【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

遠き遥かな理想郷(前編)リネラスside

 ランプの明かりが部屋の中を照らしている。
 淡い光に照らされた室内には、多くの資料が綺麗に並べられて本棚に仕舞われていて、部屋の主の性格を表すかのようであった。

 私は、部屋の中の資料を見ながら冒険者ギルドの職員になるための勉強をしている。
 少しでも実家にお金が送金出来れば妹や弟達の生活が楽になれるから。

 部屋の扉ノブが回されて、油がきちんと注されていない扉は留め金の部分で微かにキィと甲高い音を鳴らしてから開いていく。
 私は、部屋の扉の方へ視線を向ける。

「まだ、起きていたのか?」

 そこには私のお父さんの姿があった。

「うん。もうすぐ冒険者ギルド職員養成所の試験があるから!」

 私がそう言うと、お父さんは眉を寄せて。

「正直、お前が冒険者ギルドの職員になるのは私としては反対だ。冒険者ギルドは良い側面もあれば悪い側面もある。誰かを幸せにする反面、誰かを不幸にすることだってある。だから俺としては、普通に暮らしてほしいと思っている」

 お父さんは、いつも冒険者ギルドの職員は恨みを買いやすいから冒険者ギルドの職員にはならないようにと言っている。
 冒険者ギルドは、ローレンシア大陸からエルアル大陸に移住してきた人々が商業都市エメラスで始めたのが最初と言われている。
 商業都市エメラスは、議会制度を取っていて冒険者ギルドもそれに習っている。
 国単位での自治組織となっていて、国の内政・戦争には一切関与しない。
 ただ、冒険者ギルドは魔物の進撃や被害が出た場合には、例外的に国に協力することはある。

 近年では、そういうことはあまり無いから冒険者ギルドとユゼウ王国との間の関係は、希薄になってきていると聞いていた。

「普通の暮らしって何?」

 私はお父さんに聞き返す。
 するとお父さんは少しだけ困った顔を私に見せてきて。

「リネラスだって、もう10歳だろう? 好きな人とかはいないのか?」

 私は、否定的な意味合いを込めて頭を振る。
 好きな人が出来ても、それは実らない。そう言う事を私は知ってるから……だから私は、妹と弟達に少しでいい暮らしをさせたいと思う事にしている。

「お父さんだって知ってるくせに……」

 そう、私は普通とは違う。
 私は容姿、たしかにお母さんから受け継いだ物。
 絹糸のような細く艶のある背中に流した金色の髪に、青く輝く大きな瞳に整った鼻筋と、どこから見ても森の妖精と言われるにふさわしい様相。

 でも、私には欠落してる部分があった。
 だから私とお父さんはフィンデイカの村に移住してことになる。

「すまないな……」
「ううん、お父さんの責任じゃないよ!」

 私は落ち込んだお父さんを励ますように明るく答えた。
 でも、心の中では8歳から離れ離れで暮らしてるお母さんに会いたい。
 でも、私が戻れば迷惑をかけてしまう。
 だから、お父さんは冒険者ギルドのギルドマスターが使用可能な金庫を使って依頼を逆手にとってお母さんにお金を送金している。
 お母さんのお父さんは、もともと冒険者ギルドマスターだったから。
 そして冒険者ギルドマスターを引き継ぐために、商業都市エメラスからエルフガーデンに派遣されてきたのがお父さんのアルバだった。

 そして……私は――。

「もう! お父さんはお部屋から出て言ってよね! 荷物の用意をして明日から【海の港町カレイドスコープ】に試験を受けにいかないといけないんだからっ!」

 私は、木製の椅子から立ち上がると扉ノブを持ち思いっきり閉めた。
 すると廊下側から「顔がー! 顔がー!」と声が聞こえてきたけど、無視することにして大き目のバックに荷物を入れ始める。

 用意は1時間ほどで終わる。

 そして、明日のためにそろそろ寝る事にした。、
 寝巻に着替えるとベッドに入りランプの明かりを消すと室内は暗闇に満たされた。

 明日から一週間かかる旅の始まり。

 【海の港町カレイドスコープ】で年に一回行われる冒険者ギルドの職員の試験を考えながら私は眠りについた。




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