無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

冒険者ギルドの営業(中編)

「やっぱり冒険者ギルドのギルドマスターですね。困っている人を見かけたら、やっぱり助けようとするあたり……」

 俺はイノンの方を振り向く。
 こいつはリネラスと俺の会話を聞いていなかったのか?
 どう考えても、どう見ても相手の弱みにつけ込んで交渉してるようにしか見えないだろうに。
 それに俺には分かる。
 同族だからこそ理解できる。
 リネラスの表情は笑っているが、あれは営業マンの微笑みだ。
 実際、リネラスの目は笑っていない。
 ほら、口角とか見れば一目了然だろ?
 あんな風に笑うなんて、どう見ても、どう考えても以前のやられた仕返しが、ようやく出来るという笑い方だ。

 まったく相手が困っているというのに私怨を先に持ってくるとか人としてどうかと思うが、俺達も旅をする上で足となる馬車が無いから、ここは仕方無いと納得しておこう。
 俺はカウンター席に肘をつきながら、リネラスとコーデル商会ハインツとの交渉を引き続き聞く事にする。

 どうやらリネラスが発言するようだな……。

「えーと、契約内容ですがワイバーンを討伐するにはAランクチームが必要になります」

 必死な形相で帆馬車を操りながらワイバーンから逃げているコーデル商会ハインツにリネラスは淡々と説明を始めた。

「支払い内容と致しましては――現在、国内経済が不安定な事もあり物でお支払いして頂くことになりますがよろしいでしょうか?」

 リネラスの言葉にハインツは「わかったから! 助けてくれー!」と叫んでいる。
 ハインツ、リネラスの言葉に即答である。
 もう必死すぎて考える余裕がないのだろう。

「次に対価ですが馬車1台でお支払いして頂くことになります。それで! よろしいでしょうか?」
「ふ、ふざけるなー!」 

 ハインツとか顔を真っ赤にして叫んでいる。
 まぁ積み荷とか考えるとさすがに帆馬車をくれ!と言われてハイ、ソーデスカには普通はならないからな。
 でも俺達にも帆馬車は必要だからな。

「あ、あの……ユウマさん。リネラスさん……相手の方にすごい要求をしているような気がします……」

 イノンが俺の服袖を引っ張ってリネラスの発言について聞いてくる。
 俺は、イノンの不安そうな表情を見て、どう説明したらいいかと考え――。

「イノン、良く聞くんだ。昔から命あってのモノだね! と言うだろう? つまりだ! 命を助けて欲しいなら払う物を払え! と言うのが町の外の常識なんだ」
「ええ!? そんな常識ありましたっけ?」

 俺はイノンの驚きの言葉に真顔で答える。

「ああ! フィンデイカ村では、助け合いが主流だったのかも知れない! だが、俺の住んでいたアルネ王国やフィンデイカの村の外では助けてもらうためには全財産を払うというのが常識なんだ……悲しい事にな」
「そ、そうなんですか……」

 俺の言葉に、肩を落としてしまうイノンの肩に俺は手を置く。

「だからさ、帆馬車一台の支払いで済ませようとしているリネラスは……すごく良心的なはずだ」

 途中で俺は言葉を濁す。
 何故なら……。

「そうですか。それでは残念ですが仕方ありませんね。冒険者ギルドは対価を貰って治安維持をしている組織ですのでお金が払えないようでしたら契約は出来ませんね」

 と、リネラスが発言したから。
 完全にリネラスを肯定してしまうと、俺まで詐欺師とか嘘つき呼ばわりされてしまう。
 それだけは何としてでも避けたい。
 別に俺は人助けが悪いとは一言も言ってないし。 

 俺が心の中で自分の正当性を確立していると。
 リネラスは、コーデル商会のハインツに背を向けて、こちらへ戻ってくる。
 それと同時に、コーデル商会ハインツの顔色はみるみる悪くなっていく。
 きっとリネラスの姿が見えなくなり、どうしたらいいのか分からなくなってしまったのだろう。
 あらぬ方向へハインツは顔を向けると。

