無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

冒険者デビュー

 俺は広場に見える噴水の縁に腰を下ろす。
 たしか、フィンデイカの村は人口1500人程度の村だったと聞いていたが、まさか噴水設備があると思っても見なかった。
 ただ、水は張っておら積もった土に草が根を生やしているが。
 イノンが心の整理がつくまで噴水に座る事にした俺は、そのまま空を見上げていると。

「ありがとうざいます。彼らを追い払ってくださって……」

 ――と、近づいてきた老婆が俺の両手を握り泣きだした。
 俺は心の中でため息をつきながらも。

「別に俺はそこで泣いている女に頼まれて奴らを駆除したに過ぎない。だから感謝する必要はない」

 俺の言葉を聞いた老婆はそれでも感謝の気持ちを述べてくる。
 まったく、居心地が悪いなと思っていると一人の男が近づいてくると。

「冒険者ギルドの方でいらっしゃいましたか?」
「冒険者ギルド?」

 ふむ……そういえば、かなり前に冒険者ギルドに入るという口実で教会の勧誘を断って居た事があったな。
 その割には冒険者ギルドがどんな所か俺はまったく知らないが。
 男の声に次々と、公爵軍から開放された人々が近寄ってきては礼を述べてくる。

「で、ですが貴方ほどの力を持っている冒険者を雇ったとなると支払いだけでも相当な金額だったのでは?」

 男性の言葉に全員が静かになる。
 俺は、沈黙した町の人間を見ながら首を傾げながら思う。どうやら、冒険者ギルドはかなり稼げるらしいな。
 とりあえず冒険者ギルドに登録するとしよう。
 それよりもしつこいくらい礼を言ってくる連中には何と言ったものか……。
 無償とか言うと、問題あし相場も分からないから、金額も言えないからな。
 とりあえずは宿と飯で手を打ったことを伝えておくとしよう。

「お前達が気にする事じゃない。支払いの対価は、体で奉仕してもらうことになっているからな」

 俺の言葉を聞いた村人全員が顔を引きつらせて一歩下がった。

「それよりこの村には冒険者ギルドはあるか?」

 イノンの心の整理がつくまで時間が必要だろう。
 その間に冒険者ギルドに登録して身分証明書を作るのがいいな。

「冒険者ギルドはありますが……」
「ありますが?」

 男の答えに俺は疑問を返す。

「実は、ここフェンデイカ村の冒険者ギルドマスターは、かなり前にマリウスに殺されてしまったのです。それに、S級以下の冒険者達は内乱が起きると同時に国を出てしまいまして……いまは受付をする者しかいないのです」
「なるほど……」

 俺は返事をしながらも、受付も居たことに安堵する。
 それなら、とりあえず冒険者ギルドに行ってみるか?

「誰か、イノンには俺が冒険者ギルドに行ってると伝えておいてくれ。それと冒険者ギルドへの道筋を教えてもらえないか?」
「ああ…それなら、この道をまっすぐ……」

 俺は男に道を尋ねたあと、広間から出て行く時に何度も言われたこともあり『お前らのために村を救ったわけではない、勘違いするなよ?』と釘を刺しておいた。

 男が教えてくれた道を通り、5分ほどで『冒険者集う場所フェンデイカ支部』と看板に書かれた建物に到着した。
 建物ははっきり言ってこの村には不釣合いなほど立派だ。
 俺が育った村の教会なんて1階建てだったのに、ここは2階建ての茶色いレンガ仕立てになっている。

「立っていても仕方ないな」

 俺は両開きの木製の扉を開き建物内に足を踏み入れる。
 中は、なかなか味のある良い作りになっている。
 床は綺麗に磨かれた板を敷いてあり隙間なく並べられてある。
 壁には看板が打ちつけられており、そこには紙が3枚張られていた。

「もうお金はないです。出ていってください!」

 突然、懇願するような声が聞こえてきた。
 聞こえてきた方へ視線を向けると白い服の上に青いローブみたいなのを着た20歳前後の金髪の女性が体を震わせながらガタガタ震えていた。

