無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

イルスーカ侯爵令嬢エメラダの恋事情(中編)

土で作りだされた橋を見て私だけではなく、イルスーカ侯爵第2騎士団の全員が無言となった。
 魔法は、回復魔法を主軸として考えられている。
 それは、魔法を使う際に必ず必要となる”魔銀”が非常に高価だからだ。
 それなのにユウマは、魔法を使う際に魔法陣も”魔銀”も詠唱も使わずに魔法を発動させている。
 これがどれだけのメリットなのか、戦いに身を置くものなら分かる。
 詠唱が必要ないということは、相手に反撃を与える術や対処する時間を与えないということに、それはつまり戦術、戦略レベルで恐ろしいまでの有用性を発揮する。
 そして、”魔銀”を利用しないという事は、魔力がある限りいくらでも魔法が使い放題だという事だ。
 それに魔法陣も描かないことも、直前まで魔法発動を悟らせないということもできる。

 ユウマは、今の行動で私達にこれだけの情報を与えたというのに、その表情は……!?
 橋が、出来たと同時に、ユウマの体が力を失い倒れるところを部下が支えていた。

 そうか。
 ユウマは、自分の魔力が枯渇するかも知れないと思いながらも、私達に壁を作ったのは自分ですと証明してきたのだな。
 魔力の枯渇は寿命を削るというのに……。

「ユウマ、申し訳なかった。村を囲う壁と堀は全てユウマが作ったのだな」
 私の言葉にユウマは頷いてくる。
 そして、『誰でもおかしいと思いますよね?』と語りかけてきた。
 あれだけ、外見で判断される事を嫌っていたというのに、私も同じように外見だけで判断していた事に後悔の念が浮かんでくる。

「ユウマは、私の内面を見ていてくれたのに、私はユウマの外見で判断してしまっていた。それは私が一番嫌いな事であったはずなのに……本当にすまない」
 私の謝罪に対して、彼は微笑み返してくる。
 治まりかけていた心臓の鼓動が速くなっていくのを感じ、私は職務中なのだぞ!と自分を叱咤する。
 心の中で葛藤してる私に、ユウマは語りかけてきた。

「大丈夫ですよ?俺は気にしてませんから。それよりもウラヌス十字軍が、村の北側に布陣しています。今作りました橋を渡り村に入りましょう」
 ユウマの言葉に私は頷きながら心の中で、この男は心が広いのだなと感心する。

「お前たち、村に入るぞ!」
 私は部下に命令を下す。
 そしてユウマが作った土で造られた橋を、馬に乗りながら渡っていく。
 そこでようやく気がついた。
 壁は2重に作られており、川も内側と外側と2つ存在している。
 何よりも驚いたのが内側と外側の川は激流のように流れていることだ。
 この川の操作、維持だけでどれだけの魔力を消費してるのがまったく予想できない。
 まさか、ユウマという男は見た目よりはるかに年を召した魔法師なのではないのか?と思ってしまうが、私は頭を振ってそれを否定する。
 ユウマから感じる立ち振る舞いを見てれば分かる。
 彼の行動には、表裏がないと私の貴族としての経験が告げている。
 それに魔法を極めたアルネ王国宮廷魔法師であっても、これだけの魔法を維持する魔力量は持っていない。まるで理解ができない男に私の興味は尽きない。

「ユウマ君!」
 その時、一人の村娘が、ユウマの名前を告げながら近づいていく姿が目に入った。
 思わず、私はユウマとその娘の間に割って入ってしまっていた。
 私は一体、何をしているのだ?
 だが、ほかの女がユウマに近づくのが何となく気にいらなかった。
 ……バカか、私は。
 これでは、嫉妬してるみたいではないか。
 会ったばかりの男にか?それはない。断じてない!
 そうだ、これは……仕事なのだ。

「娘、ユウマはしばらくこちらで取り調べをすることになった。悪いがユウマには近づかないでもらおうか?」
 近づかないでもらおうかとか私は何を言ってるんだ?
 これじゃまるで私の男に近づかないで!と言ってるようなものではないか?
 バカなのか?私はバカなのか?

 心の中で自問自答を繰り返してる私を余所に、ユウマが村娘を説得していた。どうやら村娘はなっとくしたようでユウマから離れて村の方へ戻っていった。
 その姿を見て私はホッとため息をついた。

「エメラダ様、少しいいでしょうか?」
 ユウマが私に話しかけてくる。
 まずいな、変な女だと見られてしまったか?流行る気持ちを抑えながら私はうなずく。
 何を話してくる?出来れば嫌われないといいのだが……。

 私が頷いたのをユウマは確認した後、私から離れると先ほど、私達が通ってきた橋を壊していた。
 まて!先ほど魔力が尽きかけて倒れそうだったではないか!そんな状態で魔法を使ったりしたら……。
 私は急いで馬から降りる。そしてユウマに駆け寄り倒れかけた体を支えた。

 そして、ユウマを抱きしめる事が出来た事に、私は心の中で思わずフフッと呟いてしまう。
 ――って!私は何を考えているのだ!
 私達のために魔力を消費してユウマは、疲れきっているのだ。
 何かアドバイス出来る事はないだろうか?と考えたところで水を操作していた事を思い出す。

「ユウマ、川が2重に作られているのは理解したが、短時間と言えど大量の水を操作するのは止めた方がいいのではないか?これは持続魔法だろう?これだけの大規模な魔法を持続していたら魔力がすぐに枯渇してしまうのではないのか?」





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