【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

魔法発動の条件

「エメラダ様。俺は、遠くと話ができる遠距離通信魔法は使えません」
 俺の言葉にエメラダ様は――。

「――な……んだと!?」
 ――と。大変驚いてきた。
 俺は、その言葉に頭を傾げる。
 遠距離通信魔法が使えないことに何か問題があるのだろうか?
 もしかして……友達がいない方とはちょっと……とかそういう事か?
 それだと俺の心とかダメージ受けちゃうんですけど!?
 まぁそれで、どうして驚いているのか聞かないと分からないからな。

「何か問題でもあるんですか?」
 俺の言葉に、エメラダ様は少し考えてから発言してきた。
「ユウマ、貴様も魔法師育成学校を卒業したのだろう?なら不得意とはいえ、遠距離通信魔法は使えるはずだがどういうことだ?嘘をつくとためにならんぞ?」
 エメラダ様の右手が腰のサーベルに向かっていくのが見える。
 本当に何でこの人はすぐに武器を持ちたがるのか……本当に迷惑なんですけど?
 たしかに美人だし綺麗だけど、こんなんだと異性にかかわらず逃げだしてしまうと思う。

「本当です。俺は魔法師育成学校に通っていませんから」
 俺の言葉にエメラダ様は『へっ?』と小さく呟いた。

「ですから俺の魔法は全て、独学で覚えた物です。基礎はアース教会のウカル様に習いましたけど」
 うん、嘘は言っていない。

 そして俺が魔法を使えるようになった時の事を思い出す。

以前、ウカル様が粉を撒いてから空中に魔方陣っぽいのを書いて、いろいろと呪文ぽいのを詠唱してから魔法を発動したのを見て、俺独自に魔法を考察をした。
 魔法の発動方法は、触媒に空中に描く魔法陣、そして詠唱。
 この3つが必要なのは理解できた。
 ただ、直感的にそれら、全ては必要ないと誰かが語りかけてくるように思えた。
 だから俺は、魔法の開発を始めた。
 魔法陣自体は即暗記する事はできた。
 ただ、魔法陣と詠唱だけでは魔法発動の条件を満たしていなかった。
 そしてある日、妹のアリアが熱を出した。
 母親や親父は妹を見ながら、つらそうな表情を見せている。
 話しからして、妹は助からないと言う事だけ分かった。
 俺は妹の額に手を当てた。
 その時の妹は、ひどい熱だった。
 まだ1歳ほどの妹は、小さく弱く見えた。
 でも、俺は回復魔法も使えない。
教会のウカル様に診てもらい病を治してくれるようにお願いするお金も家にはない。
 でも、せっかく生まれた妹を守りたいと思った。
 俺は……妹の看病をした。
 そして、看病をしてそのまま力尽きて寝てしまった。
 目を覚ました時には、妹の手を握り締めたままだったのを気が付いて慌てた。
 ただ、その時に妹の熱が下がっているのを見て俺は喜んだものだ。
 そして、両親もその事に驚いていた。
 その時からだ。
 魔法に対しての理解度が高まったのは……。
俺は、自分が感じたままに魔法陣から漢字以外の英語のような文字を省いた。
 そして空中に文字が描く術をもたない俺は頭の中で魔法陣を組み立てる事にする。
 そしてそれを空間上に投影するように頭の中で描く事にした。
 それら全てが、俺の中からわき上がった知識によるモノだった。
 地球の知識だけでは到底理解できない。
 でも、何故かそれは正しい事だと分かってしまう。
 そして、何日もの実験の果てに、俺が魔法を発動させる為の条件は、頭の中で起きる事象を地球の科学を基礎として描くこと。そして漢字の魔法陣を頭の中で思い浮かべる事。
 それこそが俺の魔法発動条件。
 元々、ウカル司祭様からの魔法を見た事から始まった魔法の実験。
 だから俺の魔法の師匠はウカル司祭様で間違いはないのだ。

「そうなのか?うーむ……ユウマのような優秀な魔法師を育てるその手腕は、すばらしいな!私から見てもユウマの魔法師としての実力は、宮廷に仕えている筆頭魔法師くらいはあるぞ?」

