無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

ウラヌス十字軍の敗走

 熱の放射というのは、大気の分子運動が活発な状態だからこそ熱を生み出す。
 逆に分子運動が遅くなればなるほど熱エネルギーというのは小さくなる。
 それと同じ現象が現在起きている。
 大気中の熱は失われており吐く息が白くなるほど肌寒い。

 そして高高度に展開している乱層雲から降ってくる氷の結晶が完全に溶かされる事なく雪として地表に到達し、薄っすらと静かに白く地表を覆っていく。

 大気の熱を奪う事と乱層雲を作る事にかなり時間を費やした事もあり雪が降り出したのは、朝日が昇ろうかとした所であった。

「ユウマ!これは一体どういうことだ?」
 エメラダ様が鎧を鳴らしながら俺の元まで近づいてくる。
 俺が壁の上に座っているとエメラダ様から話しかけてきた。
 俺は、《天候制御》の魔法を発動したまま、エメラダ様の近くに着地する。

「エメラダ様、突然このような作戦を取ってしまい申し訳ありません。何分、本当にできるか不確定だった事もあり試しに行ってみました」

「―――ま、まさか……この雪はユウマが降らせていると言うのか?」
 エメラダ様は何を驚いているのだろうか?
 魔法ならこのくらい出来ると思う。
 俺の世界のゲームには昼夜逆転の魔法すら存在するのに。

「はい、多少時間は掛かってしまいましたがうまくいって良かったです」

「……そ、そうか。だ、だが……ユウマ、天候を操る魔法は使用出来ると絶対に口外はするな。いいな?」

「はい?」

「そうか、貴様は魔法師育成学校には通ってはいなかったのだな。まず天候を操る魔法は人間どころか人外の者にも扱う事は出来ん。天候を操るような巨大な魔方陣を描く事が不可能だからだ。それを使える人材がいるとしたらどう思う?間違いなくユウマは、国に使いつぶされてしまうし戦争の引き金にもなりかねん。何せ天候を操るという事は相手の陣地をそのまま攻撃できる事にも繋がるからな」
 なるほど……軽い気持ちで使ってしまったがそんなに危険な魔法だったのか。
 そうなると、リリナに雪が降るからと村人に知らせに行かせたのも早計だったのかも知れない。

「分かりました。以後、気をつけます」
 余計な争い事などない方が良いに決まっている。

「うむ。今度から気をつけるようにな、貴様が国に目をつけられて連れて行かれたら私としても困るからな……」
 エメラダ様の言葉に俺は頷きながら、もう少し考えてから行動に移そうと思った。
 俺とエメラダ様が話しをしている間にも雪は降り続け、壁の向こう側から怒鳴り声と大きな音が響いてきた。
 "飛翔"魔法を使い塀の上に立つと、ウラヌス十字軍がテントを畳んで撤収の準備を進めてるのが見えた。
 次々とテントを畳んでは荷物を纏めて背中に背負っている。
 そのような光景が3時間程過ぎるとウラヌス十字軍は撤退の準備を終えて森の中へ姿を消していった。
 あとに残されたのは大量の動物の骨とゴミばかり。
 俺とエメラダ様は、ウラヌス十字軍撤収跡でそれを見ながらお互いにため息をついた。

 魔法で雪を降らせてからすでに2週間が経過しており俺の魔力も限界に達する所で少しづつ降雪量を減らしていった。
 そして雪が降ってから2週間目のその翌日、空は晴天に恵まれた。
 ただ、俺の気持ちは晴れる事は無かった。
 もし、俺が森の中でウラヌス十字軍を出会った時に圧倒的な魔法で彼らを敗走させていたのなら、被害者は出なかったのでは無いのかと悔やまずにはいられなかった。

 エメラダ様は、雪が止んでから数日経過後、今回の顛末をイルスーカ侯爵家の当主である父親に説明すると言って村を出ていった。
 俺は、その際に村の南方側にだけ魔法を使い外と繋がる橋を作り壁には門を作り設置した。


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