」
「ん? なんだ?」
「私、気を失うときに誰かに感謝された気がするんですけど……」

 ユリカが首を傾げながら俺に問うてくる。

「気のせいだろ! 感謝なら帆馬車の中に転がってるだろうしな」

 俺は、メモリーズ・ファミリーを指差してユリカの問いかけに答えながら、帆馬車の手綱を握りながらエルフガーデンに向けて帆馬車を走らせた。

 そして――その帆馬車の後ろ姿を青く光輝くメモリーズ・ファミリーの花々が見送った。





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