「ああ、すまない。俺は冒険者登録に来たんだがどうしたらいいんだ?」
「え?とうろく?登録ですか? 冒険者ギルドに登録されるんですか?」

 何度も聞いてくる冒険者ギルドの人間に俺は頷きながら語りかける。

「ああ、登録だ。俺は冒険者ギルドに登録しようと思ってきたんだ」

「――で、でも……いいんですか? 自治組織である冒険者ギルドに所属するという事は、今、冒険者ギルドを潰そうとしている国の方針に逆らうことになるんですけど……」
「どうして冒険者ギルドに登録することが国の方針に逆らうことになるんだ? 自治組織なら国からの干渉は受けないんだろう?」
「はい、ですから冒険者ギルドの力を削ぐ為に、登録をしてる冒険者は軍に入らなければ極刑となっているんです。私達も戦おうとしましたが、Sランク冒険者が全員裏切ってきまして……」
「それで、壊滅させられたと?」

 俺の言葉に、フィンディカ村の冒険者ギルド職員は頷いてきた。

「――はい……本当にごめんなさい」
「お前も、冒険者ギルドの職員でいると不味いんじゃないのか?」
「……はい。ですから貯蓄していたお金を全部払って軍に入るのを免除してもらいました。いつか他国から強い冒険者の方が来られた時にお力になれたらと思い、ずっと受付をしていました」
「給料は?」
「もらっていません……」

 まじか?金もらってないのに冒険者ギルド開けていたのか?

「こんな状態ですから……任務遂行能力もありませんしお金も入ってきません。それでも町の皆さんの最後の拠り所として冒険者ギルドを一つでも存続させておければと……」
「そうか……」

 なんというべきか。
 給料をもらわなくても冒険者ギルドを開店させているとか殊勝な心がけの奴がいるものだな。
 だが、自分のためではなく村の為か……悪くない答えだ。
 それに、身分証はほしいからな。

「そうか、それじゃ冒険者ギルドに登録したいんだがいいか?」
「私の話聞いていましたか? 強い冒険者の方でないと殺されてしまうのですよ?」

 ギルド職員の話に俺は頷くと彼女に告げる。

「それなら問題ない。たった今、マリウスを殺して着た所だ。それなら問題ないよな?」
「嘘じゃないですよね?少し待っていてください」

 慌てて女が険者ギルドから出ていくと10分ほどして戻ってきた。

「ハァハァハァ、本当でした。本当でした。本当でした!うああああああああああん」
「おい!泣くな!」

 くそっ、イノンと良いどうしてこうも泣く奴ばかりなのか。
 話が進まないじゃないか……。

「グスッ……ぼ、冒険者が集う場所フェンデイカ支部へよう……うぇうぇうあああああああん」

「おい!話の途中で泣くんじゃない!話が進まないだろうが!!」

 どれだけ情緒不安定なんだよ。
 ――っていうか……どれだけ酷い状態が続いたんだよ!?

「グスッグスッ、よかったです。また冒険者さんを登録できる仕事ができるようになって――3年も無給で働いた甲斐がありました。やっと、草だけのご飯から抜け出せます」

 草だけのご飯って……草って食べられたか?とりあえず、このギルド職員はかなり逼迫した状況に置かれているのだけは理解した。

「あ、ああ……」

 正直ドン引きだ。

「冒険者登録させていただきますね。今日は3年ぶりのご利用ですので私が代筆しますね!」

 輝くような笑顔で行ってくるが、文字くらいは俺でも書ける。

「いや、俺も字が書けるから問題ないぞ?」

 何でも人に任せたらあれだからな……。

「そ、そうなんですか。ごめんなさい。本当にごめんなさい。3年ぶりのお仕事だったから張り切ってしまってごめんな……「いや、ちょうど手が痛かったんだよ!代筆してくれる人いないかな?」……はい!お任せください」
「えっと!それじゃお名前からどうぞ!」

 まずは、名前からか……。
 名前ねえ、魔王ユウマでいくか?
 いや、さすがにそれは露骨すぎるよな。普通に名前でいいか。

「ユウマだ」
「ユウマさんですね」

 ササッと受付の女が紙に俺の名前を書く。

「ユウマさん、年齢と特技を持っていたら教えてもらえますか?」
「年齢は、一週間前に15歳になったばかりだな。特技は魔法か? 攻撃魔法も使えるぞ」
「おおー年下はいいですね!ポイント高いですよ?魔法が使えるんですね。攻撃魔法は冒険者の基本ですからいいですね。いいですね。いいですね!」

 いいですねとか3回も言わなくていいから。
 大事なことだから3回も言ったのか?

