【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

音速の移動戦

「マテマテ! リネラス、その目はなんだ? まるで俺の事を、犯罪者を見るようなその目は! 俺達は仲間だろう? つまり言わば一蓮托生というやつだ。そんな仲間を疑うような真似は良くないぞ?」
「えっと……誤解も何も、ユウマがさっき自分の魔力で海神が来たって証言していたから!」

 リネラスは腕を組んで俺をまっすぐに見ながら、追い詰めるように言って来た。
 つまり――。

「誘導尋問!?」
「ただの自爆だから!」

 まったく、謙遜してくれる。
 俺の言質をうまく利用してくるとは……さすがは、ギルドマスターなだけはあるな。
 くさってもタイじゃなくて、リネラスでもギルドマスターか。

「わかった。リネラスの言い分は理解した」
「そう……」
「ああ、リネラスの話は分かった。だから今回の問題は、追及はしない事としよう!」

 俺の言葉に2人とも驚いた顔をしているが、一体どうしたんだろうか?
 まったく……ウミゾーが来たのは確かに俺のせいかもしれないし、それによって町の一部が壊れたかもしれないが、そんな小さな事を問題にしていたら内乱状態のこの国では生きていけないだろうに。
 それに今回のウミゾー事件は、不可抗力。
 つまりノーカンだ!
 ――ということはだ……俺は悪くないという理論に辿りつく。

「さて、話をかえようか。そんな些細な会話をしている場合じゃないからな」

 俺は、町で仕入れてきた地図をカウンターの上に置きながら話す。
 そんな俺の様子に、リネラスは溜息をつくと近づいてきた。

「まぁ……いいけどね。きっと、あとでユウマが大変になると思うし……」

 リネラスが何か意味深な事を言っているが何を言っているのか俺には分からないな。
 何かあったら誰かに任せればいいだけだ。

「さて、それでは作戦会議を始めようか……」
「うん……いいけど、本当に大丈夫なの? 相手はSランク冒険者が3名もいるんだよね?」

 リネラスが俺を心配してくる。
 俺はそんなリネラスを見て地図を指さす。

「いや、話によると海の港町カレイドスコープからクルド公爵邸までは旅人が歩いても3日ほどの距離があるらしい。つまり、100キロメートルはある。そして3人のSランク冒険者がカレイドスコープに居た場合、昨日のウミゾーで逃げ出した事を考えると……まだクルド公爵邸には、到着してない可能性が非常に高い」
「でも、やっぱり私達が向かって到着する頃には到着しているよね?」

 リネラスは、俺の説明に質問してくる。
 それに対して、イノンは横でお茶を入れながらジッと聞いている。

「そこでだ! 今からクルド公爵邸を襲撃する。100キロメートル程度の距離ならすぐに踏破できる魔法があるからな!」
「そんな魔法が!?」

 俺の言葉に驚いた声を上げたのはイノンであった。
 俺は思わず「どうかしたのか?」とイノンに話しかけると「えっと……ううん。何でもないの」と歯切れの悪い返事を返してきた。
 まぁ、何でもないなら別にいいんだが。

「それにしてもユウマの魔法は大概だと思っていたけど、本当に大概だったのね!」

 リネラスは弾むような声で俺に話しかけてくる。
 少しは俺の事を見直してくれたようだな! まぁ、出来る男は違うのだよ、出来る男はな!



 ――そして1時間後。

「そろそろ行くか?」

 俺は、となりに立っているリネラスに話しかける。
 話しかけられたリネラスは頷いてくる。
 今回、リネラスが同伴する事になったのは、捕まってから日数も経過している女性セイレンの為だ。
 助ける時に同性がいる方が安心できるというリネラスからのアドバイスからリネラスが参加する事になった。

「ユウマさん、私も一緒に行っていいですか?」

 イノンが近づいてきながら聞いてくるが、命の覚悟を決めたリネラスと違って一般人には危険すぎるし何かあったら困る。

「駄目だ。イノンは留守番をしていてくれ。もしこちらの読み通り出なかった場合、相手の狙撃を得意とする冒険者と戦う可能性が出てくる。そうなったら何かあれば困るからな」
「まって! その言い方じゃ私がどうなっても良いみたいに聞こえるんだけど!?」

