無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

俺の話を誰も真面目に信じてくれない件について

 体にまったく力が入らない。
 痛みもまったく感じない。
ここはどこなんだ?
 ただ、そこにあるのは虚無だけで俺には、ここはどこなのかまったく理解できない。

「世界を崩壊の危機から救うために作り上げた存在だと言うのにやけに脆弱だな?」
 どこからか声が聞こえてくる。

「所詮はこの世界の人間の肉体をベースとして作った者に過ぎないという事でしょうか?」
 作った?誰を?

「そうだな。だが、この世界の真理の力を扱うために異世界人の知識を魂に刻み込んで作ったのだ。これで駄目だと主神に顔向けが出来ん」
 異世界人の知識を刻み込んだ?
 世界の真理の力を扱うために?
 世界の崩壊?
 何を言って……。

「仕方あるまい、ここで死なすのは惜しい。それにシステムの不具合で本来生まれるはずの無かった魔王がもうすぐ生まれるからな。この人形には、魔王を処理してもらわねばいけない。生かさねばならないだろう」
 魔王?システム?不具合?こいつらは何の話をして……。

「ふむ、どうやら我らの話を聞いていたようだな?」
 俺が彼らの声をおぼろげながらも聞いて居た事に気がつかれた。

「ユウマよ、お前が知る必要の無い事だ。この世界での記憶はお前の中には一切残らん。お前はお前の使命を果たすのだ」
 その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。

「ユウマ、ユウマ、ユウマ」
 何度も俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
 ゆっくりと瞼を開けていくと親父が一生懸命、俺の体を摩っていた。

「……お父さん……」
 少しの言葉を発するだけで精一杯だった。
 ただ俺が答えた事で親父は先ほどまでの悲壮感溢れる表情を少し和らげた。

「皆!ユウマが目を覚ました。体が冷え切っている、すぐに村につれていこう」
 親父の言葉に大勢の同意する声が聞こえてきた。
 目だけを動かして周囲を見回すと、村の皆、ヤンクルさんに普段は仕事をしないウカル様までもが洋服を泥で汚して居た。

「ユウマ、元気になったら皆さんにお礼を言いなさい。お前を土砂の中から救ってくれたのだから」
 どうやら俺は奇跡的に助かったようだ。

「ユウマ君、すまない。娘を助けるために君がこんなことに……」
 ヤンクルさんは俺に頭を下げてきた。
 そういえば、リリナの姿が見えない。

「……リ………リリナは無事ですか?」

「――ああ!無事だ、君に助けられたおかげで擦り傷を負っただけだ。リリナは君が土砂に飲み込まれたと私たちに助けを求めに来た後、気を失ったから今は村で寝ているよ」

「そうですか……」
 それなら良かった。
 ここまでボロボロになってリリナが土砂に巻き込まれて大怪我をしていたら洒落にならない。

 俺は、安心した事もありそのまま意識を手放した。

 それから、数日で俺の体調は回復した。
 土砂の中に1時間近く埋まっていたというのに、窒息死どころか体には怪我一つ無くかすり傷すらしていない。
 まるで奇跡のようだと俺は思った。

 ただ一つだけ変わった事がある。
 それは……。

「ユウマくん、大丈夫?」
 念のために寝ていろと親父に言われた俺の部屋に入ってきたリリナは、心配そうな顔で俺が寝ている布団の横に座った。

「あのね……ユウマ君……あの時は私を助けてくれてありがとう」
 それだけ言うとリリナは顔を真っ赤にして部屋から出ていってしまう。
 俺はその様子を見て、幼馴染であるリリナが暴力を振るわない!と成長した姿を見て感激した。

 感激のあまり両親に、今日はリリナに殴られなかった!と報告したらそんな事するわけないだろ?お前みたいに問題ばかり起こすような子じゃないんだしと突っ込まれた。
 実の子供に対するこの仕打ち、本当にひどい。 

 それから数日後、俺とリリナは集めた石灰岩からセメントを作りだすことに成功する。
 そしてそれを台所の床に敷き詰めたが……乾くまで乗ったらいけないと言う事を親に言うのを忘れていて2度塗りをすることになったのはいい思い出だ。

 そして台所の衛生を解決した俺は、最強の敵と戦う事となった。

 今の俺の武器は少し太い枝だ。

 そして目の前にはおしっこを俺にかけたキツネがいる。
 きつねは、俺が仕掛けた芋に釣られて来たのだ。

「くくく、愚か者め。芋という罠に釣られてくるとはな!所詮は犬畜生だな!!」
 俺は勝利を確信した。
 もはや戦略的に俺が負ける要素などどこにもない。
 人間様がキツネごときに負ける訳が無いのだ。

 さあ、狩りの時間だ!

 ジリジリと間合いをつめていく俺とキツネ。そしてそれを取り巻いて見ている20匹近いキツネ達。
 キツネ達……?
 俺は周囲を見渡す。
 すでに完全にユウマ包囲網が完成していた。
 どこにも逃げ場などない!
 一斉にキツネが俺に殺到してくる。
 そして俺を押さえつけて、俺のライバルであるキツネが片足を上げてくる。
 俺にはそれを見ていることしか出来ない!

「くそがあああああああああ」
 俺は叫んだ。
 そしてその日も俺はキツネに惨敗したのだった。



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