「それではこれがユウマさんの冒険者カードになります」

 俺は受付の女から差し出された冒険者カードを受け取る。
 ふむ。特殊な加工が施されているようには見えないな。
 表示されてるのは、ユゼウ王国フェンデイカ支部所属Fランク冒険者ユウマだけか。

「それでは冒険者ギルドについて説明させて頂きます。まず冒険者のランクはSからFまで存在します。仕事の内容は、どの仕事でも請けることは可能ですがあまり高いランクの仕事を請けてしまうと死んでしまったり失敗したりします。ちなみに余程特殊な仕事以外は違約金はありませんのでご安心ください。

特殊な仕事はBランク以上の仕事となります。それ以上になった場合、クエストつまり仕事が失敗した場合3割のお金を払ってもらうことになりますのでご注意ください。

ちなみにギルドに所属して頂く特典として、ギルドカードは世界共通カードとなっておりどこの国でも簡単な審査だけで入国する事が可能です。
あとは、高ランクつまりAより上の冒険者の方に限られますが各町で!無料で宿泊できる宿がありますが……現在はこんな状態なので提供できないと思いますぅ……すいません」

「いやいや十分だよ?ああ、十分だ。うんうん」
「本当ですか!よかったです!」

 パアーッと花が咲くように笑う受付の女に俺はため息をついた。
 どうして俺はこんなにコイツをフォローしないといけないのか……。
 とても、どこかの銀髪の赤い瞳の女性に雰囲気が似ているんだよな。

「それではユウマさん、前途多難だと思いますがこれからの貴方の冒険者人生をギルド職員一同祝福いたします!」

「――お、おう」

 ギルド職員一同って言ってもお前しかいないけどな?という言葉は飲み込んだ。

「ああ、忘れていた。アンタの名前は? まだ名前聞いてないんだけど?」
「はい!私の名前はリネラスと言います」
「わかった。それではリネラス、仕事はそこの掲示板に貼り出されているのでいいんだな?」
「はいっ!3件しかありませんが中々手ごわい物件ばかりですよ?がんばってくださいね!」

 ふむ。まあ、見てみるか。
 クエストボードに近づき貼り出されている依頼書に目を向ける。
 たしかに3件あるな。

クエスト内容:村を覆う壁を作ってほしい(高さは3メートル以上ならそれ以上でも構わない)
ランク:Sランク 金貨5000枚

クエスト内容:水深30メートルの池が干上がった。どうにかしてほしい。
ランク:Sランク 金貨3000枚

クエスト内容:植物プラントの魔物が平原に住み着いた。討伐してほしい
ランク:Sランク 金貨1000枚

 ふむ。どれもSランクしかないんだがどうしたらいいのだろうか?
 壁と水は前にやったことがあるな?あとは植物関係も何とかなるだろう。

「すまない、3枚ともSランクしか無いんだが?どうしたらいいんだ?」
「は、はい!えっと……ランクの部分は知らないふりをして受けてしまいましょう!」
「そんな適当でいいのか?」
「仕方ありません、非常事態ですから!」

 リネラスが両こぶしを握りしめながら力説してくる。

「――お、おう。喜んでくれてなによりだ」

 とりあえずは、明日から早速、冒険者として仕事をするか。
 そういえば……まずは村の状況を確認しておいたほうがいいな。 

「リネラス。今日、この町に来たばかりでおいしい食事を出す店を知らないんだがもし良かったら教えてくれないか? 忙しいと思うが、教えてくれるならメシでも奢るからさ……」
「はい!ぜひ、案内させていただきます!」


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