「わかりました! 助けてください。契約します!」

 ……と、ハインツは懇願を始めた。
 そしてリネラスと言えば、ハインツの懇願の声を聞いて足を止めると宿屋の外へ出ていく。


 どうやらハインツの視線を見る限りリネラスは宿屋から出て姿を見せたようだ。
 さて……問題は、リネラスが先ほどの条件でハインツを助けるかどうかだな。 

「ハインツさん、すいません。先ほどの金額は! 先ほどまでの! 金額でしたので! 現在はレートが上がってしまって帆馬車1台と、その帆馬車に積んである荷物すべてが依頼の対価になってしまいました。どうしましょう!? それでもご契約なさいますか?」

 リネラスの言葉に、ハインツの表情が固まる。
 フィンデイカの村に逃げようとしてもたぶん、馬がもたない。
 逆に、ここで助かればフィンデイカの村まで徒歩4時間の距離。
 問題は積み荷も帆馬車も全部失うという少なくないデメリットがある訳だが、そのへんをどう折り合いをつけるかが、ハインツの手腕の見せ所だな。

 さあ、ハインツ!お前はどう出るか見せてもらうとしようか?
 俺はカウンターに顎をつけたまま、外の成り行きを見守る。
 そして横では、イノンが「これって脅しているようにしか見えないんですけど?」と小さな声で呟いている。
 俺もイノンの意見に同感だが、イノンの言葉を肯定したら俺の方まで火の粉が飛んできそうだからな…… ハインツは犠牲になったのだ!でおさめておくとしようか。

「ハインツさん! ちなみにですね! あと10秒経過したらお財布も支払いの対象になりますので気をつけてください! 判断は迅速にお願いしますね! 10秒! 9秒! 8秒! ――あ! ハインツさん、あと7秒!ですよ? 大丈夫ですか?」


 マジでえげつないな……。
 ちょっと俺も引くレベルだわ。
 俺が見てる間にもカウントダウンは続く。 

 まったく冒険者ギルドって普段から、あんな営業しているのか?
 とりあえずリネラスだけが特別だと思いたいが……。

「わ! 分かりました! 分かりましたから! お支払いしますから! 助けてください!」

 残り2秒でハインツは助けてを求める声をあげた。
 そうか……ハインツ、お前は心が折れたのか……。

 ハインツの涙声にリネラスがニコリと微笑む。

「商談成立ですね! 『移動式冒険者ギルド宿屋:安心と信頼のリネラス店』のご利用頂きましてありがとうございます」

 リネラスの宣言が終わると同時に空中から依頼書が降ってくる。
 その依頼書をリネラスは手に取ると、宿屋の中に入ってきてカウンターに顎を乗せて外を見ていた俺に差し出してきた。
 俺は盛大に溜息をつきながら――。

「さすがにやりすぎだ! お前見てみろ」

 俺は隣で「冒険者ギルドが……冒険者ギルドが……」とショックのあまり一人呟いているイノンを指さす。

「ユウマ! たしかに私怨は99%入っていたけどね! 仕事で妥協は許されないの!」
「いや、お前――カッコよく最後に締めくくっているが、99%私怨と言っている時点で台無しだからな!」

 俺は、リネラスに突っ込みを入れながら差し出された依頼書を手にとる。

 クエスト内容:追ってくるワイバーンを倒してほしい(倒し方は問わない)
 報酬:帆馬車1台と積荷を全部

「まぁ契約した以上は、助けてやるか。まぁ、なんというか世の不条理を感じるが……」

 俺は、宿屋から出ると帆馬車と、それを追っているワイバーンを見る。
 そして、【風刃】の魔法を発動。
 発動した魔法は、即座に真空の刃を発生させ全長10メートルのワイバーンの体を斬り裂いた。


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