無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

襲撃! 海の港町カレイドスコープを救え!(後編)

 俺は食事を終えると席から立ち上がる。 

「あれ?ユウマさん、もう出かけるんですか?」
「それじゃ私も用意してきますね!」

 イノンは酒場から出ていく。
 そしてしばらく経つと外行きの服を着て来た。
 淡い緑色の洋服でスカートは踝まで隠している。
 歩きにくくないのか? 一瞬思ってしまうが……まぁ慣れなんだろうな。

「それじゃいくか!」
「はい!」

 イノンの返事を聞きながら俺達は移動式冒険者ギルド宿屋の中庭に停めていた帆馬車に乗り込むと海の港町カレイドスコープに向かって進んだ。
 海の港町カレイドスコープの門には、数人の町の男達が立っている。

「そこの馬車停まれ!」

 俺は男の言葉を聞いて、馬の手綱を引いて帆馬車を停める。
 すると男は近づいてきて俺を見てくると、「カレイドスコープには何の用できたんだ?」と問いただしてきた。

「仕事だな」

 俺は端的に用件を告げる。
 そして金貨を5枚ほど男に渡すと、男は頷きすぐに帆馬車を停める場所まで案内してくれる。
 俺は帆馬車を停めて下りる。
 どうやら、男が案内してくれたのは商人などが積み荷の積み下ろしで使っていた帆馬車専用の停留所のようだ。

「ここ最近の景気はどうだ?」

 俺は、去って行く男の背中に声をかけながら金貨を1枚投げる。
 すると男は金貨を慌てて1枚受け取って頷いてから。

「景気か……クルド公爵の私兵が居なくなったのは良かったんだが、町を守る衛兵までいない有様でさー……アルフさんが義勇団を設立して義勇兵で町を守っている状態なんだよ」
「なるほどな……それで賄賂を貰って良かったのか? 一応、義勇兵なんだろう?」
「いや、分かるだろう?」

 俺は男の言葉に「まあな……」と、言いながら肩を竦める。
 そう綺麗事だけじゃ社会は回らないのだ。

「良い仕事が見つかればいいな!」

 男はそう言うと俺から離れていく。
 俺も男の背中に向かって「ああ、そうだな」とだけ返した。
 男の姿が見えなくなるのを確認すると。

「イノン、出て来ていいぞ!」
「はい!」

 イノンは俺の合図と共に帆馬車から下りてくる。
 もちろん下りる際には手を貸しているが。

「ユウマさん、それにしてもずいぶんと大変な状況に置かれているようですね」
「まあな、一番の問題が戦闘力を持たない一般市民が町を守っている事だな。きちんとした訓練を受けた人間じゃないと実践では使い物にならないのにな」

 それにすぐに賄賂を受け取ること自体、統制が取れてない証拠だ。
 そんな状態で魔物が攻めてきたりしたら大変な事になる。
 まぁ、たまたま兵士が居ない状態で魔物が攻めてくるなんてありえないから大丈夫だろう。
 まして、俺がいるときに町を襲ってくるなんて、そんな事はありえない! 
 ありえるなら、それは天文学的に低い数値であって……。

「うあああああ、魔物が海から!」
「きゃああああ」

 そんな低い確率で魔物が攻めてくるわけが……。

「皆、逃げろ! 逃げるんだ!」
「やべえ、やべえよ、もうおしまいだー」

 あったじゃねーか!

「ユウマさん!」
「分かっている! イノン、帆馬車の運転は出来るな?」

 俺の言葉にイノンは頷いてくる。

「よし、なら町からなるべく離れていてくれ! かなりの魔物がカレイドスコープに上陸しているようだからな」
「わかりました!」

 イノンは帆馬車を操り走らせると町の門から出ていく。
 すでに門の前で屯っていた義勇兵の姿はない。
 おそらく魔物の対処に向けて、港に向かっているのだろう。
 俺も港の方に向かうが、道には人がゴッタ返していてなかなか前に進めない。

 俺は仕方無く、【身体強化】の魔法を発動しつつ民家の壁を破壊して家の中に入る。
 中には、お年寄り夫婦がいて目が合った。

「すいません、義勇兵の者です。緊急の為、ご協力願います」

 俺は、一芝居打つと老夫婦の家の2階に上がり屋根の上へ降り立つ。
 そして屋根伝いに港の方へ向かう。
 すると、カレイドスコープの人々が甲殻類種の魔物――体長3メートル程の蟹の大軍に追われているのが視界に飛び込んできた。

 俺はすかさず【風刃】の魔法を発動。
 真空の刃が100匹近いカニの魔物を全て斬り裂いて討伐した。
 俺は【探索】の魔法を発動させながらエビの魔物、カニの魔物、ウニの魔物を容赦なく魔法で蹴散らしていく。

「最後の一匹は海から出てない?」

 俺は【探索】の魔法で感知した敵性マークが動いていない事を不思議に思いつつも港の方へ向けて走っていく。
 そして、港には7メートルもあろうかと言う巨大な水竜がおり、100名以上いる義勇兵を一蹴していた。
 まだ、誰も死んではいないようだが、このままでは何れ死人が出かねない。
 仕方無いな……。

「全員下がっていろ!」

 俺は大声で叫ぶと義勇兵の前へ一人出て水竜の関心を引く。

「き、君は?」

 指揮官らしき男が俺に話しかけてくる。
 義勇兵達も突然、現れた不審人物もとい俺に視線を向けていた。

「俺の名前は、ユウマ! 魔王ユウマだ! お前達に今回だけは助力してやろう!」

 俺は港で加速し跳躍すると、水竜の胴体を蹴りつける。
 【身体強化】された俺の蹴りは強靭な鱗を破壊し水竜を港から遥か後方、海の沖合に吹き飛ばす。
 距離は十分だ!
 魔法が発動しても遥か彼方で俺の魔法は発動するし無詠唱魔法だから使っても分からないだろう。
 なら手加減する必要はない!

 俺は上空数万メートルの大気の原子構成を組み替えた後に金属分子結合により数キロもある鉄の塊を作りだす。
 そしてそれを、音速を超える速度で水竜に向けて射出する。
 所謂、【流星】の魔法の応用魔法であり、名前をつけるとしたら対巨大生物用攻撃魔法【隕石落下】だな。

 強化されている俺の視線は、超音速で上空から落下してきた鉄の塊が水竜と接触し水竜の体を爆発四散させ海面に激突した後、巨大な高波を作り上げる様子をしっかりと見ていた。
 そして高波は少しずつ速度を上げて、海の港町カレイドスコープへと向かって突き進んでくる。

「うあああああああああああ」

 俺を含めた義勇軍と指揮官の声が重なり……そして俺を含めた全員が波に呑み込まれた。
 そして――海の港町カレイドスコープは、水竜が起こした津波により壊滅的打撃を被ったのであった。

 ただ、死人が一人も出なかった事だけが救いだろう!



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