「そうなんですか?」
 俺はエメラダ様の言葉を聞いて驚いてしまった。
 いつの間にか俺はそこまで強くなっていたのか……。

「うむ。村から追い出されたのが2週間前と不審者共が言っていたからな。そうなると数日不眠不休で村を囲む堀を作ったのだろう?それに私達が村に来たときに水を動かしたのだろう?短時間とは言え堀を満たすほどの膨大な水量だ。それを数十分動かしただけでもユウマが規格外の魔力を持つ魔法師だと言うのが分かる」
 そこでエメラダ様は、口を閉じた。

「だからすまない。ユウマの事をてっきり魔法師育成学校に通っていた魔法師だと思ってしまった。それだけの力があるなら魔法師育成学校に通えなかった事を悔やんだのだろう。ユウマが気にしてる事を無神経に言った事を謝罪しよう」

「いえ、そこまで謝られても……困ります」

「なんという了見の広さか!ますます平民にしておくにはおしい男だな」
 どうしよう、この人なんか誤解している。
 俺、そんな大した人物じゃないし魔法師育成学校とかさっき始めて聞いたばかりだ。

「それにしても……ユウマ程の男を育て上げる手腕に才覚。それほどの人物が、どうしてこのような辺鄙な村で司祭などしているのだ?」

「……さ、さあ?人には色々な歴史があるのでは?」
 俺は、答えを返しながらどうしようと考える。
 とりあえず、俺はあまり問題ごとには巻き込まれたくないな。

「そうだな、詮索するなど愚劣だな。だが今度、そのアース教会のウカル司祭殿には我がイルスーカ侯爵家が主催する魔法師育成勉強会でぜひ教鞭を振るってもらいたいものだ。村での井戸の事もあるからな」
 あ……。そこで俺は気が付く。
 この時代では、オーバーテクノロジーに近い井戸が村長の家の隣にあるのだ。
 それを見たとしたら、ウカル様の株価が爆上げになっちゃう!
 まぁ俺には関係ないからいいか。
 とりあえず軽くフォローだけしておこう。

「……ウカル様も教会のお仕事で忙しいと思いますから……」
 軽くウカル様は忙しいんですよ発言をする。
 これで大丈夫だろう。

「ふむ、たしかにな。なら今度、時間が空いた時にでもウカル司祭殿をイルスーカ侯爵家に招待することにしよう」
 ああ、これはダメですわー。
 もはやウカル様の株がすごいストップ高なのを感じる。
 どうにもなりませんね。
まぁウカル様ならきっと、何とかしてくれるだろう。
 俺はウカル様を信じているからな。

「それでは話を戻しましょう。遠くと話ができる魔法が使えないという事は現状では、エメダラ様のお父様とお話が出来ない……つまりは情報を送れないということは立ち回りが決まらないという事になりますよね?」

「うむ。そうなるが……あまり長い時間、相手を領内に入れておくのもイルスーカ侯爵家に自治力が無いとアルネ王国の王家に思われかねん。そこでだ!物は相談なのだが……相手を傷つけずに撤退させる事は出来ないだろうか?」

「…無傷で相手を撤退に追い込むですか?」
 それは無理な気がする。
 何せ相手は国の威信を背負って攻めてきている軍隊なのだ。
 そんな相手を怪我させずに無傷で撤退に追い込むなんてどう考えても無理だと思う。

「うむ。ユウマ、お前ならそれが出来るのではないかと私は期待している」
 そんな期待されても困るんだが……。

「エメラダ様の部下の騎士団30人で何とかなりませんか?相手は丸腰ですし……」
 俺の言葉にエメラダ様は頭を振る。

「無理だな、あれだけの数を30人で撤退させるなど出来るわけがないだろう」
 そうなると、魔法でなんとかする必要がある訳だがどうすればいいのか皆目検討がつかない。

「すぐに決める必要はない。数日の間に良い案を出してくればいい」
 また無茶振りをしてきたな。
 俺、何でも出来る四次元ポケットは持ってないんだぞ?



コメント

  • ノベルバユーザー284402

    、、、

    1
  • ノベルバユーザー232154

    エメラダ様が、エメダラ様になっているヶ所があります。

    2
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