【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

ダブル・スタンダード(後編)

「ち、ちがうの! ユウマが町を出ていった後にすぐに大きな音が聞こえてきて……」
「聞こえてきて?」
「中庭を見に行ったら、【エターナルフィーリング】が増殖していって……そのまま消えたの」
「つまり……どういうことだ?」

 いまいち、リネラスが指し示す言葉の意味が飲み込めない。

 ……すると。

 セイレスが俺に黒板を見せてきた。

 そこには、「ダンジョンコアの反応を感じました。エターナルフィーリングはその影響を受けて魔物化したのでは?もしかしたら海の港町カレイドスコープへ移動した可能性があります。エルフの勘です」と、書かれていた。
 やけに具体的に書かれているな……。
 それよりも問題は、ダンジョンコアの反応か。

 もしかしたら……俺が海の迷宮リヴァルアから宝玉だと思って拾ってきて土に埋めて隠した物がダンジョンコアだったのかも知れないな。

 だが、ここで――その事実を言ってどうなる?
 俺が悪いって事にならないか?
 そんな事になれば、仲間からの俺への信頼度が大きく揺らぎかねない。
 それだけは避けるべきだろう!

「お兄ちゃん。エターナルフィーリングが魔物化したのはリネラスさんの責任ではないと思うの。ギルマス……リネラスさんを責めないでほしいのです」

 セイレスの妹のセレンがリネラスを擁護してくる。
 俺はその言葉を聞いて頷く。

「大丈夫だ! リネラスも反省してるようだからな!」

 俺はチラッとリネラスの方へ視線を向ける。
 どうやら、完全に自分が【エターナルフィーリング】を購入してきたからこんな事になっていると思っているらしくリネラスの瞳には光はなく、「私は悪くない。私は悪くない。だって世界が悪いんだもん」とブツブツと呟いてる。

 俺は、俯いて独り言をつぶやいているリネラスの頭の上に手を置く。
 セレンは、俺の事をまっすぐに見て首を傾げている。
 セイレスと言えば黒板にチョークで「すごいです! さすがユウマさんです!」と書いている。
 イノンは、「早く宿屋直してほしいんですけど……」と、呟いているが、それは後でいいだろう!

「セレン、人間ミスの一つや二つはある! でも問題は、誰かに迷惑をかけたのなら、その原因を作った人間と言うのはきちんと責任を取るべきなんだ。それが正しい大人のあり方なんだ。だからどんな現実が待っていたとしてもそこから目を背けたらいけない。まして、世界が悪いとか私が悪くないなんてそんな言い逃れは最低だ!」
「で、でもお兄ちゃん、今、人間はミスの一つは二つはあるって……」

 セレンがそう俺に問いかけてくるが、俺はそれを手を上げる事で止める。

「そうじゃないんだよ、問題は……そのあとに、いかにして償うかだ! 今回の【エターナルフィーリング】が魔物化して、カレイドスコープに拡散して町が大混乱に陥っているなら、きちんと責任を取るべきなんだ! リネラス、分かってくれるな?」
「まって! まってよ! え? どういうことなの? カレイドスコープが【エターナルフィーリング】で大変な事になってるの? あれは男性の浮気を調べるための花なのに? どうして?」

 矢継ぎ早に問うてくるリネラスの隣に、木製の椅子を置くと座る。

「よく聞いてくれ。海の港町カレイドスコープは、おそらくだが……魔物化した【エターナルフィーリング】の影響をもろに受けて壊滅状態(主に男性陣が……)だ!」
「え、ええええー……。そんな能力が魔物化した事で……ゆ……ゆうまぁああ、どうじよう!私、どうじよう!」
「リネラス……宿を破壊したことはお金を稼いで支払って謝ればいいさ。リネラスは俺の仲間なんだ。お前がテロ騒ぎを起こしたとして、逮捕されても俺は待ってるからな」

 俺の言葉にリネラスは頭を振る。
 まさか、こいつ……弁償しない気では……。

「でも……でも……セイレスの話だと……中庭の花壇にダンジョンコアがあったかもしれないって!」
「リネラス……お前……」

 まったく……セイレスの話が、ダンジョンコアの話が進展したら俺が困るんだが。
 仕方ないな……。

「はぁ……分かったよ。リネラス、仲間の失態は仲間の責任だ。俺が何とか収集付けてやるよ」
「ユウマ!?」
「お兄ちゃん!」
「ユウマさん?」

 そして最後にセイレスが黒板に書いた文字には「ユウマさんが何かを隠してる気がします」と書かれていた。
 セイレス、心が読めるのか?
 まぁ、とりあえずはカレイドスコープを全部処理してダンジョンコアを破壊して証拠隠滅を測れば、あとはどうとでもなるだろう。

「一応、後学までに聞きたいんだがダンジョンコアってどんな形をしてる物なんだ?」

 俺が持ち帰った宝玉がダンジョンコアだと思うが、もしかしたら違う可能性もある。
 そうしたら困るから、特徴はきちんと効いておくべきだろう。

「おにいちゃん、私が説明するの。ダンジョンコアは迷宮の主が持っていて赤い魔物だと赤い色。黄色い色だと黄色い色。青い魔物だと青い色をしてるの。大きさは1メートルくらいで、ダンジョンコアが認めた主だけ持ち運びする事ができるの。それで魔力を注ぐとダンジョンマスターになれるってリネラスさんが言ってたの。それと違う人が魔力を注ぐと爆発して魔物が生まれるの」
「……ふ、ふむ」
「それでね、生まれた魔物はダンジョンコアの力を持ってるからダンジョンコアが認めた主に近づく習性があるってリネラスさんに教えてもらったの」
「……」

 なるほど、つまり……俺がカレイドスコープに行ったときに一面、花が咲いていたのは俺を追ってきたんだな。 
 ――と、いうことは……だ。
 一連の騒動の騒ぎは全て、俺が発端だと言う事になってしまう。

 まったく厄介な世の中だ。
 とりあえずは、【エターナルフィーリング】の撤去とダンジョンコアの破壊だな。

「ユ……ユウマ。助けてくれるの?」

 リネラスが涙をぽろぽろと流しながら聞いてくる。

「ああ、当たり前だろ? だいたいの理由は分かったからな」

 そう、これは偶然が重なっておきた出来事にすぎない! そう偶然だから! 偶然だから! 仕方ないのだ。
 だから俺は悪くない。

 そう、つまり世界が悪いのだ!

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コメント

  • ノベルバユーザー323454

    主人公最低なクズだな、まぁそこが良いんだが

    1
  • ノベルバユーザー322977

    主人公ww

    1
  • ウォン

    ヤバいね笑笑

    1
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