無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

大草原の移動式冒険者ギルド宿屋!

 フェンデイカ村から海の港町カレイドスコープまでは、国内情勢が安定している従来であれば定期馬車が出ており数日の距離であった。
 だが、現在ではユゼウ王国エルンペイア王が圧政を敷いている為に、流通経済は破綻・停滞しており、各地の領主が領民の移動をも禁止しているために定期馬車すら動いてはいない。
 そのために各町を結ぶ交通手段が現在、存在していない。
 ただ、例外が存在しておりエルンペイア王と懇意にしている商人や行商人は物資の流通を許可されており膨大な利益を享受しているとリネラスが歩きながら俺に講義している。

「なるほどな……つまりアレか? 独占販売状態になっているという事か」

 それは、かなりあくどいな。
 そう言ったやり方をするやつはちょっと許せないな!
 俺もアイテムボックスとか使えたら是非!やってやるところだ。
 むしろ絶対やりたいまである。

「はい、それで小さな村などはかなり大変なようです」
「なるほどな。しかし、まぁ……なんというか本当に酷い王様だな。俺が国民だったら即、王城を魔法で吹き飛ばしているところだぞ」

 まぁ、俺は国民じゃないからやらないけどな。
 自分の国の事は自分で何とかしないと意味がないと思うし。
 ユリーシャって奴が率いる解放軍があるなら、それに加わればいいだけの話だからな。

「それにしても、海の港町カレイドスコープまではどのくらいかかるんだ?」
「以前、宿屋を利用したお客様の話ですと、馬車で一週間くらいの距離と言っていましたよ?」

 俺の問いかけに、横に歩いていたイノンが答えてくる。

「あー! それ私も言おうとしたのに! イノンさんひどいですよー!」

 リネラスが顔を膨らませてイノンに抗議をしている。
 まあ、本気で怒っている訳ではないみたいだからじゃれ合っているような物なのだろう。
 フェンデイカ村から出てすでに4時間近く歩いているが、代わり映えのない草原だけが地平線の先まで続いている。
 さすがに見渡す限りの草原にはうんざりしてくるな。

「ユウマさん!」
「ん? どうしたんだ?」

 俺は、イノンの言葉に振り向く。
 すると、そこにはフェンデイカ村で俺が泊まったイノンの宿屋が大草原にポツーンと建っていた。

「……は?」

 俺は間抜けな声を上げてしまう。
 どうして、大草原の真っただ中にイノンが両親から受け継いだ宿屋が建っているのか不思議でならない。

「少し、宿屋に入って休憩しましょう」
「そうね、少し疲れたものね」

 イノンの言葉にリネラスが当然のように頷きながら宿屋に入っていく。

「おい、リネラス待て!」

 俺はリネラスの腕を握り締める。
 こいつは、何を当たり前のような顔して大草原の真ん中に出現した宿屋に入ろうとしているんだろうか。
 罠だったらどうするんだ?

「リネラス。お前、大草原に突然現れた建物を見ておかしいと思わないのか?」

 俺の言葉にリネラスが頭を傾げる。

「ユウマが何を言っているのか分からないわ」

「よく聞けよ、こういう大草原にいきなり突然、誰かを引き込むような建物が現れたら100%それは罠だ。もうすこし、考えてだな」
「リネラスさん、もしかしてユウマさんにお話してないんじゃ?」

 俺がリネラスに無警戒すぎると説こうとしたところでイノンが話しかけてきた。

「……あ、ユウマには言ってなかったかも」
「何をだ?」
「えっとね、私はギルドマスターになったから! ギルドマスターの権限でイノンさんの宿屋を、異空間に保存できるようになったの。もちろん、イノンさんの宿屋はギルドとしても使う事は可能だし荷物を預けることもできるの。すごいでしょ?」
「すごいというか、すごいな……」

 リネラスの言葉を的確に表す言葉が思い浮かばない。

「はい!見ていてくださいね」

 イノンは呆けている俺の前で、宿屋出入り口に書かれている赤い紋章に手を振れながら、【クローズドオブホーム】と言葉を発した。
 すると宿屋が目の前から消えた。
 そしてイノンが【オープンオブホーム】とイノンが告げると宿屋が目の前に現れた。 

 俺は、たいていの事では驚かない自信があったが、まるで魔法みたいな現象を見せられて驚いた。

「リネラス。この宿屋は、どうなっているんだ? 消したり出したりできるなんて……まるで魔法みたいじゃないか?」
「ユウマの魔法も大概だけどね」

 リネラスは、俺の言葉に突っ込みを入れてくる。
 失礼な!俺の魔法は物理化学に沿った技術だぞ!
 きちんと種も仕掛けも存在している。
 ただ……何を媒体に発動しているかは知らないがな。

「それより、一つ気になってる事があるんだがお前、何時からギルドマスターになったんだ?」
「えっと、ユウマがSランク冒険者になったと同時にギルドマスターになったの。一人だけでFランクからSランク冒険者を育てる事。5年以上冒険者ギルドで仕事をすることが条件だったから。ユウマに説明することを失念していた!」

 両手をパンと叩きながらテヘペロしてくるリネラスを見て少しだけイラッときた。

「分かった。それで給料とかも上がったんだろ? あーそれで、どこの町でもリネラスが冒険者ギルドの仕事が出来ると言っていたのか……」
「うん! そうだよ。でもね! ギルドマスターになると給料は出ないの」

 ふむ、こいつはいつも茨の道を進んでいるな。
 また草だけの生活に戻るつもりか。
 そろそろ青虫って名前に改名してもいいんじゃないだろうか?

「いま、ユウマは私のことを草ばかり食べてる青虫とか思ったでしょう?」
「いや、全然オモッテナイヨー」

 なんだよ、こいつエスパーかよ。
 ギルドマスターになるとエスパーに昇格するのか? それとも草ばかり食ってると覚醒するのか?まぁどうでもいいけど……。

「じつはね! ギルドマスターになると支店の売り上げの5%を給料として貰えるの!」
「ほう! つまり冒険者ギルドを開店して俺が仕事をした日は、飯を奢ってくれるということか?」
「それは無理! ユウマ。 私は、将来のために貯金しないといけないのですから! 奢ったりはしませんよ? 本当ですよ?」

 なんだよ、同じ事を2回も言う必要はないだろうに。
 大事な事だから2回言いましたとかか? 
 それにしても、宿屋を移動する事ができてギルドとしても使えるギルドマスター権限か。これを作ったのはどんな奴なんだろうな。

「だが、あれだな! どこでもベッドで休めるのはいい事だな」
「でしょう? と、いうことで移動式冒険者ギルド宿屋と名づけましょう!」

 リネラスの言葉にイノンは頷いている。
 リネラスとイノンの2人がいいなら俺が反対する理由はないな。

「さて、4時間も歩いたし疲れたから少し休むか」

 どうせ、こんな大草原の真ん中の冒険者ギルドに仕事の依頼なんかこないだろうし。
 こんな何もない所で誰かが襲われて助けてくださいと言ってくるような展開も発生しないと思うからな! 


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