 俺のセリフにリネラスが突っ込んでくる。
 まったく、別にリネラスを盾に使うなんて一言も言ってないのに被害妄想もいい所だ。

「――そ、そんな!?」

 まぁ、イノンは納得できないのかショックを受けているようだが……。
 納得してもらうしかない。

「これは決定事項だ」

 イノンは、俯いて納得してないようだが俺の決定事項という言葉に「分かりました」とだけ声が小さく答えてきた。
 そして、いつの間にか横にいたリネラスが俺から距離を取って「それじゃユウマがんばってきてね!」と手の平をヒラヒラと動かして俺を送り出そうとしてくる。
 俺はリネラスの腰に手をまわして体を持ち上げる。

「お前は来るんだよ! お前の友達のセイレスは俺じゃ見分けがつかないんだ」
「嫌! 死にたくないし! 特徴教えるから! 長い紫色の髪にスレンダーな体の17歳くらいの美少女だって!」
「往生際が悪いぞ! 迅速に物事を進めるためにリネラスが来る必要があるんだ。それじゃ、イノン行ってくる」
「まって! ユウマ! 私も! 私も一般人だから! 一般人だから!」

 リネラスが何か騒いでいるが後で相手をしてやろう。
 俺は、頭の中で物理現象を組み上げ想像する。
 そして、【身体強化】の魔法を発動。
 その効果を密着しているリネラスにまで及ぼして、その場から走り始める。
 踏み込んだ大地は陥没し、破砕する。

 俺は即、踏み込む場所の地面の原子構成組み替え金属結合を行い鉄へと変貌させる。
 鉄に変換された大地を力強く踏み込みながら、少しずつ走る速度を上げていき、すぐに移動速度は音速の壁を突破した。

 音の壁を突破した余波であるソニックブームにより周囲が破壊された場所で、ユウマの姿が消えたあとにイノンは一人取り残されていた。



 ――数分後。

「ユウマ、ユウマ、これって一体なんて魔法なの?」

 最初は、移動速度に驚いて震えていたリネラスであったが慣れてきたのだろう。
 何度も俺に話しかけてくる。

「リネラス、静かにしていろ! 何かあったら舌を噛むぞ!」

 俺にはリネラスの言葉に反応している余裕はない。
 一人だけなら問題ない【身体強化】の魔法が、2人になるだけで難易度が桁違いに跳ねあがっているのだ。
 音速を超える移動速度のままで【身体強化】の魔法が解除されれば大変な事になる。

 そこで、俺の【探索】の魔法が反応する。
 俺はとっさに移動速度を緩める。

「くそっ! もう少しで目的地だったんだが!」

 時速700キロメートルまで減速した所で俺は、地面を蹴りつけ【身体強化】の魔法で強化した両足を犠牲にして停止する。

 そしてすぐに【肉体修復】の魔法を発動。
 細胞分裂を強制的に行い、肉体を修復させ両足を完治させた所で、土を高圧縮した厚さ3メートルはある土壁を3枚作り出す。

「矢?」

 俺は飛んできた物を見ながら呟く。
 俺が視認した矢は俺の作り出した10センチの鉄の塊と同程度の強度を誇る壁と接触した瞬間、1枚目の壁を粉々に破壊した後、2枚目も破壊する。

「マズい!? リネラス! 飛ぶぞ」
「え!?」

 リネラスが声を発したと同時に横に飛ぶ。
 そして3枚目の土壁が粉砕された後、飛翔してきた矢は地面に接触すると地面を吹き飛ばした。
 俺は吹き飛んできた土や石などから逃れるために、その場からさらに距離を取る。

「ユウマ! これは、弓士アンゼです。ギルドに上がっていた情報によると射程距離は10キロメートルと言われていました」

 10キロメートル? 【探索】の魔法はせいぜい3キロメートルまでの感知が限界だぞ? 
 さらに俺の【探索】魔法範囲に複数の光点が表示される。
 その数は200もあり、すべてが俺を狙って向かってきている。
 仕方無い……。

「リネラス、絶対にしゃべるなよ!」

 【身体強化】の魔法を最大まで引き上げる。
 さて、少し本気でいくぞ!


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